『日本史を支えてきた和紙の話』(朽見行雄、草思社文庫、2025)という本を読んだ。積ん読を早期に解除。原本は2023年の出版。
大げさなタイトルだと思う勿れ。この本をとおして読むと、いかに和紙が長きにわたって日本と日本人を支えてきたかが納得される。目を開かれるといってもいいだろう。
火薬と羅針盤と同様に、紙をつくる技術は中国で生まれた。モンゴル帝国時代にイスラーム圏をつうじて西洋に伝わったのは13世紀だが、日本には朝鮮半島経由で5世紀には伝わっていたようだ。大乗仏教をその中核にもっていた中華文明圏の恩恵といえようか。
だが、日本人は日本の風土と自然環境にフィットした紙つくりを確立する。それが「和紙」である。最先端の技術をあえて捨て、日本で手に入る材料をつかった手の込んだ「ものづくり」を選択した日本人。なるほど、「ものづくり」の原点のひとつがここにありそうだ。
和紙がその絶頂期を迎えた平安時代の『源氏物語』が興味深い。紫式部が父親の赴任地に同行したのが越前だが、和紙の一大産地であった越前(現在の福井県)との浅からぬ縁があったことを知る。そして厳島神社に奉納された豪華絢爛ともいうべき「平家納経」。
美術という点にかんしては、「浮世絵」もまた和紙とは切っても切れない関係がある。その意味については、この本を読んで大いに納得するものがあった。(・・ただし、室町時代の「水墨画」においては、和紙ではなく中国の紙がつかわれていたことは知らなかった)。
江戸時代になってからは、行政文書作成のため和紙の需要が拡大している。近世以降は文書主義の時代なのである。
このほか江戸時代には、文書や浮世絵だけでなく、障子に提灯、リサイクルの末には落とし紙と、生活のありとあらゆる場面でつかわれていたのだが、明治時代になってから洋紙の製造技術が導入され、和紙の役割が縮小していって現在にいたっている。
書かれたものや、描かれたものには注目するのだが、その素材である和紙にはあまり注意を払ってこなかった。
大いに反省するとともに、今後はもっと和紙に注目していかないなと痛感している次第。
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目 次はじめに第1章 日本人と「紙」との出会い第2章 正倉院文書に見る古代の和紙作り第3章 和紙の力で鎮護国家を築いた聖武天皇第4章 和紙と紙巻筆が生んだ源氏物語第5章 平家一門を西方浄土に導いた装飾和紙第6章 雪舟の水墨画と日本人の心第7章 和紙の蝶番(ちょうつがい)が拓いた屛風芸術第8章 和紙が支えた徳川の天下泰平第9章 浮世絵は和紙の本懐第10章 和紙の里・越前の文明開化第11章 現代人の心を包む和紙 ― 日本画家・千住博の雲肌麻紙エピローグおわりに和紙の現在―文庫版あとがきに代えて主な参考文献・資料
著者プロフィール朽見行雄(くちみ・ゆきお)ジャーナリスト。和紙文化研究会員。1934年北海道生まれ。59年北海道学芸大学卒業後、NHK入局。北見放送局、報道局報道番組部で番組制作に従事。90年NHK退職。その後、イタリアで文化や伝統工芸職人について取材。2010年和紙文化研究会員。2011年國學院大學文学部卒業。著書に『フィレンツェの職人たち』(JTB、のち講談社+α文庫)、『イタリア職人の国物語』『イタリアワインの職人たち』(いずれもJTB)。 (版元ドットコムより)
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