大義なき「ウクライナ戦争」を仕掛けたロシアの「独裁者」プーチン大統領。誤算を重ねた69歳のプーチンには「独裁者の末路」が見え始めてきている。
「独裁者」は。権力の座についている時は、ほしいままに振る舞っているが、その末路が悲惨なものとなるケースが多い。
戦争で敗れて自殺したヒトラー、内乱で捕らえられて処刑されたムッソリーニ、米軍に捕縛されて処刑されたイラクのサッダーム・フセイン、側近に暗殺された朴正熙(パク・チョンヒ)、革命で引きずり下ろされたエジプトのムバラクなどなど。
強権でもって支配する独裁制は、あっけなく崩壊する。独裁者は、じつは脆弱な存在なのだ。
そんな「独裁者の末路」のケーススタディーとして、『墜ちた英雄-「独裁者」ムガベの37年』(石原孝、集英社新書、2019)を読んでみた。 こんな機会でもないと、あまり自分の人生にはかかわりのないアフリカ関連の本を読むこともないだろう、と。著者は、南アフリカ駐在経験をもつ朝日新聞記者。
ジンバブエ(旧ローデシア)独立の「英雄」でありながら、権力にしがみついたあげくクーデターで失脚したのが「独裁者」ロバート・ムガベ(1924~2019)であった。
第1次大戦後のドイツを上回るようなハイパーインフレ-ションで、とんでもない状況になっているというニュースで有名になったジンバブエだが、1979年の独立当時のムガベ氏が「英雄」であったとはよく知らなかった。
この本に全文が翻訳されて引用されている、ムガベ大統領の「独立記念式典スピーチ」を読むと、国内の融和を語るムガベ氏に、南アフリカのネルソン・マンデラ氏とあまり変わらない理想肌の人物を感じてしまうのである。若き日のムガベ氏は、ガンディーにも感銘を受けていた。
独立後のジンバブエにおいてムガベ氏は、もともと勉強熱心な教師であったこともあずかって、初等教育の充実に注力し、国民の支持を受けていたという。そのおかげでジンバブエの識字率は95%以上ときわめて高いらしい。 善政を敷いていたわけである。
古代ローマの独裁者・皇帝ネロもそうであったが、独裁者は最初は理想肌の人物であったことが多い。ヒトラーもムッソリーニも、その他もろもろの独裁者も、多かれ少なかれそうである。 だが、たいていの権力者は、いったん権力を握ると、権力のうまみを味わうことで、そこから抜け出せなくなる。ムガベ氏もまたそうだった。
白人との融和を語り白人に受け入れられたマンデラに対し、当初の理想的な姿勢から一変し、白人入植者の土地を接収し、結果として欧米白人社会を敵に回すことになったムガベは、国内では強権体制を敷き、対外的には反欧米姿勢を強調して旧ソ連や中国に接近することになる。現在、反欧米主義を主張する独裁者は、どの国にあってもみなおなじだな、と。
不倫の末に後妻とした若い女性に振り回されることになる、70歳を過ぎてからの老独裁者。妻とその一族による贅沢三昧の浪費と権力志向、大義なきコンゴ内戦への参戦、ハイパーインフレに苦しむ国民の国外脱出。「独立の英雄」は、国家を私物化した「独裁者」に墜ちてしまったのである。
最終的に国軍主導のクーデタで権力の座から降りることになったムガベ氏は、すでに92歳であった。その2年後にシンガポールの病院で亡くなったムガベ氏だが、権力を奪われたとはいえ、ベッドの上で天寿を全うすることができたわけだから、かならずしも悲惨な終わり方ではなかったといっていいかもしれない。
とはいえ、「独裁者の末路」は、独裁者であるゆえに免れないものといえようか。
だが、1999年に大統領に就任してから約23年目にあたる今年2022年に始めた「ウクライナへの軍事侵攻」が命取りとなる可能性が濃厚になってきた。欧米を中心とする国際的な経済制裁にいる通貨ルーブリの価値下落、大義なき戦争におけるロシア軍将兵の戦死者の増大・・。
はたして、「独裁者」プーチンはいかなる「末路」をたどることになるのか、いろいとシミュレーションしてみる必要があろう。「独裁者」ムガベのケースは、その1つの材料になりうる。
しかしながら、「プーチン後」のロシアについても、けっして楽観が期待できないこともまた、「ムガベ後」のジンバブエの苦境が続いていることから考えれば容易に想像がつくというものだ。
あるいは、「アラブの春」でいったん民主化が実現したかに見えたが、国軍によるクーデター後に強権体制が戻ってきたエジプトの状況を考えてみるのも参考になるかもしれない。
目次序章 あっけない幕切れ─37年に及ぶ支配第1章 差別と独立─ムガベとの接触第2章 アフリカの優等生ー融和と略奪第3章 経済崩壊ー15年続く就職氷河期第4章 土地は誰のものかー白人との対立第5章 妻への愛が身を滅ぼすー軍との対立第6章 期待と失望ームガベなき選挙第7章 ムガベ待望論ー根強い人気終章 マンデラとムガベー英雄と独裁者
著者プロフィール石原孝(いしはら・たかし)1981年生まれ。朝日新聞ヨハネスブルク支局長。ロンドン大学東洋・アフリカ研究学院修士課程修了。 長く所属していた大阪社会部では、学校法人「森友学園」の小学校建設を巡る問題などを取材した。 共著に『子どもと貧困』『チャイナスタンダード 世界を席巻する中国式』など。 趣味は国内外問わず、旅行。「広い世界を見たい」と思い、記者を志した。
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・・「権力者に対しても、権力者の敵対者に対しても常に中立を保とうとするというところにロシアは政軍関係上のカルチャーの大きな特徴がある」(小泉)
⇒ ロシア国軍がクーデターを主導する可能性は低いと見るべきだろう。したがって、ジンバブエのムガベ大統領のケースとは違って、国軍主導によるクーデターでプーチン大統領が辞任に追い込まれることはなさそうだ。
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