先の12月3日に韓国で起こった「戒厳令」を利用した「大統領による上からのクーデター」。
あっという間に短時間で収束し、失敗に終わったクーデターであるが、その件にかんして韓国の民主主義がすばらしいなど、賞賛する声がこの国でもあがっていることに対して強い違和感を感じている。
では、台湾はどうなのだろうか? 台湾の民主主義はどうなのか? そう思うのは自然なことだろう。
というのは、朝鮮半島と台湾はともに、かつて日本の植民地だったことが共通しているからだ。しかも、日本の支配が終わったあと権威主義体制がつづき、長きにわたって「戒厳令」が敷かれていたことも共通している。
だからこそ、政治制度と民主主義の実態にかんして、韓国と台湾を比較して考えてみる必要があるはずだ。
というわけで、ことし5月に出版されたが積ん読のままになっていた『台湾のデモクラシー メディア、選挙、アメリカ』(渡辺将人、中公新書、2024)を読んでみた。韓国のクーデター騒動からすぐあとのことだ。
渡辺将人氏は、アメリカの政治の研究者で、アメリカの選挙制度にかんしては民主党の選挙スタッフとして働いた経験をもち、しかも日本のテレビ局での経験もある人だ。 副題の「メディア、選挙、アメリカ」にあるように、そんなキャリアが存分に発揮され、台湾の民主主義が多面的に考察されている。
帯にもあるように、台湾は「権威主義体制から、いかにしてアジアの民主主義の雄、になったのか」という問いに答えてくれる、内容豊富でじつに面白い。読み応えある1冊であった。
台湾社会やデモクラシーを考える上で外せない要因が「アメリカ」である。それは必ずしも外交安保や経済におけるアメリカ政府のハードな政策だけを意味するものではない。学術、移民社会、ジャーナリズムなどを介した地続きのデモクラシーを刺激する、価値や文化要因としての「アメリカ」である。(P.9)
この引用文に尽きるといっていいだろう。ずいぶん前のことになるが、アメリカにMBA留学していた頃に、台湾からの留学生多数と交流していたわたしも、大いに実感できることだ。韓国からの留学生たちとも交流はあったが、台湾人たちほど深い関係にはならなかった。 台湾人たちは、おなじ「儒教国」(?)であるはずの韓国人のことを、礼儀がなってないと批判的であった。
いまだ李登輝人気の高い日本だが、李登輝氏自身アメリカの大学で博士号を取得した人であることを忘れてはいけない。台湾にとって日本は重要な存在だが、それ以上にアメリカが重要なのだ。エスニシティーの点でも、文化的にも多元的社会である台湾は、日本よりもアメリカに近いかもしれない。
韓国は「クーデター」収束後、さらに混迷を深めている。すでに法治国家としては機能不全状態となりつつあり、したがって「韓国の民主主義」は、左派によるあらたな「独裁」へダイレクトにつながっていくようにさえ見えるのだ。
韓国と比較すると、まさに台湾は「アジアの民主主義の雄」であるといって過言ではない。法治国家であり、民主主義が定着している日本だが、台湾には大いに学ぶべきものがあると感じる。
本書は、「台湾のデモクラシー」の実際をつぶさにみていくことで、アメリカそして日本についても理解が深まる内容となっている。ぜひ一読をおすすめしたい。
目 次序章 危機のデモクラシー第1章 激変した台湾イメージ第2章 民主化の動力と白熱する選挙第3章 ジャーナリズムと権力批判第4章 政治広報と「世論」戦第5章 言語と文化、多様性の政治学第6章 在米タイワニーズとアイデンティティ第7章 デジタル民主主義の光と影終章 デモクラシーの未来図あとがき主要参考文献著者プロフィール渡辺将人(わたなべ・まさと)1975年、東京都生まれ。シカゴ大学大学院国際関係論修士課程修了。早稲田大学大学院政治学研究科にて博士(政治学)。米下院議員事務所・上院選本部、テレビ東京報道局経済部、政治部記者などを経て、北海道大学大学院准教授。コロンビア大学、ジョージワシントン大学、台湾国立政治大学、ハーバード大学で客員研究員を歴任。2023年より慶應義塾大学総合政策学部、大学院政策・メディア研究科准教授。専門はアメリカ政治。受賞歴に大平正芳記念賞、アメリカ学会斎藤眞賞ほか。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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