『中央沿線の近現代史(CPCリブレ14)』(永江雅和、クロスカルチャー出版、2020)は、東京駅から高尾駅まで、言い換えれば東京都心から東京西郊をつないでいる、JR東日本の中央線の沿線を駅周辺の開発と発展を描いた近現代史である。著者は「沿線史」という表現をつかっている。
中央線は、最初から東京駅が始発だったわけではない。中野駅から立川駅まで真西に向かった直線であるのに対し、中野駅から東京駅までS字カーブになっている。これは「鉄道史」で語られる内容であり、知っている人も少なくないことだろう。
この本が「沿線史」だというのは、駅ごとの開発の歴史について語っているからだ。中央線の沿線史は、20世紀初期に始まった歴史であり、現在進行形の歴史である。 鉄道そのもののルートの変更はないが、沿線の風景は変化していく。
中央線の沿線に住んでいる人や働いている人(・・私も含めてかつてそうだった人も)は、自分にかかわりの深い駅の記述は熱心に読むことだろう。私も、子ども頃よく利用していた吉祥寺駅、大学時代に利用していた国分寺駅と国立駅、米国から帰国後の住居に近くの荻窪駅や阿佐ヶ谷駅については、ひじょうに興味深く読んだ。
ページ数の制限があって、どうしても個々の駅とその周辺にかんする記述が少なくなってしまうのはしかたない。とはいえ、自分がよく知らない駅と、その周辺について知ることができたのは有益だった。
この本を読んでよくわかったのは、もともと蒸気機関車として始まった私鉄が国有化され、複線化と電化(1922年)と関東大震災(1923年)が、列車運行の効率性の向上と、東京郊外への人口流入を促進したことだ。いまからちょうど100年前のことになる。その意味でも、この100年の日本史を「沿線史」として描いていることになる。
このシリーズでは、すでにおなじ著者によって『小田急沿線の近現代史』と『京王沿線の近現代史』が書かれている。本書は、平行して走るこの2つの私鉄との比較がベースにある。次はどの鉄道を取り上げるのだろうか、大いに楽しみだ。
私としては、帝国陸軍鉄道部隊の演習用として敷設され、民間に払い下げ後の高度成長期には沿線開発が進んだ、千葉県西部の新京成電鉄を取り上げてほしいと思っているのだが、そうは問屋が卸すまい。
著者は、日本経済史が専門の専修大学経済学部教授。というより、個人的な話であるが、私にとって一橋大学合気道部の後輩でもある。
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