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2026年8月30日日曜日

現代イラン映画界の巨匠アッバス・キアロスタミ監督の「映画三部作」を中心にイラン映画6本を一気に視聴(2026年8月30日)― 「イスラーム体制」下の検閲済みの映画であっても現代イラン社会が世俗的な社会であることがよくわかる



見たいと思っていながら、いままで見逃してきたイラン映画界の巨匠アッバス・キアロスタミ監督の映画三部作。発表順に以下のとおりになる。




いずれも amazon prime での「配信終了」が迫っていることを知ったため、追い立てられるように、あわてて視聴した。今回がはじめての視聴になる。 

ついでのキアロスタミ監督の作品3本も視聴。この3つも配信終了間近である。 




というわけで、本日は朝から晩までキアロスタミ監督のイラン映画6本を連続して見たことになる。本日は、自宅で「キアロスタミ監督特集」の「一人映画祭」のような一日を過ごすことになった。 

アッバス・キアロスタミ(1940~2016)監督が亡くなってからすでに10年。ようやくその作品を見ることできてうれしい。



感想を簡潔に記しておこう。まずは「三部作」から。


 
(「友だちのうちはどこ?」のイラン版ポスター Wikipediaより)


『友だちのうちはどこ?』は、文句なしの傑作だ。イラン北部の農村で素人俳優を起用した、子どもを主人公にした作品。子どもたちと大人たち、そして祖父母の世代の三世代が登場する。




誤って友だちのノートをもってかえってしまった主人公の少年が、ノートを返すため友だちの家を探して、隣の集落までひたすら走り、おなじ道をもどって走り、そしてとうとう夜になってしまい・・・。ハッピーエンドの結末で主人公と一緒にほっとする思いをする。


(「そして人生はつづく」のイラン版ポスター Wikipediaより)


 『友だちのうちはどこ?』のロケ地は、マグニチュード7.9という「イラン北西部ルードバール地震」(1990年)で大きな被害を受けた。約4万人が死亡、約30万人が負傷し、約50万人が家を失ったという。

テヘラン居住の監督が息子を連れて、地震で崩れた崖道を苦労を重ねたすえに自動車で現地入りし、映画の出演者たちを訪ね歩いたドキュメンタリータッチの映画が『そして人生はつづく』である。




ドキュフィクションというのだろうか、ドキュメンタリーとフィクションが融合している。 『友だちのうちはどこ?』とは違って、結末まで描かないで見る人の想像力にゆだねる手法が採用されている。


(「オリーブの林をぬけて」のイラン版ポスター Wikipediaより)


そして、『友だちのうちはどこ?』のスピンオフ作品のような『オリーブの林をぬけて』だ。乾燥した山里のオリーブ林の緑が映える。

三部作の最後は、ちょっとくどいなという印象であった。 映画内映画で何度も何度も撮り直しのシーンがつづくだけでなく、一方的な片思いでストーカーまがいの追っかけを行う主人公の青年があまりにもうっとおしくてくどい。




結末まで描かずにぼかすのが監督の手法だというが、おそらく監督の意図した結末とは別の終わり方をしてほしかったという気持ちにさせられる。2026年時点では明らかにストーカーとしかいいようがないからだ。それとも、イランではよくある光景なのか?


********

さて、三部作以外の映画に移ろう。

『ホームワーク』(1989年)、「イラン・イスラーム革命」から10年目のイランの教育事情を映画いたドキュメンタリー。10年にわたって続いた「イラン・イラク戦争」がようやく終わったのが1988年のことである。




ビデオカメラの前で、小学校の男子児童をひたすらインタビューして語らせる内容。識字率の低い親世代と、革命後の教育改革の実情が手によるようにわかる。イラン革命によって教育機会を拡大した点は評価されるところだ。 


(「桜桃の味」のイラン版ポスター Wikipediaより)


『桜桃の味』(1997年)は、首都テヘランの自殺願望を抱いた中年男を主人公にした現代もの。この映画でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞している。




主人公の自殺プロジェクトに巻き込まれそうになる登場人物は、クルド系イラン人の新兵、採掘現場で重機を見張っているアフガン難民の労働者神学校で勉強するハザーラ人とおぼしきアフガン人、そして自然史博物館に勤務するトルコ系イラン人と、イラン社会の民族的多様性という現実が見える化されている。

これまた結末まで描かれずに、ロケ地での撮影風景のビデオになるという、ちょっと不可解な映画である。


(「風が吹くまま味」のポスター Wikipediaより)


 『風が吹くまま』(1999年)は、イラン北西部のクルド人地帯を舞台に、クルド人の葬儀を撮影すべく、遠路テヘランからやってきたTVの撮影クルーの思い通りにならない日々を描いたコメディタッチの作品。この映画は、ヴェネツィア国際映画祭審査員賞特別大賞を受賞した。





高台にいかなければ携帯電話の電波がとどかない文明社会の皮肉、それとは対照的な伝統社会そのままのクルド地帯の自然が美しい。この映画は、監督自身の人生観と死生観が反映した作品だが、後味はけっして悪くない。映画賞受賞は当然だと思う。


********

以上、三部作を中心にキアロスタミ監督の作品6本を見てきたが、いずれも「イラン・イスラーム革命」(1979年)後の現代イラン社会を描いた作品で、イラン社会の現実を映像として疑似体験できた。

「イスラーム体制」のイランであるが、検閲済みの映画であっても、意外とイラン社会が世俗的な社会であることがよくわかる。

もちろん言うまでもなく、キアロスタミ監督の作品で、イラン現代社会の現在が理解できるわけではない。革命から20年後に製作された『風が吹くまま』(1999年)であっても、2026年の現在からしたら、すでに四半世紀前の作品だからだ。



■イラン映画にみる日本社会との共通性、中国社会との共通性

映画を見ていて印象的なのは、「靴を脱いでから家に入るイラン文化」には親近感を感じることだ。『友だちのうちはどこ?』では、靴を脱ぐよう徹底的に子どもがしつけられるシーンがある。ペルシア絨毯に座る生活だからだろう。

イランに限らず、イスラームではモスクに入るときも靴を脱ぐ。これはトルコでも同様だ。イスラームではなくても、インドの寺院でも、ミャンマーやタイのお寺でも同様だ。礼拝の場では靴を脱いで上がるのは東洋世界では常識である。

おそらく、ウチソト感覚に関しては、ある程度まで日本人と共通するものがあるのだろう。

「靴を脱ぐ習慣」という項目が Wikipedia にあって有用だ。日本が筆頭にくるが、それ以外でも意外に「靴を脱ぐ習慣」が世界的に共通していることがわかる。むしろ欧米世界が例外的だというべきであろう。ただし、「靴を脱ぐ習慣」のある社会でも仕事の場では靴をはいたままだ。

西洋化された日本でも、靴を脱ぐ習慣がまったく廃れないというのは興味深い。なお、英語版の「Removal of footwear indoors」という項目ほうがより詳しい。日本アニメの影響で「靴を脱ぐ文化」が世界的に拡がっていくことを期待したいものだ。

日本文化の影響の強い台湾人は靴を脱ぐが、中国人は椅子に座る生活で靴は脱がない。現在でも北方ではそうらしい。寺院でも靴を履いたまま拝礼する。

キアロスタミ監督の映画では、小学校のシーンは男子児童のみが登場する。男子児童と女子児童は小学校であっても、別々の教室で学ぶようだ。「男女三歳にして席を同じうせず」の儒教世界か? この点は、イスラームは儒教に似ている。

日本に似ている点、中国に似ている点と違いはあるものの、イランはアジアであり東洋であるだ、と実感するのである。




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