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2024年12月4日水曜日

書評『刀伊の入寇 ー 平安時代、最大の対外危機』(関幸彦、中公新書、2021)ー 千年前の大事件の史実を知る

 
 NHK大河ドラマ『光る君』も、あと残すところ放送もあとわずか。あっという間に1年が立ってしまう。道長が「望月の欠けたることも無しと思へば」と歌ったあと出家、物語は終盤に向かっている。 

さて、本日12月1日の放送では「刀伊の入寇」が主たるテーマとなるようだ。道長の時代に起きた重大事件である。

 「刀伊(とい)の入寇」とは、いまから千年前に「刀伊」すなわち女真族が、海を越えて日本に襲撃してきた対外危機状況のことを指している。13世紀の元寇(=蒙古襲来)以前では最大の外敵の侵攻であった。 


ことし2024年は「第1次蒙古襲来」(=文永の役 1274年)から750年にあたる年だが、「刀伊の入寇」からは1004年目にあたる。 

「刀伊の入寇」そのものは、『日本の歴史5 王朝の貴族』(中公文庫)を中学時代に読んでいたので知っていたが、今回のこの新書は、現時点での歴史理解はこういうものだと教えてくれるコンパクトな1冊だ。 王朝時代の内政と外交がテーマとなる。 

東アジアの大陸の激動が玉突き運動のように朝鮮半島から日本列島にも波及、そんな激動期のなか、北方から南下してきた女真族は朝鮮半島の高麗を海から脅かし、さらには南下して対馬と壱岐を襲撃して略奪、最終的に日本側に撃退されて退却、さらに高麗によって撃退されるに至る。 

そんな「刀伊の入寇」について、大きな枠組みとして「海の日本史」に位置づけ、律令制度が崩壊して内向きの王朝時代に移行していた時代の日本の内政と軍事の関係を解明する。

その分析から見えてくるのが、中世の武家社会への萌芽ともいうべき現象であり、にもかかわらず意外と機能していた情報伝達ルートの存在である。 都と太宰府とのあいだの情報ルートは機能していたのだ。

主たる史料として依拠しているのが、藤原実資の『小右記』である。道長によって太宰府に左遷されていた藤原隆家と藤原実資のあいだに交わされていた書簡が、公式の情報ルートを補う非公式な情報ルートとして機能していたことも興味深い。 

そもそも千年前の話であり、史料で確定できる史実には限界がある。したがって、どうしても記述に推論的なものが多くなるのは仕方がないが、刀伊によって拉致された日本人2人が語る体験談が、役人によって残されており、その語る内容はなかなか臨場感があってなまなましい。 

昼間の世界である政治について語られることのない『源氏物語』の世界であるが、男たちがかかわっていた政治や軍事の世界を知るうえで、面白い内容の本だった。

「刀伊の入寇」がドラマで取り上げられのも、おそらく今回がはじめてのことだろう。 

13世紀の元寇(=蒙古襲来)以前にあった、一般にはあまり知られていない「刀伊の入寇」について知っていおくことは重要なことだ。関心のある人は、今夜の放送のあとで読むことを薦めたい。 

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目 次
はしがき 
序章 海の日本史
第1章 女真・高麗、そして日本 
第2章 刀伊来襲の衝撃 
第3章 外交の危機と王朝武者 
第4章 異賊侵攻の諸相 
あとがき 
主要参考文献

著者プロフィール
関幸彦(せき・ゆきひこ)
1952年生まれ。学習院大学大学院博士課程満期退学。鶴見大学教授などを経て、現在、日本大学教授。専門分野は日本中世史。『英雄伝説の日本史』『武士の誕生』『鎌倉殿誕生』『その後の東国武士団』『敗者たちの中世争乱』など著書多数。


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