先日(2024年12月3日)のことだが、韓国で44年ぶりに実施された「戒厳令」、これは実質的に「大統領による上からのクーデター」であったが、あっけなく6時間で収束し、結果として失敗に終わった。だが、この後遺症は長く尾を引きそうだ。
「クーデター」の是非は脇に置いておくが、短時間で収束した件にかんして、韓国の民主主義がすばらしいなど、この日本でも礼賛する声があがっている。だが、笑止千万と言わざるを得ない。現在の韓国の状況は、李朝時代の「党争」の現代版としかいいようがないからだ。
経済学用語に「経路依存性」(path dependency)というものがある。歴史的に形成された民族の個性は、政治のあり方にも発揮されることを指しているが、朝鮮史の600年を振り返れば、朝鮮半島の現在も手に取るようにわかるというものだ。
そこで、『朝鮮半島の歴史 ー 政争と外患の600年』(新城道彦、新潮選書、2023)を読むことにした。昨日、読了した。
ようやくこのような、まともな朝鮮史が書かれるようになったか、というのが正直な感想だ。「政争と外患」という切り口で描いた朝鮮史は、朝鮮半島を理解するために、きわめて有用なものの見方である。
本書は、李朝誕生の前後から、日本による侵略という「朝鮮の役」と「日韓併合」による植民地時代を経て、「分断」という形で<独立>を回復して以降の600年を通史として描いている。
このカッコ書きの<独立>というのがミソである。なぜなら、明朝から清朝にかけて中国の「冊封体制」のなかにあって「属国」でありつづけた朝鮮(半島)は、真に「独立」していたといえるのは、「冊封体制」から解放され「大韓帝国」を名乗った1897年から「日韓併合」(1910年)までの短期間に過ぎないからだ。
朝鮮史を通史として読むと、正直いって面白い時代と、まったくもってつまらない時代で構成されていると言わざるを得ない。中国や日本など周辺諸国が「外患」としてダイレクトにからんだ時代は面白いが、後者の「外患」はないものの、政治的な党派党争に患わされた時代は読んでいてつまらないし、くだらない「党争」は読んでいてバカバカしくなってくる。
秀吉による「朝鮮の役」による国土の荒廃、さらに女真族(=満洲族)が建てた清朝への屈服を経て、朝鮮半島は平衡状態に落ち着くことになる。
だが、18世紀の朝鮮史は「日本の古代史」のようだ。19世紀後半になって、国王の外戚が政治を支配するようになるが、それでは王朝時代の「平安時代」と変わらない。18世紀半ばは、日本では徳川時代は吉宗の時代だ。「近代化」への道が始まった日本との差はあまりにも大きい。
朝鮮半島がやっかいなのは、「外患」にわずらわされた時代にも「政争」が複雑にからんでいることにある。これは「半島」という地政学的な立ち位置からくるものだが、それにくわえて朱子学内の分派党争が政争を生み出しているからである。
さらに18世紀末以降は北京から入ってきた天主教(=カトリック)が絡んでくる。この点は、キリシタンが弾圧されていた日本との違いである。
朝鮮半島を中心に、東アジアの近代史を専攻する著者の本を読むのはこれがはじめてだ。朝鮮史をテーマにした本は多いが、そのなかでは、かなりまともな本である。
偏ったイデオロギーに左右されることなく、日本人の立場から、あくまでも史実をベースに公平に朝鮮史を見ようとしている点に好感を感じる。朝鮮史は、北であれ南であれ、イデオロギーに左右される度合いがあまりにも大きすぎるからだ。
それだけに、この本の執筆はなかなか大変だったのではないかと推測している。帯には推薦文が掲載されているが、読者からの反応としては、好意的なものだけでなく、批判も多いのではないかな、と。
繰り返すが、「党争」にあけくれた朝鮮半島の18世紀は、まったくつまらないので、読んでいて苦痛以外のなにものでもない。だが、それ以外は面白い。
もちろん、日本人が読んで面白い時代というのは、当事者である朝鮮半島の住民にとっては、苦難以外のなにものでもなかったことは重々承知のうえでの感想であるが・・・
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目 次はじめに第1章 朝鮮王朝の建国(王氏から李氏への易姓革命/支配基盤の整備/揺らぐ王権/熾烈な派閥争い)第2章 華夷秩序の崩壊と朝鮮の危機(日本の侵略/迫りくる女真族の脅威/清の侵略と朝鮮の属国化)第3章 終わりなき政争と沈みゆく王朝(蕩平策の功罪/勢道政治と相次ぐ民乱/大院君と閔氏の争い/朝鮮を開いた日本の挑発と清の勧告)第4章 清・日本・ロシアの狭間で(親日と親露の角逐/大韓帝国の成立/日本による韓国併合/抗日独立運動の諸相)第5章 朝鮮半島の分断(戦後の主導権争い/遠のく独立/国家樹立の理想と現実/朝鮮戦争の帰結)おわりに
あとがき
参考文献
著者プロフィール新城道彦(しんじょう・みちひこ)1978年、愛知県生まれ。九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程単位取得退学。博士(比較社会文化)。長崎県立大学非常勤講師、九州大学韓国研究センター助教、新潟大学大学院現代社会文化研究科助教などを経て、フェリス女学院大学国際交流学部教授。専攻は東アジア近代史。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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