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2023年11月27日月曜日

映画『マイティ・ハート 愛と絆』(2007年、米国)をはじめて視聴した(2023年11月26日)ー 憎しみはなにも生み出さない。たとえ異なる宗教であっても人間として信頼と友情は築くことができる


 
映画『マイティ・ハート 愛と絆』(2007年、米国)を DVD ではじめて視聴した。108分。

「9・11」(2001年)の翌年、対テロ戦争の取材のため滞在していたパキスタン南部の都市カラチで、狂信的なイスラーム過激派のテロリストたちによって誘拐され人質となり、殺害されたダニエル・パール氏。米国の経済誌「ウォールストリート・ジャーナル」(WSJ)の記者であった。

その妻が書いた手記『マイティ・ハート ー 新聞記者ダニエル・パールの勇気ある生と死』(マリアンヌ・パール、高濱賛訳、潮出版社、2005)を原作にした映画である。Based on a true story とある。ほぼ実話であり、原作に忠実に映画化したとDVD付録の「メイキング映像」で監督が語っている。

おとり取材で呼び寄せられ、そのまま拘束されて人質となり、首を切り落とされるという残酷な殺された方をしたダニエル・パール氏。殺害されたとき夫は38歳、妻は33歳だった。妻は身ごもっていたが、夫は子どもの顔を見ることもできなかったのだ。

その名字パール(Pearl)からもわかるようにユダヤ系米国人であった。ゴールドやシルバー、ダイヤモンドやサファイアなど、宝石や貴金属を名字にしているユダヤ人は多い。

イスラーム過激派の取材をユダヤ系のジャーナリストが行うなんて、それだけで危険ではないかとわたしなど思ってしまうのだが、真相究明に命を賭けるジャーナリスト精神の発露とはいえ、新聞社の上司はどう考えていたのだろうか。

実際、ユダヤ人であるということが、ダニエル・パール誘拐の原因になったのである。どうやら「あなたはキリスト教徒か?」とかまをかけられ、一瞬ひるんで思わずユダヤ人だと口にしてしまったようだ。「記者はユダヤ人」だという情報が回り回って、テロリストによって誘拐される原因をつくりだしたのである。

「ユダヤ人=イスラエル=モサド=CIA」という「邪悪な連想」が、過激なイスラーム主義者たちの固定観念になっていたのが原因と考えられる。この固定観念は現在でも変わっていないのではないか?




■映画の舞台はパキスタン南部の都市カラチ

映画は、ともにジャーナリストであったこの夫婦のパキスタンにおける日常生活の描写から始まる。

夫が誘拐されてから平和な日常が断ち切られてしまうが、彼女を励ます同僚のムスリム系インド人女性記者、そして新聞社の上司たちパキスタン警察テロ対策部門(CID)のキャプテンとその部下たち。

人質の解放を待つ家族の気持ちに寄り添うかれらのあいだに、ほとんどひとつのチームのような連帯感も生まれてくる。


(インド洋に面したカラチはパキスタン第2の都市 クリックで拡大)


2001年の「9・11」後に米国の報復攻撃、逮捕され拘束された関係者は各国に設置された秘密基地で激しい拷問を受けていた。その象徴ともいえるのが、キューバにある米海軍グアンタナモ基地であった。

犯人側はグアンタナモ基地に拘束されている捕虜たちを解放せよと迫ってくるのだが、対テロ作戦を実行中の米国政府は断固として拒否する。この当時の国務長官はコリン・パウエル氏であった。

パキスタン警察テロ対策部門(CID)の総力をあげての必死の捜索活動で、ついに真犯人を追い詰めるところまでいったのだが・・・。



■ユダヤ教徒のダニエル・パール氏は宗教的に寛容であった

ユダヤ系米国人ジャーナリストのダニエル・パール氏の悲劇については、ユダヤ系フランス人の哲学者ベルナール=アンリ・レヴィ(BHL)の『だれがダニエル・パールを殺したか? 上下』(山本知子訳、NHK出版、 2005)というノンフィクションがでている。




ずいぶん前に読んだので、詳しい内容は忘れてしまったが、残念ながら日本ではあまり話題になっていなかったように思う。

ベルナール=アンリ・レヴィ氏は、アルジェリア生まれのセファルディム系「フランスのネオコン」とよばれることもあるほど、熱烈にイスラエルを支持しているが、この事件とその取材活動をつうじて著作を行ったことで、さらにその確信を強めたのであろう。


イラク戦争を扇動した米国の「ネオコン」は、もともとは民主党支持の理想主義者のユダヤ系米国人の知識人が転向し、共和党支持になった人たちだ。ブッシュ・ジュニア政権のもとで猛威を振るったことは記憶にあたらしい。



だが、ダニエル・パール氏はユダヤ系であっても、それほど熱心にユダヤ教を実践していたわけではない。ましてやネオコンではまったくない。さらにその妻のマリアンヌはフランス人で、しかも仏教信者であった。夫婦でも異なる宗教だったのである。夫の家族も彼女を温かく迎え入れていた。

マリアンヌが仏壇の前で祈るシーンや、「南妙法蓮華経」とお題目を唱えるシーンもでてくる(・・ちょうど最初から71分時点)。ハリウッド映画でお題目が唱えられるのは、黒人ディーバであったティナ・ターナーの伝記映画以来かな。

田原総一郎のノンフィクション『創価学会』(田原総一郎、毎日文庫、2022)で、この映画のことをはじめて知った。昨年の今頃のことだ。それまでこの映画のことは、うかつなことにまったく知らなかったのだ。

あるいは、すでに『だれがダニエル・パールを殺したか?』を読んでいたから、あえて見るまでもないと黙殺したまま記憶から消えていたのかもしれない。


(マリアンヌ・パール氏とその手記)

田原氏の著書によれば、ダニエル・パール氏の妻マリアンヌは18歳から創価学会の信者であり、そのなかで人格形成してきたらしい。

夫の誘拐という身を引き裂くような事態に直面しながらも、冷静さを維持しつづけた強靱な精神力と、殺害という残酷な事実を受け止め、絶望から精神的に回復したリジリエンスは、そのたまものなのであろう。

二人の結婚式が回顧されるシーンでは、ユダヤ教ならではだが、新郎が飲み干したワイングラスを足で踏みつけて割る儀式とともに、仏教信者としての新婦の信条である「力と勇気、知恵と善意」について語られている。

(・・ただし、わたし自身は、創価学会どころか法華経の信者ですらない。Buddhist ではあるが、あえていえば「南無阿弥陀仏」の念仏系。とはいえ、浄土「真」宗ではない。しかも、まったく不熱心である。神社もお寺も参拝する、ごくごく普通の平均的な日本人、つまり山本七平いうところの「日本教徒」である。念のため)


(ダニエル・パール氏 Wikipediaより)


米国人でユダヤ教徒であったダニエル・パール、フランス人で仏教信者であったその妻、そして新聞社のカラチ支局で同僚であったムスリム系インド人女性、パキスタン社会のマジョリティであるムスリムたち。

夫婦のあいだの愛と絆、そして異なる宗教をもつ人びとのあいだでも信頼と友情は築くことができることを示した映画である。そして、憎しみがなにも生み出さないことも。

あの事件からすでに20年も経過している。わたしとはほぼ同世代のダニエル・パール氏にとっては、無念なことだっただろう。

その名前は日本では言及されることが少ないが、勇気あるジャーナリストとして、ダニエル・パール氏は長く記憶されるべきである。




<関連サイト>

Mariane Pearl
・・妻のマリアンヌ・パールにかんしては日本語版もある

Daniel Pearl
・・夫のダニエルにかんしては日本語版はない。残念ながら、日本での関心の薄さを反映しているようだ。
Daniel Pearl (October 10, 1963 – February 1, 2002) was an American journalist who worked for The Wall Street Journal. 
On January 23, 2002, he was kidnapped near a restaurant in downtown Karachi and murdered by terrorists in Pakistan. 
Pearl's kidnapping was carried out by Islamist militants after Pearl had gone to Pakistan as part of an investigation into the alleged links between British citizen Richard Reid (known as the "Shoe Bomber") and al-Qaeda
Pearl was beheaded by his captors, who later released a video of his murder. Ahmed Omar Saeed Sheikh, a British national of Pakistani origin, was sentenced to death by hanging for Pearl's abduction and murder in July 2002,[1] but his conviction was overturned by a Pakistani court on April 2, 2020.(・・後略・・)

・・ダニエル・パール氏の両親は、2020年にパキスタンの最高裁に対して、殺害犯人の死刑判決を取り下げるよう請願している。米国とパキスタンの架け橋となるべく活動されてきた両親。憎しみはなにも生み出さないという信念にもとづく




<ブログ内関連記事>

・・米国を代表する経済紙WSJ(=ウォール・ストリート・ジャーナル)と日本経済新聞の違いもまた、本書を読んでいてつよく印象づけられた。・・記者クラブのない米国の新聞ジャーナリズムの基本線をつくったのがWSJであった。

・・学会そのものも強靱な組織であるが、信者もまた精神的に強靱である。先日(2023年11月15日)、創価学会の第3代会長でカリスマ的存在であった池田大作氏が95歳で亡くなったが、これからどうなるかはわからない。国内と国外でも影響の現れ方には違いがでてくるかもしれない

・・キューバにある米海軍のグアンタナモ基地内に設置された監獄で行われた拷問。アメリカ同時多発テロ以降は、中東などからのテロリズム容疑者の尋問と収容を、この基地でおこなった。その背景は、アメリカ合衆国憲法下では被疑者の人権を保障しているため、租借条約上、米国が完全な管轄権を持ち、かつ米国の主権下ではない「灰色地帯」を利用することをもくろんだものと考えられている」


■テロリズム。アフガニスタン、パキスタン、インド

・・CIAによるウサーマ・ビンラディン殺害作戦


・・タリバーンによる「人類の文化遺産」バーミヤン仏教遺跡の破壊は2001年のことであった





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