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2025年7月11日金曜日

書評『帝国の地政学 ー トランプ政権で変わる世界戦略』(楊海英、ビジネス社、2025)ー ユーラシア大陸の動向を理解するためには、戦前の日本が蓄積した知的財産を活用すべきだ!

 

 日本を取り巻く国際情勢は、悪化の度を増している。いわゆる「トランプ関税」のことを指して「国難」とうそぶく、無能でたわけた政治屋どもがいるが、「いま、そこ」にある危機は米国発のものではない。 

真の脅威とは、中国、ロシア、そして北朝鮮からもたらされるものだ。日本列島からみた西側の世界、すなわち日本海をはさんだユーラシア大陸の二大国と、国境を接している半島国家である。 

軍事力といったハードパワーだけでない。移民の送り込みや利益供与など、ありとあらゆる手段をつかって日本を骨抜きにし、日本と日本人の安全と生存を脅かしつづけている。その筆頭にあるのが中国共産党だ。

とはいえ、極東ロシアも中共による浸透工作の対象であり、むしろ被害者というべきである。したがって、中国とロシアを同列に論じるには限界がある。ウクライナ戦争をつうじて、北朝鮮とロシアの軍事同盟が深化する一方、中国との関係はすきま風が吹いている。

いずれにせよ、ユーラシアからもたらされる脅威は、複雑に入り組んだ様相を呈しているのが現状だ。単純に3カ国が一心同体になっているわけではない。

そんなユーラシア大陸では、中国とロシアという大国の動向がすべてを左右してきた。危機に対応するためには、かれらの行動論理を理解することが必要だが、そのためにはなにが必要か? 


■戦前の日本で流行した「ハウスホーファー地政学」を活用せよ!

『帝国の地政学 ー トランプ政権で変わる世界戦略』(楊海英、ビジネス社、2025)は、その課題に応えようとした一つの試みである。つい先日出版されたばかりの新刊である。 

著者の楊海英氏は、中共支配下の南モンゴル出身の人類学者で歴史学者。ここ数年は『中国を見破る』(PHP新書、2024)などの著書や X(旧 twitter)をつうじて、 みずからの体験をもとにした中共の実態をさまざまな形で暴露し、日本人に警告を発してきた。

「日本国籍をもつモンゴル人」としての、国家としての日本を憂れる、憂国の情からする日本人への警告である。 

本書で著者が強調しているのは、ユーラシア大陸の動向を理解するためには、戦前の日本が蓄積した知的財産を活用すべきということだ。 

1930年代に日本に導入された、戦前のドイツが生み出したの「地政学」(ゲオポリティクス)のことである。いわゆる「ハウスホーファー地政学」と、その影響下で行われた研究成果である。その一部は、当時の日本の国策に援用されている。 


(1920年代のカール・ハウスホーファー Wikipedia英語版より)


だが、大東亜戦争における日本の敗戦にともない、大陸進出から完全に撤退した日本本土においては、地政学そのものに「悪のレッテル」が貼られ、長きにわたって封印されることになった。 

米ソ冷戦時代には、『悪の論理 ー ゲオポリティク(地政学)とは何か』(倉前盛通、日刊工業新聞、1977)というタイトルの本がベストセラーとなってビジネス界で流行しており、たまたま父の蔵書にあったので、高校時代のわたしは熟読していた。

タイトルに「悪の」と入っているように、「地政学=悪」というパーセプションを前提にした、逆張りのキワモノめいた発想が売りとなっていたわけだ。ただし、この本をもって日本で地政学が復権したわけではない。


冷戦構造崩壊後の国際情勢の激変は、地政学の復権をもたらしつつあるが、戦前のユーラシア大陸ベースの「ハウスホーファー地政学」は、現在においても日本ではいまだ復権したとは言い難い。 ところが、ソ連崩壊後のロシアにおいては地政学が復活し、しかもその主流は「ハウスホーファー地政学」がベースになっていることを知らなくてはならない。

著者は、そんな「ハウスホーファー地政学」を、勤務先の図書館(そこはかつて、中曽根元首相も学んだ旧制静岡高校であった)で、長きにわたって手つかずのまま眠っていた数々の著作を発見して掘り起こし、いま進行中のユーラシア大陸の動向を理解するための武器として、再活用することを推奨している。 

もちろん、地政学が学問かという議論は昔からある。だが、思考のフレームワークとしては有効性は失われていない。

日本人は、その地政学的特性である海洋国家論をベースにしたシーパワーの地政学だけでなく、日本海を挟んだ対岸にあるユーラシア大陸をベースにしたランドパワーの地政学も知っておくことが必要なのである。


■日本にとってモンゴルは「第三の隣人」

著者自身の石垣島における実体験が印象深い。草原出身の遊牧民のモンゴル人である著者は、「正直いって海は怖い」と思ったのだそうだ。

そんな著者は、石垣島の若者たちが自在に操船する姿を見て、日本人のもつ海洋民族的性格に目を見張ったのだという。 著者はこう書いている。


その光景を目にした瞬間、私は「日本には希望がある」と感じた。日本人は本質的に海洋民族である。若者たちが海流を読みながら船を操っている姿は、まさに草原で馬を駆るモンゴル人を見るようだった。(P.85~86 太字ゴチックは引用者による) 


なるほど、海に生きる日本人にとっての船は、草原という海に生きるモンゴル人にとっての馬のようなものか。言われてみれば、その通りだと思う。そういえば、ダライ・ラマの「ダライ」とは、モンゴル語で「大海」を意味していたな。比喩的な意味だが、草原は海である!

日本人の記憶の古層には、世界でも有数の荒海である日本近海を小船をあやつってやってきたという経験がある。たとえ、海を生活の場とすることはなくても、その記憶は無意識レベルで日本人の行動を規定している。

そんな日本人は、海洋国家としての性格を濃厚にもちながら、かつ戦前には積極的にユーラシア大陸にコミットし、その間に蓄積された知的財産を多くもっている。にもかかわらず、そんな知的財産が活用されることなく、うち捨てられたままになってきたのは、じつにもったいないことではないか! 

著者は、ハウスホーファー地政学の成果を活用しながら、歴史的にみた中国とロシアの性格の違いを明らかにし、著者自身もその出身である「遊牧民」の世界観からみたら、中国よりもロシアのほうが親和性が高いことを示唆している。 著者のこの認識は、今後の動向を考えるうえで、大いに役に立つことであろう。

希望的観測が入っているかもしれないが、中国とロシアは同床異夢の存在だというべきであろう。そして、ロシアと中国という二大国のはざまに位置しているのがモンゴル国だ。

いままさに天皇皇后両陛下が国賓としてモンゴル国を公式訪問中である。モンゴルで大歓迎を受ける天皇皇后両陛下の姿を見て、日本国民として喜びと感謝の念を禁じ得ない。もちろん、モンゴル側の手厚いおもてなしもまた。日本とモンゴルの関係が、さらなる高みへと登っていきますよう!

ユーラシア大陸の動向を考えるうえで、著者のいう「第3の隣人」としてのモンゴルを大いに意識しておきたい。 モンゴルこそ日本人がユーラシア大陸を見る確かな視点をあたえてくれるはずだ。


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目 次
序論 地政学は日本の財産だった 
第1部 失われた地政学 
 1 ハウスホーファーの予見と東アジア 
 2 戦前日本の地政学とその理論 
第2部 戦後の地政学的激動 
 1 東アジアを席巻した共産主義の恐怖
 2 日本の敗戦と地政学的変化 
 3 中国内戦と共産党の支配 
 4 中国共産党の異民族弾圧 
  モンゴル編/チベット編/新疆(東トルキスタン)編 
 5 中国とロシアの地政学的戦略 
結語 トランプ政権で変わる世界の地政学 
参考文献 
図版出典

著者プロフィール
楊海英(よう・かいえい)
静岡大学人文社会科学部教授。1964年、南モンゴル・オルドス高原生まれ。モンゴル名はオーノス・チョクト。北京第二外国語学院大学アジア・アフリカ語学部日本語学科卒業。1989年に来日し、国立民族学博物館、総合研究大学院大学で文化人類学を研究した。同大学院博士課程修了後、中京女子大学(現・至学館大学)を経て2006年より現職。著書に『墓標なき草原(上・下)』(岩波書店、第14回司馬遼太郎賞受賞)など多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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海洋国家とシーパワーを中心にした「地政学」







■ユーラシア大陸とロシアで主流の「ハウスホーファー地政学」など










■中国共産党の脅威




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2025年3月23日日曜日

「NHKスペシャル オウム真理教 狂気の "11月戦争" 」を視聴(2025年3月22日)ー 国家を転覆することとは? 国家が崩壊した結果もたらされたものとは?

 (2025年3月20日放送のNHKスペシャル)


「地下鉄サリン事件」が起こったのが、1995年3月20日。上九一色村のサティアンに強制捜査に入ったのが、その2日後の19953月22日。

間髪入れずに2日後に実行された強制捜査は、事前に周到に準備されたものであったが、TVで視聴していた一般人にとっては、警察の素早い対応のように感じられて、なにか劇場的な印象さえあったものだ。

TV報道の歴史においては、1972年の「あさま山荘事件」のナマ中継に匹敵することだろう極左集団による暴力的な政治テロも、宗教教団による暴力的な宗教テロも、その本質においては共通している。

さきほど2025年3月20日に、NHKスペシャルで放送された「オウム真理教 狂気の "11月戦争" 」は、あらたに発見された文書で明らかになった戦慄すべき事実をベースに、当時の映像をまじえて30年前の「オウム事件」を振り返る内容である。

未遂に終わったが、1995年11月計画されていたというクーデターは「国家転覆計画」であった。化学兵器テロを越えたクーデターを計画していたことが、あらためてクローズアップしたものであった。

「11月戦争」は、今後は「ク-デター関連本」にはかならず記載しなくてはならない事項だというべきだろう。近年ではドイツで陰謀論に突き動かされた「2022年ドイツクーデター未遂事件」が発生しているが、日本でも同様のクーデターが発生する可能性はゼロではない、

オウム真理教に対しては、宗教法人としての解散命令が下されたが、破壊活動防止法ですら左派リベラル派から、人権の観点からの強硬な反対があった。わたしとしてはむしろ、「内乱罪」を適用すべきだったのではないかと思うのである。

「サリン事件」から30年たっているが、いまだに過去のできごとには思えない。

そのとき乗車していた地下鉄丸ノ内線が、社内アナウンスもなしに霞ヶ関駅を通過したという、間接的だがリアルタイムでのニアミス体験を有しているからでもある。



■ソ連崩壊後の混乱するロシアにつけ込んだオウム真理教

しかも、オウムがつけ込んだソ連崩壊後のロシアの窮状は、あらためて想起する必要がある。

ロシア人が、あの時代だけは戻りたくないという切実な思いを抱いていることが、オウム関連の当時の映像をつうじて手に取るようにわかるからだ。

なぜロシア人はプーチンのような強権的なリーダーを欲しているのか、あの当時を映像で振り返れば納得されることだろう。自由も大事だが、ロシア人がなによりも安全と安心を求めていることは、あえて「マズローの欲求五段階説」を持ち出す必要もなかろう。

国内で1万人いたオウム真理教の信者(出家者+在家者)だが、なんとロシアで当時3万人(!)もいたのだという。飢えていたのは食料だけではなく、よりどころを失った精神は渇きも覚えていたのだ。

だから、その精神的飢餓状態につけ込むような形で、日本からはオウム真理教が、アメリカからはプロテスタント諸派が猛烈な布教活動を行っていたという事実を忘れるべきではない。

ソ連の崩壊は「国家崩壊」であった。オウム真理教は、その崩壊国家につけ込んで旧ソ連製の武器を調達し、日本国家を崩壊させようという黒い野望を抱いていたのだ。

「国家が崩壊」することがなにを意味しているのか。「国家を転覆」するとはなにを意味しているのか。その意味をあらためて考える必要がある。


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2025年3月2日日曜日

神保町から市川に移転した「ろしあ亭」に初めて行ってみた(2025年2月27日)

 

神保町で老舗的存在だったのが「ろしあ亭」。なんども利用したことのある老舗のロシア料理店であった。 

ところが、テナントとして入居していたビルが取り壊しのため閉店。バブル時代の地上げ時代にも生き延びたビルだったが、老朽化の前にはなすすべを知らず。 その後、千葉県市川市に移転して再開したというニュース一昨年知った。 

昨日のことだが、そんな市川に移転した「ろしあ亭」に今回ようやく行くことができた。JR市川駅から徒歩6分。飲食街のなかにある。  

神保町時代より店舗が広くなったようだ。平日の夜だったが、席もかなり埋まっていたので一安心。「ウクライナ戦争」のため、ロシアにはネガティブイメージがつきまといがちだが、食文化は別物だ、そう考える人も少なくないのだろう。 


(前菜はロシア語でザクースカ。生サーモンと赤カブのポテトサラダ)


会食者は、旧友のロシア経済の専門家。つい最近モスクワ出張から帰ったばかり。かつてなら東京からアエロフロートで直行するところだが、経済制裁下ではドバイ経由のフライトとなるのだそうだ。 

(ガルショークは、キノコのクリームスープの壺焼き)


ロシアの現状は、モスクワと地方都市は別世界状態で、米系も 欧州系も撤退があいつぎ、外資系ホテルが撤退してしまったという問題もあるが、制裁もなんのそのと居残るアメリカ企業も少なくないらしい。いわゆる「残存者利益」を享受する、強メンタルなビジネスパーソンもいるわけだな。 


(ボルシチはウクライナ生まれ)

さて、料理は飲み放題つきのコースメニューとしたが、ボルシチ(ロシア語ではボルシュ。ただし発祥はウクライナ料理)、ヒツジ肉の串焼きのシャシリクなど、食べて飲み、そして大いに語る。ひさびさのロシア料理はうまい。 


(シャシリクは、中央アジア発のヒツジ肉グリル料理)


シャシリクもまた、もともとは中央アジアからカフカース(=コーカサス)の料理だが、ロシア化されたものはオリジナルとは異なる味付けになっているそうだ。肉を汁に漬けて軟らかくしてからグリルするのだ、と。そういう飲食系のウンチク話は雑学として大いに有用だ。 

というわけで、かつて極東ロシアでの現地調査をともにした旧友との会食は、おおいに満足のいくものであった。

ご関心のある人は、ぜひ市川に移転した「ろしあ亭」を訪れてみるといいでしょう。


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2025年2月13日木曜日

書評『ロシアとは何か ー モンゴル、中国から歴史認識を問い直す』(宮脇淳子、扶桑社、2023)ー モンゴル史の視点から「ロシアとはなにか」について考える

 


ロシアと「軍事同盟」を結んだ北朝鮮の「出兵」は実質的な「参戦」であり、ユーラシア大陸の東西がかかわる「世界戦争」化しつつあるのが現状だ。 

「力による平和」を標榜するトランプ大統領の再登場が局面打開につながることを期待しているが、はたしてウクライナとロシアの双方に納得のいく結論が出るのかどうか、きわめて不透明である。

そんなときだからこそ、あらためて「ロシアとはなにか」という問いが重要になってくる。


●なぜ、ロシアは侵略戦争を仕掛けてくるのか? 

●そもそも、ロシアとはいったい何なのか? 



モンゴル史を中心とした東洋史の専門家の立場からみた「ロシアの本質」。著者が語りおろした内容の、編集協力者による再構成なので読みやすい。  


■歴史を捏造するロシア。歴史の捏造は中国共産党だけではない 

ロシアは、長きにわたってモンゴル帝国の支配下にあって、その支配を脱して17世紀に生まれてきたことは「タタールのくびき」というフレーズに集約的に表現されている。

だが、そのフレーズじたいがロシアによる歴史の捏造であるというのが基本的な論点だ。 

たしかに、13世紀のモンゴル軍は侵略の際は大量虐殺を行っている。だが、平定後は基本的に間接統治を行っており、モンゴル統治下では平和が確保されてきたのが歴史的事実なのである*。

*いわゆる「タタールのくびき」の240年間については、最新研究を踏まえた『「ロシア」はいかにして生まれたか タタールのくびき(世界史のリテラシー)』(宮野裕、NHK出版、2023)を参照。
「ジョチ・ウルス」の統治下では、かならずしも平和が永続していたわけではなく、諸侯どうしの争いがつづいていいたが、基本的にハーンの裁定によって決着がつけられていたことが明らかにされている。最終的にジョチ・ウルスの分裂と衰退が、モスクワ公国を中心としたロシア形成への道を開くことになった。


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「元朝」という形で支配された中国(シナ)だけでなく、ロシアもまた然り。中国もロシアもモンゴル帝国の支配下にあった歴史を共有している。

そもそも、ロシアの起源は、北方のスカンディナヴィアからの開拓者であってスラブ系ではなく、先にみたように「タタールのくびき」で苦しんだわけでもなく、ギリシア正教を受け入れビザンツ帝国(=東ローマ帝国)の後継者を任じているが、ギリシア=ローマ文明をそのまま継承したわけでもない*。
 
*宮脇氏は言及していないが、ビザンツ帝国の「聖俗一致体制」は継承している西ローマ帝国とその組織的後継者であるカトリック教会は西欧文明の基礎となったが、東ローマ帝国とギリシア聖教を基礎とする東欧文明との違いは大きい。ロシア語の表記に使用される「キリル文字」は、ギリシア文字からつくられたものである。キリル文字は、ソ連の衛星国であったモンゴル国(=北モンゴル)で採用され現在に至る。


18世紀のピョートル大帝による西欧文明化もけっして成功したわけではない。社会的矛盾を解決するために断行された20世紀のロシア革命の成果も、70年後にはソ連崩壊で消え去り混乱期を経てアイデンティティ模索のなか、「ユーラシア主義」に大きく傾き、「疑似民主主義」による独裁制をもたらす結果となっている。 

つまり、アイデンティティの核がきわめてあいまいで、揺れ動いている。つかみどころがないだけでなく脆弱なのである。虚勢を張っているのは、劣等感の裏返しだといえなくもない。 

東西に広大な領土を有するロシアは、「一帯一路」を推進して東西を結ぶ大構想をぶちあげている中国と同様に、実質的に「モンゴル帝国再興」を目指していると著者はいう。大いに説得力のある議論だ。ロシアも中国も、モンゴル人抜きの「モンゴル帝国」である*。

*ただし、モンゴル人に対する扱いは中ロで大きく異なる。ソ連の衛星国されたがモンゴル人としての国家を維持できた北モンゴルに対し、中共支配下で母語のモンゴル語を奪う民族浄化が遂行されている南モンゴルの状況に現れている。この点にかんしては、『内モンゴル紛争』(ちくま新書、2021)など楊海英氏の著作群を参照。


モンゴル人が主導した「13世紀のモンゴル帝国」は、わずか1世紀で瓦解した。中ロという、「21世紀のモンゴル帝国」は、はたしていつまでもつのか? 答えはそう難しいものではなさそうだ。わたしにはそう思えてならない。 

「ユーラシアの動乱」がもたらす結果には、日本列島の住民も十分に心の準備をしておく必要がある。 


■「岡田史学」でユーラシアを考えることの重要性

本書は、著者の宮脇淳子氏と、その師匠であり配偶者でもあった岡田英弘氏による、実質的な二人三脚による著作といっていいだろう。 

岡田英弘氏は、「世界史は13世紀のモンゴル帝国から始まった」とする主張を前面に打ち出した、名著『世界史の誕生』(ちくま書房、1992年)で日本人の世界認識に大きなインパクトをあたえた歴史家だ。わたしもこの本の影響を大きく受けている。現在は文庫化されている。  

岡田氏亡きあとは、宮脇淳子氏は「岡田史学」を世に広めることを使命とされている。本書でも岡田氏のロシア認識をベースに、最新の研究動向を踏まえながら、著者自身のことばでロシアについて語っている。 

「岡田史学」のなんたるかについては、「第1章 巻頭特別講義 入門・岡田史学」にまとめられている。冒頭に置くのはどうかなという気もしないではないが、名著『世界史の誕生』(1992年)を読んでいない人は、あとまわしでもいいので読んでおくべきだろう。 

 モンゴル史についても、ロシア史についても詳しくない人は、本書を読んで認識をあらためてほしいものである。モンゴル史を踏まえたロシアの実像は、広く「常識」となってほしいものだ。 


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目 次
プロローグ いまなぜユーラシアから見た世界認識が必要なのか 
第1章 巻頭特別講義 入門・岡田史学 
第2章 ロシア史に隠された矛盾 ― ユーラシア史からロシアの深層を見る 
第3章 国境を越える相互作用 
第4章 中国がめざす「モンゴル帝国の再現」―「一帯一路」とは 
第5章 ロシア、中国はモンゴル帝国の呪縛から解放されるか? 
エピローグ
参考文献

著者プロフィール
宮脇淳子(みやわき・じゅんこ)
1952年和歌山県生まれ。京都大学文学部卒業、大阪大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専攻は東洋史。大学院在学中から、東京外国語大学の岡田英弘教授からモンゴル語・満洲語・シナ史を、その後、東京大学の山口瑞鳳教授からチベット語・チベット史を学ぶ。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究員を経て、東京外国語大学、常磐大学、国士舘大学、東京大学などの非常勤講師を歴任。現在、公益財団法人東洋文庫研究員としても活躍。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



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