
■「跡取り娘」たちが背負う日本の中小企業の未来。彼女たちから元気をもらいたい■
日本全国の法人数は、国税庁のデータによれば約280万社、法人の数だけ社長がいると考えれば、そのうちの約1割を占めるのが女性経営者である。
女性経営者のなかには、最近よく脚光を浴びているベンチャーの創業経営者もいるが、その多くはスモールビジネスの所有者であろう。また、配偶者の死によって事業を継いだオーナー経営者の未亡人や、父親の後を継いで経営者になったものもいる。本書に取り上げられた「跡取り娘」とは、この最後のタイプのことだ。
人口減少傾向にともなう国内マーケットの縮小は、日本国内で事業活動を行う企業には等しくかかわってくる事業環境に大変化だが、とくに少子化の影響が大きく影響しているのが中小オーナー企業経営である。
端的にいえば、後継者問題がネックになって廃業する中小企業が後を絶たないのだ。跡取り息子がいない、息子たちがいても事業を継ぎたくない、社内にも後継者が見つからない。こういった声はかつてから存在してきたが、このところ急速に顕在化してきている。
そこに登場してきたのが本書でその一部が紹介された「跡取り娘」たちなのだ。娘たち自身が、中小オーナー企業の跡取りとして経営にあたっている。
江戸時代以来、日本の商家では、息子がいてもあえて事業を継がせずに、娘婿をとって事業継承させることが行われてきた。しかしここでいう「跡取り娘」は、従来からある娘婿による跡取りではなく、経営者でもある父親の背中を見て育った娘たち自身が、跡取りとして、「看板」(ブランド)を背負い始めということだ。
たとえ配偶者がいても、経営者として事業継承したのはあくまでも「跡取り娘」であって婿殿ではない。事業家の娘たちによる、新しい時代の中小オーナー企業経営の波が現れてきたのかもしれない。
本書に取り上げられた「跡取り娘」たちは以下のとおりだ。目次に沿って掲載しておこう。肩書きは出版当時のもの(敬称略)。
第1章 産業再生跡取り娘
●ホッピービバレッジ 取締役副社長 石渡美奈(飲料製造販売)
●日本電鍍工業 代表取締役 伊藤麻美(金属メッキ加工)
●黄木コーポレーション 代表取締役 黄木綾子(老舗和風旅館)
第2章 跡取り娘のしなやか仕事術
●曙 代表取締役社長 細野佳代(和菓子製造販売)
●浅野屋 代表取締役社長 浅野まき(パン製造販売)
第3章 伝統文化の守り手として
●かめびし 常務取締役 岡田香佳苗(粉末醤油製造販売)
●清香園 盆栽家 山田香織(盆栽業)
●伊勢由 常務取締役 千谷美恵(呉服屋)
第4章 職人ニッポンの跡取り娘
●(株)タナカ シェフパティシエ 田中千尋(カフェ)
●京都・丹山酒造 清酒製造部 長谷川渚(酒造業)
●亀岡商会 常務取締役 亀岡幸子(ビル経営)
●伊藤ウロコ 専務取締役 伊藤嘉奈子(業務用長靴専門店)
娘が後を継ぐというのは、意外というかやはりというか、オーナー経営者である父親にとっても、実はなかなかそう簡単にすんなりと決められるものではないようだ。ほんとうは継いで欲しいのだが、可愛い娘には苦労させたくないし、女性としての幸せも掴んで欲しい、そういった複雑な親心を知ってか知らずか、自分が継がなければ誰が守っていくのかという心意気に燃えた娘たちが後を継いでいるというわけなのだ。なかには、成功しているキャリアを捨ててまで家業を継いだ娘たちもいる。
本書で紹介された12人のインタビューを行った著者が、最後に7項目にわたって「跡取り娘力」をまとめているので紹介しておこう。「バブル力」、「わがまま力」、「コミュニケーション力」、「「ムダ」力」、「姉妹力、婿取り力」、「よそ者力」、「「品格」美人力」。
ここに見られるのは、仕事と遊びをつうじて家業以外の世界を幅広く知っている視野の広さや、経営者にとっては不可欠なコミュニケーション能力など、「跡取り娘」たちが、知らず知らずのうちに身につけていたチカラが、経営を継承するにあたっても大きく働いていることだ。
日本ブランド再生の担い手でもある「跡取り娘」たち。ぜひ一読して、彼女たちから少しでも元気をもらいたいものだ。
<初出情報>
■bk1書評「「跡取り娘」たちが背負う日本の中小企業の未来。彼女たちから元気をもらいたい」投稿掲載(2010年11月17日)
■amazon書評「「跡取り娘」たちが背負う日本の中小企業の未来。彼女たちから元気をもらいたい」投稿掲載(2010年11月17日)
著者プロフィール
白河桃子(しらかわ・とうこ)
東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。少子化ジャーナリスト&ライター。『AERA』『日経ビジネスアソシエ』『プレジデント』、ほか女性誌に未婚、晩婚、少子化や恋愛、女性インタビュー等の記事を執筆。「丸の内OLのための少子化講座」主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
<書評への付記>
目を日本から転じて東南アジアをみれば、華僑華人系のビジネスでは、娘が事業の全てあるいは一部を継ぐことはけっして珍しいことではない。
たとえば、今年(2010年)8月に放映された NHKスペシャル「灼熱アジア 第1回 タイ“脱日入亜”日本企業の試練」でも大々的に取り上げられたサミットグループ、番組では登場場面は少なかったが、会長のソンポーン氏は創業経営者の未亡人だが、経営手腕を存分に発揮してタイでも有数の製造メーカーに育てあげた。
また、タイ最大の富豪は象印のビール、ビア・チャーンを製造販売するタイ・ビヴァレッジの社長であるが、その娘は現在、グループの資産管理会社の社長を務めている
これは、台湾でも香港でもシンガポールでも、タイでもマレーシアでも華人世界では当たり前となっている。
また、欧米のビジネス界でも、男性雑誌のプレイボーイは創業社長の娘が継ぎ、国際的メディアグループでもマードックの娘が継ぐ可能性が高いといわれている。
要は、能力があれば男女に関係なく後継者に指名するということだ。この点にかんしては、成功している起業家は実にシビアな選択を行っているというべきだろう。
この点においては、日本はまだまだ発展途上国だ。だが、見方によっては、今後も「跡取り娘」が増えていくものと期待もされるわけであり、大いに期待したいものである。
本書は「NBオンライン」での連載をまとめて一冊にしたもので、私は連載中から読んでいた。本書自体も出版されてすぐに読んだが、出版から2年後の現在にあえて紹介するのは、その価値があるからである。
<関連サイト>
「跡取り娘」の経営戦略・・本書のもとになった、「NBオンライン」の連載。NB とは日経ビジネスの略
