オペラ 『マノン』(英国ロイヤルオペラの日本公演)にいってきた。
公演場所は、上野の東京文化会館。
ここは、いつも思うが比較的こぢんまりした劇場なので、バルコニー席はないものの、オペラ用の劇場としてはヨーロッパ風で心地よい。
作曲:ジュール・マスネ
原作:アベ・プレヴォ
演出:ロラン・ペリー
指揮:アントニオ・パッパーノ
マノン・レスコオ:アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
騎士デ・グリュー:マシュー・ポレンザーニ(テノール)
原作は、フランスのアベ・プレヴォの作品『マノン・レスコオ』(Manon Lescaut、1731年発表)。アベ(Abbé)という名前からわかるとおり、カトリックの司祭であった。
物語は、あまりにも有名な作品なので、あえて紹介するまでもないと思うが、一言でいえば、惚れたオンナに入れあげて、徹底的に翻弄されながらも、ついには当時植民地だったフランス領の米国南部ルイジアナのニューオーリンズ(・・フランス語ではヌーヴェル・オルレアン Nouvelle Orléans)の流刑先まで追いかけていって・・・というのがあらすじ。
これとまったく逆に、女が男を追ってフランスからアメリカまでいくという設定が、文豪ヴィクトル・ユーゴーの娘をモデルにしたトリュフォーの映画『アデルの恋の物語』である。
むかし角川文庫からでていた日本語訳(勝見勝訳)には、原著から転載した銅版画が挿入されているだけでなく、フランス映画『恋のマノン』(Manon 70)を文庫カバーに使用している。角川商法が本格化する前から、映画の原作をこういう形で出版していたということだ。この映画版の主演はカトリーヌ・ドヌーヴ。
この文庫本は高校時代に古本屋で入手して、大学に受かってから読んだようだ(・・読んだ日付から推測すると)。
日本でもずいぶん昔のことだが、烏丸せつこ主演で『マノン』という映画が作られている。いわゆる魔性のオンナという役どころ。
マノンという名前はすっかり魔性のオンナ、あるいはファム・ファタールの代名詞になってしまった。
さて、今回も NBS(日本舞台芸術振興会)の主宰である。
プッチーニ作曲の『マノン・レスコオ』(1893年初演)ではなく、ジュール・マスネ作曲の『マノン』(初演パリ 1884年)のほうである。マスネは「タイスの瞑想曲」というヴァイオリン小品以外はあまり聴くことはないが、今回はじめてオペラ作品を聴いたことになる。
原作がフランス語の小説であり、脚本もフランス語で書かれているので、作曲家としてもやりやすかったのではないだろうか。音楽より、セリフよし(・・字幕をみればある程度まで聴き取れる)。
ソプラノのアンナ・ネトレプコはマノン役がはまり役とのことで、歌唱力はもちろんのこと演技もよい。
原作は18世紀だが、マスネのオペラでは初演当時の同時代である19世紀に設定しているので、ある意味では現代オペラとして演じられていることになる。物語の原型は普遍的なものなので、こういう形でつねにマノンが再生産されてきたことは、映画化についても見たとおりである。
また、原作ではニューオーリンズまでいくことになっているが、オペラではル・アーヴル港に設定を変更している。ルイジアナがすでにフランスの植民地でなくなっていた19世紀当時においても、21世紀の現在においても、この設定は悪くないと思う。なぜニューオーリンズかといっても観客にはピンとこないだろうから。
演出も悪くはないと思ったが、最終の第五幕がイマイチであった。なんだか街灯のある道が19世紀というよりも21世紀の現在みたいで、違和感が強かった。それならいっそのことすべてを21世紀に設定した演出のほうがスジがとおってよかったのではないだろうか。
オペラの演出は、私は基本的に奇をてらうべきではないと思っている。
男と女の物語は、いつの時代でも普遍的なものがあるが、『マノン』を見て聴いて思うのは、男というのはなんでこうもバカなのか・・・ということだ。
もちろん、我が身を省みての感想である。
PS 一部に加筆を行った。(2016年6月19日 記す)
オペラ 『マノン』(英国ロイヤルオペラの日本公演)
A. Netrebko & R. Alagna "Final Scene" Manon (YouTube) マノン役は今回の公演と同じくアンナ・ネトプレコ。ドイツ語字幕つき。
フランス映画『恋のマノン』(YouTube)冒頭シーンは、なぜか羽田国際空港(当時)でSASのパリ便に搭乗するシーンから始まる
タイスの瞑想曲/マスネ(Meditation fromThais/Massenet) (YouTube 5分33秒)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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