自分はアニメ業界の人間ではなく、アニメはもっぱら視聴する側なので、アニメをめぐる動向を詳しく知っているわけではない。
とはいえ、物心ついたときからアニメ(・・その当時はTVマンガといってただけでなく、しかも白黒TVで画面はモノクロだった!)を見てきた世代なので、ある種の「常識」というものが自分のなかに形成されてしまっているようだ。
ディズニーに代表されるように、もともと米国で生まれて成長したアニメだが、戦後にアメリカ文化の圧倒的影響下で発達した日本アニメは、現在では日本を代表するポップカルチャーとなり、マンガやゲームとならんで世界中に影響する日本文化になっている。
日本人の視聴者を相手に、日本人によって日本で製作されたアニメが、日本を越えて世界中に愛好者を増やしているのは、たいへん結構なことではないか。日本が誇るべき「ソフトパワー」だな、と。
自分がもっている「常識」は、ざっとこんな感じである。
■「常識」」を捨てよ! アニメはすでに世界全体を視野に入れたビジネス
ところが、こんな「常識」は急速に変化していることを思い知らされた。「常識」をアップデートしないと、世界の動きを理解できなくなってきているのだ。いやリセットするべきだというべきか。
そう思わざるをえなくなったのは、『アニメ経済圏 ― 現地取材とデータで解き明かす世界戦略のシナリオ』(平島綾子、日経BP、2026)と、『アニメビジネス ― 漫画・小説・アニメが100倍おもしろくなるアニメの教養』(大貫祐介、木谷高明=監修、総合法令、2026)という本を続けて読んだからだ。
前者の『アニメ経済圏』は、業界誌である「日経エンターテインメント」の記者のよる最新リポート。この本では「2025年が転換期」であったことが強調されている。そう、急速にかつ劇的に変化しているのである。
それを象徴するのがアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編第一章猗窩座(あかざ)再来』 だ。日本映画史上初の全世界興行収入1000億円超を達成したのである。「全世界
である。そしておなじくアニメ映画『チェーンソーマン レゼ編』だ。
Netflix や Amazon Prime など、サブスクリクション(以下、サブスクと略す)によるネット配信がアニメの視聴方法を根本的に変化させているだけでなく、ネットによる「世界同時配信」によってメガヒットを生み出す構造ができあがっているのである。
その中心地が米国であり、米国か英国やカナダや豪州の英語圏、そして中南米のスペイン語圏へという流れをつくりだしているのである。
アニメ配信の専業であるクランチロール(Crunchroll)の本社がテキサス州ダラスにあることの意味を考えることが重要だ。米国の産業の中心がカリフォルニアからテキサスにシフトしているだけでなく、メキシコと国境を接するテキサスには、ヒスパニックというスペイン語人口を抱えた地域なのである。
巨大だがアニメ配信にかんする予測不能な規制によって安定性を欠いている中国市場に対し、英語圏とスペイン語圏をがっちり押さえることで成り立つ市場構造。これに加えて、いわゆる「グローバルサウス」の人口大国インドネシアとインドを発信源としたアニメ熱の拡大。市場はさらなる拡大傾向にあるのだ。
世界中の「ミレニアル世代」と「Z世代」をあわせた世代(1981年生まれ~2010年代生まれ)の約半数が、週1回はアニメを視聴しているのだ。
これがなにを意味しているかというと、もはや日本のアニメ視聴者は世界の一部に過ぎなくなったという状況なのである。
かつてのように、日本でヒットしたTVアニメが世界でも愛好されるという構造ではなく、最初から世界市場でヒットを狙った作品が製作されるという方向に変化しているのである。日本国内の人口減少が、海外市場開拓に向かっただけでは説明できないのである。
■アニメ業界の構造的変化
アニメ関連業界に行きたいという若者を主たる対象にした、業界の「中の人」が書いた『アニメビジネス ― 漫画・小説・アニメが100倍おもしろくなるアニメの教養』を読むと、この構造的変化がもたらす光と影が明確になる。
現在日本で製作されるアニメの9割は世界市場狙いであって、日本市場を狙ったものではないのだという。だから、やたら「異世界転生もの」ばかりになってしまうのだ。 なるほど、そういうことなのか。個人的にはあまり食指の動かないジャンルなのだが・・・
このほか「悪役令嬢」、「成り上がりバトル」、「日本要素の強いバトル」が上位のラインナップとなるという。いずれも、わかりやすいので再生されやすいというのがその理由だ。消費者サイドにおける時間奪い合いの結果である。ネット配信時代ならではの現象である。
TVアニメの1クルー12話の制作費が約3.5億円という数字をアタマに入れておこう。資金回収が可能かどうかがカギになることはいうまでもない。人気マンガなのにアニメ化されない、アニメの第1シーズンが人気なのに第2シーズンが製作されない理由がそこにある。
「日本要素の強いバトル」が売れ筋だというのは、これはまあ良ししよう。いや、それは大いに勇気づけられることだ。日本的要素が濃厚なほうが、かえって世界中で受け入れられているのだから。そして、これはきわめて重要な教訓にもなる。
だが、「ラブコメ」はどうもそうではないらしい。TVアニメで育った世代としては、淋しい限りではある。グローバリゼーションの波に呑まれたローカル産業の宿命というべきなのであろうか・・・。
キリスト教やイスラーム圏どの異文化摩擦という問題もある。ある程度まではローカライズで修正可能だが、個別市場での法的規制など、コンテンツをめぐる状況は日本の「常識」が通用しないことも多い。
それはさておき、これだけ世界中が熱狂し、市場規模も拡大傾向にあるアニメ関連業界だが、中国や韓国という競合の台頭だけでなく、アニメ製作の本拠地である日本の収益性が高くないこと、それが業界内でさまざまなひずみを生んでいることは、依然から指摘されてきたとおりだ。
この件にかんしては『アニメ経済圏』に書かれているが、高市政権が重点分野として「コンテンツ産業」を選択していることもあり、改善が期待される。形をもたない IP(知的財産)で稼ぐために、家電業界や無残にも失敗した「クールジャパン」の轍を踏まないことを切に願うばかりだ。
日本の「ソフトパワー」であるアニメが、今後もそうであり続けますように! 少なくともわたしの世代以降の日本人は、ほぼすべてがアニメで自己形成してきたのだから、そう願うのは当然のことなのだ。
目 次はじめに第1部 日本アニメのグローバル・エポック 「2025年」の舞台裏第1章 映画『鬼滅の刃』&『チェンソーマン』が世界を変えた第2章 数字が証明する "ANIME" の世界進出第2部 米国発・スペイン語圏・インド&インドネシア “熱狂” の最前線を行く第3章 日本アニメを拡張する動画配信サービス「クランチロール」と「ネットフリックス」第4章 4日間で170億円の経済効果 なぜ米国が "ANIME" の起点なのか注目地域① スペイン語圏 南欧「バルセロナ」から拡がる可能性注目地域② インド&インドネシア(グローバルサウス) 言語圏から人口圏へ―2大注目地域に迫る第3部 日本アニメ&IP 官民それぞれの「新たなる挑戦」第5章 次のアニメ原作・韓国ウェブトゥーン、中国・2D手書き風アニメの台頭第6章 2033年、海外売り上げ20兆円への道~「IP360」の始動で拡がる未来第7章 ハリウッドで映画化 ガンダム&キティの挑戦の意味第8章 三菱商事・アミューズ・サイバーエージェントのグローバル展開おわりに
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目 次はじめに 教養としてのアニメビジネス第1章 なぜ異世界転生ばかり増えるのか ― アニメとマーケティング第2章 アニメ化できる原作が枯渇している!? ― アニメと原作の関係性第3章 アニメを見ない若者たち ― アニメと視聴者第4章 アニメが完成するまでになにが起きているのか? ― アニメと制作現場第5章 アニメ業界での生き方 ― アニメとキャリア
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