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2021年10月23日土曜日

書評『暁の宇品-陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(堀川惠子、講談社、2021)-日本近現代史の欠落部分を埋める歴史ノンフィクションの傑作

 

『暁の宇品-陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(堀川惠子、講談社、2021)を昨日読了した。日本近現代史の欠落部分を埋める貴重な歴史ノンフィクションだ。さまざまテーマにまたがる、じつに読みごたえある1冊であった。  

現在は「広島国際フェリーポート」として、近隣の島々や対岸の松山などにいくフェリー便の出発点となっているが、かつて宇品は軍港であった。しかも、陸軍の軍港! 帝国海軍の鎮守府があった広島県の呉(くれ)とは別に、帝国陸軍の(!)軍港が広島市の宇品に存在したのである。 

(現在の宇品港は路面電車の終点 筆者撮影)

大陸や周辺諸国(台湾や朝鮮半島)への「外征軍」として位置づけられた帝国陸軍だが、兵員と軍事物資はすべて海上輸送にたよる必要があった。日本は、海に囲まれた島国なのである。

では、なぜ瀬戸内海の宇品なのか? なぜ海軍ではなく陸軍なのか? この問いに対する答えは、本書の前半の内容そのものといっていい。

(瀬戸内海を結ぶフェリーのハブ港としての宇品港)
 
諸外国と違って、海軍が海上輸送をまかないきれなかった「持たざる国・日本」の後進性大型船舶の建造が禁止されていた「鎖国」の後遺症のせいである。だが、それだけにはとどまらない、複雑な事情があったことが詳述されている。 

(海から見た宇品港 筆者撮影)

序章と終章あわせて全体で13章で構成されている本書は、知られざる陸軍の海上輸送を3人の司令官の生涯と、その任務を中心に描いている。日清戦争と日露戦争から大東亜戦争の敗戦、それも広島への原爆投下という形で終わった日本近代史そのものといっていい。 

日露戦争の時点では、きわめて重要な位置づけを与えられていた兵站(ロジスティクス)が、なぜ日露戦争後は軽視されるようになったのか。きわめて重要な機能であるにもかかわらず、日の当たる存在ではなくなっていった兵站部門。ここに帝国陸軍の大きな問題が存在したことは周知の通りだろう。 

とはいえ、当時の世界の軍事大国であった英米に先んじて本格的な上陸作戦を「第1次上海事変」(1932年)で成功させた立役者が、陸軍の海上輸送部隊であったことは、特筆すべきであろう。海軍陸戦隊だけでなく、陸軍も大規模な上陸作戦を実行したのだ。

「尖閣問題」がらみで、占領された島嶼を奪回するための「上陸作戦」が近年クローズアップされてきているが、日本人の先見性は評価すべきであろう。

だが、残念なことに対米戦であった「太平洋戦争」においては、ガダルカナルをはじめ、ことごとく失敗に終わったことも否定できない事実である。

現在でも米海兵隊(USMC)の独壇場ともいうべき上陸作戦だが、帝国陸軍が先鞭をつけたものの、猛烈な勢いで「学習」した米国にお株を奪われてしまったのである。ここにも日本の弱点がある。

成功体験をノウハウ化してマニュアル化し、組織全体に普及させることができずに終わってしまう日本。しかも、米海兵隊の上陸作戦すら、太平洋戦争や朝鮮戦争時代とは異なり、21世紀の現在はあらたなステージに入っていることは、読者は認識しておくべきだ。

「知られざる存在」となっていた陸軍の海上輸送。歴史に名の残るような司令官たちがかかわっていたわけではない。帝国陸軍という巨大官僚組織の組織人として生きなくてはならなかった矜持と悲哀歴史をつくっているのは、有名人だけでない、名前が残ることもない無数の人たちなのである。 

そんな陸軍の海上輸送という未解明の分野に果敢に挑んで、その全体像を解明した、広島に生まれ育った著者の執念と力量には賛辞を送りたい。

細部に至るまでおろそかにしない、じつに綿密な仕事でありながら、大局観を見失わない全体像をみわたす視線の両立。これは、なかなかできることではない。 

敗戦から75年以上もたった現在、すでに生存者はほとんど存在しない時代になってしまった。そんな時代の歴史ノンフィクションのあり方についても、価値ある試みといっていいだろう。ぜひ読むことを薦めたい。 わたしもまた友人のノンフィクション作家から薦められて読んだのだが、それはまことにもって正解であった。 





目 次
序章 
第1章 「船舶の神」の手記
第2章 陸軍が船を持った
第3章 上陸戦に備えよ
第4章 七了口(しちりょうこう)奇襲戦
第5章 国家の命運
第6章 不審火
第7章 「ナントカナル」の戦争計画
第8章 砂上の楼閣
第9章 船乗りたちの挽歌
第10章 輸送から特攻へ
第11章 爆心
終章

著者プロフィール
堀川惠子(ほりかわ・けいこ) 
1969年広島県生まれ。『チンチン電車と女学生』(小笠原信之氏と共著、日本評論社)を皮切りに、ノンフィクション作品を次々と発表。『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』(日本評論社)で第32回講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命―死刑囚から届いた手紙』(講談社)で第10回新潮ドキュメント賞、『永山則夫―封印された鑑定記録』(岩波書店)で第4回いける本大賞、『教誨師』(講談社)で第1回城山三郎賞、『原爆供養塔―忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)で第47回大宅壮一ノンフィクション賞と第15回早稲田ジャーナリズム大賞、『戦禍に生きた演劇人たち―演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』(講談社)で第23回AICT演劇評論賞、『狼の義―新 犬養木堂伝』 (林新氏と共著、KADOKAWA)で第23回司馬遼太郎賞受賞。(講談社サイトより)


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