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2016年12月10日土曜日

アニメ映画 『君の名は。』(2016年、日本)を見てきた(2016年12月9日)-ラストシーンを見たら、またもう一度最初から見たくなる。そしてこの作品について語りたくなる


アニメ映画の『君の名は。』(2016、日本)をTOHOシネマズで見てきた。

流行り物は一度は自分の目で見て確かめておくべきだというビジネスパーソン的な不純(?)な動機からだが、『君の名は。』の観客動員数1500万人超、興行収入200億円(・・8月26日の公開から3ヶ月での実績)は目を見張る数字である。

こういう映画を見るには、週末の東京都心の週末は避けた方がいい。だから、ウィークデーの地方都市のシネコンで見る。

不純な動機から見ることにしたと書いたが、そんな動機の不純さは映画がはじめってからあっという間に消し飛んでしまった。最初のシーンを見た瞬間から、この作品にすっかり魅了されてしまったのだ。あまりにも美しい映像、リアリティあるディテールの細密な描写。CGを使用しているといっても、東京都心のマンションのベランダから見る東京も、地方の自然もまた、あまりにもリアルで美しすぎる。そして最初から最後まで駆け抜けるようなスピード感。

物語は、現代日本に生きる高校生男女の人格(あるいは、意識、または魂?)の入れ替えと、現実と夢そして時間と空間の交錯に翻弄されながらも、自分の「片割れ」を探しつづけるという「自分探し」がテーマなのであるが、現代人の常識から考えたら「ありえない設定」の物語だからこそ、リアル感あるディテールへのこだわりが徹底しているのだろう。

見る人によっていろんな解釈が可能だろうが、それは濃密に構築されて描きこまれた世界であるがゆえのことだ。下敷きになっているのは、男女の入れ替えをテーマにした日本中世の古典 『とりかへばや物語』であり、発想のインスピレーションは、和泉式部の和歌 「覚めでこそ 見るべかりけれ うつつにも あとはかもなき 夢と知りせば」と監督の新海誠氏はインタビューで語っている。1973年生まれの監督は中央大学文学部の出身だそうだ。

なるほど、この映画は、国文学や民俗学(・・とくに折口信夫)の素養があれば、深く楽しめる。主人公の一人である三葉(みつは)が現代に生きる女子高校生だが同時に実家は神社で巫女としての努めもあり(・・巫女はシャマン、魂の依り代であり、現実(うつつ)と夢、覚醒状態と睡眠状態、この世とあの世を「結ぶ」存在でもある)、神道スピリチュアリズム的な要素に充ち満ちている。

巨大隕石の墜落が強力な磁場を生み出し、そこが聖地になるということも、宗教学の素養があれば応用できる常識といっていいだろう。だから、映画のロケ地への「聖地巡礼」も誘発する。

男女の入れ替えも、現代風にいえばSFのテレポテーションが相互に起こった現象ということができるだろうか。自分の肉体に他人の意識が入り込む現象は、『源氏物語』の登場人物に憑依するする生霊(いきりょう)に前例があると考えてもいいかもしれない。

そもそも日本語の「アニメ」は英語の「アニメーション」の略語であり、アニメーションとは複数の静止画像を高速で連続的に動かすことで無生命の画像に生命を与える行為のことである。パラパラマンガがその原型だ。語源としてのラテン語のアニマ(anima)は、精気のことであり、目に見えない魂をさしている。

アニメが、日本的なアニミズムやスピリチュアリズムと親和性が高いのは当然といえば当然である。日本人がアニメ作品にリアルなドラマ以上に感情移入しやすいのもまた当然というべきだろう。だからこの映画のテーマも、まさに日本アニメの王道をいくものだといえるのかもしれない。

まあ、そういう小難しい話は別にして、日本人ならあまり違和感なく感情移入しながら見てしまうんじゃないかな。セリフも最初から日本語だしね。つくづく日本人で良かったと思う。何よりも情緒を重視し、細かいニュアンスや言語外のしぐさも含めて表現する日本型のコミュニケーションが展開されるわけだから、日本人ならすぐに「感じる」ことができるから。

ラストシーンには感動して目頭が熱くなった。ラストシーンを見たら、またもう一度最初からみたくなる。そしてこの作品について語りたくなる。そんな映画だ。

ぜひ一人でも多くの人に見て欲しいと思う。








<関連サイト>

『君の名は。』公式サイト(日本版)

『君の名は。』大ヒットの理由を新海誠監督が自ら読み解く(上)新海誠・映画『君の名は。』監督インタビュー (ダイヤモンドオンライン、2016年9月22日)
・・「『君の名は。』は、昔話の構造ではなく「夢と知りせば」という和歌がインスピレーションを与えてくれました。夢から覚めてなぜかさみしいという感情は、小野小町のいた平安時代から、いやそれ以前から今にいたるまで人の持つ共通の感覚だろうと思ったのです。そこで、「朝、目が覚めると、なぜか泣いている」と物語を始めることで、観客にも「それは分かる」という気持ちになってもらえるのではないかと考えました。」(新海監督の発言)




「君の名は。」、英メディア絶賛の理由は? 「ディズニーにはなしえない領域に……」 (Newspehre、2016年11月25日)

中国の若者は「君の名は。」のどこに共感するか 「金メダル」と「BL」と「村上春樹」と「孤独」と (福島香織、日経ビジネスオンライン、2016年12月14日)
・・日本人の反応と中国人の反応はまったく違うようだが、日本のアニメやマンガに親しんで育った「新世代」の「80后」(バーリンホウ)はそうではないないのかもしれない。

(2016年12月14日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『折口信夫 霊性の思索者』(林浩平、平凡社新書、2009)-キーワードで読み込む、<学者・折口信夫=歌人・釋迢空>のあらたな全体像

書評 『折口信夫-いきどほる心- (再発見 日本の哲学)』(木村純二、講談社、2008)-折口信夫が一生かけて探求した問題の解明

書評 『聖地の想像力-なぜ人は聖地をめざすのか-』(植島啓司、集英社新書、2000)-パワースポット好きな人、聖地巡礼が好きな人に一読をすすめたい
・・「(宗教学者の)著者による「聖地の定義」を掲載しておこう。 01 聖地はわずか一センチたりとも場所を移動しない  02 聖地はきわめてシンプルな石組みをメルクマールとする  03 聖地は「この世に存在しない場所」である  04 聖地は光の記憶をたどる場所である  05 聖地は「もうひとつのネットワーク」を形成する  06 聖地には世界軸 axis mundi が貫通しており、一種のメモリーバンク(記憶装置)として機能する  07 聖地は母体回帰願望と結びつく  08 聖地とは夢見の場所である 09 聖地では感覚の再編成が行われる」

書評 『河合隼雄-心理療法家の誕生-』(大塚信一、トランスビュー、2009)-メイキング・オブ・河合隼雄、そして新しい時代の「岩波文化人」たち・・
・・河合隼雄には『とりかへばや、男と女』という名著がある



「魂」について考えることが必要なのではないか?-「同級生殺害事件」に思うこと
・・「近代合理主義」の舌でうめいている魂の声に耳を傾けるべきだ

書評 『オーラの素顔 美輪明宏のいきかた』(豊田正義、講談社、2008)-「芸能界」と「霊能界」、そして法華経
・・日本的スピリチュアリティの源泉の一つが日蓮関連




(2012年7月3日発売の拙著です)







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