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2023年3月27日月曜日

「セイコーミュージアム銀座」で時計の歴史を知る(2023年3月25日)ー 「企業ミュージアム」はパブリック・コミュニケーションとしてすばらしい取り組みだ

 
銀座といえば4丁目の交差点にある和光本館の時計塔が有名だが、そのおなじ銀座4丁目に「セイコーミュージアム銀座」がある。以前は墨田区にあったものが、2年前の2020年に銀座の一等地に移転したのである。 

先日(2023年3月24日)のことだが、移転後の「セイコーミュージアム銀座」にはじめて行ってきた。墨田区にあった時代にその近くまで行ったことがあるが、その日はあいにく定休日だった。  

「入場無料」だが「完全予約制」なので、事前にウェブサイトから予約しておく必要があるのは、スペースが狭いから収容可能人数に限りがあるためだ。これは実際に訪問してからわかった。 

受付で名乗ると「佐藤さま、お待ちしておりました」と、なんだか高級ホテルのような接客である。さすが銀座だな。簡潔だが丁寧な説明を受けてから、さっそく視察に入る。 

ミュージアムは、地下1階から5階まで時計の歴史と服部時計店(=精巧=セイコー)の歴史を、具体的なモノ、つまり時計の実物の展示をつうじて知ることができる。

5階から1階ずつ下りながら見ていく。各階ごとのスペースは狭く、しかも移動手段がエレベーターしかないのは不便であるが、それは仕方ない。なんせ銀座の一等地なのだから。

個人的に関心があるのは、当然のことながら「機械時計」の歴史である。13世紀に生み出された機械時計は、まさに中世ヨーロッパのキリスト教文明の産物。修道院における祈りの時間を正確に知り、告知するのが目的であった。天体の動きを歯車の回転で表現する機械時計は、イスラーム文明の産物ではないのである。 

(3階は「和時計」を中心に展示 筆者撮影)

このミュージアムでも、「和時計」のコレクションが充実している。近代日本の時計産業は、まさに創業者である企業家の服部金太郎によって始まったものだが、その前史として江戸時代の「和時計」があったからだ。 

東京にある「和時計」のコレクションは、これで3つ見たことになる。谷根千にある私設の「大名時計博物館」、そして上野の「国立科学博物館」、そしてこの「セイコーミュージアム銀座」である。 

機械時計による物理的時間を、季節によって昼夜の時間が変化する「不定時法」に変換する技術を織り込んだ「和時計」。 

明治維新後の「西欧近代化」のなか、太陽暦と定時法の採用によって、ガラパゴス化して無用となってしまった「和時計」だが、日本人の創造性の重要な証拠として捉える必要があるのだ。 



ミュージアムでは、その「和時計」について記したパンフレットが無料で入手できる。ただし、日本語版はなく英文版のみである。題して "The World of Japanese Traditional Clock" 。なかなか充実している。訪問客は、かなりの割合で外国人観光客が多いからだろうか。 

その前を通りかかったから、ちょっと寄ってみたというわけにはいかないが、事前予約さえしておけば確実に観覧できる時計の歴史と、日本における時計産業について知ることのできる「企業ミュージアム」であった。 

企業広報のパブリック・コミュニケーションとしては、すばらしい取り組みというべきであろう。銀座の一等地にありながら、直接収益を生み出すわけではない施設にお金をかけているのだから。





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2023年2月24日金曜日

「大名時計博物館」に行ってきた(2023年2月22日)ー 東京の谷中にある江戸時代の機械時計のコレクションを楽しむ

(大名時計博物館は、江戸時代は勝山藩下屋敷の跡) 

「大名時計博物館」に行ってきた。一昨日のことだ。 

大名時計博物館は、東京の谷中にある私設のミニ博物館大名時計とは「和時計」のこと。大名が使用していたので、実用性もあるが装飾的な側面も大きい。


東京メトロ千代田線の根津駅から歩いて数分。ゆるい坂をあがったところにある。黒御影石の石碑が建っているので知ったが、もともとは勝山藩下屋敷の跡地である。風情のある敷地に博物館がある。 

開館時間は10時からだが、不在のときはベルを押して開けてもらうことになる。 


江戸時代の大名が所有していた「置き時計」を中心とした機械時計のコレクションが展示されており、その数はけっして多くはないが、いい雰囲気を出している。

来訪者がわたし一人だったこともあろう、管理者の方に目の前で置き時計を実際に動かして実演していただいたのはありがたい。

(重りで動く機械時計 *この写真は許可をとって撮影させていただいた


基本的に重りの落下によって時間を刻んでいくメカニズムであり、位置エネルギーを運動エネルギーに転換するわけだ。

興味深いことに、アラーム機能も備えているのだ。 設定した時間に鳴るアラーム音は、自動でベルを打ちつけて鳴らすものだが、なんだかえらく現代的な感じがして、江戸時代という感じがまったくしないのが不思議な感じがした。 

とはいえ、大名時計そのものは「不定時法」に対応したものであり、セッティングは人の手で行う必要がある。機械時計だが全自動ではないのだ。 

展示品には、このほか万歩計や印籠時計などもあり、じつに興味深い。印籠時計は、なんだか ZIPPO みたいな筐体だ。 印籠のなかに時計が入っている。江戸時代の旅行用懐中時計といったところか。


■コレクションの規模では科学博物館が勝っているが・・

このあと、谷中から上野公園の「国立科学博物館」まで歩いて、「日本館」で展示品の大名時計を中心にした和時計のコレクションを観覧した。移動時間は徒歩で15分程度。たいした距離ではない。

(国立科学博物館の日本館にて和時計の展示)

あらためて眺めてみると、「大名時計博物館」のコレクションよりも点数では勝るものがあった。 

(科学博物館に展示されている大名時計 筆者撮影)


(科学博物館に展示されている印籠時計 筆者撮影)


その意味では、科学博物館だけで十分といえなくもないが、「大名時計博物館」には勝山藩下屋敷のでもあり、それじたいに風情がある。 個人が大切に守ってきたというコレクションは、それ自体に価値があるのだ。

いつまで維持できるのかわからないので、興味のある人は一度は訪ねてみたらいいだろう。 



(情報追加 2023年3月28日)


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2010年3月6日土曜日

「急がば回れ」ー スイスをよりよく知るためには、地理的条件を踏まえたうえで歴史を知ることが何よりも重要だ




スイスといえば、観光業や金融業だけではなく機械産業でもある、という連想が働くのは、私は以前に機械部品産業に身を置いた経験があるためだろう。

 現在では工作機械産業をはじめとした機械産業といえば、日本勢が圧倒的な市場支配をし、これに価格攻勢を強めて追い上げる台湾という構図があるが、こうしたアジア勢は機械+電子制御技術でのし上がってきたというのが、業界関係者の一致した見解である。

 機械を使う側からみれば、機械の性能にかんしては、やはりなんといってもスイス製やドイツ製に限る!というのはいまでもよく聞く話である。

 実際、北ドイツのハノーファーで毎年一回開催される、世界最大の機械関連の見本市「ハノーバー・メッセ」においては、ヨーロッパの機械産業の底力を見ることができるのである。写真は、スイス産業ブースのものである。
 

 スイスで機械といえば、まず何よりも機械時計をあげなくてはならないところだが、私自身に高級腕時計を収集する趣味はないので、この話題は簡単に済ませておくが、基本的にスイスのフランス語圏が、伝統的な時計産業の中心となる。

 理由は、歴史的にみてみなければならない。現在のスイスのフランス語圏ジュネーヴで始まった、神学者ジャン・カルヴァン(Jean Calvin)による「宗教改革運動」(1536~1564)は、フランスにも拡大していったのだが、その後激しい宗教戦争を巻き起こすことになる。最終的にフランス国王アンリ4世による「ナントの勅令」(1598)によって、はじめて個人の信仰が認められ、カトリックとプロテスタントの融和が図られることとなった。宗教戦争の渦中の1572年におきた「聖バルトルメの虐殺」(セント・バーソロミュー)については、イサベル・アジャーニ主演の『王妃マルゴ』の舞台背景である。

 プロテスタントのなかでも最も厳格なカルヴィニズムが、その後産業資本主義の原動力となっていったことは、マックス・ウェーバーの『プロテスタントの倫理と資本主義の精神』に詳しいが、彼らはフランスでは「ユグノー」と総称されていた。

 フランスから逃れてスイスの山中に避難していった彼らが持ち込んだのは、教会の聖器や十字架製作で培った金属加工技術であり、これが精密機械時計を選択する土台となったのである(1554年)。


 その後フランスでは、太陽王ルイ14世による「ナントの勅令廃止」(1685年)という天下の愚策により、産業資本主義の担い手であったユグノー(フランス人プロテスタント)は、難民としてスイスやドイツに大量に脱出、その後のドイツ語圏の産業振興に大いにチカラを発揮したことは、機械産業の歴史においては常識となってもいい歴史的事実だ。ドイツ語圏だけでなく、英国やオランダにも大量に受け入れられて、産業資本主義の基盤となっている。

 たとえば、プロイセン王国のフリードリヒ2世(大王)は、ユグノーを大量に誘致し、三十年戦争で疲弊した北ドイツの復興に大いに活用した。その痕跡は、ベルリンがドイツではもっともフランス的な都市であることに残っている。ベルリンの地名にはフランス語経由のものが多い。

 技術(テクノロジー)や技能(スキル)は人と一緒に移動する。技術と技能を身につけた難民の移動は、図らずも技術移転をもたらしたことになる。同様の事例は、1492年のスペインからのユダヤ人追放によって、金融業の知識をもったユダヤ人を大量に受け入れたオスマントルコ帝国が、ヴェネツィアを凌駕して地中海の覇者になったというものもある。中国によるチベット弾圧によって全世界に散らばったチベット難民によって、チベット仏教が西洋や米国に拡がったことも付け加えていいかもしれない。


 近年では「機械の時代」は終わった、いまは「生物の時代」だ、という声もよく耳にするところであるが、比喩的な意味はさておき、やはり何といっても機械は現代文明の基本中の基本であることはいうまでもない。いまこの文章を書いているPCも、ソフトウェア以外は機械そのものである。

 機械が何よりも近代ヨーロッパを中心に発達したことは、西欧文明そのものにかかわるものであり、このテーマは掘り下げれば非常に面白いのだが、とても書ききれないので、ここらへんでやめておこう。


 話をスイスに戻せば、機械時計を中心にした機械産業だけでなく、紡織産業における機械の発達武装中立を維持するための全方位的傭兵派兵政策がもたらした、送金ネットワーク構築と外貨蓄積を出発点とした金融業(プライベートバンク)傭兵たちが欧州各地で築き上げた海外貿易ネットワーク氷河の豊富な水力を利用した水力発電紙とエンピツだけあればできる保険業・・・と発展していったスイスの歴史は、現代産業を考える上できわめて面白い事例となっている。

 現代の巨大多国籍企業がなぜスイスに生まれたかを知るには、経営学者マイケル・ポーター国の競争優位 上下』(ダイヤモンド社、1992)のスイスの項を読めば参考になるだろう。


こういった歴史をしるためには、何よりも地理的条件を押さえたうえで、歴史をみるのが回り道のようにみえて実は手っ取り早い「急がば回れ」である。

 歴史を知るためには、物語 スイスの歴史-知恵ある孤高の小国-』(森田安一、中公新書、2000)が、スイスの通史としてはコンパクトにまとまっており、たいへん参考になる。

 何よりもスイスは連邦国家であり、キリスト教をベースにした連邦国家という意味においては、米国(=アメリカ合州国)の原型ともいえる。「武装中立」や「連邦制」などの抽象的な概念も、歴史のなかに位置づけて考えてみると、具体的に理解しやすくなる。

 また歴史を押さえた上で、現在のスイスについて知りたければ、ヨーロッパ読本 スイス』(森田安一/巽 共二編、河出書房新社、2007)が格好のガイドになる。
 こういった読書を踏まえたうえで、スイスが日本のモデルになるかどうか、じっくりと考えてみたいものである。


 スイスについては、トマス・マンの『魔の山』のダヴォスユング心理学のチューリヒレーニンのチューリヒ「アスコーナ・コロニー」ギリシア古典学専攻のニーチェをバーゼル 呼び寄せたヤーコプ・ブルックハルト国際連盟日本代表であった新渡戸稲造と柳田國男のジュネーヴ、阿部謹也の翻訳による『放浪学生プラッターの手記-スイスのルネサンス人-』のバーゼルなど、他に触れたいことは多々あるのだが、これらは機会があればまたということで。

 スイスは、バーゼルとベルン、チューリヒなどしかいったことのない私自身がスイスについて語るのは、あくまでも周辺から「群盲象をなでる」のみである。



<参考サイト>

swissinfo.ch 世界に発信 スイスのニュース
スイス外国企業誘致局



<ブログ内関連記事>

書評  『ブランド王国スイスの秘密』(磯山友幸、日経BP社、2006)
・・ビジネスパーソンにとっては「ブランド王国スイス」という捉え方が面白い

書評 『マネーの公理-スイスの銀行家に学ぶ儲けのルール-』(マックス・ギュンター、マックス・ギュンター、林 康史=監訳、石川由美子訳、日経BP社、2005)
・・「マネーの防衛」というのがスイス流の投機。セキュリティの観点から投資と投機を考える

書評 『民間防衛-あらゆる危険から身をまもる-』(スイス政府編、原書房編集部訳、原書房、1970、新装版1995、新装版2003)
・・スイスといえば、いまでは「国民皆兵」は日本人の常識になったことと思う。スイス人の家庭には、一家に一冊備え付けなのが、この本と銃器一式!

書評 『スイス探訪-したたかなスイス人のしなやかな生き方-』(國松孝次、角川文庫、2006 単行本初版 2003)
・・とはいえ、スイスも曲がり角にきていることが、スイス大使として赴任した國松元警視庁長官のやわらかな筆致で描かれている

1980年代に出版された、日本女性の手になる二冊の「スイス本」・・・犬養道子の『私のスイス』 と 八木あき子の 『二十世紀の迷信 理想国家スイス』・・・を振り返っておこう
・・現在から30年前はまだスイスは観光先としてしか認識されていなかったようだ。そういう現状認識への異議申し立ての内容でもある

ペスタロッチは52歳で「教育」という天命に目覚めた
・・「預言者故郷に容れられず」という格言があるが、理想主義者のペスタロッチの試みは、すくなくとも生前においては故国のスイスでは受け入れられなかった。」

「チューリヒ美術館展-印象派からシュルレアリスムまで-」(国立新美術館)にいってきた(2014年11月26日)-チューリヒ美術館は、もっている!

「フェルディナント・ホドラー展」(国立西洋美術館)にいってきた(2014年11月11日)-知られざる「スイスの国民画家」と「近代舞踊」の関係について知る

(2016年3月7日 情報追加)


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