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2014年5月21日水曜日

書評『アマン伝説 ー 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命』(山口由美、文藝春秋、2013)ー 植民地解体後の東南アジアで生まれた「アマン」と「アジアン・リゾート」というライフスタイルとは?


読もう読もうと思いながら、買ってから1年近く「積ん読」状態だった『アマン伝説』(山口由美、文藝春秋、2013)をやっと読んだ。この本で扱われているテーマは、ずいぶん前から気になってはいたのだ。

いわゆる「アジアン・リゾート」の牽引役となった「アマンリゾーツ」の「アマン」なるものはいかに生まれたか、そのバックグラウンドにあるものはなにか、そしてどのように進化していったのかについて、その創業者エイドリアン・ゼッカの人生を軸に描いたノンフィクションだ。

残念ながら「アマン」にはいまだ宿泊したことがないのだが、アジアといえば東南アジア(および南アジア)を連想する人にとっては興味深い内容の本だと思う。もちろんこのわたしもそうである。東南アジアと南アジアをあわせて「モンスーン・アジア」という。

いわゆる「アジアン・リゾート」は、「アマンプリ」(・・タイのプーケット島)や「アマンダリ」(・・インドネシアのバリ島)などに代表される、ヴィラ(別荘)的な、バンガロー的なスタイルのリゾートホテルが当たり前になっている。これは「アマン」の模倣であるが、一つの大きな流れだといっていいだろう。

かつてはノスタルジックなコロニアル・スタイルの都市型ホテルが注目を浴びることが多かったが、いまでは「アジアン・リゾート」における「アマン」的なリゾートホテルのほうが人気が高いのではないだろうかか。

(2006年に出版されたムック この頃がアジアンリゾートブームのピーク?)

いろんな読み方のできる本だ。ビジネス・ノンフィクションとして読むことも可能だし、ホテル&リゾートの本として読むことも、植民地解体後の東南アジア史戦後日本とくにバブル時代の日本経済史として読むことも可能だ。

著者は1962年生まれだからわたしと同じである。つまりバブル時代のなんたるかを肌身をつうじて知っているということだ。わたしの場合は、もっぱらビジネスの内側の人間として、本書にも登場する、いまはともに亡きイーアイイーの高橋治則氏と長銀との関係など、たいへん懐かしい(?)思いをしながら読んだ。直接関係はないものの、間接的に接点があったからだ。

ハワイ、香港、南太平洋、そしてバブル時代の日本・・・。バブル時代とは不動産開発に狂奔した時代であった。ホテルとリゾートもハードそのものは不動産である。

この本が出版された2013年4月にはまだ決まっていなかったが、2020年の東京オリンピック誘致でキーワードになったのが「お・も・て・な・し」。この表現に体現された日本型ホスピタリティとは何かについて考えるためのヒントになるかもしれない。第11章には、「日本旅館」をネットワーク化している星野リゾーツの星野氏へのインタビューもある。ことし(2014年)の夏には、なんと金融街の東京・大手町で「アマン」の第一号が誕生するようだ。

西欧とアジアが「植民地」という形で密接な関係をもつことになったのが「モンスーン・アジア」。インドネシアはジャワ島のスカブミ出身で、オランダ人入植者と華人系エリートの血を引く創業者エイドリアン・ゼッカもその一人であった植民地エリートたち。かれらのライフスタイルとイマジネーションが「アマン」的なものを生みだし、まずは仲間たちのあいだに、そして広く受容されるようになっていったのであろう。

そして「アマン」をインスパイアした大きな要素の一つが日本であるという事実。この事実は、本書である程度まで裏付けられているが、アメリカを含めた西欧、アジアそして日本という3つの枠組みで捉えることが、現代の東南アジアを考える際に重要な視点であることをあらためて強く感じるのである。このいずれを欠いても、現代の東南アジアは理解できないのだ。

テーマがテーマだけに、カタカナ比率が多くてやや読みにくい印象を受けるかもしれない。また「私」がやや多い印象を受けるのは難点かもしれない。だが、ホテルの世界もまた人と人とのつながりの世界であり、「アマン」であればそれはなおさらそうであろう。

このテーマが好きな人にとっては読み応えのあるノンフィクション作品であるといっていいと思う。かならずや知的好奇心を満足させてくれるはずだ。





目 次

プロローグ ジャワ島・スカブミへ
第1章 スリランカ 兄弟の庭
第2章 サヌールの夜 タンジュンサリとバトゥジンバ
第3章 三浦半島 ミサキハウスの休日
第4章 リージェントの伝説 バブルの夢の結末
第5章 スズ鉱山の島からリゾートへ プーケットの躍進
第6章 バリの原風景 ウブドの魔性
第7章 ライフスタイルの創出とアマンジャンキー
第8章 孤島リゾートとホスピタリティ
第10章 アジアンリゾートブームの舞台裏
第11章 日本人とアマンの夢
エピローグ アジアンリゾートの今、そして未来
あとがき
関係略年表
主要参考文献



著者プロフィール

山口由美(やまぐち・ゆみ)
1962年神奈川県箱根町生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。海外旅行とホテルの業界誌紙のフリーランス記者を経て作家活動に入る。旅とホテルを主なテーマにノンフィクション、紀行、エッセイ、評論など幅広い分野で執筆している。日本旅行作家協会会員。日本エコツーリズム協会会員。2012年、『ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』で小学館ノンフィクション大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


(ジャカルタの南にボゴール、さらにその先にスカブミ ここでゼッカは生まれた)




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書評 『中国は東アジアをどう変えるか-21世紀の新地域システム-』 (白石 隆 / ハウ・カロライン、中公新書、2012)-「アングロ・チャイニーズ」がスタンダードとなりつつあるという認識に注目!
・・英語をつかい英語をつうじて西欧に開かれたマインドをもつ「アングロチャイニーズ」という華人系の時代


現代の東南アジアは「現地」と「日本」と「米国を筆頭とする西欧」の「三点測量」で見よ

書評 『座右の日本』(プラープダー・ユン、吉岡憲彦訳、タイフーン・ブックス・ジャパン、2008)-タイ人がみた日本、さらに米国という比較軸が加わった三点測量的な視点の面白さ
・・「英語をつうじて西洋人の目に映る日本」と、「タイ語をつうじてタイ人の目に映る日本」のいずれにも熟知しているこの作家がみる日本・・(中略)・・「西洋人の目」とは、いわゆる「オリエンタリズム」のプリズムをいったん通過した日本であり、龍安寺の石庭や高野山といった、伝統的で、精神的な日本である。後者の 「タイ人の目」とは、著者と同世代以下のタイ人がものごころついてからドップリと浸かってきた日本のマンガでありアニメをつうじたものであり、また日本映画をつうじて同世代以下の一般のタイ人には親しい世界である。」

(2016年3月15日 情報追加)


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