「第67回GRIPSフォーラム」で、タイ前首相アピシットの話を聞いてきた。GRIPSとは、National Graduate Institute For Policy Studies の略、日本語では政策研究大学院という大学院大学である。東京の六本木にある。
67th GRIPS Forum on 2nd July【ご案内】7/2 第67回GRIPSフォーラム
日時: 7月2日(月) 16:40~18:10
場所: 政策研究大学院大学 1階 想海楼ホール
講演者: アピシット・ウェーチャーチーワ氏(前タイ王国首相、タイ王国野党党首)
演題: 「Realizing the Asia-Pacific Century: the Challenge of Reform」
言語: 英語 (日本語同時通訳付き)
アピシット氏は、2008年12月から2011年8月までタイ王国の首相を務めた。現在まだ47歳だが、クーデター後の混乱するタイを、なんとか平常化した手腕は評価されてしかるべきであろう。
GRIPSの資料によれば、アピシット氏のプロフィールは以下のとおりである。
■学歴
英国オックスフォード大学 哲学・政治学・経済学学士課程首席卒業
英国オックスフォード大学 経済学修士課程修了
ラームカムヘーン大学(タイ)、法学部学士課程卒業
ラームカムヘーン大学、法学部名誉博士号取得
ラームカムヘーン大学、英語学名誉哲学博士号取得
■政治的経歴
1990年: タマサート大学、経済学部教員
1992年3月: バンコク、民主党国会議員初当選
1992~1994年: チュアン政権下政府報道官
1995~1997年: 民主党報道官
1995年初め: 首相副秘書官政治担当(スパチャイ・パニチャパック副首相)
1995~1996年: 下院教育委員会委員長
1997~2001年: 首相官邸大臣
1999~2005年: 民主党副党首
2005~2006/2008年: 野党党首、下院議員
2005年~現在: 民主党党首
2008年12月~2011年8月: タイ王国 首相
現在: 野党党首、下院議員
さらにつけ加えておけば、現在の政権党である政敵のタクシンとは、おなじ客家の華人系タイ人である。
ただし、タクシンのチナワット・ファミリーは地方都市チェンマイ出身の立志伝であるのに対し、アピシットのウェーチャチーワ・ファミリーは首都バンコクの知的上流階級である。
タクシンは陸軍士官学校卒業でアメリカ留学組、その妹のインラックもアメリカ留学組であるにに対して、アピシットは英国のオックスフォード大学出身。この点が英国モデルの王室のウケもいい理由の一つだろう。
いちおう原稿は用意しているようだが、ほとんど見ずにジェスチャーを交えてしゃべっていたが、もちろん政治家として講演慣れしていることだけではあるまい。
さすが、オックスフォード大学のPPE(=Philosophy, Politics and Economics:哲学政治経済専攻)卒業のアピシット氏、オックスフォード仕込みの英語スピーチは、あえて書くまでもないのだが、どこかの国の首相とはまったく違う。中身があって、しかもわかりやすい説得力のある英語である。
ちなみにミャンマーのアウンサンスーチーさんも、オックスフィード大学でPPE専攻で、カレッジは違うが、アピシット氏の先輩にあたる。オックスフォード大学とカレッジの関係については、日本語の本で知る英国の名門大学 "オックス・ブリッジ" (Ox-bridge)を参照。
今回の講演は、大学、しかも本国のタイではなく、先進国日本の大学院大学での講演だということもあるのだろう、生臭い政局の話はいっさい抜きの政策論に終始していた。
「新成長モデル」など、アジア太平洋全体を視野にいれた政治構想を自分のコトバで語れるのはすばらしい。
「新成長モデル」は、アピシット氏の表現によれば、「BIG ASIA から BIGGER ASIAへ」というもの。
本人の説明によれば、BIG ASIA の BIG とは「大きい」という意味ではなく、英語の頭文字を三つあわせたもの。すなわち、Balance の B に、Inclusive の I、それに Green の G である。
それぞれ、経済などさままな意味でのバランス、全部ひっくるめた包括的なという意味の inclusive、それに環境を意味するグリーンだ。
講演のなかでは、「さらに BIGGER ASIA を目指そう」という話をしていた。これも「より~な」という比較級の意味を兼ねているが、-GER にも意味があるらしい。
同じく本人の説明によれば、二番目の G は Good Governance、E は Emergency、R は Regionalism をそれぞれ意味しているのだという。良いガバナンス(統治)、緊急性、地域主義である。
さきのバランス、包括的、グリーンもふくめて、この6つの要素は、それぞれ一筋縄ではいかないものではあるが、いずれも念頭に置かなければ、アジア太平洋地域の未来は描くことはできないだろう。
講演60分に質疑応答30分、講演が終わったあと、その日のフライトでタイに戻るとのことだった。今年はすでに三度目の来日とのこと。
フットボール(=サッカー)の話を比喩につかって語るのも、英語をしゃべるタイ人ならではという感じだった。
イケメンのアピシット氏はは現在47歳、政治家は見た目も大事ということかな。まだつぎの政権交代で首相に返り咲く可能性があるわけだから要注目である。
頻繁な首相交代という点においては、日本とは似たような政治情勢であったタイだが、いまの日本よりも安定性があることは否定できない。
<ブログ内関連記事>
「GRIPS・JBIC Joint Forum"After Fire and Flood: Thailand's Prospects"」と題したタイの政治経済にかんする公開セミナーに参加してきた(2012年2月23日)
日本語の本で知る英国の名門大学 "オックス・ブリッジ" (Ox-bridge)
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