
■「食文化」の観点からみた「食べてはいけない!」■
東南アジアを中心に、「食文化」を精力的に取材しているフォトジャーナリスト森枝卓士が書いた『食べてはいけない!』。
いったいどんな内容なのだろう、著者とタイトルの組み合わせだけで、思わず手にとってしまう一冊だ。
消費者問題の観点から、「食べてはいけない」、「買ってはいけない」というタイトルの本がたくさん出版されているが、森枝卓士の本は当然ながら、そういった観点からの本ではない。
あくまでも「食文化」という観点にたって、人間がつくってきたさまざまな、食にかんするタブーや食べる習慣についての内容なのだ。
宗教上のタブーで食べられないというケースもあるし、自分たちに食べる習慣がないから食べない、というケースもある。
また、なぜペットは食べないのか、なぜヒツジを食べることがどの宗教でもタブーとなっていないのか、なぜとくにインドにはヴェジタリアンが多いのか、なぜクジラを「食べてはいけない」という人たちがいるのかなどなど、重要な問題にも、最初から回答を与えるのではなく、「食べる」という人間が存在するためにもっとも重要な行為の一つをさまざまな観点や、豊富な事例をとおして見たうえで、自ずから回答がでてくるような書き方をしている。
基本的に中高生向け(?)にやさしく書かれた本で、かなりの漢字にはルビが振られているが、もちろん大人が読んでも面白い。というより、考えるためのヒントを多く与えてくれる本であるので、大人の私もいろいろ考えながら読むことになった。
「食文化」というものは実に奥が深い。
終章のタイトルにもなっている、「アナタとはアナタが食べるもの」というフレーズのもつ深い意味をよく味わいたいものである。
<初出情報>
■bk1書評「食文化の観点からみた「食べてはいけない!」」投稿掲載(2010年8月2日)
■amazon「食文化の観点からみた「食べてはいけない!」」投稿掲載(2010年8月2日)
<書評への付記>
この本の最後のほうに、You are what you eat. という英語の表現が紹介されている。森枝氏は、「アナタとはアナタが食べるもの」と日本語に訳しているが、これは「生命と食」という切り口から、ルドルフ・シュタイナーについて考えてみる にも書いておいたように、Man is what he eats.(人間は、食べるところのものである)のバリエーションであろう。
意味はまさに読んで字のごとく、食べたのが自分のカラダのすみずみまで行き渡るのだということ。
こう考えると、食べるということをおろそかにはできなくなるはずだ。何を食べたかによって、人間そのものが出来上がっているのだから。
森枝卓士氏は、「食文化」をテーマにしたフォトジャーナリスト。もともとの出発点は、東南アジア世界の豊かな「食文化」の紹介から始まってが、現在では世界中の「食文化」を精力的に取材し、日本語で紹介している。
本人ももちろん無類のグルマン(食いしん坊)、世界中の美味いものを食べ歩いているので、本書も基本的には美味いものを食べる喜びだけでなく、なぜ「食べてはいけない!」のかという素朴な疑問を長年にわたって重ねてきた蓄積が、惜しみなく披露されている。
表紙カバーの写真は、「下関の寿司屋の鯨の刺身。こんな美味しいものを「食べてはいけない」なんて・・・・。」(P.99)とキャプションがついている。
捕鯨反対運動については、「食文化」の観点から反対意見を書いている。捕鯨反対も賛成も、科学的見解の名のもとに主張をぶつけあうだけの水掛け論に過ぎないので、正面から取り上げないという著者の立場は大人の態度である。
「食文化」が「文化」を構成する重要な部分である以上、尊重すべきものであっても「文明」の名のもとに非難すべきものではない。
「生物多様性」と同様、「食文化の多様性」も保存すべきものではなかろか。違いがあるから面白いのに。
まあそういう難しい話は別にしても、美味いものをうまいといって食べる喜び、これだけは失いたくないものである。
著者プロフィール
森枝卓士(もりえだ・たかし)
1955年熊本県水俣市生まれ。国際基督教大学在学中より海外や地方を調査などの目的で歩いては写真を撮る。卒業後、フリーの写真家、ジャーナリストとして世界各地を駆けめぐる。おもに食文化などの視点からの写真、レポートを新聞、雑誌に発表。食文化論の延長線上で、調理にも足を踏み入れ、レシピ集なども執筆。札幌大学などでアジア論、食文化論を講じる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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書評 『イルカを食べちゃダメですか?-科学者の追い込み漁体験記』(関口雄祐、光文社新書、2010)
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