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2012年7月26日木曜日

書評 『赤 vs 黄-タイのアイデンティティ・クライシス-』(ニック・ノスティック、めこん、2012)-分断されたタイの政治状況の臨場感ある現場取材記録



買ったまま読んでなかった 『赤 vs 黄-タイのアイデンティティ・クライシス』(ニック・ノスティック、めこん、2012)を読んだ。

2006年以来、赤シャツと黄シャツという、わかりやすい対立構造が続いているタイの政治状況だが、2010年の3月から5月にかけては、「バンコク騒乱」というカタチで、ほとんどバンコク市内が内戦状態になったことは日本でも大々的に報道されたので、覚えている人も多いのではないかと思う。

本書は、2006年のタクシン政権以来、対立が顕在化した「赤 vs 黄」を、現場で取材をつづけてきたドイツ人のフォトジャーナリストの著者が、豊富な写真とともに一冊にまとめたものだ。

原著が出版されたのは2009年なので、2010年の「バンコク騒乱」は扱っていないのが残念。ただし、対立の基本構造を時系列で追っているので、あとからトレースするにはありがたい一冊になっている。著者はタイ語にも堪能で、事件現場で体当たり取材をしている人なので、記述には臨場感がある。

わたしは、クーデター前後から頻繁に訪問するようになり、2008年のバンコク国際空港封鎖事件の頃はバンコクに住んで仕事していた。まさに、本書が扱っている時期にバンコクに住んでいたわけだ。

もちろん、現地の英語紙やテレビで時々刻々と変化する情勢は追っていたが、ビジネスパーソンの本業は当然ながらビジネスであるので(!)、ディテールまでは把握仕切れていなかった。

著者は、赤シャツ(UDD)側であると見なされて、命の危険も感じていたようだが、黄シャツ(PAD)とくらべて赤シャツ(UDD)のほうが、外部に対してより開放的で、ジャーナリストの取材も受け入れているということも背景にあるようだ。

赤シャツ(UDD)側から見れば、日本のエスタブリッシュメントからはいまだに評価の高いチャムロン氏と彼が率いるサンティ・アソーク(Santhi Asoke)という新興仏教教団の性格も見えてくる。黄シャツ(PAD)がカルト化しているという指摘は、なるほどと思わされるのだ。

いままで政治的な「声」をもたなかった農民を中心とする一般大衆が、はじめて政治的主張を行うようになったのが赤シャツ(UDD)の政治活動の本質である。これは歴史の必然的流れといっていい。一般大衆が歴史の主人公になってきたのである。タクシンの政治的カリスマ性とは別個の現象として捉えるべきなのだ。

日本でも、いま原発反対デモが活発化してきているが、党派性を廃した開かれたデモである限り、政治的な「声」としての意味をもつといってよいのではないだろうか。

たとえ暴力的な性格がつよいとはいえ、この点については、タイのほうが民主主義の追求にかんしては積極的であるような印象を受けるのである。もちろん、日本はそういった暴力的な時代はすでに「卒業」しているというべきかもしれないが、ようやく日本人も草の根レベルで目覚めてきたというべきかもしれない。

そんなことを考えながら、バンコク時代の日々を思い出しつつ、読み終えた次第。

訳注が訳文のなかに折り込まれているのが、ややうっとおしいことを除けば、読みやすい記録だといえよう。






*PADは、People's Alliance for Democracy の略。民主市民連合。黄シャツ。
*UDDは、National United Front of Democracy Against Dictatorship の略。反独裁民主戦線。赤シャツ。



目 次

年表 PADとUDDから見たタイ政治の動き*2006年-2011年9月
地図
はじめに
プロローグ
第1章 2001~2005年:タックシンの時代
第2章 2005~2006年:黄色派の形成
第3章 2006~2007年:クーデタと赤シャツの誕生
第4章 ゲーム開始
第5章 2008年8月29日:法治社会の崩壊
第6章 2008年9月2日:マカーワン橋の闘い
第7章 2008年10月7日:黒い火曜日
第8章 余波、幕間
第9章 最後の決戦
第10章 アピシットへの抗議
第11章 ゲームは終わらない
後記
原註
訳者あとがき-PADとUDDは、何を問題にして対立しているのか


著者プロフィール

ニック・ノスティック(Nick Nostitz)
1969年生まれ。1993年以来バンコクに居住して働いているドイツ人写真家のペンネーム。タイ語に堪能で、一般旅行者が見ることのないタイ社会の底辺を専門にしている(the professional name of a German photographer who has lived and worked in Bangkok since 1993. Fluent in the Thai language, he specializes in the lower levels of the country's society seldom seen by casual visitors.)(wikipedia 英語版の記述による)。

翻訳者プロフィール

大野 浩(おおの・ひろし)
1956年東京生まれ。1979年、慶応義塾大学経済学部卒、太陽神戸銀行入行。シンガポール支店、ロンドン支店勤務を経て、1998~2001年、タイさくら金融証券会社、タイさくら金融会社勤務。2007~2010年、財団法人日本タイ協会事務局長、常務理事。2011年、三明化成株式会社勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

原書のタイトルは、Red vs. Yellow: Volume 1: Thailand's Crisis of Identity で、タイの英語出版社 White Lotus(白蓮出版) から2009年に出版されたもののようだ。


日本語版には、つづきは続編として執筆するとあったが、それは Red Vs. Yellow, Vol. 2: Thailand's Political Awakening (タイの政治的覚醒)として2011年に出版されていることもわかった。



とくに第2巻の副題である「政治的覚醒」は、著者の歴史認識のただしさを示しているといえよう。ぜひ読んでみたいが、日本語訳がでるのかどうかは現時点では不明。

原著は、バンコクでならまだ入手可能かもしれない。


PS なお、第2部は『赤vs黄 第2部-政治に目覚めたタイ-』(めこん)として、2014年10月にに日本語版が出版された。(2015年9月5日 記す)





<ブログ内関連記事>

「バンコク騒乱」から1周年(2011年5月19日)-書評 『イサーン-目撃したバンコク解放区-』(三留理男、毎日新聞社、2010)

書評 『バンコク燃ゆ-タックシンと「タイ式」民主主義-』(柴田直治、めこん、2010)
・・「バンコク騒乱」については、日本語で読めるこの二冊を推奨したい。前者は日本人フォトジャーナリストによる写真集、後者はバンコク駐在の新聞記者によるドキュメント

来日中のタクシン元首相の講演会(2011年8月23日)に参加してきた

「第67回 GRIPSフォーラム」で、タイ前首相アピシット氏の話を聞いてきた(2012年7月2日)

書評 『クーデターとタイ政治-日本大使の1035日-』(小林秀明、ゆまに書房、2010)

書評 『タイ-中進国の模索-』(末廣 昭、岩波新書、2009)
・・タイ社会の変化の深層を知るための必読書

書評 『タイに渡った鑑識捜査官-妻がくれた第二の人生-』(戸島国雄、並木書房、2011)
・・タイ社会を治安維持の観点から警察官の視点でみる

タイのあれこれ 総目次 (1)~(26)+番外編




(2012年7月3日発売の拙著です)





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