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2015年11月5日木曜日

書評『軍事大国化するインド』(西原正・堀本武功=編、亜紀書房、2010)-「軍事大国化」への道を進む巨象インドの実態を知ることのできるバランスのとれた入門書


つい先日(2015年10月14日)のことだが、インド海軍と米国海軍の合同軍事演習マラバールに、2007年以来8年ぶりに日本の海上自衛隊が参加したというニュースが流れていた。

その背景には、南シナ海のみならずインド洋においても中国海軍のプレゼンスが強大化しつつあるという否定できない現実がある。インド洋での合同軍事演習への日本の参加を非難する中国の反発を懸念して、インドは日本を招待していなかったのだ。

だが、「真珠の首飾り」戦略というフレーズに端的に表現されているように、いま南アジアにおいては、中国がインド周辺に着々と拠点を築きインドを包囲する方向に進んでいる。強い危機感を感じるインドは、中国を牽制するために「軍事大国化」を急いでいるのである。

もちろん、日本にとってはシーレーン防衛という観点から、太平洋だけでなく、中近東からインド洋にいたる海域の重要性は増すばかりである。その意味でも日本とインドは共通の利害関係をもつのである。

では、インドの軍事力の実態はいかなるものなのか? 「軍事大国」というイメージだけが一人歩きしつつあるのは、中国もインドも同じだろう。巨象にもたとえられることのあるインドである。言語も宗教も複雑にからみあった世界最大の民主主義国家インド。そんなインドの軍事力もまた、一筋縄でいくものではないだろうことは容易に想像できる。

「群盲象をなでる」というフレーズがあるが、そんな巨象インドの軍事にかんして、ザックリした見取り図が得られるのではないかと期待して、入門書としての本書を読んでみた。

読んでみての感想としては以下のとおりだ。報告書のような淡々とした叙述だが、けっして無味乾燥ではない。編著でありながら、全体的な首尾一貫した論調が貫かれており、論理的で平明な文体で、最初から最後まで読むことがまったく苦痛ではない。編著者の力量と学問的良心を感じさせるものがある。こういう本は、じつはなかなか少ないのだ。

あくまでもインドの立場からインドの軍事を考えるという視点が本書を貫いている。日本側によるインドに対する勝手な期待や希望的観測を拝し、あくまでも事実に基づいて正確な姿を描き出そうとしている。この基本姿勢はじつに好ましい。

インドが「軍事大国化」を目指しているのは、端的にいって中国に対する牽制だが、インドと中国の関係は、日本と中国の関係と同様に、経済と軍事では大きなねじれが存在する。ここまでは一般常識の範囲内であろう。

だが、本書から得られる「軍事大国」インドのイメージは、反中の姿勢に立つ日本の一部論者が勝手に期待しているものとはだいぶ異なるという印象を受ける。

過剰なまでに中国を意識し、中国を実質的な「仮想敵国」としているインドだが、中国と比較すれば明らかにインドは劣勢である。米国や中国共産党とは異なり、戦略構想を欠いたままの軍事大国化であり、陸海空三軍の統合機能が弱い、という。まるで敗戦で壊滅的状況を迎えた帝国陸海軍を想起してしまうではないか!

核兵器にかんしては自力で開発をする能力をもつが、通常兵器体系は冷戦時代には実質的な軍事同盟関係にあったソ連(=ロシア)のものであり、国産にこだわるインドの兵器開発は非効率、そして兵器の多くは艦船も含めて老朽化している。

世界最大の民主主義国インドは、巨大官僚制国家でもある。軍隊もまた官僚制である以上、非効率であることは推して知るべしといったところだ。

しかも、複雑な宗教情勢に加え、極左集団やイスラーム過激派のテロなどの国内治安問題は海外勢力と連携しており、国内の治安維持と海外安全保障は密接な関係にもある。

こんな風にみていくと、軍事大国化するインドだが、方向性についてはさておき、実態面ではさまざまな問題を抱えていることが理解されるのである。本書には記述はないが、実際の運用面での問題はさらに多いことだろう。なんせインドは多言語で他宗教の複雑な状況にあるからだ。

かつてはソ連(=ロシア)と密接な関係にあったインドだが、近年は米国とのあいだででも密接な軍事関係をもつようになっている。

日本との関係もその枠組みのなかで進行しているが、現時点におけるインドと日本との関係は、あくまでも相対的なパワーバランスの観点に基づく補完関係にある。「成長するインド」と「衰退する日本」のパワーバランスが逆転するあかつきには大きく変化していくことも予想されるという指摘には、おおいに納得させられるものがある。

巨象インドを理解するのは容易なことではない。軍事面にかんしても、「軍事大国化」というイメージだけで判断するのではなく、事実関係にもとづいた理解が必要なことはいうまでもない。

そのためには一読しておく価値のある本だといえるだろう。





目 次

はじめに
第Ⅰ章 南アジアの大国インドと日本
  (1) 軍事大国化への動き
  (2) 軍事力整備を図るインド
第Ⅱ章 インド・インド洋をめぐる主要国の狙い
 1. インド・インド洋の地政学的重要性
 2. インドをめぐる米中ロ日の動き
   (1)  インドをめぐる米国の動き-戦略的パートナーシップの展開
   (2) インドをめぐる中国の動き
   (3)  インドをめぐるロシアの動き-戦略的パートナーシップ
   (4) インドをめぐる日本の動き-順調な日印安全保障関係と今後
 3.  インド周辺国、インド洋をめぐる動き
   (1)  インドとパキスタン、アフガニスタン
   (2) インドとその周辺国
   (3)  インド洋をめぐる動き
第Ⅲ章 大国化するインドの軍事力-その現状
 1. 軍事力・軍事費の評価-概観
   (1)  大国化するインド
   (2) 軍事力の評価方法
   (3)  軍事費に見るインドの軍事力
 2. インド軍の戦略と通常戦力
   (1)  インド軍の略史
   (2) インド軍の目的・戦略
   (3)  インド軍の軍事的整備
   (4) インド軍の将来
 3. インドの核軍事力
   (1)  核兵器開発略史
   (2) インドとパキスタンの核戦力と戦略
   (3)  インド核軍事力の展望
  【資料】インド「核ドクトリン」抜粋
       インド「核ドクトリン運用化レビュー」抜粋
 4. インドの国内治安-連携ある治安対策の重要性
   (1)  インドにおける治安問題
   (2) 治安対策と問題点
  (3)  今後の展望
第Ⅳ章 インド・南アジア・インド洋・アフガニスタンの将来
 インド安全保障態勢のゆくえ
   (1)  米国のプレゼンスとインド・中国
   (2) インドと周辺国の宿命的な対立
   (3)  インド洋をめぐる印中米の争い
   (4) インドの将来
巻末資料
索引
編著者紹介


編著者プロフィール

西原正(にしはら・まさし)
平和・安全保障研究所理事長。ミシガン大学大学院修了(Ph.D.取得)。防衛大学校長などを経て現職。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

堀本武功(ほりもと・たけのり)
尚美学園大学教授。京都大学大学院特任教授、拓殖大学大学院客員教授。中央大学法学部卒、デリー大学大学院修了。南アジア国際政治専攻。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<関連サイト>

NHK時論公論 「"軍事大国化"するインド」(2013年8月22日)


<ブログ内関連記事>

書評 『巨象インドの憂鬱-赤の回廊と宗教テロル-』(武藤友治、出帆新社、2010)-複雑きわまりないインドを、インドが抱える内政・外交上の諸問題から考察

書評 『インド 宗教の坩堝(るつぼ)』(武藤友治、勉誠出版、2005)-戦後インドについての「生き字引的」存在が宗教を軸に描く「分断と統一のインド」
・・こんな複雑な状況にある国の軍隊であるということを忘れるべきではない

書評 『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中島岳志、中公新書ラクレ、2002)-フィールドワークによる現代インドの「草の根ナショナリズム」調査の記録
・・インドの宗教問題を複雑化させているヒンドゥー至上主義者とその政党であるBJPについて。『軍事大国化するインド』(2010年)の出版後、ふたたびBJPが政権に復帰した。ナショナリズムが軍事大国に拍車をかけるか?

「ナレンドラ・モディ インド首相講演会」(2014年9月2日)に参加してきた-「メイク・イン・インディア」がキーワード
・・2014年の政権交代の結果、返り咲いたBJP(=インド人民党)の党首モディ

ボリウッド映画 『ミルカ』(インド、2013年)を見てきた-独立後のインド現代史を体現する実在のトップアスリートを主人公にした喜怒哀楽てんこ盛りの感動大作 ・・新生インド陸軍の兵士となってから陸上競技に開眼したミルカ

書評 『インドの科学者-頭脳大国への道-(岩波科学ライブラリー)』(三上喜貴、岩波書店、2009)-インド人科学者はなぜ優秀なのか?-歴史的経緯とその理由をさぐる ・・核ミサイル設計能力を自力で有する科学大国インド

梅棹忠夫の『文明の生態史観』は日本人必読の現代の古典である!
・・インドの地政学的位置と文明を、東洋と西洋の中間にある「中洋」と命名した梅棹忠夫

書評 『中国は東アジアをどう変えるか-21世紀の新地域システム-』 (白石 隆 / ハウ・カロライン、中公新書、2012)-「アングロ・チャイニーズ」がスタンダードとなりつつあるという認識に注目!
・・経済と軍事のねじれは東アジアではすでに常態。南アジアでもまた



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