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2023年9月19日火曜日

映画『アルゴ(ARGO)』(2012年、米国)とドキュメンタリー映画『Desert One 人質救出作戦』(2019年、米国)をつづけて視聴。1979年の「イラン・イスラーム革命」後のイランと米国の不幸な関係の始まりを「人質救出作戦」をつうじて振り返る

 
公開された時点で、これはぜひ見たいと思いながらも、その機会を逸して11年。ようやく映画『アルゴ(ARGO)』(2012年、米国)を amazon prime video で視聴した(2023年9月18日)。

このところ、イラン関係のドキュメンタリー映画を見たり、イラン関係の本を読んでいて、1979年のことをあらためて思い起こしたこともあって、この映画のことを忘れていたことに気がついたのだ。

石油産業という観点から、そしてカスピ海をはさんで北に隣接するソ連の監視という安全保障の観点から、CIAによってモサデク政権を倒して以降、王政を全面的にバックアップしてきた米国の歴代政権

しかし、原油輸出による経済好況にありながら、ペルシア帝国の再来をうたいあげる王政のもと、貧富の格差は拡大し、一般民衆の不満は限界まで膨らんでいた。反体制派はSAVAKという秘密警察によって拷問され、弾圧されていた。

現場のペルシア語情報を十分に吸い上げていなかった米国政府は、そこを見誤っていたのだ。日本政府も米国情報に依存していたので、革命への機運を見抜けなかったことは言うまでもない。

1979年2月の「イラン・イスラーム革命」は、イランと米国の不幸な関係の始まりだった。現在まで四半世紀にわたってつづく敵対関係である。

シャー(Shah of Iran)と呼ばれていたパーレヴィ国王はガンの治療のため米国へ。ホメイニ師を頂点にしたイスラーム指導者の先導のもと、学生や民衆の激しい怒りは米国に向けられることになる。

そして発生したのが、テヘランの米国大使館が学生によって占拠され、館員が444日にわたって人質になって拘束されるという、米国にとっては前代未聞の事件であった。1979年11月14日のことである。その翌年4月に米国はイランと断交した。



ところが、占拠された大使館からからくも脱出に成功した職員6名がいたのだ。カナダ大使の私邸にかくまわれ、潜伏生活を送ることになった。

この事実を知った米国政府は、CIAによるそれこそ前代未聞の奇想天外な作戦で救助に乗り出すことになった。ハリウッドでフェイク映画を撮影するという設定で、その撮影クルーのロケハンのスタッフと偽装させてテヘラン空港から脱出させるという作戦だ。

(作戦のために製作されたポスター Wikipediaより)


この映画は、その作戦を立案し、単身でイランに入国して作戦を遂行した元CIA職員によるノンフィクションである。映画の冒頭に Based on a true story とある。セリフの一部には修正や変更があるとはいえ、実話にもとづいた手に汗握るスパイ・サスペンスもの120分であった。緊張感の連続のこの映画は、2時間が限界であろう。

別居した妻と暮らす息子との電話での会話のなか、息子が見ていた『猿の惑星』がヒントになるとは! 追い詰められていると、なにがヒントになるかわからないものだな、と。

6人の職員を救出する作戦は成功に終わったが、クリントン政権になるまで情報は封印されいたらしい。この救出作戦そのもについて、リアルタイムでは知らなかったのもムリはないかもしれない。

情報開示のおかげで、こうして30年後に製作されたエンターテインメントとして楽しみ、事件そのものについて深く知ることができるわけだが、占拠された大使館の人質は救出されないままであった。


■失敗に終わった特殊部隊による米国大使館の人質救出作戦


失敗に終わった特殊部隊による米国大使館の「人質救出作戦」について、事件の約40年後に製作されたものだ。米国側とイラン側の双方の関係者たちにインタビュー取材を行った、公平で良心的なドキュメンタリー映画である。




作戦の実行を担ったのは、米陸軍の対テロ特殊部隊デルタフォース内陸部のテヘランに兵員輸送機で特殊部隊を送り込み、中継地点でヘリコプターに乗り換えてテヘランに向かい、大使館を急襲して人質を奪還、そのままヘリコプターで連れて帰るというのが作戦の骨子であった。

(計画された飛行ルートと実際のルート Wikipediaより)

作戦のために選抜され、訓練に訓練を重ねた選りすぐりのパイロットにとっても、暗視ゴーグルを着用しての夜間飛行はハードタスクである。

しかも、なにごともやってみないとわからないのである。実際の作戦においては、「想定外」の砂嵐(デザート・ストーム)に巻き込まれて航行に支障をきたしたのだ。

作戦が中止と決まったのち、脱出するヘリコプターが輸送機C-130に衝突、炎上し米兵が8人死亡という事故を引き起こしてしまう。最悪の結末となってしまった。

(炎上した輸送機の残骸 Wikipediaより)

作戦は大失敗に終わり、ゴーサインを出したカーター政権にとっては、痛恨の事態となった。結局、人質救出ができなかった民主党のカーターは再選されず、その事態を批判してきた共和党のレーガンが登場することになる。

米国政府に凍結された資産と引き替えに、イランの革命政権が人質を解放したのは、レーガンが大統領に就任したその日のことであった。カーターにとっては屈辱以外のなにものでもなかったのである。




この救出作戦が準備されていたことで、カナダ大使にかくまわれた6名救出作戦が中止になる可能性もあったことは、映画『アルゴ』のシーンにある。

「アルゴ作戦」は、実行前日に上部から中止せよ(abort)との命令がでたのである。他国の主権を侵犯し、カナダ政府もからんだ国際的な案件であり、大統領のサインがなければ秘密作戦は実行できないのである。

現場で作戦を遂行したCIA職員は悩みに悩み、最後のギリギリの時点で実行を決断し、見切り発車的に踏み切ったのである。CIA職員の使命感と勇気、そのことを知って大統領のサインを得るべく奔走したCIAの上司、そして人質の6名のチームワークが成功を導いたのである。




「イーグル・クロー作戦」が失敗に終わった4月25日は、逆にイランでは米国を撃退した日ととして祝われているという。事の是非は別にして、このドキュメンタリー映画は、複眼的に見ることが必要なことを教えてくれる。あくまでも米国視線の『アルゴ』とは真逆の姿勢である。

作戦が大失敗に終わってから40年後の回想であるが、このような良質なドキュメンタリー映画を作製し、過去をきちんと検証しようという姿勢は、大いに評価されるべきである。

失敗から学ぶことほど、重要なことはない。




<ブログ内関連記事>

・・1993年のモガディシュの市街戦では攻撃用ヘリコプターが撃墜され、米兵の遺体が狼藉行為にあった。2012年のベンガジでは米国公使館が占拠される直前に、かろうじて脱出に成功

・・・陸軍特殊部隊のデルタフォースではなく、海軍特殊部隊のネイビーシールズがウサーマ・ビン・ラディーン殺害計画を実行。しかしながら、2011年のこの作戦においても、ヘリコプターが1機故障し現場で放棄し破壊している

・・・2009年のソマリア沖人質事件


・・ワシントン支局長を務める前にイランのテヘラン支局長を歴任した共同通信の記者によるもの


■イラン関係





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