新潮社から発行されている月刊情報誌「フォーサイト」(Foresight)が休刊、という知らせが購読者である私あてにメールで送信されてきた。
「フォーサイト」よ、お前もか!?・・(絶句)
雑誌の世界では「休刊」というと、実質的には「廃刊」とほぼ同義語である。雑誌のための編集チームは解散し、再建するには「創刊」と同等のカネとエネルギーを要するからだ。
メールで送信されてきたお知らせを転載しておこう。
「フォーサイト」休刊のお知らせ
「フォーサイト」を創刊したのは、ベルリンの壁が崩壊し、米ソの首脳会談で「冷戦の終結」が宣言されて間もない1990年3月のことでした。国内的にはバブル経済が崩壊しようとしていた時期にあたります。以来、二十年間、冷戦後の国際情勢と日本の政治経済の最先端の動きを伝えるクオリティ誌として、政界、官界、経済界を中心に高い評価を得てきました。
しかしこのたび、創刊二十年を一つの区切りとして、2010年3月20日発売の4月号をもって、休刊をすることになりました。その理由としては、(1)厳しい出版状況に直面する中で、全社的な事業の再編、特に雑誌部門の見直しが避けられなくなったこと、(2)二十年間の健闘はあったものの、今後の収支改善の見通しが立たないこと、(3)インターネットの普及で、国際政治経済情報を扱う月刊誌の役割が大きく変化したこと――の三点があります。
長年にわたって「フォーサイト」にご協力いただいた寄稿者をはじめとする関係者の方々、そして、なによりもこの定期購読誌を支えていただいた読者の方々に、この場を借りて、心よりの感謝を申し上げたいと存じます。
「フォーサイト」の刊行を通じて培われた経験は、小社の今後の出版活動に生かしていく所存です。
2009年12月 新潮社
「フォーサイト」を購読するようになってから何年たつだろうか。少なくとも10年以上は購読してきたように思う。一度だけだが「読者の声」に採用されて薄謝をいただいたこともあった。
同様のコンセプトをもつ「選択」と並んで、日本語で読める、読みでのある、価値ある国際情報誌として愛読してきたのだが、やはり紙媒体の硬派な雑誌には限界があるのだろうか。
「フォーサイト」に掲載される論文は一部を除いてすべて記名原稿である。これは「選択」が英国の The Economist と同様に無記名原稿を貫いているのとは好対照であった。
記名原稿の筆者は発表媒体としての「フォーサイト」が休刊になっても、執筆者自らの名前がもつブランド力で執筆活動を行う事は可能だろう。
一方、無記名原稿である「選択」の場合は、雑誌じたいが培ってきた信用力というブランドがあり、執筆者は情報ソースも明かす必要がないので、安心してかなりきわどい話も書くことができる。これは雑誌がなくなると同時に、濃い内容の原稿が書けなくなることを意味する。
「選択」は、数十年以上にわたる定期購読者という固定客をがっちり押さえた上で、ビジネス街の書店では店売りもしている。ほとんど広告掲載なしでも雑誌の事業採算が取れていることは、訴訟を多数抱えながらも最後まで採算が取れていた「噂の眞相」に匹敵すると行ってよいだろう。雑誌じたいのブランド力には揺るぎない(?)ものがある。
おそらく「フォーサイト」休刊は、媒体の性格というよりも、「媒体のもつブランド力」と「執筆者個人のもつブランド力」のせめぎ合いのなか、ウェブも含めた媒体のなかで、この雑誌が単なる一媒体となってしまったことに原因があるのかもしれない。
とはいえ、The Economist も紙媒体は残しながら、主力はウェブに移行している。購読者にならないと、読めない記事も多い。
また日本でもジャーナリスト田中宇(たなか・さかい)氏による「田中宇の国際ニュース解説」のように、無料配信ニュースと有料版を組み合わせている試みもある。
「フォーサイト」も、おそらくこういうモデルも検討したはずであろうが、チカラ及ばずだったのだろうか。執筆者個人が発信する情報のチカラが、インターネット時代は想像以上に増しているのかもしれない。
私も自分のブランド力をいかに構築するか、これが大きな課題だな・・・
しかし、「フォーサイト」休刊は、まことにもって残念なニュースであった。2010年4月の「休刊」まで残すところあと4冊である。
(2012年7月3日発売の拙著です)
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