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2026年7月24日金曜日

『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』(祥伝社、2026)と『懐に入る英語』(集英社、2026)の2冊は、できれば30歳台までに出会いたかった「質問力」にかんする仕事術の本

 

 40年以上にわたって英語でインタビューを行い、近年は経済学者のポール・クルーグマンやダロン・アセモグルなど「超一流の知識人たち」に単独インタビューを敢行し、その内容を日本語で書籍化してきた国際ジャーナリストの大野和基氏。 

その手の内というか手法について、あますことなく開示してくれる著書2冊をつづけて読んだ。 

『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』(祥伝社、2026)と、『懐に入る英語』(集英社、2026)の2冊である。前者は一般向け、後者は英語中級者以上向けの仕事術のビジネス書だ。 

ジャーナリズムであろうが、ビジネスであろうが、もちろんそれ以外の世界であろうと、仕事をするうえでもっとも重要なのは「質問力」である。これには異議はあるまい。

いや、それはけっして仕事に限定されるものではない。 的確な相手に対して、的確なタイミングで、的確な質問を投げかけること。良い質問は、良い回答を導きだすのである。誘導するといっても言い過ぎではないだろう。あくまでも主導権はこちら側にあるからだ。 

生成AI相手のプロンプトならともかく、こと人間が相手の場合は、人間心理にかんする理解を踏まえた質問であることが前提になる。

ディベートではないのである。相手を論破するなど論外である。いかに気持ちよく心を開いてもらうかがカギなのだ。 日本語だけでなく、英語でもまったくおなじである。

『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』で著者は、絶対に避けなくてはならないこととして、質問の「イソコ化」と「タハラ化」の2つをあげている。絶妙なネーミングというべきだろう。 言い得て妙としか言いようがない。

「イソコ」というのは、質問の前に自説をとうとうと述べる活動家とおぼしき新聞記者のことだ。「タハラ」というのは、相手の話を最後まで聞かずにさえぎって自分の考えを押しつける長老ジャーナリストのことだ。わたし自身、ずいぶん前から、この2人に対してはウンザリする思いを抱いてきたので、大いにうなづきながら納得した。 

『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』の「目次」は、以下のようになっている。  


はじめに
1 日本人がついやってしまう質問の「悪いクセ」 
2 効率のよい準備が「望む答え」への最短コースとなる 
3 主導権を握りながら相手に気持ちよく話させるコツ 
4 ピンチをチャンスに変える「変化球」の投げ方 
5 人生の基盤となる「質問力」のマジック 



(【国際ジャーナリスト】世界的VIPの本音を引き出す極意 / 「サピエンス全史」著者の自宅へ / AI時代に「英語力」が必須な理由|ゲスト: 大野和基  Podcast Studio Chronicle Podcast Studio Chronicle)



■英語上級者向きだが、志の高い高校生も読んだらいい

さて、えらくシンプルなタイトルの本である『懐に入る英語』(集英社、2026)の方に話を進めよう。

知的レベルの高い、英語上級者向けの「世界基準の質問力」である。もちろん、最初から意識を高くもち、これからの人生を切り開いていきたいと思っている高校生なら読むべき内容だ。  

「質問力」にかんしては、1冊目の『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』とダブっているのは当然であるが、『懐に入る英語』のほうは、「英語での質問力」に絞り込んで、徹底的に解説してくれる。具体的な英語表現がじつに役に立つ。 

日本の大学では英文科を卒業し、アメリカに留学して化学と基礎医学を学んだのち、フリーのジャーナリストとして生きてきた人ならではのサバイバルスキルが満載である。組織の名刺もバックアップもない、あくまでも個人としての世渡りである。 

『懐に入る英語』の「目次」を紹介しておこう。 


はじめに
第1章 文化的背景を知る 
第2章 情報収集する 
第3章 ボキャブラリーを増やす 
第4章 アポイントメントを取る 
第5章 会う、雑談から始める 
第6章 知的な会話をする 
第7章 いい印象を残して終わる 
おわりに


豊富な体験から生み出された具体的な事例をもとに、読みやすく実戦的で説得力のある話がつぎからつぎへと展開される。英語ができるだけでなく、日本語で書くチカラがあるからこそ可能なワザなのである。 

英語関連本を読むのはひさびさのことだが、この本にかんしては、時間をかけて、文字通り隅から隅まで舐めるようにして読んだ。読みながら、そして読み終えたあとも、なんども読み返す必要を感じている。知識のレベルを越えて、知恵のレベルまで書かれているからだ。 

「日本人が特に苦手な would、could について」は、わたし自身も従来から気をつけてきたことだが、表現をやわらかくするために必要な英語表現である。文法的にいえば仮定法過去(および仮定法過去完了)であるが、実際につかわれる際には if が省略される。 

著者がなんどもくりかえし注意喚起しているように、日本語とくらべたら英語はストレートだという固定観念は捨てることだ。 英語はボキャブラリーが膨大なだけでなく、細かい感情のニュアンスまで表現することが可能な言語なのである。知的レベルが上がればあがるほど婉曲な表現を好む傾向があるのは、日本社会とおなじなのだ。 

すでに70歳を迎えている著者であるが、まさに精進の日々を送っているのは「現役」をつづけるためであり、なによりも旺盛な好奇心があるからだろう。その姿勢も学ぶべきである。



■背伸びしてでも『懐に入る英語』を読むべき

この2冊は30歳台で出会いたかった。自分もバリバリの30歳台にはこの手の本を、それこそむさぼるように読んだからだ。当たって砕けろ精神に充ち満ちていた頃である。 

とはいえ、何歳になっても前進、また前進である。撃ちてしやまん。向上心を失ったら、人間はおしまいだ。 

『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』だけでも読むことを薦めたいが、自分自身のステージをさらに上げるためには、背伸びしてでも『懐に入る英語』も読むべきだろう。 



著者プロフィール
大野和基(おおの・かずもと) 
国際ジャーナリスト。1955年生まれ、兵庫県西宮市出身。東京外国語大学英米学科卒業後、1979年に渡米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。『コロナ後の世界』(ジャレド・ダイアモンドほか、文春新書)などの訳書、『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』 (NHK出版新書)などインタビュー・編著多数。 



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2025年3月12日水曜日

『翻訳者の全技術』(山形浩生、星海社新書、2025)ー 「副業」として翻訳をこなしてきた開発コンサルタントの超高速な「知的生産術」

 

『翻訳者の全技術』(山形浩生、星海社新書、2025)という本がでていることを知ったので、さっそく読んでみた。  

超わかりやすい翻訳本を大量に出し続けている山形浩生(やまがた・ひろお)という人物の名前は、一度は目にしたり聞いたことがあるのではないかと思う。 

経済からITにいたるまで、ノンフィクションを中心に翻訳書はなんと200以上に及ぶらしい。そのほとんどは、わたしは読んでないが、くだけすぎな感もある翻訳文体には賛否両論があるようだ。 

そんな山形氏だが、専業の翻訳家ではなく、本業はシンクタンクに勤務している開発コンサルタントである。そのことは、ずいぶん以前から知っていた。だからこそ、副業としての翻訳をこなす超高速の仕事には驚嘆しつづけてきたわけである。 

山形流の「知的生産術」ともいうべきが、この本である。4回にわたるインタビュー(・・本人は放談と書いているが)を、編集者が構成したものだ。 

「第1章 翻訳の技術」と「第2章 読書と発想の技術」は、わたしも大いに共感する内容で面白かった。翻訳に対する考え、翻訳への取り組み方が存分に語られている。松岡正剛批判など、ある意味で痛快である。 

「第3章 好奇心を拡げる技術」は、本業の開発コンサルタントの仕事の余話ともいうべき、軽い読み物といった類いのものだ。これはこれで面白い。 

AIによる「機械翻訳」の精度があがってきている現在、文学作品以外の翻訳は大幅に縮小していくのではないかと予想される。 

その意味では、「過渡期の仕事人」として、日本人の「教養」レベル向上に貢献した山形氏のことは、もっと評価されてしかるべきだ。 

大量に仕事をこなすための「方法論」として、本書の内容から「盗める」ものは多いと思う。 


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2010年11月17日水曜日

書評 『仕事で成長したい5%の日本人へ』(今北純一、新潮新書、2010)-残り95%の人にとっても重要だ




「仕事をつうじて成長すること」、これは残り95%の人にとっても重要なことだ

 著者は20歳台で日本を飛び出し、欧州企業を舞台に30年以上にわたって、個人として生き抜いてきたビジネスマンである。

 『仕事で成長したい 5%の日本人へ』とは、実に挑戦的なタイトルではないか。「仕事で成長したい 5%の日本人」に向けて語っているということは、極端な話、「残り95%の日本人」には用はないということだ。

 だが、「仕事をつうじて人間的に成長すること」、これはすべての働く人にとって重要なことではないだろうか。そう思ったら、この本は読むべきだ。その時点で読者は間違いなく 5%に入っているのである。

 本書で、著者は心得をいくつかの短いコトバに集約している。「自分の仕事の「相場観」を持つ」、「評論家ではなく実践家になる」、「他人を手本にはしても、憧れは抱かない」。「成長願望と上昇志向を混同しない」、「対決から逃げない」・・・。

 自分がもっとも好きなこと、自分に向いていること、自分をよりドライブできること、つまりもっともパッションを感じることのできる分野に集中すればいいのだ。
 他人と比較するのではない、あくまでも自分に軸をおいて、自分の人生を生きることが重要なのだ。あくまでも自分の五感に忠実であること、自分の人生は自分でマネージすることが重要なのだ。

 これは「対決社会」の欧州でもまれてきた著者の信念だが、これからの時代の日本人にも不可欠な心得だろう。自分の成長は志向しても、とくに組織内の上昇と混同しないこと。

 著者自身、20歳台前半にはミッションとビジョンとパッションの対象を見つけることができなくて、悩みに悩んでいたと本書のなかで語っている。著者のように、とにかく一歩踏み出すこと、そこからすべてが始まる。大いに悩み、もがき、対決する。こういうプロセスをへて初めて自分を発見することができるのだ。

 私は、著者の処女作 『欧米対決社会のビジネス』(新潮社、1988)以来のファンだ。20歳台の前半で初めて著者の本を読んでから、かれこれ20年以上の読者だが、著者の軌跡を手本にはしてきたが憧れは抱いたことはない。首尾一貫して変わらぬミッションとビジョンとパッション、本書ではそれから20年近いビジネス体験を経て、さらに強く響くコトバとして語られている。

 とくに20歳台から30歳台の、意欲ある若いビジネスパーソンたちにこの本を薦めたい。



<初出情報>

■bk1書評「「仕事をつうじて成長すること」、これは残り95%の人にとっても重要なことだ」投稿掲載(2010年11月12日)
■amazon書評「「仕事をつうじて成長すること」、これは残り95%の人にとっても重要なことだ」投稿掲載(2010年11月12日)





目 次

ステップ1. 自分の仕事の「相場観」を持つ
ステップ2. 評論家ではなく実践家になる
ステップ3. 他人を手本にはしても、憧れは抱かない
ステップ4. 成長願望と上昇志向を混同しない
ステップ5. 対決から逃げない
ステップ6. 夢とパッションとコミュニケーション
ステップ7. 仕事を究めた先にあるもの


著者プロフィール

今北純一(いまきた・じゅんいち)

1946年生まれ。東京大学工学部応用物理学科卒、同大学院化学工学科修士課程修了。新卒で旭硝子に入社した後、英オックスフォード大学、スイス・バッテル研究所、仏ルノー公団、エア・リキード社を経て、現在、コンサルティング会社 CVAパートナー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



<ブログ内関連記事>

書評 『マイ・ビジネス・ノート』(今北純一、文春文庫、2009)
・・この記事では、本書の著者である今北純一について、私の読書体験とからめて、やや詳細に書いておいたのでぜひ参照していただきたい。






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2010年11月16日火曜日

書評 『仕事ができる人の心得』(小山昇、阪急コミュニケーションズ、2001)-空理空論がいっさいない、著者の実践から生まれた「実践経営語録」




空理空論がいっさいない、著者の実践から生まれた「実践経営語録」

 自社の社員向けに作られた「経営用語解説」を、著者自ら編集したものだという。

 著者は現役の中小企業オーナー経営者、中小企業の経営者教育の分野でも有名な実践派である。いわば「小山昇経営語録」を、辞書のように「あいうえお順」に並べ替えたものだ。

 ただ、タイトルはもっと工夫したほうが、さらに多くの人が手にとるのではないか、とも思う。おそらく研修用テキストだから、書店で手にとって購入する人はそう多くないからかもしれない。

 この本を、もし私が新入社員の頃に上司や経営者から読めといわれても、「読んでも意味がよくわからないし、あまり面白くない本だ」と思って、うち捨てたままにしておいただろう。20歳台のビジネスパーソンにとっては、この本は「自己啓発本」ではないかもしれない。地味な装丁で、内容も地味な小型の本で、これといったキャッチがいっさいないからだ。

 ビジネスマンになってからすでに25年、中小企業の経営にも携わった経験をもつ私からみれば、「当たり前のことが当たり前にかいてある」と思いながらも、「いや、これだけ含蓄のある、しかもストレートなコトバを吐ける社長って、なかなかいないんじゃないか?」とも思うのである。

 「当たり前のことを当たり前にやる」ことの難しさと、しかもそれを実行したときにあらわれるスゴイ効果については、私自身も自分のビジネス上の実体験からも断言できる。

 実は、この本の存在はまったく知らなかたのだが、最初のページから最後のページまで、すべて通読してみて思ったのは、「しまった、もっと早く知っていれば、自社内の社員研修に使えたのに・・・」という後悔とも、賞賛ともつかない思いだった。

 何気ないコトバは著者の体験から生み出されてものばかりであり、読んでいてハッとしたり、ギクっとすることも多い。机上の空論がいっさいない、すべて著者の実践から生まれたコトバばかりである。一つ一つナルホドとうなづきながら読んでいたら、けっこう時間がかかってしまった。

 この本は、オーナー経営者自身が、日頃なにを思っているかを、エッセンスをすべてさらけだした本であり、また経営者自身が自らを戒める本でもある。

 そして、著者自身が「正しい使用法」として推奨しているように、社内研修で使用すべきテキストである。仕事経験の短い若者には、かつての私ではないが、おそらく読んでもピンとこないだろうし、一人でひそかに読んで効果がでてくるような内容の本でもない。

 コトバの意味を、浅い深いはあろうが、それぞれの仕事上の具体的な経験、シチュエーションに会わせて、複数の人間のあいだで読み合わせていくことが、一番の近道であるはずだ。

 もちろん自分用に一冊手元において、折に触れパラパラとめくったページにでてきたコトバをじっくり読んでみることも大きな効果がある。かならずや、「気づき」と「自戒」の思いを抱くはずだろう。そしてその地道な一歩一歩の積み重ねの結果、「仕事ができる人」になっていくのである。

 「仕事ができる人」は成長しつづける人のことでもある。あくまでも仕事をつうじてPDCAのサイクルをまわしていくことだ。このC(=チェック)において、この本が役にたつことだろう。

 「仕事ができる人」になりたい人は、どの年齢層の、どの階層の人でも、かならず一冊手元においておきたい本だ。とくに中堅中小のオーナー企業に勤務する人にとっては必携だろう。

 これで一冊で1,000円(+消費税)とは驚きの価格設定だ。それだけ中身の濃い本である。



<初出情報>

■bk1書評「空理空論がいっさいない、著者の実践から生まれた「経営語録」」投稿掲載(2010年4月20日)
■amazon書評「空理空論がいっさいない、著者の実践から生まれた「経営語録」」投稿掲載(2010年4月20日)

*再録にあたって一部加筆修正。


増補改訂版が2012年に出版された



著者プロフィール

小山昇(こやま・のぼる)

1948年、山梨県出身。株式会社武蔵野代表取締役社長。情報ツールを活用した独自の経営革命によって飛躍的な業績向上を実現、経営者・管理職を中心に注目を集めている。1999年「日本メッセージング協議会会長賞」、2000年「経営品質賞」受賞。『強い会社をつくりなさい』(阪急コミュニケーションズ、2006)、『社長儲けたいなら数字はココを見なくっちゃ!』(すばる舎、2007)など著書多数。



<内容の一部抜粋>

【経営】 環境適応業です。変わらなければ失敗する。
【給料】 社長からもらうものではありません。お客様が支払ってくださるものです。
時間の管理】 仕事に時間を割り振るのではなく、時間に仕事を振り分けることです。
【自己育成】 今のあなたを、あなたが喜んで自分の部下として使えるようにすることです。
【働く】 会社に出勤してくることではありません。粗利益額を上げることです。
ビジネス】 天才はいらない。才覚よりも、努力が認められる世界です。
【市場】 お客様とライバルしかいない。わが社のお客様から注文が来なくなったら、それはライバルのところに行っているということです。
【猫に小判】 この本のことです。持っているだけで実行しない人のことです。

(2013年10月22日 追加)


<ブログ内関連記事>

PDCA (きょうのコトバ)

書評 『経営管理』(野中郁次郎、日経文庫、1985)-日本の経営学を世界レベルにした経営学者・野中郁次郎の知られざるロングセラーの名著

書評 『経営の教科書-社長が押さえておくべき30の基礎科目-』(新 将命、ダイヤモンド社、2009)-経営者が書いた「経営の教科書」

(2014年2月24日 情報追加)




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2010年6月2日水曜日

本日(2010年6月2日)鳩山首相が退陣-「デッドライン」の意味について


  
 本日(2010年6月2日)、民主党の鳩山首相が退陣を表明した。

 沖縄の普天間基地問題解決を、5月31日までに実現すると公約(・・口約)し、結局約束を守れず、さらに逆戻りするような結果を招いたことに対する、国民の不信感が支持率20%前後という結果を招いたためである。

 連立政権を組んでいた社民党の福島党首(・・消費者担当相として入閣)が、米国との共同署名を拒否したため罷免されたことが、社民党の離脱の引き金となった。

 もともと安全保障問題にかんする共通認識のない「野合」的な連立だったことから、いずれこの事態になることが当初から予想されたのであるが、鳩山首相が自ら設定したデッドラインには、公約がともなわないまま時間切れとなったことが、連立解消の原因となった。

 しかし、この政権はいったい何だったのだろうか、という想いがしないわけでもない。

 2009年の8月の総選挙での地滑り的勝利で「政権交代」に成功した功績は大きい。そのとき党首であった鳩山氏は「政権交代」の漢字熟語4文字で選挙を戦い抜いたのであった。

 しかし、首相の器ではなかったということだ。一言で片付けてしまえば。
 
 今回の一連の事件について、有権者としての立場はさておき、ビジネスマンの観点からコメントしておきたいことがある。

 「人の上に立つ人」のあり方についてだ。

 もちろん、同じリーダーだとはいっても、民主主義下の政治家と経営者には共通点もさることながら、相違点も大きい。同族企業ではない大企業の場合は、経営トップは、競争という名の、ある種の権力闘争を勝ち抜いている。選挙で選ばれる政治家であっても、政党内の権力闘争を勝ち抜いてきた党首には共通点がある。

 ここでは、政治家と経営者のリーダーとしての共通点に焦点をあててみたい。  


デッドライン(締め切り、納期)感覚と約束の重さ
 
 ビジネスであればつねに「デッドライン」が設定されている。どんな部署においても一番多いのは「納期」であろう。「締め切り」といいかえてもよい。

 20歳台前半でビジネス界に入って、まず最初にたたきこまれるのが、この「デッドライン」感覚である。

 何があろうと、メシを抜こうが、徹夜しようが、これだけは絶対に守らなければならない。でなければ・・・

 私のビジネス人生のなかでも、納期を守れずに「逃げた」人間を二人知っている。

 一人は、報告会までにプレゼン資料を完成させることができずに、報告会にあらわれなかった人。この人は、私が直接仕事をしていたわけではないので、ウワサ話なのであるが、こうしたウワサは一気に拡がるものである。

 「納期を守れず、逃げた男」というレッテルは一生はがれることがない

 もう一人は、連載中の原稿が書けずに、消息を断ってしまった人の話。同じプロジェクトで仕事をしていなかったのが不幸中の幸いだが、いったんこういうことをやってしまうと、もう二度と声がかかることはないだろう。

 ビジネスとは、その意味では厳しいものがある。

 生産管理の世界では「後工程(あとこうてい)はお客様」というビジネス格言がある。いま自分が担当している作業工程(プロセス)が終わらないと、次の工程(プロセス)に支障がでてくるということなのだ。

 ビジネスの世界にいれば当たり前のこんなことが、なぜ一国の首相ともあろう人が守らないのか、という国民の怒りの声は、しごく真っ当なものである。

 できなければ最初から約束するな!

 これがビジネス界の掟であり、常識的な人間が守るべきルールである。

 また約束にあたっては、とくに「人の上に立つ人」は、自らの発言の重みを自覚しなくてはならない、ということだ。

 「人の上に立つ人」でありながら「結果を出せなかった人」は、当然のことながら、その職からは辞職するしかないだろう。

 20歳台の駆け出しのビジネスパーソンではないのである。

 同じフィールドでは再起は難しい敗者復活に際しては、活躍の場は別に求めなければなるまい。

 「失敗は若いうちにたくさんしておけ!」というのはそういう意味だ。失敗をおそれずにやることと、できもしない無謀な約束を空想して公約し、その結果が失敗に終わることとはまったく別である。


 「人の上に立つ人」は、「反面教師」として、「他山の石」として、今回の鳩山首相退陣劇を考える必要があろうかと思う。

 「人の上に立つ人」のコトバは、それだけ重いのである。



PS 姉妹編のブログ「「個」と「組織」のよい関係が元気をつくる!」に執筆した記事への「誘導」としていたが、その手法の限界と、読者に対する不親切を考えて、このブログ記事じたいに全文収録することにした。ただし、内容にはいっさい手をつけていない。執筆当時のドキュメントとしての意味もあるからだ。今回あらたに「ブログ内関連記事」の項目も新設した。(2016年7月27日 記す)。

PS2 読みやすくするために行替えを増やした。内容にはいっさい手は入れていない。(2017年8月28日 記す)






<ブログ内関連記事>

書評 『指揮官の決断-満州とアッツの将軍 樋口季一郎-』(早坂 隆、文春新書、2010)-ジェネラル樋口の人物プロファイリング的評伝
・・「ロシア人とソ連という国家の本質を知り尽くしていた樋口中将は、8月15日の終戦の詔勅後も、8月18日午後4時の武装解除開始のデッドラインのギリギリまで、北方領土の占守島に違法に上陸したソ連軍の侵攻を徹底的に阻止する命令を出す。樋口将軍の決断のおかげで、北海道がソ連の領土となり、民族が分断される危機が回避されたといっても言い過ぎではない」

『連戦連敗』(安藤忠雄、東京大学出版会、2001) は、2010年度の「文化勲章」を授与された世界的建築家が、かつて学生たちに向けて語った珠玉のコトバの集成としての一冊でもある
・・「施主というクライアントからの依頼があってはじめて建築はスタートするのであり、施主の意向や予算、法規、デッドラインなど、数多くの制約条件のなかでの最適値をもとめる行為であり、しかも一人だけではできない総合芸術のようなもの」

(2016年7月27日 項目新設)




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