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2010年9月29日水曜日

書評『ギリシャ危機の真実-ルポ「破綻」国家を行く-』(藤原章生、毎日新聞社、2010)-新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート




新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート

 特派員としてローマに駐在する毎日新聞社の記者が、足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポートである。日々のマスコミ報道では知りようのない「ギリシアのいま」を伝えてくれるものだ。
 
 「ユーロ危機」の引き金となった「ギリシア財政危機」。一時期に比べたら、「日本はギリシアになっていいのか!」というトンチンカンな叫びは沈静化したが、そもそも日本とギリシアはいっけん似たような地政学的ポジションにはあるものの、全く異なる歴史と文化をもつ国と国民であることが本書では確認される。

 一言でいってしまえば、現代ギリシアは、アングラ経済の発達した、いまだ近代化されていない「前近代社会」なのである。政治家が世襲される点は似ていなくもないが、すでに近代を通過し、「後近代」に入っている日本とは根本的に違う国なのだ。なんせ、統計データがまったくあてにならないのがギリシアである。

 経済的にみれば、民間需要に乏しく、公的支出に依存する比率のきわめて高い経済。公務員が増殖しても、一人あたりの給与は欧州の水準よりは低いため、副職を掛け持ちして生計を成り立たせている多くの人々。

 海運業と観光業と農業以外に、これといった産業のない輸入超過の貿易赤字国ギリシア。海外からの援助と借金、海外移民からの送金で対外収支の帳尻を合わせてきた島国ギリシアは、アジアでいえばフィリピンのようなものか。

 「欧州文明の原像」という他者イメージをうまく利用し、欧州のフリをして多額の援助を引き出してきたギリシアであるが、今回の危機でこの虚像は崩壊してしまった。しかし、アングラ経済の発達でもわかるとおり、かなりしたたかに生き抜いてきた国であり、国民であるようだ。

 過去に特派員として駐在した経験をもつアフリカやラテンアメリカを踏まえた記述は、ギリシアをあくまでも 「南の発展途上国」 と位置づける視角を提供しており、「北の先進国」からすべてを断罪するワナを回避させている。

 ギリシア駐在ではなく、またギリシア語ではなく英語で取材する新聞記者のレポートであるが、「ギリシアからみたギリシア危機」という姿勢を貫いており、興味深く読むことができた。性急にわかりやすい結論を出そうとはしない姿勢に共感を感じた。

 ギリシアの行く末はギリシア国民自身の問題だ。日本の行く末は日本国民自身の問題だ。安易な比較論にはあまり意味がないことを、本書によって確認すべきだろう。一読の価値はある。





<初出情報>

■bk1書評「新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート」投稿掲載(2010年9月16日)
■amazon書評「新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート」投稿掲載(2010年9月16日)


目 次

序章 ギリシャ危機の実像
第1章 アテネ暴動はガキ大将の喧嘩か
第2章 「デモは文化」とみなが言う
第3章 シュールなドラマ
第4章 「事業仕分け」を我が国に
第5章 世襲がもたらした「全ギリシャ借金運動」
第6章 はしっこ国のツール、共産党
第7章 ヨーロッパ人じゃない?
付記 ギリシャ政府はどう改め、何を国民に強いるのか


著者プロフィール

藤原章生(ふじわら・あきお)

1961年生まれ。北海道大学工学部卒業後、鉱山技師を経て毎日新聞記者。アフリカ、ラテンアメリカ特派員の後、2008年よりローマ特派員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



<書評への付記>

 この国の首相が、つい先日再選される前、「ギリシアが、ギリシアが・・」とバカの一つ覚えのように絶叫していたのを皆さんは覚えているだろうか?

 流行り廃りの激しいこの国のことだから、もう覚えている人も少ないかもしれないが・・・。
 しかしそのギリシアの実態はどうなのかというと、デモの光景は大量に映像として流れたものの、実際のところはよくわからない。

 本書は、その意味では、ギリシアのいまを知るための格好の一冊になっている。

 書評のなかで、「現代ギリシアは、アジアでいえばフィリピンみたいなものだ」と書いたが、これは別にギリシアもフィリピンもおとしめるつもりは一切ない。

 フィリピンは、米国企業や日本企業の外資によって支えられていた第二次産業の産業基盤が崩れて、近年はコールセンターなどのサービス産業中心の方向へ進んでいるが、国内の製造基盤がまったくないわけではない。

 一方、ギリシアは、基本は農業と牧畜の国で、国内に雇用を吸収するだけの産業基盤がないので、海外に移民として大量に流出している。とくに米国のシカゴ、オーストラリアのメルボルンは、たしかアテネよりギリシア系市民の人口は多い。

 もちろん人口規模でいえば、国内人口8千4百万のフィリピンは、同1千万人強のギリシアの8倍近いので大きな違いがある。一人あたりGDPでは逆に、US$27,790 のギリシアは、 同 US$1,390 のフィリピンの20倍近い。

 とはいえ、ギリシアもフィリピンも、ともに海外移民や海外就労者からの送金が、国家財政の少なからぬ割合を占めている点は共通している。

 また、共通しているのは、船員の供給国であることだ。
 欧州ではギリシアやクロアチアなど、アジアではフィリピンとミャンマーが船員の主要な供給源である。国内産業基盤の弱い国は、人的資源の輸出で稼ぐしかない

 また、フィリピンでは、外貨を稼ぐのは、エンターテイナー、ベビーシッターなどの女性労働力のチカラが大きい。分野は違うが、女がせっせと働く一方、男はカフェでだべるか将棋をさしている光景は、ギリシアを初めとして南欧、地中海世界では不思議でもなんでもない地中海世界の例外は、イスラエルくらいだろう。イスラエルにはシエスタの習慣はない。

 貧富の大きな格差、ファミリー政治の腐敗、巨大なアングラ経済・・・ギリシアとフィリピンの共通性は多い。違いは、ギリシアがギリシア正教に対して、フィリピンはカトリックが主流でイスラーム人口も多いとおいうことくらいか。

 同じ島国といっても、日本とギリシアは大きく異なるし、日本とフィリピンも大きく異なる。むしろ、ギリシアとフィリピンを比較したほうが、共通性が多いので、比較としては面白いのではいか、と思う。

 複眼的思考が求められるところだ。



<関連サイト>

ギリシャ現地レポート:「破綻国家」を救うのは「EU」か「中国」か (フォーサイト、2015年1月30日)

ギリシア-ヨーロッパの内なる中東 (中東-危機の震源を読む(88) )(池内恵、フォーサイト、2015年7月8日)
・・「ギリシア問題は、歴史的に遡ってみれば、「中東問題」の一部とも言えるのではないのか」という視点からの論考

(2015年1月30日 項目新設)
(2015年7月10日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

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(2014年1月15日 情報追加)



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