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2026年8月25日火曜日

書評『曖昧な弱者の時代』(伊藤昌亮、岩波新書、2026)― 現代日本の「分断」状況を「曖昧な弱者」というコンセプトで「見える化」する



 『曖昧な弱者の時代』(伊藤昌亮、岩波新書、2026)という本を読んだ。現代日本の「分断」状況を「曖昧な弱者」というコンセプトで社会学者が「見える化」したものだ。  

子どもや高齢者、貧困層や障害者、そしてLGBTなど、社会的にみたらマイノリティが「明白な弱者」であるが、そのカテゴリーに分類されることのない明白ならざる弱者が、著者のいう「曖昧な弱者」である。 

いわゆる「ネオリベ」(=ネオリベラリズム、新自由主義)のもと、経済的にも社会的にも報われることなく、1990年代以降に中間層から転落して下流化し、ロウアーミドルとなっている人たちのことを指している。

「就職氷河期世代」がまさにそのど真ん中にある。社会的にみたら、すでにマジョリティとなっている。 

そんな「曖昧な弱者」の心をつかんできたインフルエンサーや新興政党、「曖昧な弱者」たちが目の敵にするリベラル派やさまざまな事象について、社会学的な分析を行った既発表の文章を集めて1冊にまとめたのが本書である。

「目次」を紹介しておこう。 キーワードがちりばめられていることが見てとれるだろう。


はじめに 
「弱者叩き」と「弱者争い」「曖昧な弱者」が「明白な弱者」に敵意を抱く/リベラル派への反感―誰が誰を守るのかを誰が決めるのか/本書の構成/「高市現象」以後の社会を見守っていくために 
第1章 ひろゆき論  ―「ダメな人」のための「優しいネオリベ」 
第2章 山上徹也の閉ざされた政治的世界  ―  残されたツイートの分析から 
第3章 「石丸現象」と TikTok ―  若者世代のリアリティに即して 
第4章 「オールドなもの」への敵意  ―  左右対立から新旧対立へ 
第5章 財務省解体デモの論理と心情  ―  取り残された人々の財政ポピュリズム 
第6章 参政党「真ん中」からの反革命  ―  彼らはなぜ支持されたのか 
第7章 「曖昧な弱者」とその敵意  ―  社会分断の今日的構造 
主要参考文献 
おわりに 


いずれも雑誌に掲載された文章が初出だが、「第2章 山上徹也の閉ざされた政治的世界」が講談社のウェブ版の『現代ビジネス』に掲載されたもの以外は、すべて岩波書店の『世界』に掲載されたものだ。第2章以外は、今回はじめて読んだことになる。 

岩波書店の『世界』というだけで、著者の立ち位置がわかろうというものだが、基本的にリベラル派なのであろう。ただし、分析は基本的にイデオロギー色を排したもので、時事的なテーマにかんして事象そのものの実態と、その背後にあるものをキチンとみようという姿勢に貫かれている。 

なぜ「曖昧な弱者」たちは、本来なら「弱者」」として連帯すべき「明白な弱者」たちを叩き、リベラル派を目の敵にする右派的な言説に引き寄せられるのか? 

著者は、こういった疑問に対して、現実を見ようとしない「リベラル派」の現状に対して苦言を呈している。現実を直視せよと覚醒を促している。 

保守的、右派的と見なされる言説を繰り出し、リベラル派を叩き、嘲笑するインフルエサーたちだが、「曖昧な強者」であるかれらが「曖昧な弱者」であるマジョリティーにやさしいことを見逃してはならないのである。

ただし、社会変革よりもセルフヘルプ(=自己啓発)を過度に重視するかれらの姿勢については、その功罪について無視するべきではない。 この指摘は重要だ。

さらに、「文化闘争」の傾向さえ示している「左右対立」や「新旧対立」は、ほんとうの対立ではない、真相は経済的な意味での「上下対立」なのではないか、と。

経済的な意味での「上下対立」なら、たとえ困難であっても、解決の方向を見いだすことは不可能ではないのではないか、と。 

日本社会の「分断状況」がそう簡単に解消するとは考えにくいが、なにが問題なのか、問題の背景になにがあるのか考えることはきわめて重要だ。その意味でも読むべき本だといえる。 

とはいえ、はたして意識高い系のリベラル派が覚醒するか大いに疑問だし、日本社会をめぐる「外部環境」の激変が、国内状況にいかなる影響をあたえることかまでは、本書では踏み込まれていないことは指摘しておこう。


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著者プロフィール
伊藤昌亮 (いとう・まさあき)
社会学者。 1961年生まれ。東京外国語大学外国語学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。日本IBM株式会社、ソフトバンク株式会社勤務、愛知淑徳大学現代社会学部・メディアプロデュース学部准教授、ドイツ・エアランゲン大学日本学講座客員研究員などを経て、成蹊大学文学部現代社会学科教授。著書は、『炎上社会を考える 自粛警察からキャンセルカルチャーまで』(中央公論新社)、『ネット右派の歴史社会学 アンダーグラウンド平成史1990-2000年代』(青弓社)、『デモのメディア論 社会運動社会のゆくえ』(筑摩書房)などがある。(ダイヤモンド社のサイトより)



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■『曖昧な弱者の時代』(伊藤昌亮、岩波新書、2026)から再編集されて「ダイヤモンド・オンライン」にアップされた記事





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