世界的にみて「温和でおとなしく礼儀正しい」とされる日本人だが、一方では「日本人はキレやすい」と言われることもしばしばある。
「口より先に手が出る」傾向もあるのだ、と。つまり議論の中身で相手をねじ伏せるよりも、暴力的に問題解決しようとする姿勢があるということだ。SNSで多発している「ことばの暴力」もそのなかに含めて考えるべきだろう。
そんな「キレる日本人」は、中世においては当たり前の存在で珍しくもなんでもなかった。この事実を一般読者向けに明らかにしたのが、室町時代を専門とする歴史家の清水克行氏の大きな功績だ。
秘境探検もののノンフィクション作家・高野秀行氏との対談本『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社、2015)があまりにも面白かったので、昨年文庫化された『室町は今日もハードボイルド ー 日本中世のアナーキーな世界』(新潮文庫、2024)も読むことにした。
それにしても、室町時代から戦国時代にかけての日本人のぶち切れ方はすさまじい。なにかとすぐにキレて、脊髄反射的に暴力で問題解決しようとする姿勢。武士に限らず、誰もが刀で武装していた時代だ。
登場する人物は、ほとんどが無名の人びとだが、史料から浮かび上がってくるその姿は、秀吉による「刀狩り」を経てから1世紀後の、「暴力を飼い慣らし」た江戸時代中期以降の日本人とはまるで大違いだ。
確実に史料から言えることだけでもスゴイのだから、記録に残されていない事象など、それこそ無数にあったことだろう。 まあ、そういう話は別にしても、とにかく面白いエピソードのオンパレードである。
とはいえ、その時代にはその時代なりの「常識」があり、その背後には「合理性」があるというのが、歴史家としての著者のスタンスである。つまり、中世の日本は現代から見たら「異文化」以外のなにものでもないのである。
高野秀行氏との対談本『世界の辺境とハードボイルド室町時代』では、室町時代の日本は、実質的に無政府状態になっていたソマリアのような状態だったという記述があった。そういうアナロジーも意味あることなのだ。
現代という時代を「相対化」するためにも、読む価値のある本だ。いや、激動化する現在の世界情勢は、中世から近世への移行期に戻りつつあるというべきなのだろうか? #
目 次はじめに第1部 僧侶も農民も!荒ぶる中世人悪口のはなし ― おまえのカアちゃん、でべそ山賊・海賊のはなし ― びわ湖無差別殺傷事件職業意識のはなし ― 無敵の桶屋ムラのはなし ― “隠れ里”の150年戦争第2部 細かくて大らかな中世人枡(ます)のはなし ― みんなちがって、みんないい年号のはなし ― 改元フィーバー、列島を揺るがす人身売買のはなし ― 飢身を助からんがため…国家のはなし ― ディストピアか、ユートピアか?第3部 中世人、その愛のかたち婚姻のはなし ― ゲス不倫の対処法人質のはなし ― 命より大切なもの切腹のはなし ― アイツだけは許さない落書きのはなし ― 信仰のエクスタシー第4部 過激に信じる中世人呪いのはなし ― リアルデスノート所有のはなし ― アンダー・ザ・レインボー荘園のはなし ― ケガレ・クラスター合理主義のはなし ― 神々のたそがれ余話 室町ピカレスク ある地侍の生涯おわりに 歴史は民衆によって作られる対談 ヤマザキマリ×清水克之参考文献
著者プロフィール清水克行(しみず・かつゆき)1971年生まれ。明治大学商学部教授。歴史番組の解説や時代考証なども務める。著書のほか、ノンフィクション作家・高野秀行氏との対談『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社文庫)が話題になった。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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