先日、株価がバブル時代の最高値を超えた。そしてマイナス金利が解除され、「異次元緩和」の時代もまた終了した。ようやく「正常化」が始まったのだ。
こういう時期には、歴史を振り返っておくことが重要だろう。というわけで、『ドキュメント 異次元緩和 ー 10年間の全記録』(西野智彦、岩波新書、2023)という本を読む。昨年12月にでた本だ。著者は時事通信やTBSなどの報道記者として活躍した経済ジャーナリスト。
とりたてて面白い本というわけではないが、第2次安倍政権誕生前夜の日銀の黒田総裁誕生の舞台裏から始まり、安倍政権の終了後の岸田内閣時代の植田新総裁誕生後まで、政治と経済が密接にからまる状況をファクトベースで記述している。
マクロ経済の動向を大きく左右するのが日銀の金融政策であるが、「異次元緩和」とは金利政策による景気刺激策であった。
「通貨供給量を2倍に増やし、2年以内に経済成長率2%を達成する」というのが、いまから10年前の2013年の当初打ち出した大胆な目標であった。
この目標が達成できなかったことは、日本国民の誰もが知っていることだが、著者は後講釈で批判するようなことはしていない。あくまでもリアルタイムでそのときなにが起こっていたのか、きちんと記録しておくというスタンスで取材を行い書いている。
「異次元緩和」の功罪については、論者によってそれこそ多事争論といったところだろう。たしかに、雇用がつくりだされ、円安株高政策のおかげで日経平均4万円台突破につながったわけだ。これは紛れもない事実である。
とはいえ、最初のインパクトは大きかったものの、ついに目標達成はかなわず(・・コロナ終了後の「世界インフレ」の影響で物価上昇したに過ぎない。コロナ期には日本も財政出動で景気下支えに踏み切った)、日銀による国債買取と株式買取政策でバランスシートが膨張し、日銀に「負の遺産」が増大したことは否定できない事実である。
一貫してファクトベースで記述してきた著者も、「エピローグにかえて」では、やや批判的なトーンで振り返っている。これにはわたしもおおむね同意する。とはいえ、「異次元緩和の10年間」の徹底的検証は今後の課題であり、評価を下すのはまだ時期尚早というべきだろう。
「正常化」がようやく始まったばかりだが、「異次元緩和」という壮大な金融実験の「負の遺産」の解消には、気が遠くなるほど長い年月がかかりそうだ。
わたしは「エピローグにかえて」を読んでいて、「異次元緩和」」の「負の遺産」の解消は、なんだか「廃炉作業」に似ているような気がしてならない。今後もきわめてむずかしい舵取りが長期にわたって求められるからだ。
企業も個人も、このようなマクロ経済状況のなかで最善を尽くしていくしかないのである。
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目 次プロローグ第1章 「レジーム・チェンジ」の衝撃第2章 「衝撃と畏怖」作戦第3章 船を乗り換える時第4章 予想もしない結末エピローグに代えて年表 異次元緩和の歴史
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