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2012年7月18日水曜日

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?


なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?

「3-11」の原発事故からすでに一年半ちかくたっている。

ツイッターでの呼びかけで「反原発」のデモが日本でも急速に拡がっているが、じっさいに大きく動いた政治的動きといえば、なんといってもドイツで「脱原発」が国是として「挙国一致」で承認されたことだろう。

しかも、もともと物理学者で原発推進派であったメルケル首相が「転向」し、「脱原発」におおきく舵を切ったのはなぜか、原発事故の当事国に住む日本人としては大いに気になる疑問である。

本書は在ドイツ20年以上のジャーナリストが書いた、「反原発」運動を軸にした戦後ドイツ史でもある。

「宗教戦争」につづいて起こったのは17世紀に「ドイツ30年戦争」であったが、それを想起させるような「ドイツ原子力40年戦争」という表現を使用したドイツ史の見方が興味深い。

いまから四半世紀以上前の1986年に発生したチェルノブイリ原発事故の恐怖は、遠く離れた日本でも大きな反響を起こしたが、風が吹く方向に位置しているドイツでは放射能被害が実際に発生したのであった。

この点を抑えておかないと、なぜドイツでは反原発が国民レベルで盛り上がったのか理解できない。ドイツにとっては「9-11」のテロとならぶインパクトがあったのだ。「3-11」は、ドイツにとってパラダイムシフトとなったのである。

著者が指摘するのは、まずはドイツ人の悲観主義と不安心理リスクに対する敏感さといった基本的に変わらない行動様式である。

その解説に加え、メルケル首相の変わり身の速さという現実主義、もともと物理学者であるメルケル首相の科学的思考連邦国家ドイツにおける中央対地方という政治状況と地方への補助金の少なさ、環境政党である緑の党原子力規制官庁の独立性と州政府のつよい権限などが要領よく解説されている。

そのいずれもが、現代ドイツの事情には詳しくないわたしのような読者には興味深い。

本書を読むと、先進工業国という共通性をもちながら、およそドイツ人と日本人は似て非なる民族であることが手に取るようにわかる。

ユーラシア大陸の東端にある島国と、大陸の「中欧」国家であるドイツとは地政学的条件もまったく異なるのである。陸続きで何度も国土を蹂躙された経験をもつドイツ人の不安心理は長い歴史経験からくるものであろう。

本書を読んで、日本人とドイツ人のリスクにかんする意識の違いはわかった。もちろん日本人の「根拠なき楽観」は大きな問題だが、といって一概にドイツを礼賛する気にはなれない。なんだかナチスドイツに一斉になびいた戦前のドイツを想起してしまうからだ。

こういう感想をもつのはわたしだけかもしれないが、「脱原発」については、日本はかならずしもドイツのようにいかないことは、本書を読んでよく理解できた。

原発問題に関心のある人は、立場がどうであれ、ぜひ読むことをすすめたい一冊である。



<初出情報>

■amazon書評「なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?」(2012年3月26日)


*再録にあたって加筆を行った。





目 次

まえがき

第1章 甦るチェルノブイリの記憶
第2章 ドイツ原子力四〇年戦争
第3章 フクシマ後のリスク分析
第4章 はじめにリスクありき-日独のリスク意識と人生観
あとがき
主要参考文献
主要参考ウェブサイト


著者プロフィール

熊谷徹(くまがい・とおる)

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に執筆している。『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。Mixii、Facebook、Twitter でも実名で記事を公開中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

ドイツ通のジャーナリスト熊谷徹氏の記事は、日経ビジネスオンラインでも連載されることがあるので、読んだことのある人も少なくないと思う。

わたしはにとっては、『顔のない男-東ドイツ最強スパイの栄光と挫折-』(新潮社、2007)以来である。手堅い取材と調査を組み合わせた読みでのあるノンフィクションであり、本書もまた一般向けでありながら、玄人も読んで納得といった内容になっていることと思う、

ドイツはいち早く「脱原発」を全世界にむけて「脱原発」を宣言したわけだが、さまざまな矛盾が存在することもまた事実である。

たとえば、ヨーロッパの送電網はドイツもふくめたネットワークとしてつながっているので、価格メカニズムが働くと、ドイツの電力よりも安い電力が近隣諸国から流入するという矛盾がある。

典型的な原発依存国といえば、西隣のフランス、そして東隣の工業国チェコである。

たとえ原子力発電によるものであっても、電力じたいに色がついているわけではないので、この矛盾はドイツ人も感じにくいのかもしれない。

ユーロ危機にある現在、欧州経済はドイツ一人勝ちの様相を呈しているが、「脱原発」を宣言できる経済的な背景も考慮に入れておく必要があるだろう。日本は、近隣諸国とは電力融通のネットワークはできていない。

倫理委員会の提言は、事実やデータもさることながら原理原則を貫くというのもドイツ流である。ドイツが哲学者と思想家を多量に輩出してきた理屈っぽい国民性を思い起こさせるものがある。とかく無原則になりがちな日本人との大きな違いである。

本書で特筆すべきなのは、ドイツ人の悲観主義にかんする考察であろう。こういう考察は、文献だけではわからない。何といっても、ドイツ社会のなかで暮らし、日常的にドイツ人と接する生活を送っていないと気がつかないものだ。

Angst(アングスト)というドイツ語は、英語圏でも比較的よく知られているものだが、生活実感の裏付けがある著者が取り上げると、読者にもそれが伝わってくる。



<関連サイト>

Toru Kumagai Official Website (ジャーナリスト熊谷徹氏の公式ウェブサイト)

ドイツ、「脱原発」に潜む意外な問題点原子力発電降板への長い道のり(シュヴァルツァー節子、日経ビジネスオンライン、2016年6月21日)
・・ビジネスコンサルタントの視点でエネルギー転換のもつ問題点を正確に記述

(2016年6月21日 情報追加)


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