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2015年5月27日水曜日

書評『チャイニーズ・ドリーム ー 大衆資本主義が世界を変える』(丸川知雄、ちくま新書、2013)ー 無数の「大衆資本家」たちの存在が中国の「国家資本主義」体制の地盤を堀崩す


「チャイニーズ・ドリーム」(=中国夢)というと、どうしても習近平によって大国化を目指して打ち出された政治的スローガンを想起してしまう。

だが、本書のタイトルになっている「チャイニーズ・ドリーム」は、政治的なものではない。経済をつうじて実現したいと願っている一般大衆の「夢」のことである。それが著者のいう「大衆資本主義」というものを支えている「夢」である。アメリカンドリームと同様に、ビジネスをつうじての成功という「夢」である。

中国経済は、かってほどの比率ではないものの、いまでも依然として国有企業のプレゼンスの大きな経済である。中国共産党が推進したい「社会主義資本経済」の主要な担い手が、石油や鉄鋼など主要産業を押さえている国有企業なのである。国内外の株式市場で上場している企業の大半は国有企業グループである。

1989年の「天安門事件」以後、政治的な自由を抑えつける代償として、経済的な自由を開放する政策が行われている中国だが、一般大衆にも経済的に成功するチャンスが与えられている。そこに開花したのが著者のいう「大衆資本主義」だ。

儲かるチャンスがあればそこに殺到する「大衆資本家」たち。規制のスキマを発見したらそこに殺到する「大衆資本家」たち。中国ビジネスというと、不動産や株式投資ばかりが日本のマスコミ報道では取り上げられているが、製造業の分野で事業を立ち上げる「大衆資本家」が存在することを本書は教えてくれる。

中国ではそれをさして山塞(さんさい)型というらしい。山塞とは、山賊の要塞のこと。山塞型とは、つまりゲリラ的な参入のことである。著者が前著の『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(中公新書、2008)でも取り上げていた携帯電話、太陽電池といった事業分野が、まさにその典型的な実例である。特定の分野に専門特化して一点集中突破を図る戦略である。

「垂直統合」の産業構造が解体して、パーツやモジュール単位で「垂直分裂」した結果、分業化が進んで参入障壁が低くなると、小さな資本でも事業を立ち上げることが可能となったのである。いわゆるモジュール型の製造分野では、市場で購入したパーツやモジュールを組み立てれば、製造の敷居がきわめて低くなる。そして低価格での販売も可能となる。

著者は、こういった「大衆資本家」たちの取り組みを「キャッチ・ダウン型」と命名している。先行技術に「キャッチ・アップ」するのではなく、スペックの要求水準を下げることによって低価格というアドバンテージを手に入れる戦略である。

このほか、規制の網をかいくぐって急成長したのが電動自転車なども、じつに興味深い事例だ。

だが、「大衆資本主義」はときに大暴走することもある。その典型的な例がレアアース採掘である。

供給不足に狼狽した日本側の動きを知って、レアアースが日本揺さぶりの武器になると勘違いした中国政府の対応は、WTO加盟の先進諸国の猛烈な批判を招く結果で終わったが、「大衆資本家」たちが暴走すると規制当局も手をこまねくばかりであることが如実に示された事例としてじつに興味深い。WTO加盟に際して「市場経済国」と認められていない中国である。猛烈なレアアース採掘が環境破壊につながっている点も看過できないことである。 

「大衆資本家」社会の実現には、経営者の共産党参加への道を開いた江沢民の政策の意味も大きい。企業内に共産党員がいるのが中国企業のガバナンスの実情だが、経営者の共産党参加が実現したことにより、民間企業内の二重権力が解消したことがメリットであった。一方では、中国の救いがたい汚職と腐敗体質を招く結果となったのではあるが・・・。

このように、現実の動きに押されて現状追認する傾向にあるのが規制当局の反応であり、国有企業中心の中国経済に風穴を開けているのが実態である。無数の「大衆資本家」たちの動きは、いわゆる「国家資本主義」をくつがえす可能性があるのではないかと著者は指摘している。

そう考えれば、中国共産党以後の中国のカギを握るのは、起業家マインドに満ちた「大衆資本家」たちがその担い手の一部となるのかもしれない。

 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)の続編ともいうべき内容。前著同様、というより前著以上に面白い。知的刺激に満ちた一冊である。





目 次

はじめに
第1章 草の根資本家のゆりかご・温州
第2章 ゲリラたちの作る携帯電話
第3章 太陽電池産業で中国が日本を追い抜いたわけ
第4章 大衆資本主義がもたらす創造と破壊
第5章 中国経済と大衆資本主義
おわりに-「中国夢」に日本は何を学べるか?
あとがき
参考文献

著者プロフィール


丸川知雄(まるかわ・ともお)
1964年東京都生まれ。1987年、東京大学経済学部卒業。同年アジア経済研究所入所。2001年4月より東京大学社会科学研究所助教授、2007年4月より同教授。著者に『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)ほか。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの追加)。



*「山塞企業」モデルについて解説されている


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製造業ビジネスモデルの変化

書評 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)-「オープン・アーキテクチャー」時代に生き残るためには
・・「垂直分裂」というコトバが定着したものかどうかはわからないが、きわめて重要な概念である。この考え方が成り立つには、「ものつくり」において、設計上の「オープン・アーキテクチャー」という考え方が前提となる。 「オープン・アーキテクチャー」(Open Architecture)とは、「クローズドな製品アーキテクチャー」の反対概念で、外部に開かれた設計構造のことであり、代表的な例が PC である。(自動車は垂直統合型ゆえクローズドになりやすいが電気自動車はモジュール型)

書評 『アップル帝国の正体』(五島直義・森川潤、文藝春秋社、2013)-アップルがつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を「末端」である日本から解明
・・米国製造業のアウトソーシング先としての、中国における台湾のEMS企業

書評 『日本式モノづくりの敗戦-なぜ米中企業に勝てなくなったのか-』(野口悠紀雄、東洋経済新報社、2012)-産業転換期の日本が今後どう生きていくべきかについて考えるために


中国の科学技術

書評 『「科学技術大国」中国の真実』(伊佐進一、講談社現代新書、2010)-中国の科学技術を国家レベルと企業レベルで概観する好レポート
・・「学問研究や科学的探求に不可欠な自由闊達な意見表明を行いにくい中国共産党統治下の政治風土にまで踏み込んで言及しているのは、著者が外国人であることのメリットだろう。科学(サイエンス)と技術(テクノロジーおよび工学 エンジニアリング)の違いがそこにはある。 現在の中国では「創新」が強調されているが、世界を変えるようなほんとうの意味でのイノベーションは不可能である。なぜなら、体制の安定を揺るがすような価値観変容をもたらす「恐れ」があるから、どうしても委縮しがちだ。しかも、不正監視機能の弱さという問題も存在する」

書評 『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』(ダン・セノール & シャウル・シンゲル、宮本喜一訳、ダイヤモンド社、2012)-イノベーションが生み出される風土とは?
・・一党独裁の共産主義中国とは対極の独創性の宝庫イスラエル


「一党独裁」を支えるチャイナマネー

書評 『自由市場の終焉-国家資本主義とどう闘うか-』(イアン・ブレマー、有賀裕子訳、日本経済新聞出版社、2011)-権威主義政治体制維持のため市場を利用する国家資本主義の実態
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中国経済の将来

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「稲盛哲学」 は 「拝金社会主義中国」を変えることができるか?

(2016年7月24日 情報追加)



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