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2012年6月9日土曜日

書評『ブーメラン ー 欧州から恐慌が返ってくる』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓


■欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「比較国民性論」とその教訓

アメリカ人の金融ノンフィクション作家マイケル・ルイスが案内する「リーマン・ショック」でメルトダウンした欧州経済ツアー(The Meltdown Tour)である。

タイトルの「ブーメラン」とは、自分が投げたブーメランが自分のもとに戻ってくることを示唆している。
    
遠い対岸の欧州の出来事も、いずれ「リーマンショック」の震源地である米国に戻ってくるのだ、ということを言っているのだ。

原書のブッカカバーのデザインがまた巧みである(右下の写真)。BOOM-RANG と、経済が加熱する「ブーム」を赤で強調したものになっている。

事前に徹底的にリサーチしたうえで、徹底した現地取材を行うスタイルは、暴走するマネーに踊らされたひとびとの狂奔ぶりと、その後の「祭りの後」を微に入り細にわたり描きつくしている。

異常事態をつうじてあぶり出された欧州の「国民性」(民族性)比較論といってもいい、じつに興味深いノンフィクション作品になっているといえよう。


■「メルトダウン・ツアー」はアイスランド、ギリシア、アイルランド・・・そして

「メルトダウン・ツアー」は、まずは、人口たった30万人の北海の孤島アイスランドから始まる。

著者にとってもはじめての訪問であり、日本人でもあまり訪れた人の多くないアイスランドだけに、ひじょうに面白い。のちほどアイルランドも出てくるが混同しないように。

アイスランドの漁師が投資家になったというのは理解できる話だ。「板子(いたご)一枚下は地獄」という表現が日本語にもあるように、漁師というのはつねに危険と隣り合わせで、しかもかなりの程度ギャンブル性の高い仕事である。また、日本の株式用語には「水揚げ」など漁業関連用語が多い。

バイキングの末裔で、デンマークから独立した北海の孤島アイスランド国民が金融バブルに踊ったのも理解できないことではないのだ。

つぎは「破綻国家」ギリシアである。

ギリシアの女子禁制のアトス山にあるヴァトペディ修道院。ここがまさかギリシアの腐敗の中心にあったとは(!?)と思いながらページをめくっていくと、ギリシア財政問題の構造が手にとるように理解できる仕組みになっている。これ自体が読み物としてバツグンに面白い。

そして、かつて「ケルトの虎」(Celtic Tiger)ともてはやされたアイルランド。

ともに島国であるアイスランドとアイルランドについては、利益を先食いしてしまった点において、おなじく島国で、すでにバブル経済を経験した日本人には理解できなくないのに対し、ギリシアについては、それだけではなく、ユーロ導入に際して行った統計操作や、ギリシアは「相互不信社会」の最たるものであることが、経済に重点を置いた記述から読み取ることができるのだ。

果たしてギリシアは、日本にとっての未来像であるかどうか、これは読者自身がみずから考えてみるべき課題だろう。


■その対極にあると思われているドイツもまた・・・

アイスランド、ギリシア、アイルランドのあとにでてくるドイツは、まさにその正反対の存在である。秩序と規律をこよなく愛すドイツ人は、ギリシアとはまさに正反対にあるこことは言うまでもない。

だが、そのドイツにも落とし穴があったことを指摘するルイスはじつに鋭い。「リーマンショック」の際、ドイツの金融機関が無傷であったわけではないのだ。

「ルールを偏愛するがゆえの脇の甘さ」という指摘はじつに示唆に富む。米国の金融機関が、まさかルールにはずれたことをしているとは想定もしなかかったという脇の甘さを指摘しているのだ。

ドイツ人の二面性にかんする考察が、なんと民俗学者アラン・ダンデスのドイツ論をベースにした洞察を読ませてもらうことになるとは予想だにしなかった。『鳥屋(とや)の梯子と人生はそも短くて糞まみれ-ドイツ民衆文化再考-』(新井皓士訳、平凡社、1988)として日本語訳されている本である。

米国のような回転ドアの存在しないドイツの金融界においては、金融マンのビヘイヴィアは日本に近いような気もする。

さらに、「ドイツははたしてヨーロッパ化されたのか」という根源的な疑問が欧州で復活していることも見逃せない。

ナチス以後の「ユダヤ人を欠いたドイツ金融界」は、考えてみれば日本と同じである。これは、英米の金融界との大きな違いであることは間違いない。このことが何を意味しているかは、いろいろ考えてみる価値はある。


■そしてブーメランはアメリカに戻ってくる・・・

アメリカ人はヨーロッパ人ではないが、日本人が見る視点ともまた違う。現代の金融業の中心である米国の視点を知ることができるのも、元金融マンである著者の作品ならではである。

最終章のカリフォルニア州とカリフォルニアの地方都市の財政問題の記述は、財政破綻した地方自治体の実情をアメリカ国内の事例として読者の前に示したものだ。公共サービスの削減によってもたらされた事態のシミュレーション材料として受け取る必要があろう。

欧州「メルトダウン・ツアー」は、欧州からも米国からも遠い極東の日本は関係ないと言い切れるのかどうか。情報網によってグローバルがつながっている現在、とくに金融リスクはシステミック・リスクとして瞬時に拡散してしまう。

たとえ、欧州の金融危機は、日本の1998年ですでに体験したデジャビュー(既視感)があるとしても、けっして対岸の火事とは言い切れないだろう。

本書を読んで、「ぞっとする」感じをもつこと、これは日本人読者にとっても必要なのではないだろうか。





目 次

序章 欧州危機を見通していた男
第1章 漁師たちは投資銀行家になった(アイスランド)
第2章 公務員が民間企業の三倍の給料をとる国(ギリシア)
第3章 アイルランド人は耐え忍ぶ
第4章 ドイツ人の秘密の本性
第5章 あなたの中の内なるギリシャ
解説 それぞれの不幸(藤沢数希)



著者プロフィール

マイケル・ルイス(Michael Lewis)
1960年ニューオリンズ生まれ。プリンストン大学から、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)に入学。1985年ソロモン・ブラザーズに職を得る。ちょうど、ソロモンが住宅ローンの小口債券化を開発した時期に立ち会い、その債券を売ることになった。その数年の体験を書いた『ライアーズ・ポーカー』(1990年 角川書店)で作家デビュー。金融ノンフィクションの古典となった。2008年のリーマン・ショックを引き金とする世界恐慌のさなか、この恐慌を予測して大相場をはった一握りの男たちのリストを入手し、『世紀の空売り』(2010年 文藝春秋)を著す。2011年著書『マネーボール』が、ブラッド・ピット主演で映画化されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

訳者:東江一紀(あがりえ・かずき)1951年生まれ。北海道大学卒。ドン・ウィンズロウ『犬の力』など訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



PS 2014年9月に文春文庫から文庫化された (2014年10月27日 記す)



<ブログ内関連記事>

書評 『世紀の空売り-世界経済の破綻に賭けた男たち-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文芸春秋社)-アメリカ金融業界の周辺部からリーマンショックに迫る人間ドラマ

映画 『マネーボール』 をみてきた-これはビジネスパーソンにとって見所の多い作品だ!


■国家債務危機

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!

書評 『警告-目覚めよ!日本 (大前研一通信特別保存版 Part Ⅴ)』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2011)-"いま、そこにある危機" にどう対処していくべきか考えるために

書評 『ギリシャ危機の真実-ルポ「破綻」国家を行く-』(藤原章生、毎日新聞社、2010)-新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート

書評 『物語 近現代ギリシャの歴史-独立戦争からユーロ危機まで-』(村田奈々子、中公新書、2012)-日本人による日本人のための近現代ギリシア史という「物語」=「歴史」


■リーマンショック以後のユーロ

書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている 

書評 『ユーロが危ない』(日本経済新聞社=編、日経ビジネス人文庫、2010)

書評 『本当にヤバイ!欧州経済』(渡邉哲也、 三橋貴明=監修、彩図社、2009)

「円安バブル崩壊」


■「勝ち組」ドイツについての考察-はたしてドイツはヨーロッパか?

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る

書評 『アラブ革命はなぜ起きたか-デモグラフィーとデモクラシー-』(エマニュエル・トッド、石崎晴己訳、藤原書店、2011)-宗教でも文化でもなく「デモグラフィー(人口動態)で考えよ!
・・「西洋民主主義とは、その最も狭い意味において、その出発点において、その創設的中核というものは、フランス、イングランド、アメリカ合衆国だからです。つまりはトックヴィルの世界なのです。今日、歴史的な西洋というのが、当初から政治面でドイツを含んでいたなどという考えは、妄想というべきなのです」(トッド)

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?
・・怒濤のように「反原発」になだれ込んだドイツ。なにか危ういものを感じるのはわたしだけだろうか

(2014年8月27日、2015年7月7日、8月1日 情報追加)



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2012年6月8日金曜日

書評『物語 近現代ギリシャの歴史 ― 独立戦争からユーロ危機まで』(村田奈々子、中公新書、2012)― 日本人による日本人のための近現代ギリシア史という「物語」=「歴史」


■ギリシアとギリシア人、そして現代ギリシア史とは?

本書『物語 近現代ギリシャの歴史  ―  独立戦争からユーロ危機まで』(村田奈々子、中公新書、2012)は、ギリシアとギリシア人が、いかにしてつくられてきたのか、近現代におけるその苦闘の歴史を、ギリシア人によりそいながら内在的に描こうとした「物語」=「歴史」である。

『物語 ギリシア史』ではない、『物語 近現代ギリシア史』である。このタイトルに意味があることは、本書を通読すればよく理解できることだろう。

そもそもギリシア人とは何なのか? 
        
現代ギリシアは古代ギリシアとはいかなるつながりをもつのか? 

古代と現代のあいだには、ギリシア人はいかなる状態にあったのか。

こういった問いに対しての答えが、オスマン帝国から1830年に独立して以後の近現代ギリシア近現代史であったともいえるだろう(序章、第1章、第2章)。

ギリシアをギリシアたらしめているのは、ギリシア語と東方正教会のキリスト教、そして古代遺跡である。

また、近代ギリシア語の問題は、まさに社会言語学の恰好のテーマであろう。新約聖書がそれによって書かれたコイネーというギリシア語の流れを汲むのが、現代のギリシア語の諸方言。新訳聖書の現代語訳がもたらした政治的問題というのは興味深い(第3章)。

こういうアイデンティティにかかわる根本的な問題は、当のギリシア人たち自身も長年にわたって論争をつづけ、ときには政治問題にもなりながら、解決を目指して取り組み続けてきたものなのである。


■ギリシアはヨーロッパか?-ヨーロッパ人のもつバイアス

ギリシア近現代史について日本語で読める本には、ケンブリッジ・コンサイス・ヒストリー・シリースの一冊として、『ギリシャ近現代史』(リチャード・クロッグ、高久 暁訳、新評論、1999)がある。



英国人歴史家が書いたこの本は、収録された写真や地図も多く、読んで益するものが大きい。この本は、現在、『ギリシャの歴史 (ケンブリッジ版世界各国史) 』と改題されて、創土社 から 2004年に復刊されている。日本版のタイトルを変更したのは、「近現代史」では売れないと出版社が判断したためだろうか。

しかし、基本姿勢が「オスマン=トルコ帝国の支配を脱して、ついに「ヨーロッパ共通の家」に回帰」というものであるのは、ヨーロッパ人特有のバイアスがかかっていると言わねばならないのではないか?

やはり、日本人読者には、日本人が日本語で書いた歴史書がいい。

その意味でも、日本人が日本語読者のために書いた『物語 近現代ギリシャの歴史』は、日本人の認識をあらためるために書かれた一冊だ。さまざまな局面から、きわめて自尊心のつよい近現代のギリシア人の苦難の歴史を描いた本書は、読み応えのある一冊であった。

財政破綻問題で「ユーロ危機」のなか、急速にクローズアップされたギリシアだが、TVやその他マスコミ報道で流される映像情報以外には、観光立国であるという事実しか知られていないのが、日本人の常識かもしれない。

その意味でも、ギリシアの現在を知るためには、ギリシア人の近現代史を知る意味が大いにあるといえる。広いパースペクティブから描いた本書は、歴史書のあるべき好例としてすすめたい

ちなみに、「物語」も「歴史」もギリシア語ではともにヒストリア。日本語と英語以外では、この両者は区別しないのが常識である。


(画像をクリック!)


目 次
はじめに
序章 古代ギリシャの影
第1章 独立戦争と列強の政治力学(1821~1832)
第2章 コンスタンティノープル獲得の夢(1834~1923)
第3章 国家を引き裂く言語
第4章 闘う政治家ヴェニゼロスの時代(1910~1935)
第5章 「兄弟殺し」―第二次世界大戦とその後(1940~1974)
第6章 国境の外のギリシャ人
終章 現代のギリシャ
おわりに
ギリシャ史年表
主要参考文献


著者プロフィール

村田奈々子(むらた・ななこ)
1968(昭和43)年、青森県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。同大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。ニューヨーク大学大学院歴史学科博士課程修了。PhD. 現在、法政大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

■「半島国家」としてのギリシア

1830年の「ギリシア独立」後ですらも、国民国家(ネーション・ステート)の国民としての「ギリシア人という意識」が形成されるまでに時間がかかったのである。これは、本書では詳述されている。  

そもそも古代においてもギリシアは概念として存在しても、個々の共同体はあくまでもアテネやスパルタという都市国家の集合体に過ぎなかったギリシアである。

もちろん、ナショナリズムの時代には、1868年に明治維新を断行した日本もまた、「日本人という意識」を形成するのに時間がかかったが、せいぜい20~30年であり、ギリシア人ほど時間がはかからなかった。それはなぜだろうか?

ギリシアというと、多島海という異名をもつエーゲ海の島国というイメージをもちやすいが、ギリシア本土はバルカン半島の先端に位置している。これは「島国である日本」と、「半島国家であるギリシア」との地政学条件の違いも反映しているといっていいのであろう。

というのも、バルカン半島の先端に位置し、ヨーロッパ大陸とアジア大陸の接点に位置するという地政学上の重要性が、この小国の運命をつねに翻弄してきたのである。

独立以降、間断なくつづく国家的危機。「メガリ・イデア」(=大理想)という対外膨張主義と、「見果てぬ夢」に終わったその挫折。そしてさらなる苦難は、第2次大戦におけるナチスドイツによる占領と共産主義の伸張、内戦、兄弟殺し、そして軍事独裁と、まさに、ねじれにねじれた歴史をもつのが近現代ギリシアなのである。そしていま、財政破綻による「破綻国家」という苦難のページが、開かれつつあるのが現在である。

「半島」に生きるということは、東アジアにおいてもそうであるが、島国とはまったく異なる「人間の条件」を強いられるのである。近現代ギリシア史をみていると、東アジアの半島国家のことを考えてしまうのである。

独立以後のギリシア史は、つねにデモと暴動のつきることのない、いつ分裂してもおかしくない内紛状態を続けてきた歴史である。デモや暴動も、けっしてここ最近、急に現れてきた現象ではないことが、本書を読むとよく理解することができるのである。


■東地中海世界(レバント)におけるギリシア

地中海世界において、古代文明の一翼をになった栄光ある民族が、近現代史において苦闘しているのは、ギリシア民族も、ユダヤ民族のイスラエルも同じだ。いずれも地政学的にみた要衝に位置するため、嘗めてきた苦労はただものではない。

いずれも自己主張のきわめて強い人間のあつまりである。よほどのことでもない限り、一致団結して事にのぞむということにはなりにくい。

また、クレタ島はギリシアではあるが、かなりの長期にわたって外国の支配下にあった島であり、北はギリシアを向いているが、南はエジプトを向いている。

独立を勝ち取ったトルコとの一対一の関係だけでなく、おなじくオスマントルコ帝国解体から生まれてきた、アラブ諸国との関係であった。

また、ヨーロッパとの関係だけでなく、中近東の一国としてのギリシアという視点がほしかったところだ。いわゆる「レバント」という東地中海世界を地域として捉える発想である。

ギリシア料理やギリシア民謡を知れば、それがヨーロッパ的であるというよりも、明らかに地中海的であり、中東風であることに気がつくはずだ。ギリシア・コーヒーとはトルコ・コーヒーとじつは同じであり、いくら否定しようが現代ギリシアがトルコ化されたギリシアであることは否定できないのである。

ギリシアは、ヨーロッパ人の意識の底にある「ヨーロッパ文明の源」というイメージを大いに利用してきたといえる。しかし、実際のギリシアは、明らかにトルコの影響を多大に受けた、中近東の一国である。


■ギリシア外の地のギリシア人

現代日本人にとっての現代ギリシアといえば、冒頭にも記した財政破綻に苦しむギリシアを除けば、映画俳優や歌手といった個々のギリシア人の存在だろう。

マリア・カラス、メリナ・メルクーリ、ジョージ・チャキリス、ジョルジュ・ムスタキ、ナナ・ムスクーリ・・・・。ここにあげた名前の多くが、ギリシア本土以外のギリシア人だ。

わたしもギリシア本土以外でのシカゴやニューヨーク、そしてメルボルンで出会ったギリシア人のほうが多い。

第6章では「国境の外のギリシア人」を扱っており、とくに黒海沿岸地方に居住していたポンドス人の記述が興味深く思われた。なぜ、ソ連やロシアで活躍するギリシア系ロシア人が多いのか、これで理解できたからだ。


<関連サイト>

ギリシャ現地レポート:「破綻国家」を救うのは「EU」か「中国」か (フォーサイト、2015年1月30日)

ギリシア-ヨーロッパの内なる中東 (中東-危機の震源を読む(88) )(池内恵、フォーサイト、2015年7月8日)
・・「ギリシア問題は、歴史的に遡ってみれば、「中東問題」の一部とも言えるのではないのか」という視点からの論考。「政治経済的な苦境に直面した時に、極右ではなく極左のポピュリズムが台頭する様は、やはり西欧先進国よりもアラブ諸国に近い。 チプラスを「かなり遅れてきたナセル」と形容すれば、さすがに類推の度が過ぎるだろうか。」という一節は興味深い

(2015年1月30日 項目新設)
(2015年7月10日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

■ギリシア財政破綻危機

書評 『ギリシャ危機の真実-ルポ「破綻」国家を行く-』(藤原章生、毎日新聞社、2010)

書評 『ユーロが危ない』(日本経済新聞社=編、日経ビジネス人文庫、2010)

書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている

書評 『ブーメラン-欧州から恐慌が返ってくる-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓
・・「ギリシアの女子禁制のアトス山にあるヴァトペディ修道院。ここがまさかギリシアの腐敗の中心にあったとは(!?)と思いながらページをめくっていくと、ギリシア財政問題の構造が手にとるように理解できる仕組みになっている。これ自体が読み物としてバツグンに面白い。・・(中略)・・ギリシアについては、それだけではなく、ユーロ導入に際して行った統計操作や、ギリシアは「相互不信社会」の最たるものであることが、経済に重点を置いた記述から読み取ることができる」


■多島海というエーゲ海と多様なギリシア

エル・グレコ展(東京都美術館)にいってきた(2013年2月26日)-これほどの規模の回顧展は日本ではしばらく開催されることはないだろう
・・当時ヴェネツィア共和国領であったクレタ島生まれのエル・グレコ

書評 『そのとき、本が生まれた』(アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ、清水由貴子訳、柏書房、2013)-出版ビジネスを軸にしたヴェネツィア共和国の歴史


■社会言語学と歴史学

書評 『ノモンハン戦争-モンゴルと満洲国-』(田中克彦、岩波新書、2009)


■新約聖書とギリシア語

書評 『聖書を語る-宗教は震災後の日本を救えるか-』(中村うさぎ/ 佐藤優、文藝春秋、2011)-キリスト教の立場からみたポスト「3-11」論

(2015年6月29日、7月7日 情報追加)


P.S. この記事で今年(2012年)の99本目、今月(6月)の9本目、999のぞろ目となった。通算934本目。1,000本まであと66本か。これは99の逆ぞろ目になるな。


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2010年9月29日水曜日

書評『ギリシャ危機の真実 ― ルポ「破綻」国家を行く』(藤原章生、毎日新聞社、2010)― 新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート




■新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート■

 『ギリシャ危機の真実  ―  ルポ「破綻」国家を行く』(藤原章生、毎日新聞社、2010)は、特派員としてローマに駐在する毎日新聞社の記者が、足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポートである。日々のマスコミ報道では知りようのない「ギリシアのいま」を伝えてくれるものだ。
 
 「ユーロ危機」の引き金となった「ギリシア財政危機」。一時期に比べたら、「日本はギリシアになっていいのか!」というトンチンカンな叫びは沈静化したが、そもそも日本とギリシアはいっけん似たような地政学的ポジションにはあるものの、全く異なる歴史と文化をもつ国と国民であることが本書では確認される。

 一言でいってしまえば、現代ギリシアは、アングラ経済の発達した、いまだ近代化されていない「前近代社会」なのである。政治家が世襲される点は似ていなくもないが、すでに近代を通過し、「後近代」に入っている日本とは根本的に違う国なのだ。なんせ、統計データがまったくあてにならないのがギリシアである。

 経済的にみれば、民間需要に乏しく、公的支出に依存する比率のきわめて高い経済。公務員が増殖しても、一人あたりの給与は欧州の水準よりは低いため、副職を掛け持ちして生計を成り立たせている多くの人々。

 海運業と観光業と農業以外に、これといった産業のない輸入超過の貿易赤字国ギリシア。海外からの援助と借金、海外移民からの送金で対外収支の帳尻を合わせてきた島国ギリシアは、アジアでいえばフィリピンのようなものか。

 「欧州文明の原像」という他者イメージをうまく利用し、欧州のフリをして多額の援助を引き出してきたギリシアであるが、今回の危機でこの虚像は崩壊してしまった。しかし、アングラ経済の発達でもわかるとおり、かなりしたたかに生き抜いてきた国であり、国民であるようだ。

 過去に特派員として駐在した経験をもつアフリカやラテンアメリカを踏まえた記述は、ギリシアをあくまでも 「南の発展途上国」 と位置づける視角を提供しており、「北の先進国」からすべてを断罪するワナを回避させている。

 ギリシア駐在ではなく、またギリシア語ではなく英語で取材する新聞記者のレポートであるが、「ギリシアからみたギリシア危機」という姿勢を貫いており、興味深く読むことができた。性急にわかりやすい結論を出そうとはしない姿勢に共感を感じた。

 ギリシアの行く末はギリシア国民自身の問題だ。日本の行く末は日本国民自身の問題だ。安易な比較論にはあまり意味がないことを、本書によって確認すべきだろう。一読の価値はある。


(画像をクリック!)




<初出情報>

■bk1書評「新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート」投稿掲載(2010年9月16日)
■amazon書評「新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート」投稿掲載(2010年9月16日)


目 次

序章 ギリシャ危機の実像
第1章 アテネ暴動はガキ大将の喧嘩か
第2章 「デモは文化」とみなが言う
第3章 シュールなドラマ
第4章 「事業仕分け」を我が国に
第5章 世襲がもたらした「全ギリシャ借金運動」
第6章 はしっこ国のツール、共産党
第7章 ヨーロッパ人じゃない?
付記 ギリシャ政府はどう改め、何を国民に強いるのか


著者プロフィール

藤原章生(ふじわら・あきお)

1961年生まれ。北海道大学工学部卒業後、鉱山技師を経て毎日新聞記者。アフリカ、ラテンアメリカ特派員の後、2008年よりローマ特派員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



<書評への付記>

 この国の首相が、つい先日再選される前、「ギリシアが、ギリシアが・・」とバカの一つ覚えのように絶叫していたのを皆さんは覚えているだろうか?

 流行り廃りの激しいこの国のことだから、もう覚えている人も少ないかもしれないが・・・。
 しかしそのギリシアの実態はどうなのかというと、デモの光景は大量に映像として流れたものの、実際のところはよくわからない。

 本書は、その意味では、ギリシアのいまを知るための格好の一冊になっている。

 書評のなかで、「現代ギリシアは、アジアでいえばフィリピンみたいなものだ」と書いたが、これは別にギリシアもフィリピンもおとしめるつもりは一切ない。

 フィリピンは、米国企業や日本企業の外資によって支えられていた第二次産業の産業基盤が崩れて、近年はコールセンターなどのサービス産業中心の方向へ進んでいるが、国内の製造基盤がまったくないわけではない。

 一方、ギリシアは、基本は農業と牧畜の国で、国内に雇用を吸収するだけの産業基盤がないので、海外に移民として大量に流出している。とくに米国のシカゴ、オーストラリアのメルボルンは、たしかアテネよりギリシア系市民の人口は多い。

 もちろん人口規模でいえば、国内人口8千4百万のフィリピンは、同1千万人強のギリシアの8倍近いので大きな違いがある。一人あたりGDPでは逆に、US$27,790 のギリシアは、 同 US$1,390 のフィリピンの20倍近い。

 とはいえ、ギリシアもフィリピンも、ともに海外移民や海外就労者からの送金が、国家財政の少なからぬ割合を占めている点は共通している。

 また、共通しているのは、船員の供給国であることだ。
 欧州ではギリシアやクロアチアなど、アジアではフィリピンとミャンマーが船員の主要な供給源である。国内産業基盤の弱い国は、人的資源の輸出で稼ぐしかない。

 また、フィリピンでは、外貨を稼ぐのは、エンターテイナー、ベビーシッターなどの女性労働力のチカラが大きい。分野は違うが、女がせっせと働く一方、男はカフェでだべるか将棋をさしている光景は、ギリシアを初めとして南欧、地中海世界では不思議でもなんでもない。地中海世界の例外は、イスラエルくらいだろう。イスラエルにはシエスタの習慣はない。

 貧富の大きな格差、ファミリー政治の腐敗、巨大なアングラ経済・・・ギリシアとフィリピンの共通性は多い。違いは、ギリシアがギリシア正教に対して、フィリピンはカトリックが主流でイスラーム人口も多いとおいうことくらいか。

 同じ島国といっても、日本とギリシアは大きく異なるし、日本とフィリピンも大きく異なる。むしろ、ギリシアとフィリピンを比較したほうが、共通性が多いので、比較としては面白いのではいか、と思う。

 複眼的思考が求められるところだ。



<関連サイト>

ギリシャ現地レポート:「破綻国家」を救うのは「EU」か「中国」か (フォーサイト、2015年1月30日)

ギリシア-ヨーロッパの内なる中東 (中東-危機の震源を読む(88) )(池内恵、フォーサイト、2015年7月8日)
・・「ギリシア問題は、歴史的に遡ってみれば、「中東問題」の一部とも言えるのではないのか」という視点からの論考

(2015年1月30日 項目新設)
(2015年7月10日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

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(2014年1月15日 情報追加)


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