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2011年12月29日木曜日

高橋是清の盟友となったユダヤ系米国人の投資銀行家ジェイコブ・シフはなぜ日露戦争で日本を助けたのか?-「坂の上の雲」についての所感 (3)



「3-11」後の日本人には『坂の上の雲』は意味あるドラマとなったかもしれない

三年越しで製作されたNHKスペシャルドラマ 『坂の上の雲』。ついに、日本海海戦というクライマックスを描いて、すべての放送が終了しました。

今頃なぜこういう高度成長期の日本人サラリーマンたちを鼓舞した作品をドラマ化するのかと昨年まではいぶかしんでいたわたしですが、さすがに「3-11」を体験した日本人にとっては必要なドラマではないのか、という気持ちをもったのも確かです。

大地震と大津波、そして原発事故だけにとどまらず、さまざまな危機によって追い込まれている日本と日本人は、いまこそ底力を発揮して、国難を乗り越えなくてはならないわけですから、重要なメッセージを送ることになったのかもしれません。NHKとしても、ドラマ化の企画をした際は、そんなことはまったく意図すらしなかったでしょうが。

秋山好古が指揮する陸軍騎兵隊によるコサック騎兵に対する勝利や、秋山真之が参謀として起草し、東郷平八郎が実行しきった「日本海海戦」というパーフェクト・ゲーム。これが見事に実を結んで結果を出したことを映像でみていると、日本人は追い込まれれば強いのだ、ということを実感せざるを得ないのです

ドラマでも少しだけ取り上げられていましたが、舞台裏でもっとも大きな役割を演じたのが高橋是清(たかはし・これきよ)でしょう。

1936年(昭和11年)の二・二六事件で陸軍将校によって殺された高橋是清(1854~1936)ですが、日露戦争当時は日銀副総裁であった彼は、軍費調達のための外債発行というきわめて重い役割を果たして、結果をだしたのでした。

もし外債引き受けが成功しなかったなら、日本はたちまち資金不足となって戦争継続が不可能となっていたでしょう。そしてその結果は・・・。

年間の国家予算の6倍(?)という、当時としてもきわめて巨額な18億円強(!)軍費をつぎ込んで、かろうじて勝利を得たのが日露戦争の実相でありました。圧勝ではなく辛勝だったのです。

財政の観点からみると、まさに身の丈をこえた無謀な取り組みであったのであり、あらゆる点において、交戦国のロシア帝国には劣っていたのが、その当時の日本であったのです。

このときの経験については、『高橋是清自伝 上下』(高橋是清、上塚司=編、中公文庫、1976)で回想されています。

わたしはこの本を、大学時代に読みましたが、たいへん興味深く読んだものです。もし機会があれば、高橋是清の生涯は波瀾万丈のものですので、ぜひお読みになるとよろしいかと思います。

日露戦争における戦時国債引き受けのために奔走した記録は、文庫版では下巻の後半、つまり全体の四分の一に及び、まさに回想録ハイライトとなっています。


高橋是清の盟友であったユダヤ系の投資銀行家ジェイコブ・シフとは?

外債募集のキーマンとなったのが、『自伝』ではヤコブ・シフと表記されている米国の投資銀行家です。

米国人ですから、ジェイコブ・シフと表記するのが本来なら適当でしょうが、高橋是清自身はヤコブと呼んでいたのかもしれません。

日露戦争100年となった2005年に、『日露戦争に投資した男-ユダヤ人銀行家の日記-』(田端則重、新潮新書、2005)という面白い本が出版されています。この本では、ジェイコブ・シフと表記しています。

この本によれば、ジェイコブ・シフ(Jacob Schiff :1847~1920)は、ドイツのフランクフルト生まれのユダヤ人。ドイツ語読みすれば、ヤーコプ・シフとなりますので、ヤコブ・シフであってもとくに問題はないでしょう。

シフ家は、金融都市フランクフルトでは、ロスチャイルド(=ロートシルト)家とは、同じ建物を共有して住んでいた、とか。ちなみにシフはドイツ語で船のことです。英語なら Ship ですね。ロートシルト(Rot-schild)は「赤い看板」あるいは「赤い標識」。広瀬隆の大著では「赤い盾」というタイトルになっていますが、それは正確ではありません

旧世界の欧州には飽きたらず、18歳で米国に移民して、ドイツ生まれでありながらニューヨークのウォールストリートで投資銀行家として身をなしたのがジャエイコブ・シフです。

クーン・ローブ商会(Kuhn Loeb & Co.)は、シフのもとでモルガンと並ぶ有力な投資銀行となりましたが、シフの死後は世界大恐慌もあって衰退し、1977年にリーマン・ブラザーズに統合され、クーン・ローブ・リーマンとなりました。その後、1984年にアメリカン・エキスプレスに買収された際に、クーン・ローブの名が消えたのは、日本人からみると恩人の会社が消えたことになりますので、たいへん残念なことです。

なお、ローブの名前は、ローブ家のジェイムズ・ローブが創設者となった、「ロエブ古典叢書」(Loeb Classical Library)に残っています。ギリシア・ラテンの古典を英語対訳で収録した叢書で、現在ではハーバード大学出版局が扱っています。

さて、ジェイコブ・シフに話を戻しますが、彼はなぜ日本の戦時公債を引き受ける決意をしたのでしょうか? 

それには、当時のロシア帝国でユダヤ人たちが置かれていた状況について知っておく必要があります。

キリスト教のロシアでは、ユダヤ人たちは偏狭なキリスト教徒たちの憎悪の対象となっており、たびたび起こったポグロムにおいて、一般民衆やコサックなどによって虐殺されていたのです。

シフは、ロシアにおけるこういう状況からユダヤ人を救うためにはどうしたらいいのか、という観点から日露戦争を見ていたのでした。


ウィン=ウィンの交渉とビジネスをつうじた社会変革

『日露戦争に投資した男-ユダヤ人銀行家の日記-』には、シフは熱心なユダヤ教徒であったとして、次のように書かれています。

全米ユダヤ人協会会長も務めるシフという人物が、ユダヤ同胞に圧政を敷くロシアに打撃を与えたいと考え、日本を支援したことには疑いを入れない。しかし、フランクフルトからアメリカに来たドイツ系アメリカ人でありながらアメリカ金融界の頂点にたどり着いた男が、日本に肩入れすることにビジネスチャンスを見いだしたとしても矛盾しない。(P.44 太字ゴチックは引用者=わたし)

ビジネスをつうじて社会変革を行う、これはユダヤ人実業家にとってはけっして例外ではないようですね。最近の例でいえば、グーグルの共同経営者セルゲイ・ブリン(・・ちなみに彼は少年時代にソ連から米国に移民)とラリー・ペイジ、フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグなどが思い浮かびます。

『日露戦争に投資した男』によれば、投資銀行家のシフは、日露開戦の情報は事前につかんでおり、日本が発行する戦時国債の引き受けの打診も受けていたようです。ユダヤ人指導者の会合で、公債引き受けの件を動議として提出し、全員一致の結論を得ていたとのことです。

こういう背景があって、初対面の高橋是清と意気投合したのである、と。その結果、戦時国債はロンドンだけでなく、ニューヨークでも引き受けてもらうことが可能となったのでした。

ジェイコブ・シフの側からみれば、自分たちの金融ビジネスとしてもディール成立となるだけでなく、ロシア帝国で苦しむユダヤ人同胞の救出にもつながる一石二鳥の取引であり、高橋是清からみれば、日露戦争を遂行する下支えを行うという自分のミッションを果たすことになったわけです。

まさにウィン=ウィン(Win-Win)、交渉はかくあるべしといった好例でしょう。

日露戦争終結後に、日本政府がジェイコブ・シフに旭日大綬章を授与して最大限の感謝の意を表したのは、ある意味では当然だったわけです。

日本に招待されて明治天皇と会食した際の感想が、シフの日本滞在日記には記されており、『日露戦争に投資した男』に翻訳されて収録されていますが、当時の日本を投資銀行家の眼でみた、たいへん興味深い内容です。現代でいえば、ジム・ロジャーズの世界一周記録(investment biker)のような内容です。

ところで、クーン・ローブ商会は、日露戦争後に満洲での鉄道利権の譲渡を求めた鉄道王ハリマンとは事業のパートナーであり、モルガン財閥とは競合していました。

この点において、シフの利害と日本の利害は日露戦争後は対立することになって不快感を覚えていたようですが、高橋是清との交友関係は死ぬまで続いていたとのことです。

シフは訪日の際に高橋是清から頼まれて、娘の高橋和喜子を二年間ニューヨークで預かることになりました。この件については、シフの日本滞在日記に記されています。


弱肉強食の近代世界において、日本とユダヤは「合わせ鏡」の存在であった

欧米中心の「近代世界」に遅れながらも参入することを決意した日本民族とユダヤ民族この二つの民族にきわめて多くの共通点があることについても指摘しておくべきことかもしれません。

欧州でユダヤ人が「解放」されたのは、18世紀後半から19世紀にかけてであり、その後はじめてユダヤ人居住区のゲットーから外にでて、市民社会で生きていくことになったわけです。ですから、きわめて遅れて近代社会に参入したことになります。

日本人は言うまでもなく、幕末に強いられた「開国」と明治維新によって、弱肉強食の近代社会で生きぬくことを強いられることになりました。

近代世界のメインストリームである欧米西洋社会に入ってきた新参者としての苦労と悲哀、成功と失敗、いまなお残る差別。これは、ユダヤ人も日本人も共に体験してきたことであります。

欧米人の精神の深部に沈殿している憎悪、畏怖からくる差別感情に、つねにさらされていたことも共通しています。

日本民族とユダヤ民族がよく似ているだけでなく、ジェイコブ・シフのように直接に日本と日本人とかかわったユダヤ人は少なくありません。

『日本とユダヤ-その友好の歴史-』(ベン・アミー-シロニー、河合一充訳、ミルトス、2007)という本がありますが、Amazon には、同書の詳細な紹介文がアップされていますので、ぜひご覧になってください。

日露戦争に限定してみても、砲弾をうけて片腕を失って日本側の捕虜となり、日本の捕虜収容所で過ごした体験をもつユダヤ系ロシア人ヨセフ・トルンペルドール(1880~1920)といった人もいます。彼は、のちにパレスチナにシオニストの入植者として渡り、アラブの大軍と戦って玉砕するという壮絶な最期を遂げています。

合わせ鏡のような日本人とユダヤ人。近代世界に突入して40年たらずで日露戦争という近代戦を戦いぬいた日本人を賞賛したのは、ユダヤ人も含めて世界各地にいたことを知っておきたいものです。

欧米中心の近代世界のなかで差別されてきた存在であり、しかしながら、したたかにかつ毅然と生き抜いてきたユダヤ民族から日本民族が学ぶべきものはきわめて大きいのです。

ところで、日本人の底力。これは、ど根性や土性骨(どしょうぼね)やガッツと言い換えてもいいかもしれません。

奇しくも、ほぼ同じようなニュアンスのコトバをユダヤ人たちも使ってきました。それはフツパ(chutzpah)です。ヘブライ語から、中東欧のユダヤ人が使ってきたイディッシュ語になったこのフツパは、現在は米語(=アメリカ英語)にも取り入れられています。

こんなとこにも、日本人とユダヤ人の共通点があるのはじつに面白いことです。

日本とユダヤとの縁が浅からぬものであることは、さまざまな面に表れているのです。










<関連サイト>

日露戦争の外貨調達については、wikipedia の日露戦争の項を参照。

ヨセフ・トルンベルドール(Joseph Trumpeldor)については、wikipedia の Joseph Trumpeldor の項を参照。日本と深くかかわりのあったユダヤ人について、日本語での説明がないのは残念だ。



<ブログ内関連記事>

書評 『富の王国 ロスチャイルド』(池内 紀、東洋経済新報社、2008)
・・ドイツ文学者の池内紀氏は、ロートシルトを正確に「赤い看板」あるいは「赤い標識」と訳している。

書評 『大使が書いた 日本人とユダヤ人』(エリ・コーヘン、青木偉作訳、中経出版、2006)
・・空手家の元イスラエル駐日大使が書いた「日本人とユダヤ人」

書評 『諜報の天才 杉原千畝』(白石仁章、新潮選書、2011)-インテリジェンス・オフィサーとしての杉原千畝は同盟国ドイツからも危険視されていた!

映画 『ウォール・ストリート』(Wall Street : Money Never Sleeps) を見て、23年ぶりの続編に思うこと

『資本主義崩壊の首謀者たち』(広瀬 隆、集英社新書、2009)という本の活用法について

NHK連続ドラマ「坂の上の雲」・・・坂を上った先にあったのは「下り坂」だったんじゃないのかね?(2009年12月の所感)

秋山好古と真之の秋山兄弟と広瀬武夫-「坂の上の雲」についての所感 (2)(2009年12月の所感)

書評 『黒船の世紀 上下-あの頃、アメリカは仮想敵国だった-』 (猪瀬直樹、中公文庫、2011 単行本初版 1993)-日露戦争を制した日本を待っていたのはバラ色の未来ではなかった・・・

書評 『日本近代史の総括-日本人とユダヤ人、民族の地政学と精神分析-』(湯浅赳男、新評論、2000)-日本と日本人は近代世界をどう生きてきたか、生きていくべきか?

書評 『持たざる国への道-あの戦争と大日本帝国の破綻-』(松元 崇、中公文庫、2013)-誤算による日米開戦と国家破綻、そして明治維新以来の近代日本の連続性について「財政史」の観点から考察した好著
・・単行本出版時のタイトルは、『高橋是清後の日本-持たざる国への道-』(大蔵省財務協会、2010)

(2014年12月12日 情報追加)





(2012年7月3日発売の拙著です)








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