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2023年11月29日水曜日

書評『イランは脅威か ー ホルムズ海峡の大国と日本外交』(齋藤貢、岩波書店、2022)ー 米国とイランが敵対関係にあるからこそ、イランと良好な関係を維持してきた日本の価値がある

 

『イランは脅威か ー ホルムズ海峡の大国と日本外交』(齋藤貢、岩波書店、2022)という本があることを知り、さっそく取り寄せて読んでみた。

BS番組でコメンテターとして出演しているのを YouTube で視聴して、はじめて著者のことを知った次第。

日本の前イラン大使による回想録を兼ねた現代イラン論と日本外交論である。『イランは脅威か』というタイトルだが、著者の立ち位置から考えれば、答えはおのずから明らかであろう。

米国とイランが敵対関係にあるからこそ、イランと良好な関係を維持してきた日本の価値がある。それが結論であり、わたしも大いに賛同する。

原油輸入の9割を中東に依存している日本は、ホルムズ海峡の安全維持のため、イランとの関係はきわめて重要である。たとえ日米同盟があろうと、米国に盲従してイランと敵対関係になるなんてバカげたことだ。けっして安直な道ではないが、それはそれ、これはこれ、である。

ただし、イランを含めた中東地域は、米国の勢力圏であることには変わりない。日本が単独で外交を行う余地はない米国との協調を前提としながら、独自性を発揮すべきなのである。

とはいいながらも、米国による経済制裁があるなかでは、ビジネス活動も行いにくい。それが現実である以上、ビジネス以外での関係は良好に維持しておくことが重要だ。将来的に制裁が解除されていくことも視野に入れておく必要がある。



■イランと米国は40年以上にわたって敵対関係

米国とイランが1979年の「イラン・イスラーム革命」以来、40年以上にわたって敵対関係にあり、しかもそれにイスラエルというファクターが加わって、中東情勢が複雑化していることは周知のとおりだ。

だが、1953年のモサッデグ政権の転覆以来の「反米意識」が根底にあると考えるべきだと著者はいう。米国のいいなりだった王政時代には、反米意識がくすぶっていたわけだ。英国支配が米国に支配に変わっただけだろいう認識。異民族によって支配されてきた歴史の長いイラン人は、複雑で屈折しているのである。

もともと非アラブということで良好な関係にあったイランとイスラエルだが、1979年の革命以降は、反米と反イスラエルが、ほとんどイランの国是のようになってしまっている。

イスラエルは自国の安全保障のため、なんとかしてイランの核開発を阻止したいと考えている。米国とイスラエルが密接な関係だからこそ、米国はなんとかイスラエルの暴走を押さえているが、そうでなかったならイスラエルは単独でも実行するだろう。

2020年1月には、米国はイラン革命防衛隊のスレイマン司令官の暗殺を実行している。あわや全面戦争になるかと危惧されたが、イランはうまく対応して米国との前面衝突を回避している。

まさにこのときイランに駐在していた、著者の齋藤氏によるイラン人の思考パタンと行動パタンの分析が興味深い。

湾岸のアラブ諸国での駐在経験をもつ著者は、感性を重んじて感情的にリアクションする傾向にあるアラブ人と比較して、イラン人の特性は「理性」と「論理」を重んじることに見ている。

理詰めの思考を行うイラン人は、プレイヤーとしてチェスの盤面を読みながら差し手を考えているというわけだ。

つねに「相互主義」であり、1つのアクションに対して、リアクションは1つとなる。イランは、けっして無茶なことをしでかすわけではない。一言でいえば、イラン人は賢いのである。イラン人は優秀である。言い換えれば、イラン人は手強い交渉相手なのである。

ところが、トランプ前大統領はそうではなかった。「マッドマン・セオリー」にもとづき、平気で想定外の「10倍返し」を行ってくる。このトランプの特性をイランは読み切れなかったのである、と。

チェスをさしているつもりのイランに対して、米国はポーカーをやっていたのだという著者の見立てが面白い。


■41年ぶりにイランを公式訪問した安倍外交の積極的評価

トランプ大統領(当時)によるイランへの制裁再開で、イランと米国との緊張が高まるなか、安倍晋三首相(当時)は、2019年6月に日本の首相として41年振り(!)にイランを公式訪問している。

前回の福田(父)首相(当時)は、王政時代の1978年であり、それからしばらくして王政が倒れている。当時のことを知る人間は外務省にはおらず、しかも公式訪問であるが急遽数週間前に決まったこともあって、舞台裏では苦労が多かったようだ。そんな裏話が興味深い。

著者は、この安倍外交を積極的に評価している。というのは、この時期にあえて火中の栗を拾って、イランを説得する役目を買って出たのは、世界中で安倍晋三氏だけだったからだ。

英国はイランからみれば憎むべき因縁の関係であり、国境を接するロシアも長年の確執があって関係はかならずしも良好ではない。米国による制裁によって中国とは大いに接近しており米ドル決済を回避するための「崑崙銀行」なる存在もあるが、イラン人はかならずしも中国人を好いていないようだ。

安倍首相のイラン訪問後、数ヶ月後にはローハニ大統領の日本訪問などもあったが、あくまでも「原理原則」にこだわるイランは、まずは米国が先に制裁を解除すべきだと主張して、結局折れることはなかったのは残念なところだ。

結局、安倍氏によるイランに対する説得はうまくいかなかったわけだが、あえてその役目を買って出た安倍氏の行動は、イラン側も大いに評価していたようだ。日本は信用できる、と。

イランは革命後から北朝鮮との関係は良好であり、トランプ大統領と北朝鮮の金正恩氏との交渉についても、イラン側は米国の情報を北朝鮮ルートで知っているようだと著者は推測している。というのは、北朝鮮の外交官は各国との交流を行わないためだ。


■イランの体制と「民意」との関係

ある種の「神権政治体制」にあるイランだが、民衆に支持されたために成功した「革命」の経緯からいって、民意を無視することができない。この点は重要だ。

原理原則にこだわるイランは、米国の制裁を受けながらも、なんとか経済的な苦境を耐え忍んでいる状況にある。

とはいっても、首都のテヘランでは現在の体制に対する不満が存在し、ときどきデモや暴動となって爆発しているだけでなく、「保守強硬派」だけに立候補資格が与えられた先の大統領選挙では、投票ボイコットを行って抵抗している。

新型コロナ感染症(COVID-19)に際しても、国民に休業補償を行う財政的余地がなかったことも、国民の不満になっている。

革命から40年以上たって、革命精神が後退し、緩んできているのではないかというのが、体制側の危機感である。地方では、革命の恩恵を語る人びとがまだまだ多いが、テヘランではそうではない。本書出版後もスカーフ問題をめぐっての大規模デモが発生するなど、体制側の締め付けに対する国民の不満を抑えきれるわけでもない。

国王ないしは首長のもとに勅選議会が置かれた湾岸諸国とは違って、直接選挙による大統領制と民選議員による議会をもつイランだが、ホンネとしては議院内閣制に変えたいようだ。ワンクッション置くことで、民意とは間接的な関係にもっていくことができるからだ。

保守強硬派の最高指導者ハメネイ師のもと、保守強硬派のライシ大統領となっている現在のイランだが、今後どうなっていくのだろうか。しかも、2023年の現在、次期大統領選挙ではトランプ元大統領の復活が確率的に高まっている。ふたたび緊張が高まる可能性もある。

東アジア情勢が緊迫化するだけでなく、ウクライナ戦争も一向に収束する気配もない。さらに、イスラエルでの「10・7」テロ以降は中東情勢も緊迫化している。

複雑化する世の中、なにごとも一筋縄ではいかない。イランとの関係だけでなく、日本が長年支援してきたパレスチナとの関係もまた意味をもつことだろう。

日米同盟とイランとの関係をどうバランスさせていくか、日本の政治家の見識が大いに問われるところだ。『イランは脅威か ー ホルムズ海峡の大国と日本外交』は、あくまでも日本人にとっての対イラン関係を考えるうえで、実務家が書いた貴重な内容の1冊である。




目 次 
はじめに 日本の国益とイラン 
序章 中東地域にエネルギーを依存し続ける日本 
第Ⅰ部 米国とイラン ー 高まる緊張と日本の積極外交
 第1章 安倍総理の積極外交
 第2章 ローハニ大統領の19年ぶりの公式訪日
第Ⅱ部 イランと米国はなぜお互いを信用できないのか
 第3章 モサッデグ政権転覆クーデターからイスラム革命へ
  1 なぜ日本の努力はうまく行かなかったのか?
  2 米国の怒りの原点、米国大使館占拠・人質事件
  3 モサッデグ政権の転覆 ー イランの言い分
 第4章 イラン・イラク戦争から 9・11へ ー ますます泥沼化するイランと米国の相互不信) 
  1 イラクに荷担した米国
  2 奇々怪々なイラン・コントラ事件
第Ⅲ部 ジェットコースターに乗ったイラン 2019~2021 ー 続く米国との緊張、新型コロナ、新大統領の登場
 第5章 イランはチェスを指し、アメリカはポーカーをする
 第6章 新型コロナとの闘い、そして墓穴を掘った米国
 第7章 バイデン政権と強硬派のイラン新大統領、そしてイスラエルという火種
 第8章 米国とイランの狭間で ー イランと向き合うことは日本の国益か?
おわりに 日本外交のチャンスと役割


著者プロフィール
齊藤貢(さいとう・みつぐ)
1957年生。東京都出身。1980年一橋大学社会学部卒業、外務省入省。カイロで2年間アラビア語研修を受けたのち、オックスフォード大学に留学し中東現代史を専攻。その後在サウジアラビア日本国大使館、在イスラエル日本国大使館勤務を経て、国際連合日本政府代表部で安全保障理事会の中東関係を担当。外務省国際情報課長や在アラブ首長国連邦日本国大使館公使、内閣官房内閣審議官等を経て、2012年在タイ日本国大使館公使。2015年駐オマーン特命全権大使。2018年、駐イラン特命全権大使。2019年にはサーダバード宮殿での安倍晋三内閣総理大臣とハサン・ロウハーニーイラン大統領との首脳会談に参加。2020年退官。2020年、外務省を退官。2021年から東洋英和女学院大学非常勤顧問。専門はペルシャ湾情勢、危機管理。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに wikipedia  情報で補足


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