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2011年7月26日火曜日

書評 『なでしこ力(ぢから)-さあ、一緒に世界一になろう!-』(佐々木則夫、講談社、2011)-「上から目線」でも「下から目線」でもない「横から目線」の重要性


世界がたたえる「なでしこ力(ぢから)」。それはいかにして世界が憧れる存在となったのか?

 ワールドカップで世界一になったなでしこジャパン。その大活躍と最後の最後まで決してあきらめない姿チームワークと精神力に感動した人も少なくないだろう。

 また、1試合1試合ごとに「3-11」の犠牲者と被災者のために戦ったということを耳にしたとき、元気と勇気をあたえてくれたことに感謝の気持ちをもっただけでなく、日本人の誇りを取り戻した人も少なくないのではないだろうか。

 この本は、なでしこジャパンの監督をつとめる著者が、ワールドカップで世界一を達成する前に出版した本である。「3-11」以前に出版されたものである。その意味では、まさに有言実行。目標達成までは一筋縄にはいかないとしても、監督をふくめチーム全員がひとつになって全力を出し切った結果であるといえよう。

 女子サッカーは、競技スポーツとしてのサッカーという共通点はあるものの、さまざまな面において男子サッカーとは違う。個と集団がつくる女子サッカーチームと男子サッカーチームのあいだには、集団としての男女の性差があって当然だ。ある意味では「異文化」と考えるべきかもしれない。

 女子サッカーの日本代表チームを「上から目線」でも「下から目線」でもない、「横から目線」で接してきた佐々木監督は、女子サッカー選手ひとりひとりに自分で考えさせ、自分で判断させる環境をつくりだすことで、自分らしさを引き出すことに徹してきた人だ。その成果が「なでしこ力」となって結実した。

 そもそも日本文化というものは、男性原理よりも女性原理を中心動いてきたものだ。明治以降の近代化のなかで過度に男性原理が強調されてきたが、いまや近代も終わり、そういう思い込みからはもうそろそろ解放されていいだろう。その意味では、「なでしこらしさ」とは、いいかえれば「日本らしさ」と言ってもいいのかもしれない。

 その国のサッカーには、その国の文化がストレートに反映するといわれる。「なでしこらしさ」に徹することによって、世界一の座を手にすることもできることでそれは実証されたわけだ。

 すでに世界の女子サッカー界は、なでしこジャパンを目指す方向に向かっているという。「なでしこ」という日本語が世界で通用する日もそう遠い将来のことではないだろう。

 すでに、つぎの目標である2012年のオリンピック・ロンドン大会での優勝という目標に向けて動きだしたなでしこジャパン。「ポスト近代の日本型リーダシップ論」としても熟読するに値する内容だといっていいと思う。





<初出情報>

■bk1書評「世界がたたえる「なでしこ力(ぢから)」。それはいかにして世界が憧れる存在となったのか?」投稿掲載(2011年7月23日)
■amazon書評「世界がたたえる「なでしこ力(ぢから)」。それはいかにして世界が憧れる存在となったのか?」投稿掲載(2011年7月23日)



目 次

佐々木則夫流 11(イレブン)の心得
第1章 はじまりは、アクシデント
第2章 ひたむきさとは、「できる」と信じる心
第3章 最高の仲間たちと
第4章 新しい力
第5章 世界がたたえる「なでしこ力」
第6章 横から目線
第7章 歩々是道場(ほほこれどうじょう)
第8章 なでしこたちから学ぶこと
第9章 則夫力
 -池田浩美、澤穂希、安藤梢、山藤賢、佐藤謙一、佐々木淳子
第10章 金メダルの重み
第11章 なでしこの未来


著者プロフィール

佐々木則夫(ささき・のりお)

1958年5月24日生まれ。山形県出身。帝京高校3年次に主将としてインターハイ優勝。日本高校選抜主将。明治大学卒業後、日本電信電話公社に入社。NTT関東サッカー部(現・大宮アルディージャ)でプレー。現役引退後、同チームのコーチ、監督、ナショナルトレセンコーチなどを経て、2006年、なでしこジャパンコーチに、2007年、なでしこジャパン監督に就任。北京オリンピック4位、東アジア女子選手権2連覇、アジア大会優勝、女子ワールドカップ2011ドイツ大会出場権獲得などの成績を収め、2010年、FIFA年間最優秀監督賞女子部問の候補10人にノミネートされる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。






<書評への付記>

女子のチームスポーツ

 一般的に女性は、「達成感」の前に「承認欲求」がまず先にくる。まずは承認欲求がみたされたうえで、自らが考ええ、自らが判断したプレーによって目標達成にむけて気持ちを一つにする。

 ここぞというときにチカラを出し切るには、ふだんから、自分らしさを活かすことと仲間意識を両立させることが大切だ。これがむかしのやり方とは根本的に違うこと。

 かつて世界一となったのは「東洋の魔女」とよばれた女子バレーボール日本代表チームであったが、高度成長時代まっただなかにおいては、大松博文(だいまつ・ひろふみ)監督の「黙って俺についてこい」というスパルタ式特訓の指導法であった。

 しかし、バブル期を経て、20年以上もつづくデフレ経済のなか、より大きな時間軸でみると明治維新以降の「近代」(モダン)が終わりをつげ、すでに「後近代」(ポストモダン)になっていることに気がつく。

 長い長い日本史のなかでは、あくまでも例外であった明治以降の「近代」、この時代は例外的に男性原理が女性原理を押さえ込んでいた時代であった。

 その制約がとれたいま、なでしこジャパンが大活躍したのも不思議でもなんでもないのかもしれない。女性原理を尊重しながら、世界で勝利することも不可能ではないという事実が証明されたわけなのである。男性原理の皮をかぶった女性原理ではない、女性らしさそのものによって。

 このほか学びの多い一冊、女子をまとめる立場にいる男子管理職だけでなく、これからの日本において必要なリーダーシップのありかたとマネジメントのありかたについても示唆の多い一冊である。


佐々木則夫流 11(イレブン)の心得

 本書の冒頭に「佐々木則夫流 11(イレブン)の心得」 が黒枠のなかに記されている。出場メンバーのイレブンにあわせた心得は心憎い。そのまま引用させていただこう。

1. 責任
2. 情熱
3. 誠実さ
4. 忍耐
5. 論理的分析思考
6. 適応能力
7. 勇気
8. 知識
9. 謙虚さ
10. パーソナリティ
11. コミュニケーション

 これら11の項目は、足し算ではなく掛け算。1項目でもゼロ(ゼロに近い値)があれば、その人に指導者の資格はない。

 この注記がまた重要だ。
 

<関連サイト>

佐々木則夫監督となでしこたちの1300日戦争-貧乏に負けなかった-(2011年08月03日(水)「週刊現代」より)

W杯を笑顔で勝ち取った佐々木監督。“なでしこマネジメント5つの法則”(Number Web 2011年7月31日)



<ブログ内関連記事>

女子サッカー・ワールドカップで 「なでしこジャパン」 がついに世界一に!(2011年7月18日) 

「NHKスペシャル「なでしこ​ジャパン 世界一への道」 (2011年7月25日) を見ながら考えたこと

書評 『日本は、サッカーの国になれたか。電通の格闘。』(濱口博行、朝日新聞出版、2010)

コトバのチカラ-『オシムの言葉-フィールドの向こうに人生が見える-』(木村元彦、集英社インターナショナル、2005)より

『Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2011年3月10日号 特集:名将の言葉学。-2011年のリーダー論-』

「サッカー日本代表チーム」を「プロジェクト・チーム」として考えてみる

不動明王の「七誓願」(成田山新勝寺)-「自助努力と助け合いの精神」 がそこにある!
・・高いレベル個人技があってこそ、チームワークが意味をもつ

書評 『日本文明圏の覚醒』(古田博司、筑摩書房、2010)
・・明治維新以降の「近代」はすでに終わったのだということを明確かつ明快に語る

『伊勢物語』を21世紀に読む意味

「福祉の仕事 就職フォーラム」(東京国際フォーラム)にいってみた
・・福祉の世界に限らず「横から目線」が重要

(2014年3月10日 情報追加)






(2012年7月3日発売の拙著です)







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