「ジャック・カロ-リアリズムと奇想の劇場」(国立西洋美術館)にいってきた。会期は、2014年4月8日から6月15日まで。
ジャック・カロといってもピンとこないかもしれないが、その銅版画(エッチング)の作品を見れば、あああれかと思う人も少なくないだろう。
特に有名なのが、
山口昌男が『道化の民俗学』の単行本の箱カバーに使用されていた
イタリアの喜劇コメディーア・デラルテの道化を描いた作品だ。現在は文庫化されているが、
文庫版のカバーもまたもカロの銅版画が使用されている。
そう、
ジャック・カロといえば、エッチングである。カロはイタリアで新しい技法を学び、試行錯誤を重ねたすえにエッチングをほぼ完成の域にもっていったエッチングの革新者である。
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エッチング技法の完成とイラスト入り書籍の流通
エッチング以前の版画には木版とエングレーヴィングがあったが、エングレーヴィングは、金属板に直接刻みをつける技法だが一枚仕上げるのに時間がかかり、しかも熟練を要するのが問題であった。
エッチング(=ハードグラウンド・エッチング)は、銅板のうえに耐酸性の物質(=グラウンド)を塗り、そのうえに先端のとがった金属のニードルで自由に素描し、線描部分を酸性液のなかで腐食させる技法である。グラウンドには蜜蝋やアスファルト、松脂をまぜて加熱したものが使用される。
筆圧がそれほど必要とされないので、線の太さや濃淡で明暗をクリアに表現することができるようになった。これなら高校生でもまねごとくらいなら可能である。高校で美術を選択した人なら一度はエッチングの技法を試したことがあると思うが、じっさいにやってみればわかることだ。
(1645年発行の銅版画技法書で解説されているカロの技法)
腐食を版画の技法として応用するようになったのは16世紀に入ってからだという。エッチングだと、
バロック美術の様式である光と影のコントラストをクリアに表現できるだけでなく、何度も刷ることができるのもすぐれた点だ。つまり
複製が技術的に容易になったことであり、それにともないひいては製造コストも下がったということだ。
グーテンベルクの発明による金属活字を使用した活版印刷が「16世紀メディア革命」につながったが、
17世紀にジャック・カロによってエッチングの技法が完成の域に達したことによって、銅版画のイラスト入りの書籍(illustrated books)が従来よりも廉価に供給可能となったのである。
ジャック・カロのエッチング作品も書籍のイラストとして製作されたものが多く、実際に美術館でみるとサイズは小さいものが大半である。
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ジャック・カロが生きた17世紀という初期近代
ジャック・カロ(1592~1635)は、17世紀初頭のロレーヌ地方が生んだエッチングの革新家であり、
時代の記録者でもある。
彼が生きたのは
「宗教戦争」の時代であり、プロテスタント側に対してカトリック側では
イエズス会を中心とした「対抗宗教改革」の時代である。美術史的にいえば
バロック時代である。
カロは43年という短い生涯であったが、王侯貴族などのパトロンのために製作したエッテングは生涯で1400点以上にのぼるということだが、たしかになんらかの形ですでに目にしたことのある作品も多い。
(コメディーア・デラルテに登場する道化を描いたエッチング作品)
ジャック・カロが描いたテーマでもっとも有名なのが、コメディーア・デラルテの道化だが、
「最後の宗教戦争」あるいは「最初の国際紛争」ともいわれる「三十年戦争」(1618~1648)三十年戦争を描いた作品も一度でも見たことのある人は忘れることができないだろう。
『戦争の惨禍』と題されたシリーズだ。
『大きな惨禍』のシリーズが出版された1633年は
三十年戦争によってロレーヌ地方がフランス軍から(!)侵略を受けていた年である。
カロが生まれたロレーヌ公国はフランス語では Duché de Lorraine(ロレーヌ)、ドイツ語では Herzogtum Lothringen(ロートリンゲン)と、フランス語圏の東端でドイツ語圏と接する地域にある。
いわゆるアルザス・ロレーヌ地方である。
フランス語地帯とドイツ語地帯の境界領域であるが、こういう地域はウクライナもそうだが、とかく紛争に巻き込まれやすい。カロの死後のことであるが、
三十年戦争終結後のウェストファリア条約(1648年)でロレーヌ地方は神聖ローマ帝国から切り離されてフランス王国領となる。
『戦争の惨禍』と題されたシリーズは、
傭兵たちによる略奪と放火、見せしめの死刑、戦争によって不具となった兵士など、その当時の戦争の記録としてきわめてすぐれたものだ。
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