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2025年6月29日日曜日

映画『LORO イタリアの欲望』(2018年、イタリア)ー ベルルスコーニという実業家から政治家に転身したポピュリストを描いた快作

 

映画『LORO 欲望のイタリア』(2018年、イタリア)という映画を amazon prime video で視聴Loro(ローロ)とは、イタリア語で「かれら」を意味する。ベルルスコーニとその取り巻きたちのことを指しているのだろう。

冷戦構造崩壊後の1995年から2000年代にかけて、断続的だがイタリアで4期合計6年間にわたって首相をつとめたシルヴィオ・ベルルスコーニを描いた作品だ。第1部と第2部の2部構成で156分。

amazon prime video 掲載の概要は以下のとおりである。


政治とカネ、女性問題や失言など数々のスキャンダルで世間を騒がせたイタリアの元首相シルヴィオ・ベルルスコーニ。政敵に敗れて失脚するも、一度はトップに登りつめた怪物的な手腕で、 政権への返り咲きを虎視眈々と狙っていた。セクシー美女を招き、贅の限りを尽くしたパーティーで生気を養い、持ち前のセールストークを武器に足場を固めていくのだが、政治家生命を揺るがす大スキャンダルが勃発するのだった…。


映画では、9ヶ月と短命に終わった政権が崩壊したあと、野党経験を経て2回にわたって連立政権を率いているが、ふたたび2006年に野に下っていたベルルスコーニが2008年に復活するまでを描いている。政権復活後にはラクイアで大地震が発生している。イタリアは地震国なのだ。




ベルルスコーニは実業家から政治家に転じた人物で、その出発点が不動産開発ビジネスだった点はトランプと共通している。その後はメディア王となった新興成金だが、蓄財の過程では脱税やマフィアとの関係などがり、何本も裁判を抱えていた人物でもある。 

日本では、人を食ったようなおふざけ発言や、カネやセックス関連のスキャンダルばかりが取り上げられ、なぜイタリアではこんなトリックスターのような人物が首相なのかという見方をされてきた。 

だが、イタリアでは熱烈な支持者とアンチが賛否相半ばする人物だったようだ。その点でも、トランプ大統領に先行する人物だったといえるかもしれない。 


(日本版トレーラー)

プロサッカーチームのACミランのオーナーであり、もともと学生時代にはプロの歌手として活動していたこともあり、実業家と政治家以外にも多彩な顔を持ち合わせていた怪物的人物であった。

すでに目を通していた『ベルルスコーニの時代 ー 崩れゆくイタリア政治』(村上信一郎、岩波新書、2018)の他に、ベルルスコーニ関連で何かないかと amazon で検索していたら、『LORO 欲望のイタリア』という映画があることをはじめて知った。昨夜のことだ。  

ちょっと見てみるか、といった軽い気持ちで視聴し始めたら、これがなかなか面白い。カリカチュア化された主人公を描いたコメディタッチの作品だが、イタリア人は「ベルルスコーニとその時代」はこういう描き方もするのだな、と。


(オフィシャルトレーラー 英語字幕つき)

  
日本のバブル期のような欲望全開、美女と美食あふれる世界古代ローマなら「サチュリコン」というべきか? 

ただし、日本や米国とは違ってゴルフをプレイするシーンはない。もっぱらプレジャーボートやウォーターバイクなどのマリンスポーツが中心なのは、地中海ならではといえようか。ベルルスコーニの別荘のひとつがあったサルデーニャ島とその海の映像が美しい。 

ベルルスコーニの世界は、新興成金の大金持ちのセレブ限定ではあるが、一般人とくに男性はかならずしも、こんな世界は嫌いではない。ある意味、イタリア人男性の夢を実現した存在と見なされていたのであろう。日本ならスポーツ紙、英国ならタブロイド紙の世界である。 イタリアも同様だろう。

「ほんと、どうしようもね~なベルルスコーニは」感が全面にあふれていながら、かならずしもネガティブな描き方はされていない。とはいえ、植毛手術に入れ歯など、寄る年波を乗り越えるべくアンチエイジングにいそしむ姿には、なんだか哀愁ただよう空気がなくもない。

とにかく面白かった。日本流にいえば清濁併せのむ政治家。自己顕示欲とエゴの塊。それでいて憎めないキャラクター。まさに怪物というべきであろう。日本でいえば、おなじく実業家出身の田中角栄のような存在だったといえようか。

視聴を終えてネット検索してみたら、日本でも2019年に公開されていたらしい。まったく知らなかった。知ってたら見に行ってたのに・・

ベルルスコーニは、一昨年の2023年に亡くなっているが、イタリアでは国葬されている。  日本と同様、ころころと首相が代わるイタリアでは、例外的に連立政権で長期政権を担ったからだろうか。いい意味でも悪い意味でも、ベルルスコーニがイタリアの顔となっていたことは確かなことだ。

ベルルスコーニの「第1次政権」は、1994年5月11日から1995年1月17日までの9ヶ月であったが、6年後に復帰した「第2次政権」は「第3次政権」までつづいて、2001年6月11日から2006年5月17日まで

映画で描かれたのは「第4次政権」での二度目の復活であるが、それは2008年5月8日から2011年11月12日までのことであった。

その点では、安倍晋三元首相と似ていなくもない中道(右派)の連立政権で、1期目の失敗経験から学び、返り咲いた2期目で長期政権を確立した点もまたそうだ。 




ベルルスコーニは、没年の翌年2024年にはイタリアでは切手になっているのだ! この点は台湾で銅像が建ったものの、日本ではまったくその動きのない安倍晋三氏とは違う。 安倍晋三氏が日本の切手になることは、ちょっと想像しにくい(・・外国切手ならその可能性はあるが)。

いやはや、イタリアという国は、ほんと不思議な国である。まあ、外国人からみたら日本も同様なのかもしれないが・・・


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・・イタリアで1978年におきた、極左暴力集団「赤い旅団」によるモロ首相誘拐監禁殺害事件をテーマにした『夜よ、こんにちは』(Buongiorno notte)についても言及


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2025年6月13日金曜日

映画『にがい米』(1947年、イタリア)をはじめて視聴(2025年6月12日) ― いまから80年前のイタリアの田植え風景を映画で見る

 

「令和の米騒動」ということで、コメ問題がここ最近の話題になっているので、稲作農業を扱った往年のイタリア映画を視聴してみた。

タイトルは『にがい米』(Riso Amaro)。モノクロ104分。主演はシルヴァーナ・マンガーノ。

枢軸国の一員だったイタリアは、早くも1943年7月に降伏しているが、この映画は解放後の1947年の製作。日本公開は1949年(昭和24年)。

この映画のことを知ったのは、高校時代のことだったと思う。すでに40年以上も前のことになる。それ以来、『にがい米』というタイトルと、シルヴァーナ・マンガーノという女優の名前は脳裏に刻みこまれた。

世界の名作映画の解説本で知ったのだが、当時は視聴する機会がまったくなかった。なんと、レンタルビデオの時代ですらなかったのだ!

著作権切れで、廉価の DVD が出回るようになったので、数年前に購入しておいた。「イタリア映画コレクション」と題したコンピレーションで、ヴィスコンティやロッセリーニ、フェリーニといった巨匠たちの初期のモノクロ作品10本を集めたものだ。1枚あたり税込み198円は安い。

購入即視聴でもよかったのだが、「令和の米騒動」でコメ問題が話題になっているいま、いい機会だから視聴してみようと思い立った次第。なにごともキッカケは重要だ。

内容は、北イタリアの米作地帯に、40日間の季節労働者として出稼ぎにくる労働者階級の女性たちの世界に、恋愛と男たちの犯罪とをからませたもの。amazon prime video から概要説明を引用しておこう(・・amazon prime video ではは現在無料で視聴可能)。


警官に追われて水田地帯に紛れ込んだ女と田植え女の争いが、2人の男たちを巻き込んでの悲劇になる。社会派監督ジュゼッペは、大衆的なテーマにメロドラマをからませて、見事なリアリズム映画に仕上げた。この作品で爆発的人気を得たマンガーノの初主演作


まあ、内容的にはB級映画だが、なんといってもネオリアリズモ時代のイタリア映画として、約80年前のイタリアの田植え風景が映像化されているのがめずらしく、またたいへん興味深い。

住み込みで働きにくるのは、イタリア北部各地からやってくる季節労働者の女性たち。彼女たちが担った田植えは、見ているだけでも重労働であったことがわかる。。40日間の報酬はコメという現物支給。日本だけでなく、イタリアも貧しかったのだ。

とはいえ、映画の解説本に記述があったと記憶しているが、敗戦で疲弊していた1949年(昭和24年)当時の日本人には、シルヴァーナ・マンガーノのたくましいまでのダイナマイト・ボディは、まぶしいものがあったようだ。

さすがに2020年代の現在は、映画にあるような労働集約型の米作りではなく、機械化が進み(*)、しかも外国人労働者に依存した農業になっているだろうが、イタリアの水田は実見したことがないので、なんともいえない。


(『イタリアという国』(山崎功、岩波新書、1964)の口絵写真より「田植え機」と女性労働者たち)

*すでに映画から17年後の1964年時点で田植えが機械化されたことは、上掲のモノクロ写真でわかる。『イタリアという国』(山崎功、岩波新書、1964)に口絵として挿入されていることを、つい最近知った。(2025年6月25日 記す)


「イタリア北部のポー川流域では米作りが行われている」と知ったのは、高校の地理の時間だったと思う。

米食といえば、白米のご飯かチャーハンくらいしか食べたことがなく、イタリアのリゾットもスペインのパエーリャも、その存在すら知らなかった当時のわたしにとって、それはもう驚きの事実であった。

機会があれば、イタリアやスペインの水田を実際に見てみたいものだ(*)。




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・・北イタリアのロンバルディア地方の稲作農業

・・「日本人も好きなイタリアの米料理リゾット。しかし、その料理に使われるカルナローリ米やアルボリオ米の生産が、イタリアで危機に瀕している。干ばつによって生産量が大幅に減少したことで、2022年10月の卸売価格は前年比で倍以上となった。2023年後半から再び価格は下降したものの、価格は不安定で、農家は危機的な状況にある。」


・・主にイタリアで生産されているインディカ米。
「調味料を吸収する能力が高いことから、リゾットを作るのに非常に適した品種である。でんぷん含有量が高く、食感がしっかりしていて穀粒が長いという点でアルボリオと異なっている。カルナローリはアミロースの含有量が多く、煮崩れしにくいという特性を有している。米としては「超極細」に分類されており、しばしば「米の王」と呼ばれている。」


(カルナローリ米 Wikipediaより)


・・「イタリアの短粒米である。名称はポー平原にある町アルボーリオに因む。アルボリオ米はアメリカ合衆国のアーカンソー州、カリフォルニア州、ミズーリ州でも栽培されている。アミロペクチンの含有量が多いため、調理するとその他の米と比較してやわらかく、滑らかで、コシが強い。アルボリオ米はリゾットを作るためにしばしば使われる。」


(カルナローリ米によるリゾット Wikipediaイタリア語版より)



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2024年7月28日日曜日

映画『LBJ  ケネディの意思を継いだ男』(2016年、米国)を視聴(2024年7月28日)ー 56年前の1968年、再選出馬を断念した大統領が米国にいた



 日曜日(2024年7月28日)の午後は、amazon prime video で無料の映画を見る。 

まずは、ベルナルド・ベルトルッチ監督の初期の代表作『暗殺の森』( Il Conformista、1972年、イタリア)が「4K修復版」が出たということで、何十年ぶりかわからないが、じつにひさびさに視聴。113分。 

反デモクラシーのファシスト政権時代、1930年代のイタリアが舞台。数々の名場面で有名な映画である。体制順応タイプの主人公を演じるのは、フランスの名優ジャン・ルイ・トラティニヤン、そしてドミニク・サンダ。  

後年は、最初から英語で製作し『ラスト・エンペラー』や『リトル・ブッダ』など世界的なヒット作を飛ばしているベルトルッチ監督も、初期においてはイタリア語で映画製作していた。

『暗殺の森』は、暗い時代のヨーロッパが時代背景にあるが、それでもヨーロッパのテイストに満ち満ちた映画である。ハリウッド映画にはない世界観を描いている。それがいいのだ。

映画の舞台となった1938年時点では、フランスはいまだドイツに占領されていない。1943年にムッソリーニが退陣したあと、イタリアはドイツに占領される。


■1960年代前半のアメリカ

そのあとは、1960年代前半の米国を舞台にしたハリウッド映画『LBJ ー ケネディの意思を継いだ男』(2016年、米国)を視聴。97分。こちらはデモクラシーそのものを体現したような戦後アメリカ政治。  

「LBJ」とは、リンドン・B・ジョンソン(Lyndon B. Johnson)大統領の略。日本ではジョン・F・ケネディ(John F. Kennedy)大統領の略称である「JFK」ほど知られていないが、「公民権法」(Civil Rights Act)を成立させるなど重要な仕事をしている。だが、それだけではない。そんな「LBJ」を主人公にして描いたのがこの映画だ。 


(大統領執務室 Oval Office における「LBJ」 Wikipediaより)


民主党の大統領選で指名争いをした「LBJ」だが、JFK は「南部」対策のためテキサス出身で、自分よりはるかに年上でベテラン政治家の LBJ を副大統領に起用する。 

新進気鋭のオバマ大統領が、予備選を争ったベテラン政治家のバイデン氏を副大統領にしたのは、その前例にならったのであろう。

「JFK」はニューイングランドのマサチューセッツ州、オバマ氏はイリノイ州のシカゴ出身であり、ともに進歩的な政治信念の持ち主であった。ただし、バイデン氏はLBJと違って南部の出身ではなく、東部のペンシルヴェニア州の出身である。

ニューイングランドの「ベスト・アンド・ブライテスト」たちは、とかく頭でっかちなところのある理想主義者たちであって、とくに「JFK」の弟のロバートは、地に足の着いた「LBJ」とはケミストリーが合わなかったようだ。

とはいえ、さすがに「JFK」は政治家としての勘に優れていたようだ。あえて、予備選を戦ったライバルであった「LBJ」を副大統領に据えることにした。それはライバルの抱き込みと受け取ることも可能だが、それだけではなかった。

当時の南部は黒人差別が酷く、白人と黒人の分離政策(セグレゲーション)がとられていた。だからこそ、テキサス州出身で南部に顔の利く「LBJ」のチカラに頼ったのである。

1963年にテキサス州ダラスで「JFK」が暗殺されたため、憲法の規定によって大統領に昇格した「LBJ」だが、南部人からの熱い期待があったにもかかわらず、自分自身の政治信条を修正してまで「JFK」の意思を継ぐことを決意する。 

南部のテキサス出身で、やや粗野なところもあるが地味で繊細な人柄であったが、大きな仕事を成し遂げたのであった。 


(公民権法にサインする1964年の「LBJ」 Wikipediaより)



■56年前の「1968年」、再選出馬を断念した大統領が米国にいた

この映画『LBJ』を見ることにしたのは、つい先日(2024年7月22日)のこと、現職のバイデン大統領が再選出馬を断念し、それが「56年前ぶり」だと報道されていたからだ。 

「56年前の」まさにその当事者こそ、おなじく民主党の「LBJ」なのであった。副大統領から大統領に昇格して1年、次の大統領選で勝利して4年。あわせて5年。

「公民権法」成立など大きな仕事を成し遂げた「LBJ」だが、泥沼化するベトナム戦争に対する反戦運動が盛り上がり、1968年の再選出馬を断念したのである。 

映画では描かれていないが、「LBJ」とは因縁の関係にあった、JFKの弟のロバートが予備選に出馬するが暗殺されてしまう・・・ 。アメリカ社会にとって「1968年」とは、そんな時代であった。


暴力は、反デモクラシーだけでなく、デモクラシーにおいても、残念ながら切っても切り離せない関係にあるのだ。 『暗殺の森』を見た後に『LBJ』を見て、その感をあらためて強くしている。

そして、悪化しているアメリカ内部の「分断」も、近年現在始まったわけでもないこともまた。 


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<ブログ内関連記事>

・・成長著しいテキサス州

・・「クリス・カイルはテキサスの生まれ。マッチョな価値観が支配的な保守的な南部の出身である。 子どもの頃からライフル射撃を仕込まれた主人公は、こういう教えをたたき込まれて育っている。 世の中には3つのタイプの人間しかいない。ヒツジ(sheep)と、ヒツジを襲うオオカミ(wolf)と、ヒツジを守る番犬(sheep dog)である。男の子は、ヒツジを守る番犬になれ、と。 きわめて単純明快で、かつキリスト教的な色彩のつよい価値観である。アメリカ南部は「バイブル・ベルト」と呼ばれている地域である。」








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2017年12月9日土曜日

映画『悪魔祓い 聖なる儀式』(2016年、イタリア)を見てきた(2017年12月4日)― シチリアのパレルモの教会で行われる悪魔祓い(=エクソシスト)を描いたドキュメンタリー映画



映画『悪魔祓い 聖なる儀式』(2016年、イタリア)を見てきた(2017年12月4日)。イタリア南部のシチリアのパレルモの教会で行われる悪魔祓い(=エクソシスム)の一部始終を記録したドキュメンタリー映画である。

エクソシストというと、映画『エクソシスト』のことを想起するだろうが、じっさいの悪魔祓いの現場は超常現象ではない。精神や肉体の病を抱えていながら、いかなる治療にも見放されたあげくにたどりついたラストリゾートともいうべき存在が悪魔祓いの執行者、すなわちエクソシストなのである。

カトリック国イタリアの場合は、カトリックの司祭が執り行う悪魔祓いになる。精神医学や心理療法では解決不能な問題が悪魔祓いによって解決されることもある。ただし、解決までに至る期間は人によって大いに異なる。

このドキュメンタリー映画は、背景説明もほとんどなく、悪魔祓いを行う老司祭と、悪魔祓いの対象となる人(・・女性が多い)と、その家族のやりとりを映像と音声として記録したものだ。全編がほぼ悪魔祓いの祈祷と会話でのみ成り立っている。

普段はふつうに日常生活を送っている快活な人たちが、教会で行われる悪魔祓いの儀式に参加すると、突然大声を出して暴れ出したり、地面に這いつくばって獣のような行動を示したりする。あまりの変貌ぶりには、正直いって驚かざるを得ない。衝撃的といってもいいだろう。



こういう書き方をすると、たんなる興味本位の映像作品のような印象を与えてしまうかもしれないが、悪魔祓いの対象者の人生をそのものが視野に入ってくることで、興味本位の関心ではない関心が見る者のなかに生まれてくるだろう。

とはいえ、突然の大声での絶叫には、映画を見ながら眠気をもよおした者も驚かさずにはいられない。悪魔が憑依していると思い込んでいる人たちも、教会で悪魔祓いの儀式が始まったとたんに悪魔が目覚めることになる。そういう状況のなかで、あくまでも冷静にかつ情熱を込めて祈祷文を繰り返しクチにする老司祭の姿が印象的だ。

悪魔祓いで使用される祈祷文は何度も繰り返されるだけでなくシンプルな祈願文なので、字幕を見ているとイタリア語も理解できてしまうくらいだ。つまり、悪魔祓いの儀式自体はきわめて単調なものだ。悪魔祓いによって喚起される「悪魔」と、悪魔祓いそのものは同じではない。

映画の原題は Liberami(リベラーミ)、イタリア語で「わたしたちに届けてください」という意味だ。その意味は、映画をみて考えてみるといいだろう。


(イタリア版ポスター 伝統的な悪魔のイメージが投影)


先日は、NHKのBSでも 『世界神秘紀行「イタリア エクソシスト VS.悪魔』というドキュメンタリー番組が放送されている(2017年8月5日)が放送されており私も視聴したが、映画 『悪魔祓い 聖なる儀式』(2016年)とは異なる対象を取材しているので、悪魔祓いの「事例」としては映画も見る価値がある。
 
なぜ現代人が悪魔祓いに救いを求めるのか、そしてなぜ悪魔祓いを求める需要が増大傾向にあるのか、その理由は映画ではよくわからないが、そういう傾向が確実にあるということは明らかなのだ。

悪魔祓いは、けっして超常現象でも、過去の中世の話でもない。いま、まさに現在のイタリアではさかんに実行されていることであり、映画の最後の方でローマでの研修会のシーンを見ればわかるように、世界中のカトリック司祭が関心を抱いて研修に参加しているのである。

なかにはアフリカ人司祭たちや、フィリピン人かベトナム人かとおぼしきアジア人司祭たちも映画に登場していた。ちなみにカトリック人口の多い韓国では、『プリースト 悪魔を葬る者』(2016年)という映画が製作されている。悪魔祓いは、シャマニズム傾向の強い韓国では関心も高いのであろう。

たんなる興味本位の関心からでもいいが、このドキュメンタリー映画をみることは、現代人が抱えている心の問題を考える一つのアプローチになることは間違いない。


画像をクリック!



<関連サイト>

映画 『悪魔祓い 聖なる儀式』(公式サイト)

Liberami, clip del film (イタリア語版 YouTube映像)


<ブログ内関連記事>

書評 『治癒神イエスの誕生』(山形孝夫、ちくま学芸文庫、2010 単行本初版 1981)-イエスとその教団の活動は精神疾患の「病気直し」集団のマーケティング活動
・・そもそもキリスト教は「病気治し」、しかも「心の病の治癒」から始まったのだ

ヘルメスの杖にからまる二匹の蛇-知恵の象徴としての蛇は西洋世界に生き続けている

書評 『河合隼雄-心理療法家の誕生-』(大塚信一、トランスビュー、2009)-メイキング・オブ・河合隼雄、そして新しい時代の「岩波文化人」たち・・・

書評 『韓国とキリスト教-いかにして "国家的宗教" になりえたか-』(浅見雅一・安廷苑、中公新書、2012)- なぜ韓国はキリスト教国となったのか? なぜいま韓国でカトリックが増加中なのか?

(2017年12月10日 情報追加)


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