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2020年12月12日土曜日

新著『世界史で読み解く「コロナ後」の現代』(ディスカヴァー携書、2020)が来る12月18日に発売されます!ー人生初の新書本

 
『世界史で読み解く「コロナ後」の現代』(ディスカヴァー携書、2020)が12月18日に発売されます。出版者は、ディスカヴァー・トゥエンティワン。私にとっては、初の新書本となります。これで、ソフトカバーとハードカバーの単行本、文庫本、新書本と、ほぼすべての判型の著作をもったことになります。

「グローバリゼーションが強制終了した「中世から近世の移行期」を振り返り激動の「新・鎖国時代」の乗り越え方を学ぶ」というコンセプトの世界史の本であり、また自己啓発書でもあります。ビジネス書のフォーマットによる歴史書です。

「目次」は以下のとおりです。

はじめに
第1章 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で「第3次グローバリゼーションが終わった」 
第2章 「第1次グローバリゼーション」がもたらした地球規模の大動乱(16世紀) 
第3章 「第1次グローバリゼーション」の終息(17世紀) 
終章 ビジネスパーソンはグローバリゼーションが終わった「17世紀の世界史」から何を学ぶべきか
終わりに


判型は異なりますが、もちろん『世界史で読み解く「コロナ後」の現代』は独立した書籍として製作されておりますが、前著『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』(2017年)の続編、あるいは姉妹書と考えていただいて問題ありません。

今年は、5月に『ガンディー 強く生きる言葉』、おなじく5月に『超訳 自省録』の中文繁体字版が『超譯 沉思錄』として台湾で発売されており、合計3冊新著が出たことになります。いずれも、新型コロナ感染症(COVID-19)のパンデミック状況を生き抜くために役に立つ内容の本になっているはずだと考えております。
  
『世界史で読み解く「コロナ後」の現代』は、ぜひ冬休みの読書計画に咥えていただきたく思います。



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 (2020年12月18日発売の拙著です)


(2020年5月28日発売の拙著です)


 
(2019年4月27日発売の拙著です)



(2017年5月18日発売の拙著です)


   
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2020年5月5日火曜日

JBPressの連載コラム第77回目は、「130人の子供が失踪、謎の事件が伝説に変わるまで中世史から考える、ビジネスパーソンが歴史を学ぶべき理由」(2020年5月5日)


JBPressの連載コラム第77回目は、130人の子供が失踪、謎の事件が伝説に変わるまで中世史から考える、ビジネスパーソンが歴史を学ぶべき理由(2020年5月5日)
⇒ https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60365

「ハーメルンの笛吹き男」伝説にも、「黒死病」のパンデミックが影を落としている。

いまから736年前の1284年6月26日、ドイツ北部の都市ハーメルンで、子どもが130人も集団で失踪するという事件が発生している。これは否定しようがない「歴史的事実」である。だが、明らかになっているのはそこまでだ。

謎は謎のまま伝説化されて現在に至る。

そんなミステリーに挑戦したのが歴史家の阿部謹也先生である。13世紀にすでに伝説化が始まり、激動の16世紀にはあらたな要素と合体して現在の形に至る。

16世紀には、都市ハーメルンは、相次ぐ自然災害や黒死病(ペスト)の感染症爆発、そして「宗教戦争」に巻き込まれていた。

大学部時代の恩師・阿部謹也先生のベストセラーにしてロングセラーの『ハーメルンの笛吹き男』(平凡社、1974 文庫版は1988)を導入にして、大学時代に西洋中世史を専攻した私が、「中世史研究者のもつ視点」と「ビジネスパーソンが歴史を学ぶべき理由」について考えます。

つづきは、本文にて。 ⇒ https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60200







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■阿部謹也関連

「ハーメルンの笛吹き男」は「ネズミ獲り男」(Rattenfänger)だった-2020年のいま、1974年に初版が出た『ハーメルンの笛吹き男』(阿部謹也)のブーム再燃がうれしい

16世紀初頭のドイツが生んだ 『ティル・オイレンシュピーゲル』-エープリルフールといえば道化(フール)④

書評 『新・学問のすすめ-人と人間の学びかた-』(阿部謹也・日高敏隆、青土社、2014)-自分自身の問題関心から出発した「学び」は「文理融合」になる

書評 『向う岸からの世界史-一つの四八年革命史論-』(良知力、ちくま学芸文庫、1993 単行本初版 1978)-「社会史」研究における記念碑的名著 ・・『社会史研究』の同志であった良知力教授の代表作


■宗教改革と宗教戦争

「アラブの春」を引き起こした「ソーシャル・ネットワーク革命」の原型はルターによる「宗教改革」であった!?

映画 『王妃マルゴ』(フランス・イタリア・ドイツ、1994)-「サン・バルテルミの虐殺」(1572年)前後の「宗教戦争」時代のフランスを描いた歴史ドラマ

「ジャック・カロ-リアリズムと奇想の劇場-」(国立西洋美術館)にいってきた(2014年4月15日)-銅版画の革新者で時代の記録者の作品で17世紀という激動の初期近代を読む


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2018年1月8日月曜日

『神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展』(東京・渋谷 Bunkamura ザ・ミュージアム)にいってきた(2018年1月7日)ー 2017年に開催された『アルチンボルド展』(国立西洋美術館・上野)を補完する企画展



『神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展』(東京・渋谷 Bunkamura ザ・ミュージアム)にいってきた(2018年1月7日)。1月6日に始まったばかりの企画展だ。

ルドルフ2世は16世紀後半の人。帝都をウィーンからボヘミア地方のプラハに移動、ややこしい現実政治に関心を失ってから、居城に引きこもって夢想の世界に没入し、南米大陸も含めた全世界からの収集品で構築した「驚異の部屋」という独自の世界を作り上げた生涯独身男。19世紀後半のバイエルン国王、狂王ルートヴィヒ2世に比較してみることの出来る人だ。

この展示会は、そんなルドルフ2世とその時代を、お抱えの天才アーチストのアルチンボルドなどによる絵画作品や、ティコ・ブラーエやケプラーなどの天文学をはじめとする科学者や魔術師たちの書籍やアイテム、その他もろもろの収集品で再構成しようとした試みだ。

昨年、東京国立西洋美術館で開催された 16世紀「マニエリスム」の時代を知的探検する企画であった 「アルチンボルド展」(国立西洋美術館・上野) を補完するような内容であるといえようか。

ただ、期待していたのとは違って、ちょっとがっかりしたというのが正直なところだ。『アルチンボルド展』で展示されなかった「ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像」(上掲のポスターの画像)を見ることができたのは良かったのだが、「驚異の部屋」というには、あまりにもその要素が欠けていたから。

美術と科学とガラクタがおもちゃ箱のように混在しているのが、17世紀を中心に西欧の王侯貴族のあいだで大流行した「驚異の部屋」(ドイツ語で Wunderkammer ヴンダーカマー)というもの。だが今回の企画展で、それが再現されていたとは言い難い。

いっそのこと、すべて複製品でいいいから「ルドルフ2世の驚異の部屋」を再現するか、あるいは CG を使用した 3D映像で VR(バーチャル・リアリティ)体験させるような企画のほうがよかったのではないか?

まあ、そんなことはわたしの勝手な夢想だが、今回の展示でよかったのは、出口の前の特別展示スペースに置かれていた、現代美術家フィリップ・ハース氏による、アルチンボルドの『四季』の立体3D彫刻作品だ。ファイバーグラスに着彩したもので2000年の作品である。この作品だけは写真撮影OK(下記の写真参照)。

(アルチンボルドの『四季』の立体3D作品 筆者撮影)


(アルチンボルドの「冬」による彫刻 筆者撮影)

(アルチンボルドの「春」による彫刻 筆者撮影)

この試みをさらに一歩進めれば、わたしが夢想するような「ルドルフ2世の驚異の部屋」ができたかもしれないのに・・・。

とはいっても、美術館にそれを期待してもムリかもしれない。この手の企画展は、動物の剥製や鉱物などふんだんに所蔵している国立科学博物館で開催した方がよかったのではないかと思うのだ。ミュージアムはミュージアムでも、「美術」館ではなく「博物」館の方である。


ところで、収集という行為は資本主義そのものだと水野成夫氏ならいうだろう。だが、ルドルフ2世の収集活動を資本主義とムリに結びつける必要はないと思われる。

いつの時代でも、収集に熱中し、浮き世離れしてしまう者は、洋の東西を問わず、時代の新しい古いを問わず存在してきた。しかもその大半は男性だ。したがって、収集行為における性差を考えれば、むしろ資本主義を超越した普遍的なテーマというべきではないだろうか? ルドルフ2世もまた、現実逃避傾向のある独身男性だったことを想起すべきである。

話はそれたが、ルドルフ2世という際だった個性のコレクターとその時代を知るには好企画ではある。また、コレクションの本質について考えるのも面白い。この企画展は、そんな機会として活用してほしい。






<関連サイト>

『神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展』 公式サイト



<ブログ内関連記事>

「アルチンボルド展」(国立西洋美術館・上野)にいってきた(2017年7月7日)-16世紀「マニエリスム」の時代を知的探検する

書評 『愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎』(小宮正安、集英社新書ヴィジュアル版、2007)-16世紀から18世紀にかけてヨーロッパで流行した元祖ミュージアム ・・まさにアルチンボルドとルドルフ2世の時代精神そのもの

書評 『猟奇博物館へようこそ-西洋近代の暗部をめぐる旅-』(加賀野井秀一、白水社、2012)-猟奇なオブジェの数々は「近代科学」が切り落としていった痕跡 
・・この本もぜひ。おなじく17世紀から18世紀にかけてのフランスを中心に

書評 『身体巡礼-[ドイツ・オーストリア・チェコ編]-』(養老孟司、新潮社、2014)-西欧人の無意識が反映した「文化」をさぐる解剖学者の知的な旅の記録
・・カトリックの擁護者であったハプスブルク家の「心臓信仰」を取り上げている。また、プラハのユダヤ人墓地の話も面白い。あえて付け足せば、ゴーレム伝説は16世紀のプラハのカバリストによるものであり、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の時代のプラハであったことを企画展でも取り上げて欲しかった

「大英自然史博物館展」(上野・科学博物館)にいってきた(2017年4月19日)-子どもはもちろん、大人も知的興奮を隠せない絶対に見にいくべきイベントだ!
・・この博物誌的収集活動は大英帝国が主導した資本主義そのものだが、その前史としてルドルフ2世も想起するといい

『生誕150年企画展 南方熊楠 100年早かった智の人』(国立科学博物館 東京・上野)に行ってきた(2017年12月22日)-「グローカル」で「智の巨人」であった南方熊楠の全体像を知る企画展


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2017年7月17日月曜日

「アルチンボルド展」(国立西洋美術館・上野)にいってきた(2017年7月7日)ー 16世紀「マニエリスム」の時代を知的探検する



「アルチンボルド展」(国立西洋美術館・上野)にいってきた(2017年7月7日)。16世紀マニエリスムの時代を知的探検する美術展だ。国立西洋美術博物館らしい好企画である。

16世紀の美術史上の「マニエリスム」を代表する画家で万能人の鬼才ジュゼッペ・アルチンボルドの日本ではじめての本格的紹介である。

主催者の国立西洋美術館による紹介文を紹介しておこう。

本展は、世界各地の主要美術館が所蔵するアルチンボルドの油彩約10点のほか、素描などおよそ100点により、この画家のイメージ世界の生成の秘密に迫り、同時代の文脈の中に彼の芸術を位置づけ直す試みです。日本で初めて、アルチンボルドのユーモアある知略の芸術を本格的にご紹介するこの機会を、どうかご期待ください。

「マニエリスム」とは美術史の用語で、後期ルネサンスとバロックの移行期の時代のことをさしている。ルネサンス的要素を濃厚にもちながらも、一方では「近代的」でもある。いや、「超近代」というべきだろか。カトリック側の「近代」であるバロック時代の到来で、マニエリスムは2世紀近くも葬り去られていたからだ。

今回の美術展の最大の目玉は、なんといっても、世界各地の美術館にバラバラに所蔵されている連作の「春夏秋冬」4作品、「四大元素」4作品が一同に並べて展示されていること! これは快挙としかいいいようがない!










(上から「冬」「春」「夏」「秋」)


すこし距離をおいて見ると不思議な肖像画だが、近くによって見ると、じつに精密に野菜や植物、動物や魚介類が描き込まれている不思議さ、奇妙さ「だまし絵」というのは、じつに知的に構築された絵画なのだ。まさに「思考のラビリンス(迷宮)」。

いろんな楽しみ方があると思うが、大人びた正統派の美術鑑賞よりも、子どもっぽい「ワオ!」精神で楽しんだほうがいいのではという気もする。まさにワンダーランド。

アルチンボルドというと「だまし絵」として知られているが、じつはこの美術展の存在を知るまでは、わたし自身も、それほど深く知っていたわけではない。

今回はマグネット(税込み540円)も購入。「司書」と「夏」。いずれも有名な「だまし絵」である。とくに「司書」はむかしから大好きな作品だ。すべて本で構成されている図書館司書の面白さ。コレクションが増えたのはうれしい。




ミュージアムショップでは、画集も販売されているが、それよりも簡潔な説明の「コンセプトブック」(税込み800円)を購入するといいだろう。





■ミラノ出身のアルチンボルドとルドルフ2世の宮廷

アルチンボルドが活躍したのは16世紀のハプスブルク家が支配していた神聖ローマ帝国。現在のドイツと地理的に重なる地域である。

この時代は「大航海時代」であり、西欧人にとっては地理上の発見と認識の拡大が実現した時代である。世界各地から珍しい物資が収集され、王侯貴族は競って「驚異の部屋」(=ヴンダーカマー)をつくっていた時代だ。(*「参考」を参照)。博物学の時代の始まりといってもいいだろう。

アルチンボルドが仕えたのが二人の皇帝。ウィーンでマクシミリアン2世、プラハでルドルフ2世。とくに深い関わりがあったのは、プラハのルドルフ2世の宮廷だ。いわゆる「ルネサンス宮廷」の最後期の存在というべきものだ。

マクシミリアン2世は自然科学好き、ルドルフ2世は奇想好き。ミラノ出身のジュゼッペ・アルチンボルド(1527~1593、イタリア・ミラノ出身)は、ただ単にお抱え絵師であっただけでなく、式典の総合プロデューサーでもあり、じつに多彩な才能をもった万能人として寵愛さえていた。


(アルチンボルドの自画像 「紙」で構成されている面白さ!)


「ルドルフ2世の宮廷」に集められたお抱えの知識人の面々は、じつに多岐にわたっている。いずれもルネサンスに花開いた「新プラトン主義」の影響下にある人たちである。

膨大な観測結果を残したティコ・ブラーエ(1546~1601、デンマーク)や、その助手でティコのデータを使用して天動説を導き出したヨハンネス・ケプラー(1571~1630、ドイツ・シュヴァーベン地方)といった天文学者も。

錬金術師で占星学者のジョン・ディー(1527~1608、イングランド)。ケプラーも占星術師であった

ジョルダーノ・ブルーノ(1548~1600、イタリア・ナポリ出身)は、哲学者でドメニコ会修道士、地動説を擁護。宇宙の無限を主張し、のち異端として処刑された。思想の自由を守った闘士とみなされてきた。

ルドルフ2世は、ある意味では、後世のバイエルン王国の「狂王」ルートヴィヒ2世に比すべき奇人というべきかもしれない。皇帝でありながら生涯独身を通し、芸術を愛し、学術を愛していた。

実権を弟のマティアスに奪われ、その後、「プラハ城窓外事件」が「三十年戦争」勃発の引き金となる。ボヘミアの宗教戦争が発端となった。「三十年戦争」が終結した1648年以降、神聖ローマ帝国は衰亡の道を歩みつづけることになる。



■アルチンボルドの評価

「マニエリスム復権」をリードした『迷宮としての世界-マニエリスム芸術』(グスタフ・ルネ・ホッケ、種村季弘・矢川澄子訳、岩波文庫、2011)の下巻は、アルチンボルドによる「ルドルフ2世像が表紙カバーとして使用されている(下図)。

すべて野菜で構成されている「だまし絵」だ。こんな画像を製作させていたルドルフ2世という人物への興味を抱かざるを得ないではないか! じつに不思議である。


(アルチンボルドによるルドルフ2世像)


それだけではない。いきなり「19 ルドルフ2世時代のプラーハ」という章から始まり、「20 アルチンボルドとアルチンボルド派」、「21 擬人化された風景と二重の顔」と続く。マニエリスムにおいて、アルチンボルドの存在は、ある意味では別格なのだ。

グスタフ・ルネ・ホッケは、アルチンボルドについて以下のように表現している。簡潔で要を得た説明である。

アルチンボルドはまた、技師で、機械設計家で、仮面や衣装のデザイナーでもあった。ひとびとは彼の「幻想的な衣装のスケッチを、何枚も複写した。それはバロック演劇の舞台装置に影響を与えた。それほど多彩であったので多彩であったので、アルチンボルドは、同時代人の間では、「八宗兼学」(はっしゅうけんがく)の「鬼才」とされ、その点でレオナルドと比較された

「八宗兼学」(はっしゅうけんがく)は、イタリア語の「ウニヴェルサーレ・レットラ」(universale lettura)、「鬼才」は、「アクティシモ・インゲーニョ」(acutissimo ingegno)の訳語である。

「八宗兼学」(はっしゅうけんがく)とは、物事を多岐にわたって深く学んで理解しているという意味だが、もともとは日本仏教の8つの宗派の教義をすべて学ぶことを指したことばだ。いかにも奇想好きの種村季弘らしい訳語の選択である。

種村季弘が苦心してひねり出した豪華絢爛な訳語もまたマニエリスム的である、と文庫版の解説者で高山宏氏が書いている。ひいきの引き倒しの感もなくはないが、森鴎外以来のペダンティックな趣味嗜好の延長線上にあるものといえるかもしれない。



■美術史におけるマニエリスム

マニエリスムは、英語表記だと「マンネリズム」(mannnerism)になる。「様式」(manner)のイズム(ism)、すなわち「様式主義」である。「型にはまった」という否定的表現だ。日本語の「マンネリ」は「マンネリズム」の短縮形。つまり、マニエリスムにはあまりいい意味が付与されていなかったのだ。

後期ルネサンスと初期バロックへの「移行期」の時代である。ルネサンス的な公共精神が後退し、王侯貴族の趣味的世界のなかに生息しえたのがマニエリスムである。

英文学者の河村錠一郎氏による「美術史」を大学学部時代に受講していたので、ルネサンス後期のミケランジェロからバロックに至る前の「マニエリスム時代」については一通りの知識は得ていたが、アルチンボルドへの言及があったかどうかは記憶にない。もっぱらミケランジェロの彫刻作品について、新プラトン主義とマニエリスムの観点からスライドを使用しながらのレクチャーがなされたことは記憶にあるのだが・・・・

河村教授は、『ルネサンス様式の四段階-1400年~1700年における文学・美術の変貌-』(サイファー、河出書房新社、1976)の翻訳を出していることをあとから知った。サイファーによるこの本は、マニエリスム理解を大幅に前進させたとされている。

マニエリスムの時代は、旧秩序崩壊の時代であり、動揺と不安の時代でもあった。過渡期や移行期というものはそういうものだ。16世紀前半からはじまった「宗教改革」の時代は、気候学的にみても厳しい時代だっととされる。

マニエリスムがどういう時代であったのか、その特徴を捉えるために、美術史家の若桑みどり氏の名著 『マニエリスム芸術論』(若桑みどり、ちくま学芸文庫、1994 初版 1980)から、引用しておこう。とくにバロックとの対比で明らかになる。バロックとはカトリックによる「対抗宗教改革」時代の美術のことであり、それは図像を使用した上からの「民衆教化」の時代であった。エリート主義とは真逆の大衆化をもたらすものであった。(・・太字ゴチックは引用者=さとうによる)。

王のための芸術は、市民のための芸術とはまったくことなっている。また、少数の知的、文化的エリートにむけた宮廷芸術の制作にあたっては、大衆の一般的理解は不必要であり、かえって芸術家の創意工夫による独自性や変わった個性が珍重された。秘密なことばが喜ばれ、難解さが高級なものとされた。芸術家がこのときほど大衆から「自由」であったことはない。(P.47) 


バロックの本流は、これらの錯綜したアレゴリーを廃棄処分にすることからはじまった。(P.38)


1585年ごろに早くもおそってきたバロック芸術によって、このわずか半世紀ほどの特異な芸術の庭園は、いばらに囲まれるか、梯子をとられるかしてしまった。バロック芸術は、その起こりには、何にもまして大衆化運動をはじめたローマのカトリック教会の文化運動が働いていたので、芸術はたちまちにして大衆的なものとなり、当然、自然発生的でセンチメンタルな表現を占めていった。マニエリスムの生き残れる場所は宮廷にしかなかったが、それも大型化して絶対君主が一国の強権を握るようになるといっせいに大衆化していってしまった。そうして、ごく特殊な言葉で、低く語っていたこの芸術のことばを、読める人間が居なくなってしまったのである。(P.30)


 カトリック教会は信仰と布教における聖画像の有効性を肯定したが、プロテスタントによって批難された官能的、異教的要素を宗教画から排除し、民衆教化にふさわしい新たな宗教表現のプログラムを掲げ、異端審問をさかんにおこなって不適切な宗教表現を告発し、芸術の統制をおこなった。(P.48)


バロックがふたたび、社会と現実へと芸術を復帰させた。バロック芸術とは、反宗教改革と絶対主義王政の芸術である。マニエリスムも、その二つの因子をもっていなかったわけではない。だが、バロックは、マニエリスムに生き残っていた夢想的な新プラトン主義的人文主義を現実的政策によって打ち砕いた。すでに終わりかけていた人文主義とルネサンスの「夜」を、最終的に終わらせ、すべてにわたる現実主義的精神が、この新たな体制づくりに加担した。(P.51)


マニエリスムが、ルネサンスとバロックのはざまに生まれた「(あだ)花」(?)であり、カトリック教会と絶対王政という権力の裏付けをともなったバロックという一大潮流によって完全に否定され、2世紀以上にわたって歴史に埋もれてしまったのは、そのためなのだ。革命する側は、される側を徹底的に否定するものなのだ。

ルネサンス研究の深まりによって、後期ルネサンスの行き着いた先がマニエリスムであったこと、そしてその流れがバロックによって押し流されたことは、ただたんに美術史のみであなく、西欧近世を考えるうえで重要なことなのだ。

バロックのなかにもマニエリスム的要素があることは、エル・グレコの作品からうかがい知ることができる。


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<参考>


このごった煮のわけのわからん空間は、一つの世界観、あるいは宇宙観といったものを表現した部屋であったのだ。ルネサンス的な万能主義。一切智。大航海時代以降のエキゾチズム礼賛。

それは、子どもが自分の世界を狭い空間のなかに表現するのと同じことだ。理路整然と整理された空間ではなく、すべてが未分離の、分節化されていない混沌としたカオス的空間。そしてそこからなにかが生まれてくるかもしれない予感。

ヴンダーカンマーがどんなものだったかについては、 Google で Wunderkammer とそのままドイツ語で画像検索してみてほしい。じつに多種多様な実例をみることができるはずだ。

ヴンダーカンマーに渦巻いているのは、子どものような「好奇心」とコレクションへの「情熱」である。自分にとって関心のあるものをとにかく集める。これは人間の本性に基づくものだ。わたしなら、雑学を「見える化」したものがヴンダーカマーだと表現したい。

わたしは小学生の頃から家でも学校でも、「机の上が整理されていないヤツはアタマが悪い!」といわれ続けてきたが、いまでも机上はぐちゃぐちゃだ。そんな人も少なくないと思うが、気にすることなかれ! 雑学人間にとって、ヴンダーカンマーはまさにヴンダバールな世界である。

日本にも、そんなヴンダーカンマーの最後のきらめきが痕跡として残されていることをご存じだろうか。東京丸の内の JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテクに足を伸ばしてみるといい。東京大学総合研究博物館の分館だ。



<関連サイト>

「アルチンボルド展」 公式サイト (国立西洋美術館)



<ブログ内関連記事>

書評 『愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎』(小宮正安、集英社新書ヴィジュアル版、2007)-16世紀から18世紀にかけてヨーロッパで流行した元祖ミュージアム
・・まさにアルチンボルドとルドルフ2世の時代精神そのもの

書評 『猟奇博物館へようこそ-西洋近代の暗部をめぐる旅-』(加賀野井秀一、白水社、2012)-猟奇なオブジェの数々は「近代科学」が切り落としていった痕跡 
・・この本もぜひ。おなじく17世紀から18世紀にかけてのフランスを中心に

書評 『現代世界と人類学-第三のユマニスムを求めて-』(レヴィ=ストロース、川田順造・渡辺公三訳、サイマル出版会、1986)-人類学的思考に現代がかかえる問題を解決するヒントを探る
・・16世紀のルネサンスと大航海時代(=第一次グローバリゼーション時代)のいわゆる「ユマニスム」

「知の風神・学の雷神 脳にいい人文学」(高山宏 『新人文感覚』全2巻完結記念トークイベント)に参加してきた


■アルチンボルドの同時代人

エル・グレコ展(東京都美術館)にいってきた(2013年2月26日)-これほどの規模の回顧展は日本ではしばらく開催されることはないだろう ・・バロック絵画の代表作品を描いたエル・グレコ(1541~1614)が活躍したのは1600年前後、大航海時代である。マニエリストとして、アルチンボルドの同時代人である

『カラヴァッジョ展』(国立西洋美術館)の初日にいってきた(2016年3月1日)-「これぞバロック!」という傑作の数々が東京・上野に集結!
・・・・同時代人だがカラヴァッジョ(1571~1610)より30歳年上のエル・グレコ(1541~1614)

All the world's a stage(世界すべてが舞台)-シェイクスピア生誕450年!
・・シェイクスピア(1564~1616)もまた同時代人

(19世紀江戸時代幕末の浮世絵師・歌川国芳への影響関係は?)



■日本における奇想の系譜

「没後150年 歌川国芳展」(六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリー)にいってきた-KUNIYOSHI はほんとうにスゴイ!

「特別展 雪村-奇想の誕生-」(東京藝術大学大学美術館) にいってきた(2017年5月18日)-なるほど、ここから「奇想」が始まったのか! 

「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」(千葉市美術館)にいってきた

「特別展 ボストン美術館 日本美術の至宝」(東京国立博物館 平成館)にいってきた

書評 『若冲になったアメリカ人-ジョー・D・プライス物語-』(ジョー・D・プライス、 山下裕二=インタビュアー、小学館、2007)-「出会い」の喜び、素晴らしさについての本

(2017年7月29日 情報追加)


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