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2014年4月7日月曜日

書評『そのとき、本が生まれた』(アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ、清水由貴子訳、柏書房、2013)ー 出版ビジネスを軸にしたヴェネツィア共和国の歴史


日本でも観光地としてはもちろん、テーマとしても人気の高いヴェネツィアだが、活字印刷による出版がビジネスとして花開いたヴェネツィアを描いたこの歴史ノンフィクション作品は、ヴェネツィアをみる新たな視点を提供してくれる。ヴェネツィア共和国は、出版ビジネスの中心であったのだ。

『そのとき、本が生まれた』という日本語版タイトルの巧みさに引きつけられて読み始めたが、じつはヴェネツィア共和国の歴史なのだとわかり、「うれしい誤算」を喜びながら最後まで読んだ。なぜなら、わたしは本好きではあるが、それに劣らず旅好きであり、しかもヴェネツィア好きでもあるからだ。

これまでヴェネツィアは二度訪問している。最初はウィーンから直通夜行列車で、二度目はスロヴェニアの首都リュブリャーナから直通列車で入った。ともにかつてのハプスブルク帝国ゆかりの地であるが、駅から一歩出て目に飛び込んできた運河に驚いた初回は、とくに強く印象に刻まれている。
    
イタリア語の原題は、L'alba dei Libri. Quando Venezia ha fatto leggere il mondo (2012)。つい最近でたばかりの本である。直訳すれば、『本の夜明け:ヴェネツィアが世界を読んだとき』とでもなろうか。著者はヴェネツィア(Venezia)生まれ。ヴェネツィア大学で地元のヴェネト(Veneto)地方の歴史を専攻した週刊誌ニュース責任者。その意味では地方史あるいは地域史でもあるわけだ。


なぜ15世紀から16世紀にかけてのヴェネツィア共和国に出版ビジネスが確立し、欧州の一大中心地となったのか? そしてどんなタイトルの本が出版され、ヴェネツィア共和国内、そしてで欧州全土で流通し、さらには地中海世界やその他の輸出されていたのか? 知的好奇心を大いに刺激してくれる内容である。


「16世紀メディア革命」の担い手はヴェネツィアであった

本書は、活字印刷による出版業の産業史であり、情報史であり文化史でもある。書籍、出版、印刷業、情報、貿易、商業史、経済史、産業史、文化史、ヴェネツィア、経済覇権、メディア革命と、さまざまな観点からカレイドスコープのようにヴェネツィアの黄金時代を振り返る。

ヴェネツィアには、豊富な資本、商業ネットワーク、そして世界各国から人とモノが集まる港湾都市ならではの言論の自由があった。出版が成功するための要素が揃っていたのだ。出版ビジネスは、その本質において印刷機と金属活字への固定資産投資をともなう印刷業であり、かつ商品としての知識と情報を商う情報産業でもあった。どうやらこの時代には分業モデルは存在しなかったようだ。

ヴェネツィアで出版ビジネスが繁盛したのは、ヴェネツィアが海洋国家で貿易を中心とした商業国家であったことが大きい。つまり、海運と海軍力を必要とする国家であり、文字通り海外に雄飛するという進取の気性というマインドセットと「実学」が背景にあったことが大きい。

だからヴェネツィアで出版された本は、現在の日本と同様に実用書が多いというのも十分にうなづける話である。本書にはトピックとしての聖書印刷やヘブライ語のタルムードやアラビア語のコーラン印刷の話もでてくるが、出版点数が多かったのは軍事関係、医学書に美容書、料理本、そして楽譜といった実用書であった。

活版印刷の発明とメディア革命というと、どうしても15世紀ドイツのグーテンベルクの名前ばかりがでてくる。だが、実際に印刷を印刷業として、そしてその発展形である出版業として確立し、ヨーロッパ世界で覇権を握ったのは16世紀、すなわち近世(=初期近世)に入ってからのヴェツィア共和国である。だから「16世紀メディア革命」はヴェネツィアが担い手であり、その中心地であったというほうが正確なのだ。


「東方への窓」であった海港都市国家ヴェネツィア

ヴェネツィアというと、現在の日本では観光地以外で話題になるのは、「ヴェネツィア国際映画祭」「ヴェネツィア・ビエンナーレ」といった文化面でのイベントであろう。日本人も含めたアジア人アーチストが受賞することも多いこれらのイベントは、ヴェネツィアが「東方への窓」であった時代をほうふつさせるものがある。

欧州における経済と文明の中心が南部から北部にシフトし、海洋国家ヴェネツィアは英国に取って代わられるが、全盛期には欧州大陸内では中東欧、地中海ではクレタ島を領有し、商業ネットワークはオスマン・トルコやコーカサスまで及んでいたのである。

1453年のコンスタンティノープル陥落による東ローマ帝国(=ビザンツ帝国)滅亡により、ギリシア語をつかう知識人たちがヴェネツィアに亡命してきたが、ヴェネツィアの後背地にあるパドヴァ大学を活性化し、その結果ルネサンスで復興したギリシア・ラテンの古典が印刷出版される。1492年のレコンキスタによってスペインから追放されたユダヤ人はヴェネツィアに定住し、その地でヘブライ語の聖書とタルムードを印刷出版する。アラビア語の活字でコーランを印刷し輸出しようとしていた(!)というのも興味深い。

だが、教皇庁のおひざ元ローマで1542年にはじまった「異端審問」はヴェネツィアにも及び、禁書リストの作成と焚書も行われたのは、一時的とはいえヴェネツィアの出版ビジネスには打撃となったようだ。

アドリア海をはさんだ対岸のバルカン半島のセルビア人はセルビア語の、コーカサスのアルメニア人はアルメニア語の宗教文書をヴェネツィアで出版し、世界に散らばるエスニックコミュニティ向けに輸出していた。なんと1792年からソ連崩壊の1992年まで200年にわたり、ヴェネツィアがアルメニア語出版の中心地だった(!)のである。

本書は、ヴェネツィア好きの日本人読者向けに書かれたものではないので、やたら登場する日本人になじみのない固有名詞がわずらわしいかもしれない。イタリア人の名前は長ったらしいのだ。また、数字が異様にまで細かいので、文化史というよりも商業史としての要素もつよい。

本好きだが小説など文学作品しか読まないような人はすこし面食らうかもしれない。本書に登場するのはピエトロ・アレティーノのポルノ作品だけだから(笑)

だが、本が好きなら、しかもヴェネツィアが好きなら、もう言うことはない一冊である。翻訳もこなれていて読みやすい。


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目 次

第1章 本の都、ヴェネツィア
第2章 出版界のミケランジェロ、アルド・マヌーツィオ
第3章 世界初のタルムード
第4章 消えたコーラン
第5章 アルメニア語とギリシャ語
第6章 東方の風
第7章 世界と戦争
第8章 楽譜の出版
第9章 体のケア-医学、美容術、美食学
第10章 ピエトロ・アレティーノと作家の誕生
第11章 衰退、最後の役割、終焉
訳者あとがき

参考文献

 
著者プロフィール

アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ(Alessandro Marzo Magno)
ヴェネツィア生まれ。ヴェネツィア大学でヴェネト史を専攻。週刊誌『ディアーリオ』の海外ニュース担当責任者として活躍中。おもな著書に、La guerra dei dieci anni. Jugoslavia 1991-2001 (10年戦争・ユーゴスラビア1991-2001)、Atene 1687. Venezia, i turchi e la distruzione del Partenone(アテネ 1687 ヴェネツィア、オスマントルコ、パルテノンの破壊)などがある。現在ミラノ在住(出版社サイトより)。

訳者プロフィール

清水由貴子(しみず・ゆきこ)
東京都生まれ。上智大学外国語学部卒業。翻訳家。おもな訳書に、セルヴェンティ、サバン『パスタの歴史』(原書房)、カッリージ『六人目の少女』(早川書房)、ウェイクフィールド『早送りの人生 愛につつまれた最後の日々』(ソフトバンククリエイティブ)、シャーウィン『ドリーム・チーム  佐々木、イチロー、長谷川のマリナーズ2002』(朝日新聞出版)などがある(出版社サイトより)。


<ブログ内関連記事>

本についての本

書評 『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(ウンベルト・エーコ、ジャン=クロード・カリエール、工藤妙子訳、阪急コミュニケーションズ2010)-活版印刷発明以来、駄本は無数に出版されてきたのだ

書評 『脳を創る読書-なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか-』(酒井邦嘉、実業之日本社、2011)-「紙の本」と「電子書籍」については、うまい使い分けを考えたい

『ちょっと本気な 千夜千冊 虎の巻-読書術免許皆伝-』(松岡正剛、求龍堂、2007)で読む、本を読むことの意味と方法

スティーブ・ジョブズの「読書リスト」-ジョブズの「引き出し」の中身をのぞいてみよう!


水の都ベニス(=ヴェネツィア)

かつてバンコクは「東洋のベニス」と呼ばれていた・・

三度目のミャンマー、三度目の正直 (2) インレー湖は「東洋のベニス」だ!(インレー湖 ①)


ヴェネツィアにおける出版物と「16世紀メディア革命」

エラスムスの『痴愚神礼讃』のラテン語原典訳が新訳として中公文庫から出版-エープリルフールといえば道化(フール)③
・・「異端審問」によって焚書となったエラスムスの『痴愚神礼讃』

「東洋文庫ミュージアム」(東京・本駒込)にいってきた-本好きにはたまらない!
・・ヴェネツィア人マルコー・ポーロの『東方見聞録』(・・しかも、ヴェネツィア1626年バージョン)が東洋文庫に所蔵されている。写真あり

「アラブの春」を引き起こした「ソーシャル・ネットワーク革命」の原型はルターによる「宗教改革」であった!?


人類史におけるヴェネツィア共和国

世界史は常識だ!-『世界史 上下』(マクニール、中公文庫、2008)が 40万部突破したという快挙に思うこと
・・アメリカを代表する歴史学者マクニールのヴェネツィア史

盧溝橋事件(1937年7月7日)から77年-北京の盧溝橋が別名マルコポーロ橋ということを知るとものの見方が変わってくるはずだ
・・13世紀のヴェネツィア人マルコ・ポーロ

エル・グレコ展(東京都美術館)にいってきた(2013年2月26日)-これほどの規模の回顧展は日本ではしばらく開催されることはないだろう
・・当時ヴェネツィア共和国領であったクレタ島生まれのエル・グレコ

ひさびさに倉敷の大原美術館でエル・グレコの「受胎告知」に対面(2012年10月31日)

「自分の庭を耕やせ」と 18世紀フランスの啓蒙思想家ヴォルテールは言った-『カンディード』 を読む
・・オスマントルコとの交易拠点であったヴェネツィア

書評 『大英帝国衰亡史』(中西輝政、PHP文庫、2004 初版単行本 1997)-「下り坂の衰退過程」にある日本をどうマネジメントしていくか「考えるヒント」を与えてくれる本

書評 『1492 西欧文明の世界支配 』(ジャック・アタリ、斎藤広信訳、ちくま学芸文庫、2009 原著1991)-「西欧主導のグローバリゼーション」の「最初の500年」を振り返り、未来を考察するために

書評 『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2008)-12世紀からはじまった資本主義の歴史は終わるのか? 歴史を踏まえ未来から洞察する


「東方への窓」であったヴェネツィア

書評 『物語 近現代ギリシャの歴史-独立戦争からユーロ危機まで-』(村田奈々子、中公新書、2012)-日本人による日本人のための近現代ギリシア史という「物語」=「歴史」
・・クレタ島は長期にわたってヴェネツィア共和国領であった。その時代に生まれてスペインのトレドで活躍したのが画家のエル・グレコ(=ギリシア人)である

ブランデーで有名なアルメニアはコーカサスのキリスト教国-「2014年ソチ冬季オリンピック」を機会に知っておこう!

書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010)
・・レバント(東地中海)のキリスト教とイスラーム

(2014年7月14日 情報追加)


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