『ホンダジェット-開発リーダーが語る30年の全軌跡-』(前間孝則、新潮文庫、2019 )を読んだ。じつに読みごたえのある本だ。 初版の単行本は、2015年に出版されている。
1986年からゼロスタートした、自動車メーカのホンダによる小型ジェット機開発の全記録である。ホンダジェット(Honda Jet)は、エンジンを内部ではなく双翼の上に立てた画期的なデザインと、燃費性能を武器にして、6人乗り小型ジェット機の分野でトップブランドに躍り出た画期的な小型ジェット機だ。
それは、まったく新たな分野に挑んだイノベーションの記録であり、開発の中心にいた一技術者のリーダーシップと人生の軌跡でもある。
(ホンダジェットの機首 Wikipediaより)
1986年の開発開始から苦節30年。部品産業を含めて関連産業の裾野が広いとはいえ、それはあくまでもサプライヤーの話。購買者の裾野の広い自動車ビジネスとはまったく異なるのが、購買者が限定される民間航空機ビジネスの世界だ。民間航空機ビジネスは、顧客先にありきの軍用航空機ビジネスとも違う。
民間航空機の開発は、もともと航空機開発への夢をもっていた本田宗一郎が創業した、ホンダのようなイノーベーティブな会社でも、並大抵ではない苦労をともなったものであった。ホンダは日本企業だが、小型ジェット機開発は、最初から「航空機大国アメリカ」で開始されることになる。その理由は、本書に詳述されている。
革新的なアイディアを形にした「試作機」の完成は一つのマイルストーンであったが、それはまたあらたな始まりであったに過ぎない。ビジネスとして事業化すること、量産化するために越えなければならない壁はきわめて高かったのだ。ただ単に技術面だけの話ではない、経営そのものに直結してくるからだ。それほど民間航空機ビジネスは、ハイリスクである。イノーベーションとは、技術だけにかかわる話ではないのである。
(ホンダジェットの機内 Wikipediaより)
最近のホンダは、正直いって、かつてにくらべると残念ながら勢いがないような印象がある。だが、このホンダジェットの開発は、「パーソナル・モビリティ」を標榜するホンダにとって、二輪と四輪につづく、経営面でのあらたな柱となりうる事業分野の誕生といったことにとどまらず、創業者の本田宗一郎精神のあらたな時代への継承にもつながるストーリーでもある。
技術ノンフィクション作家の前間孝則氏の本は、何冊も読んでいるが、この本もまた、技術とそれを担う人間のドラマを描いた作品として楽しみながら読んだ。技術開発だけでなく、リーダーシップとマネジメントの本としても、読みごたえがある一冊である。
目 次
まえがき
序章 ホンダ航空機事業参入の衝撃
第1章 創業者精神の水脈
第2章 五里霧中の日々
第3章 ハードウエアで世界を変える
第4章 飛翔への道程
終章 グローバル時代の新次元へ
あとがき
文庫版あとがき
主要参考文献
著者プロフィール
前間孝則(まえの・たかのり)
1946(昭和21)年、佐賀県生まれ。石川島播磨重工業(現IHI)でジエットエンジンの設計に20年余従事する。1988年に同社を退職後、執筆活動に入る。技術ノンフィクション分野の著者多数。代表作に『戦艦大和誕生』『戦艦大和の技術遺産』『マンマシンの昭和伝説』など。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものの加筆)
<関連サイト>
ホンダジェット公式サイト(英語版)
ホンダジェット公式サイト(日本語版)
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(2019年4月16日 情報追加)
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