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2019年3月28日木曜日

書評『ユダヤ人とユダヤ教』(市川裕、岩波新書、2019)-「ユダヤ教」が規定してきた「ユダヤ人」を4つの側面からコンパクトに解説した本書は「世界」を理解するための「必読書」だ!



老舗的存在の岩波新書だが、どうしても出版元の岩波書店のリベラル色がですぎたタイトルが多い。だが、そんな岩波新書ではあるが、「これは!」という良書がたまに出現することがある。

その1冊が『ユダヤ人とユダヤ教』(市川裕、岩波新書、2019)だ。日本のユダヤ研究の権威によるコンパクトな一般読者向けの解説書だが、これほど内容の濃いものはない。これだけの入門書は、かつて存在しなかった。日本人に手になる、日本人のための「ほんもののユダヤ入門書」が、ようやく登場したといっていい。

「ユダヤ教」と、「ユダヤ教」が規定してきた「ユダヤ人」を、4つの側面からコンパクトに解説している。「歴史」「信仰」「学問」「社会」という4つの側面である。この切り口は、著者によれば編集者からの提案らしいが、この順番で見ていくと、「ユダヤ教」と「ユダヤ人」が密接不可分であったことが理解されるはずだ。ユダヤ教をユダヤ人の存在そのものに即した理解が可能となる。

著者の基本線は、「ラビ的ユダヤ教」というユダヤ教本流の理解を目指したものだ。最大の特徴は、西欧的偏見と偏向から脱していることにある。ギリシア思想の形而上学を排したのが「ラビ的ユダヤ教」であり、いわゆる「ヘレニズム」(=ギリシア思想)の対する「ヘブライズム」ではない。ヘブライズムとは、キリスト教的概念だ。

日本であふれているユダヤ関連本は、キリスト教的偏向から脱してない。これは私自身、いまを去ること30年以上前だが、大学学部の卒論で「ユダヤ史」をテーマに書いたとき以来の大きな不満だ。一般的に宗教学者は、「ユダヤ=キリスト教」というタームを使いがちだが、これほど誤解を生み出す概念もないキリスト教はユダヤ教から生まれたが、ユダヤ教そのものはキリスト教の影響とは関係なく存在する。

ユダヤ教世界の少数の知識人の言説だけでなく、その背後にいる一般大衆を視野に入れると見えてくるものがある。実体に即していえば、ユダヤ教はむしろ「セム的一神教」として、むしろイスラームと近い存在なのだ。 ユダヤ教とは、ユダヤ人の生活すべての規範となる律法であり、法体系なのである。だから、「宗教」(レリジョン)というとらえ方では抜け落ちてしまうものが多い。

『旧約聖書』(そもそもユダヤ人は「旧約」とは言わない)の最初の5つである「トーラー」(「モーセ五書」ともいう)だけでなく、『タルムード』が重要なのである。 中世においてはイスラーム世界ではユダヤ人が共存して活躍していたことへの言及は、日本人の「常識」に反するものがあるので重要だろう。

ユダヤ人のビジネス面の活動について、マルクスを引き合いにユダヤ教のからみの解説がある。 「社会」の重要な側面である「経済」についての解説だが、これはは必読だ。「俗」なる平日と「聖」なる安息日に典型的に現れている、ユダヤ教の二重基準について知ることができる。個人的には、最近はあまり言及されることのないドイツの詩人ハイネが、おなじく「同化ユダヤ人」であったドイツの革命思想家マルクスと抱き合わせで取り上げられているのも、なんだか懐かしい。

また、19世紀リトアニアで始まった「タルムード改革運動」の記述があることも、本書の大きな特徴だ。この動きは現在につながるものであり、ユダヤ人がなぜ議論に強いのか、思考力があるのかの理由の一つが説明されることになる。『タルムード』には、思考力を鍛えるための仕掛けがあるのだ。

たった188ページの新書本だが、中身はじつに濃厚だ。飛ばし読みもいいが、じっくり読むに値する。もちろん、コンパクトな新書本なので、書かれていないことが多いが、エッセンスのエッセンスが書かれていると受け止めるべきなのだ。

「いま書き終わって、自分のユダヤ人論、ユダヤ教論が初めて生まれたという感慨がわいている」と著者は「あとがき」で述懐している。凝縮された新書本の背景にある膨大な知識と研究成果がにじみ出ているのである。

『ユダヤ人とユダヤ教』は、「世界」を理解するための必読書として推薦したい。誤ったユダヤ理解は、もう終わりにしたいものである。最低限この本を読んでから、議論していただきたい。







目 次
序章 ユダヤ人とは誰か
第1章 歴史から見る
 第1節 古代のユダヤ人たち
 第2節 イスラム世界からヨーロッパへ
 第3節 国民国家のなかで
第2章 信仰から見る 
 第1節 ラビ・ユダヤ教
 第2節 ユダヤ教の根本原則
 第3節 神の時間秩序 
 第4節 「宗教」としてのユダヤ教 
第3章 学問から見る 
 第1節 タルムードの学問
 第2節 論争と対話 
 第3節 ユダヤ哲学 
 第4節 ユダヤ精神の探求 
第4章 社会から見る 
 第1節 ユダヤ人の経済活動 
 第2節 ユダヤ人の人生の目標 
 第3節 近代メシア論 
 第4節 ユダヤ社会の現実 
文献解題 
あとがき 


著者プロフィール 
市川裕(いちかわ・ゆたか) 
1953年生まれ。1982~85年ヘブライ大学人文学部タルムード学科特別生等、1986年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専攻、宗教史学、ユダヤ思想。著書は『ユダヤ教の精神構造』(岩波書店、2004)、『ユダヤ教の歴史(宗教の世界史7』(山川出版社、2009)など多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)。






(付録)このエピソードに注目!

『ユダヤ人とユダヤ教』の76ページには、ユダヤ新年に長崎のシナゴーグでユダヤ人の礼拝を見て斎藤茂吉が詠んだ歌が紹介されているが、じつに感慨深い。


猶太紀元五千六百八〇年 その新年のけふに会へりき 満洲よりここに来たれる若者は 叫びて泣くも卓にすがりて


出典は、『歌集 つゆじも』(斎藤茂吉、岩波書店、昭和21年)である。「大正八年雑詠 長崎訪問(1919年)」にある。ネット上の青空文庫で読める。全部で3首あるが、紹介されていない3首目には、ビジネスで長崎に在住していたユダヤ人名士の名前が登場する。


九月二十五日 

古賀、武藤二氏とともに猶太殿堂ジナゴークを訪ふ。猶太新年なり 

猶太紀元(ユダヤきげん)五千六百八〇年その新年のけふに会へりき 
満州よりここに来れる若者は叫びて泣くも卓(たく)にすがりて 
長崎の商人(しやうにん)としてゐる Lessner(レスナー)も Cohn(コーン)も耀(かがや)く法服(ほふふく)を著(き)つ




(国会図書館デジタルコレクションより)

残念ながら、現在の長崎にはシナゴーグは存在しない。ユダヤ人墓地があるのみだ(わたしは、ずいぶん昔になるが、ここを訪れたことがある)。

1882年生まれの茂吉は、長崎のシナゴーグを訪れた1919年当時は37歳、その3年後に欧州留学している。ウィーンは言うまでもなくユダヤ人比率の高い大都市で、精神分析学の創始者フロイトはユダヤ教徒であった。茂吉は、すでに長崎でユダヤ体験をしていたことになる。



<ブログ内関連記事>


『ユダヤ教の本質』(レオ・ベック、南満州鉄道株式会社調査部特別調査班、大連、1943)-25年前に卒論を書いた際に発見した本から・・・

きょうは何の日?-ユダヤ暦5272年の新年のはじまり(西暦2011年9月28日の日没)

書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)

書評 『精神分析の都-ブエノス・アイレス幻視-(新訂増補)』(大嶋仁、作品社、1996)-南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスは、北米のニューヨークとならんで「精神分析の都」である

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む

書評 『ユダヤ人エグゼクティブ「魂の朝礼」-たった5分で生き方が変わる!-』(アラン・ルーリー、峯村利哉訳、徳間書店、2010)-仕事をつうじて魂を磨く!

書評 『ユダヤ人が語った親バカ教育のレシピ』(アンドリュー&ユキコ・サター、インデックス・コミュニケーションズ、2006 改題して 講談社+α文庫 2010)

書評 『こんにちは、ユダヤ人です』(ロジャー・パルバース/四方田犬彦、河出ブックス、2015)-ユダヤ人について知ることは日本人の多様性についての認識を豊かにしてくれる

書評 『日本近代史の総括-日本人とユダヤ人、民族の地政学と精神分析-』(湯浅赳男、新評論、2000)-日本と日本人は近代世界をどう生きてきたか、生きていくべきか?

ユダヤ教の「コーシャー」について-イスラームの「ハラール」最大の問題はアルコールが禁止であることだ
・・ユダヤ教とイスラームは、生活全体を律する律法という点において、むしろ共通性が多い。「信と知を行として一体のままに理解」するユダヤ法とイスラーム法。「比較して言えば、キリスト教はギリシア哲学の理性をうけついで信と知を分けたが、ユダヤ教は信と知を行として一体のままに理解している。この点においては、ユダヤ法はイスラム法と共通する。法が宗教・道徳と不可分であるのも、当然のことなのである」(『世界の法思想入門』(千葉正士、講談社学術文庫、2007)より引用)

(2019年4月14日 情報追加)



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