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2021年4月20日火曜日

書評『プーチンとロシア革命 ー 百年の蹉跌』(遠藤良介、河出書房新社、2018)ー「上からの改革」は機能不全。プーチンは「ロシア革命」の再来を恐れている

(カバーに並ぶのはプーチンとスターリン) 

 
「帯の裏」には「ロシア革命は終わっていない」という1行のフレーズが掲載されている(*上掲の写真を参照)。このフレーズが刺さるのだ。

「未完のロシア革命」などというと、革命推進の立場に立つ運動家の主張に聞こえかねないが、立場がどうであれ「ロシア革命は終わっていない」という問題提起というか歴史観は、現代ロシアが抱える諸問題の根底になにがあるか示唆してやむことがない。 

「ロシア革命」は、「二月革命」と「十月革命」という1917年に二度にわたる革命のことだが、ロシア革命から100年にあたる2017年には、現在のプーチン率いるロシア政府は、なんの総括も行わなかったのである! この事実に注目する必要がある。 

プーチンは、「ロシア革命」の再来に恐怖を感じているのだ。プーチンは「二月革命」は評価していても、のちの共産党となったボリシェヴィキによる「十月革命」には否定的であるという。 

ソ連時代には KGB将校であったにもかかわらず、共産主義を肯定しているわけではないのである。つまり「プーチンのロシア」とは「共産主義なきソ連」である。強権による権威主義体制であるが、共産主義を志向しているのではない。 


■プーチンが賞賛しているのは帝政ロシア末期の宰相ストルイピン

プーチンは、帝政末期の政治家ストルイピンを賞賛しているという。ストルイピンは、「血の日曜日」事件を発生させた「日露戦争」(1905年)後に実行された「ストルイピン改革」として名前を残している。

(ピョートル・ストルイピン 1862~1911 Wikipediaより)

ストルイピンは宰相として「農奴解放」などさまざまな「社会改革」を実行したが、ストルイピンは過激派によって暗殺され、残念ながら改革は不徹底なものに終わってしまった。 

「ロシア革命」は、ストルイピン改革が不徹底なものであったから引き起こされたのである。 


■プーチンが評価しているのはレーニンではなくスターリン

しかも、「十月革命」を主導した「ボリシェヴィキ」(多数派)はじつはロシアを幅広く代表した「多数派」ではなく、急進的な変革を求めた中央の少数の革命エリートによって断行されたクーデターがその本質である。 

だから、プーチンはレーニンを評価していないのである。むしろスターリンを高く評価しているのは、スターリンがきわめて多大な犠牲を出しながらも「独ソ戦」(いわゆる「大祖国戦争」)で勝利を導いたからだ。この点はきわめて重要だ。だから、5月9日の対独戦勝記念日がなによりも重要なイベントなのである。

ストルイピンとスターリン、この2人に共通するものは何かを考えてみたいものだ。 

「ロシア革命」は、急進的な変革を求めた中央の少数のエリートによるものであった。現在の「民主化運動」もまた、欧米の指示を受けた中央の少数のエリートのものであることは否定できない。 

地方で暮らす大多数のロシア人が、ソ連崩壊後の大混乱と苦境は思い出したくもない、なによりも安定を願っていることは、米国人ジャーナリストによる『プーチンの国-ある地方都市に暮らす人々の記録』(アン・ギャレルズ)に描かれているとおりだ。  

自由は制限しながらも安定を与えてきたプーチンの人気が高いのはある意味では当然なのだが、かといってまったく問題がないわけではない。 

結果として「ロシア革命」(1907年)を招くことになった「ストルイピン改革」と同様(・・あるいはそれ以下かもしれない)、改革を先送りしたツケが回ってきており、もはや「上からの改革」は機能不全となっているのだ。

「痛みを伴う改革」など、もはや不可能な状態にあるわけだ。 このような状態において、プーチンが、民主化運動家に異常なまでに神経質であるのは、当然といえば当然なのである。 

プーチンは、あるいはその後継者は強権的な手法でこの状態を乗り切れるのか、あるいは、ふたたび100年前とおなじように「中央の少数のエリート」主導の「革命」となるのか

「民主主義」が定着しなかったロシアの将来は不安定となりそうだ。 




目 次 
前書き 「革命」は終わっていない
プロローグ 蘇る独裁者の亡霊
Ⅰ 攻防…改革か革命か 
 第1章 プーチンが敬愛する首相
 第2章 日露戦争と革命運動
Ⅱ 怒涛の1917年
 第3章 レーニンとライバルたち
 第4章 帝政崩壊からの急展開
Ⅲ 革命が生んだ矛盾
 第5章 潰えた希望、流血へ
 第6章 内戦と干渉、ハイブリッド戦の源流
 第7章 無秩序への鉄槌
Ⅳ 血塗られた独裁者
 第8章 大粛清の嵐
 第9章 少数民族の命運
 第10章 スターリンの戦争と日本
 第11章 北朝鮮擁護の原点
Ⅴ ソ連の根深き病巣
 第12章 みせかけの安定
 第13章 プーチンの悲哀
エピローグ 変わらぬ専制の国


著者プロフィール
遠藤良介(えんどう・りょうすけ)
1973年、愛媛県生まれ。東京外国語大学外国語学部ロシア東欧語学科卒。同大学院地域文化研究科博士前期課程修了(国際学修士)。1999年、産経新聞入社。横浜総局、盛岡支局、東京本社編集局整理部、外信部を経て2006年12月からモスクワ支局。2014年10月から同支局長。2018年10月から外信部編集委員兼論説委員。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


PS 新聞記者が書いた本から抜けない新聞文体 

著者は、モスクワ駐在11年の産経新聞記者。その集大成が本書であり、産経新聞の長期連載をもとにまとめたものだという。 

重要な論点を含んだ内容だが、単行本化にあたって再編集が十分に行われていないために、新聞文体が抜けきってないのが残念であった。

新聞と単行本は、異なるメディアであることに、もっと留意すべきではないだろうか? それとも、新聞記者には無理な相談なのだろうか?


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