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2010年7月20日火曜日

映画 『ザ・コーヴ』(The Cove)を見てきた




 映画『ザ・コーヴ』(The Cove)を見にいってきた。

 東京は青山のイメージフォーラムで7月3日から上映中の、和歌山県太地町におけるイルカ漁に反対する、米国の運動家たち活動を追った、自称ドキュメンタリー映画である。

 2009年米国制作の91分。PG12指定がされている。12歳以下のよい子は見ないようにという配慮である。


 アカデミー賞の発表当時、実際にこの映画を見た前だが、なんでこんな映画がアカデミー賞なのだ(!)と怒りを感じたのは、過激な動物保護運動である「シーシェパード」の暴力的テロ行為の延長線上で捉えていたからだろう。

 また、日本での公開前夜、さまざまな妨害を恐れて映画館主がビビっているという話も報道されていた。しかし、この手の妨害やイヤガラセは意図に反して逆効果だ。興業主からみればかっこうの話題作りとなるので、マーケティング的にはウェルカムな話だろう。

 賛否両論の激しいものであればあるほど、自分の眼で実際に見て、そのうえで判断したいものである。私の眼をつうじて感じたことを記しておきたいと思う。


映画の感想

 率直にいって面白い映画である。最後の10分を除けば。

 もちろん私自身はつとめて冷静になろうとは思っているが、基本的には「シーシェパード」などの活動には賛同しない。その意味では「予断」がまったくないわけではない。

 基本的にドキュメンタリー・タッチのこの映画は、非常にわかりやすく面白い。映画の途中で「こんなに面白いと思ってしまっていいのだろうか」と感じたくらいだ。

 物語の基本的な構造が正統的なパターンを踏んでいるからだ。

 映画のタイトルとなったコーヴ(cove)とは入り江のこと。イルカの追い込み漁が行われる、和歌山県太地町の、とある入り江のことを指している。だから定冠詞をつけた The Cove なのである。



映画の中身をさらに詳しく見てみる

 主人公のイルカ保護の活動家リック・オバリーは、もともとイルカの調教師の先駆者。日本でも私の世代の人間ならよく知っている『わんぱくフリッパー』という米国のホームドラマで、調教師兼俳優として10年間活躍した人物である。この活動で財産も作った。

 その主人公が、ストレスの高い環境のもとでイルカを飼育して、ショーに出演させて芸をさせることに疑問と罪悪感をもった結果、成功した過去の10年間を打ち消すかのように、贖罪感に促されて違法な活動も含めたイルカ保護活動に身を捧げる決心、その後の35年間過ごしてきた。

 そんな彼がターゲットに選択したのが和歌山県太地町。世界遺産の熊野からも近い、クジラの追い込み漁で江戸時代から知られた漁師町である。この太地町については、書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂 聰、新潮社、2009)の第3章 調査捕鯨船団 vs. 環境テロリスト、南氷洋の闘い で触れているので、参照していただきたい。

 イルカ漁の歴史については、私は調べていないのでよく知らないが、かつては日本各地で行われていたのだろう。

 映画のなかでも、長崎県の壱岐の大量捕獲で浜辺に並んだイルカの映像が使用されているが、これはたしかイルカ漁に対する抗議でオリヴィア・ニュートン=ジョンが日本でのコンサートを中止したときのものではなかったろうか。中学生時代、オリヴィアのファンだった私はこの一件で熱が冷めてしまったが、オリヴィア自身はその後カリフォルニアに移って環境問題に熱心に取りくんでいる。

 活動家たちによって、ターゲットに選ばれた和歌山県太地町に対する執拗なまでのこだわり

 明らかにプロパガンダ映画なのだが、作りがドキュメンタリー映画風でかつエンターテインメント的な要素が多く、手に汗握るハラハラドキドキものなのだ。

 ジョージ・クルーニーをもう少し太めにしたようなエネルギッシュで渋い、もう一人の主要登場人物が、『オーシャンズ11』のようだなとつぶやくシーンがある。

 太地町でのイルカ追い込み漁(・・活動家たちにいわせればイルカ虐殺)シーンを撮影するために、さまざまなスペシャリストでプロジェクト・チームを組成し、ミッションを遂行する秘密のオペレーションをさしていったものだ。命知らずのカメラマン、元軍人、水中で音を出さずに潜る素潜りの達人などがチームメンバーである。

 プロジェクト・チームのミッションは、とにかく「人を動かす映像」を撮れというものだ。

 このため、隠し撮りのためのさまざまな手法も開発し、大量の資材を日本に持ち込んで、太地町の和風旅館をベースキャンプにして、ミッションを決行する。

 これだけなら、まさにドキュメンタリー・タッチのエンターテインメントなのだ。

 そしてミッッション遂行に成功した彼らの達成感は、隠し撮りによって撮影された映像でもって雄弁に代弁されることになる。映像のチカラはコトバのチカラの及ぶところではない

 イルカを入り江の浜辺に追い込んで、銛(もり)で一気にひと突きする漁師たち、真っ赤な鮮血に染まる入り江、これが隠し撮りカメラによって、あまた上空に飛ばした飛行船(?)の搭載されたカメラで撮影される。12歳以下は視聴禁止というPG12指定がされているはそのためだ。

 おそらくこの映画を最初から見て、最後のこのシーンまで見たなら、イルカ漁は絶対にやめるべきだという結論をほとんどの人がもつはずである。映画制作者たちの意図ははほぼ完全に達成されたというべきであろう。

 それだけショッキングで、インパクトのある映像である。

 英語も比較的聴き取りやすく、日本語字幕には間違いはあまりなかった。微妙な内容だけに、日本公開にあたっては細心の注意を払っているのだろう。米国版にはないと思われる注意喚起の日本語がプリントされて上映されている。


映画の内容にかんする疑問

 映画のクライマックスとなる、鮮血にそまった入り江(cove)のシーン

 編集前の映像が映画のなかに登場しないので詳細はわからないが、明らかにCG処理などの映像処理をしていると考えるのが常識だろう。

 日本人の大半はイルカの肉など食べたこともないし、食べたいとも思わないだろう。街頭インタビューの映像にでてくる日本人たちも、こういう反応がでてくるのは容易に想像されることだ。不思議でもなんでもない。
 
 この映画で主張されるように、クジラ肉と偽ってイルカ肉が日本国内で流通しているというのは、はなはだ疑問である。そもそも、日本でクジラ肉があまり食べられなくなってからかなりの年月がたっている。そうまでしてクジラ肉を食べたい日本人は限定される。

 イルカ肉の水銀含有量が多いというデータを日本政府が隠蔽しているという主張も疑問である。

 映画に登場する日本人科学者が目線だけでなく、名前も出さないように要請したのは当然だろう。米国版はみていないが、トレーラー映像で推測する限り、このような処置はしていないと思われる。

 水俣病のドキュメンタリーフィルムを挿入しているのは、水俣病の悲劇について知っている世界中の人々に対する、理性ではなく感情に訴えるプロパガンダ色が濃厚だ。

 イルカ保護活動家たちの、十字軍的な情熱はいったいどこからでてくるのか?

 この映画を作成した人たち、アカデミー賞を受賞させた人たちの意図は何か?

 太地町サイドの発言はほとんどないので、かなり一方的な作りになった映画である。

 イルカ漁は、世界中で太地町だけなのか?

 このほか子細にみたら、疑問点は数限りなくでてくるはずだ。おそらく詳細については誰かがキチンと調べているはずだろう。

 ここには疑問点だけを掲載して、検証はどなたかにお任せすることしたい。


映画全体の評価


 映画上映にさきだって、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏のコメントがでてきたが、私もまったく同感だ。

 「同じ隠し撮りなら、『ザ・コーヴ』よりも『ビルマVJ』のほうがアカデミー賞を取ってしかるべきだった」、と。

 『ビルマVJ』の VJ とは Video Jounalist(ビデオ・ジャーナリスト)の略、2008年に勃発した僧侶が主導するミャンマーのデモを、ビルマ人 VJ たちが決死の覚悟で撮影したドキュメンタリーだ。VJたちの多くはその後当局によって拘束され獄中にある。

 ハリウッドにとっては、人間の命よりも、イルカの命のほうが大事なのだろうか?

 確かにイルカの知能は高い。これは否定できない。中国では海豚と表記したように海の哺乳類である。

 日本でも米国の画家ラッセンのイルカの絵画は人気がある。
 『わんぽくフリッパー』、おお懐かしい。フリッパーの声。
 日本製アニメの名作『海のトリトン』ではないが、ギリシアのイソップの寓話にも、イルカに助けられた人間の話はでてくるし、クレタ島の壁画にもイルカが描かれている。

 イルカ保護の活動家たちは、執拗にイルカはクジラの仲間であると主張する。映画のなかでは何度も IWC(国際捕鯨委員会)における日本政府の立場を批判すしているが、イルカとクジラは同じ海の哺乳類だとはいえ、同じカテゴリーでくくるのは考え方次第であろう。

 太地町のイルカ漁関係者たちにも言い分があるだろう。映画のなかではひたすら活動家たちの行動を邪魔する存在としてのみ描かれているが、これはかなりの程度プロパガンダ色の強い編集である。

 「友と敵の峻別」という二元論の発想。かわいそうなイルカを保護するのは「友」、それを阻止しようとする「敵」。

 一方的な主張に終始し、立場の異なる相手を理解しようとしない頑なな精神。対話のないところには、何も生まれまい。

 日本人が英語のロジックでコトバでもって説明し、十分に主張できないことのもどかしさ、むなしさ・・・

 米国人の一方的な論理展開にへきえきし、悔しい思いをするのは、太地町の関係者たちだけではあるまい。

 イルカ漁は正しいのか、正しくないのか。これは一義的には決めがたい。

 ハーバード大学の超人気授業をまとめた、『これからの「正義」の話をしよう-いまを生き延びるための哲学-』(マイケル・サンデル、鬼澤忍訳、早川書房、2010)の著者サンデル教授の授業に取り上げてもらいたいものだ。

 日本でも大学の授業で取り上げれば、「複眼的思考」養成のまたとない教材となるだろう。イルカ漁についての是非を問うディベート教材として。

 その際には、映像情報のウソを見破る教育を施してもらいたいと強く期待する。





<関連サイト>

『ザ・コーヴ』公式サイト(日本版)http://thecove-2010.com/
『ザ・コーヴ』トレイラー(米国版)
http://www.youtube.com/watch?v=4KRD8e20fBo
・・これを見ると日本人の登場人物に目隠しはしていないことがわかる。

『ザ・コーヴ』 の日本語吹き替え版
・・アメリカのウェブサイトにて無料(!)で視聴できる。

『わんぱくフリッパー』flipper YouTubeへの投稿映像(日本語版)
http://www.youtube.com/watch?v=vUDfkSAFkGg



<関連サイト>

クジラを食べ続けることはできるのか 千葉の捕鯨基地で見た日本人と鯨食の特別な関係(連載「食のニッポン探訪」)(樋口直哉、ダイヤモンドオンライン、2014年9月3日)
・・日本人は家畜の解体には違和感を感じても、マグロやクジラの解体には違和感を感じないのは「文化」によるものであり、「慣れ」の問題でもあろう。【動画】外房捕鯨株式会社 鯨の解体 は必見!

(2014年9月3日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

『エコ・テロリズム-過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ-』(浜野喬士、洋泉社新書y、2009)を手がかりに「シー・シェパード」について考えてみる

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂 聰、新潮社、2009)第3章 調査捕鯨船団 vs. 環境テロリスト、南氷洋の闘い 

「ハーバード白熱教室」(NHK ETV)・・・自分のアタマでものを考えさせるための授業とは


P.S.
 この投稿記事によって、ブログ掲載は通算400本目となった。
 次の目標は通算450本、今後もたゆまぬ歩みを続けて行くつもりだ。
 お釈迦様がいわれるように、「象のようにゆっくり歩」みながら。





(2012年7月3日発売の拙著です)








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