『モンテレッジォ-小さな村の旅する本屋の物語』(内田洋子、文春文庫、2021)を読んだ。本好きなら読むべき1冊。
イタリア在住で、イタリアものを中心に執筆活動をつづけているジャーナリストによる本。
聞いたこともないような、過疎化の進むイタリアの山中の限界集落から始まった、近代イタリアの「本の流通」の知られざる歴史。
たまたま著者が懇意にしていたヴェネツィアの古書店の店主が、その寒村の「本の行商人」の一族出身であることを知ったことから始まる物語。
読者は著者と一緒に、その知られざる歴史をひとつひとつたどっていきながら、ローマ帝国時代にさかのぼるイタリアの過去、現在、未来を旅することになる。
(モンテレッジォにある本の行商人の石像 文庫版より)
なぜ出版社も印刷所もないような、貧しい山中の寒村の住人たちが、しかも文字も読めない人たちもいたにもかかわらず、重い本を背負って遠くまで行商に出ていたのか?
著者や出版社、そして印刷所がモノとしての本にかかわっているが、それを売ってくれる人たちがいなければ読者の手に届くことはない。言い換えれば流通のことだ。
行商人と露天商。これが近代イタリアの本の流通の原点にある。1冊、1冊を手渡しで読者の手に届けた人たちの存在。敷居の高い店舗に入りづらい人たちも読者にしていったのだ。
それだけでない。秘密出版や禁書をひそかに流通させたのもかれらなのだ。19世紀半ばの「リソルジメント」(=イタリア統一)だけでなく、ファシズム時代もまたそうだったのだ。
(17世紀の本の行商人 『世界の歴史⑰ ヨーロッパ近世の開花』 より)
たまたま新刊書店の文庫本の棚の前に平積みされていたのを手にとったことで、はじめてその存在を知ったのがこの本。
本が本を呼び、本は人を呼び、人と人をつなげていく。ああ、そんな物語があったのだな、と。本は本だけで成り立っているのではないのだ。
目 次はじめに1. それはヴェネツィアの古書店から始まった2. 海の神、山の神3. ここはいったいどこなのだ4. 石の声5. 貧しさのおかげ6. 行け、我が想いへ7. 中世は輝いていたのか!8. ゆっくり急げ9. 夏のない年10. ナポレオンと文化の密売人11. 新世界に旧世界を伝えて12. ヴェネチアの行商人たち13. 五人組が時代を開く14. 町と本と露天商賞と15. ページに挟まれた物語16. 窓の向こうにあとがきに代えて 本が生まれた村文庫版あとがき資料一覧
著者プロフィール内田洋子(うちだ・ようこ)1959年兵庫県神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒。通信社ウーノアソシエイツ代表。欧州と日本間でマスメディアに向けて情報を配信。2011年、『ジーノの家 イタリア10景』で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を同時受賞。2019年、ウンベルト・アニェッリ記念ジャーナリスト賞、2020年、イタリア版の本屋大賞・第68回露天商賞受賞式にて、外国人として初めて “金の籠賞(Gerla d'Oro)” を受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
<ブログ内関連記事>
(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!)
end