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2026年10月22日木曜日

書評『日本はクール!? 間違いだらけの日本の魅力発信 From Cool Japan to Your Japan』(ベンジャミン・ボアズ、クロスメディア・パブリッシング、2022)(ベンジャミン・ボアズ、クロスメディア・パブリッシング、2022)― 「日本」というブランドの価値をただしく認識して、ただしく活かすために必要なことは?

 

「インバウンド公害」とさえ言いたくなるほど、来日する外国人観光客が多い。

人流が途絶えたコロナのパンデミック状況下では下火になっていたが、コロナ開けとともに再開して現在にいたっている。 

円安が原因だという声もあるが、かならずしもそうではないようだ。日本に行きたい、また行きたい、そんな人が少なくないのだ、と。 

日本にいちどでも来た人は、また来たくなる。好きになってしまったから、また来たくなる。しかも、円安だからハードルは低い。というわけでリピーターが多くなるようなのだ。 

最初の来日では、定番の観光地を回る。2回目以降は、ネット情報をもとに、日本人でさえ知らないような場所を自分で訪ねていく。3回目以降は、さらにもっと探求したくなる・・・・ 

どうやら、日本はいま「モテ期」に入っているようなのだ。 では、なぜそんなにモテるのか? なぜそんなに外国人を「引き寄せ」ているのか?

当の日本人自身にはよくわからないのだが、モテていることは事実である。そうであるなら、素直に受け入れたほうが良さそうだ。 

たとえ、それが誤解にもとづくものであっても、モテないよりモテたほうがいいにきまっている(よね)。 



■「売りたいモノ」と「売れるモノ」は違う 

この状況で正確に認識しなくてはならないのは、「日本人が見せたい日本」と、「外国人が見ている日本」はイコールではないということだ。

「売りたいモノ」と「売れるモノ」の違いといっていいかもしれない。 

この違いがわかってないから「クールジャパン政策」はうまくいかないのだというのが、『日本はクール!? 間違いだらけの日本の魅力発信 From Cool Japan to Your Japan』(ベンジャミン・ボアズ、クロスメディア・パブリッシング、2022)で著者が主張していることだ。     

1983年ニューヨーク生まれの著者は、日本のマンガから入って日本大好きになった人。ずっと日本に住み続けると決めていて、2016年からはクールジャパン・アンバッサダーもつとめていた。 

著者は、「クールジャパン」というフレーズは、自慢しているように聞こえるという。なぜなら、日本に関心のある外国人はみな、日本がクールであることなどわかっているから。

誰だって自慢話など聞きたくはないのである。 



■「売れるモノ」は「買う側のアタマのなか」にある 

著者はまた、「マイ・ジャパン」と「ユア・ジャパン」の違いがきわめて重要だとして、なんども繰り返し語っている。 

「マイ・ジャパン」とは「日本人が自慢したい日本」のこと。「ユア・ジャパン」とは、「外国人が好意的に見ている日本」のこと。 

後者の「ユア・ジャパン」は、あくまでも外国人のアタマのなかの日本であって、日本人自身の自己認識である「マイ・ジャパン」とズレが生じているのは当然だろう。「脳内ジャパン」にかかわるパーセプション・ギャップである。 

この状況は、百数十年前の「第1次日本ブーム」とおなじである。当時の日本人は、ポップカルチャーの浮世絵など価値を認めていなかったことはよく知られている。浮世絵の価値を発見したのは外国人のコレクターたちであり、印象派の画家たちであった。 

誰もが「自分が見たいもの」しか見ていないという認知バイアスを前提とするならば、「売りたいモノ」より「売れるモノ」に注目すべきことは言うまでもないではないか。なにが売れるかを決めるのは、あくまでも買う側であって売る側ではない。 

しかも、外国人のアタマのなかにある「ユア・ジャパン」は、個々人によって千差万別だ。 日本好きといっても、好きなものは人によって違うのは当たり前。

自分が好きなものは自分から探そうとするものであり、現在のネット環境なら、すぐにでも情報はゲットできる。日本好きが高じて英語(その他の言語)で情報発信している外国人など無数にいる。 

となると、売る側の日本人がすべきことは、売り込むのではなく、買いたいと思っている人うまく誘導する「仕組み」をつくることだろう。アクセスしやすい「場」を提供することである。 

「プロダクト・アウト」ではなく、「マーケット・イン」の発想に切り替えることだ。顧客の声を聴くことである。顧客が欲しがる情報を提供することだ。やみくもに情報発信すればいいというものではない。 

国内市場では当たり前に語られている発想が、なぜ海外の顧客を相手にする際に活かされないのか? 

日本人は自分をうまく見せようとばかり考えて、相手の興味に刺さっていないのである。「べき論」が多すぎるのだ。「島国意識」の悪しき側面である。 

まずは日本好きな外国人の声に素直に耳を傾けること、なんといってもこれがいちばん大事なことなのだ。関心のありかは人によって違うから、うまく誘導することが大事なのである。 


■「第3次日本ブーム」における日本サイドの問題に目を向けよ 

著者のボアズ氏は、マンガとゲームを入口にして日本好きになったという。 マンガから始まって、お茶や禅、合気道などハイカルチャーに進むという、絵に描いたような図式である。 

著者は、「第3次日本ブーム」のまっただなかにいるわけだ。人生には「モテ期」が3回あると言われるが、日本という国もまた3回目の「モテ期」にあるようだ。

一方、著者の親の世代は、日本の伝統工芸に魅せられて、それが日本好きの入口になっていると観察している。 

アニメも伝統工芸、一見すると異なるモノとみられがちだが、それが日本製である以外にも共通点がある。アニメも伝統工芸は、ともに「手仕事」のウェイトが大きいということだ。 

伝統工芸品にかんしては、つくり手である職人の減少が問題とされ、技術の伝承が懸念されていることが問題となって久しい。 

現在のアニメは全盛期と見られがちだが、アニメ制作会社の低賃金構造がもたらす、アニメーターの離職率の高さが問題であり続けている。 

アニメ産業も需要をつくりだし、需要増に応えることにばかりに注力して、業界が抱える問題に手をこまねいていては、伝統工芸と同様に先細りしてしまう可能性も否定できない。この問題は、きわめて重大だ。

伝統工芸とアニメという、外国人がもっとも注目する分野が抱える問題に対して、日本人自身がもっと目を向けるべきである。当たり前だと思っているものは、失ったときはじめてその価値に気づくことも多い。

業界内部からも改善への取り組みは始まっているが 、著者のような日本大好きな外国人の懸念に耳を傾け、アクションを起こすことが必要だ。それは官民あげての課題である。 


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目 次
まえがき 
序章 完璧を売り込む 
第1章 日本ではなく「ジャパン」 
第2章 マイ・ジャパンからユア・ジャパンに渡る 
第3章 ビジネスにおけるクールジャパンの成功例 
第4章 他人の興味を活かせばいい 
第5章 クールジャパンってそもそも何? 
第6章 クールジャパンの本当の姿 
第7章 国や組織ができること 
第8章 クールジャパン庁を設立せよ 
終章 日本再発見



<ブログ内関連記事>

■ジャポニスムと日本への環流






■日本人よりも外国人が高く評価してきた日本美術と工芸品


・・明治時代の日本美術発見者であるフェノロサとビゲローによる収集品は、その大半がボストン美術館に収蔵されている

書評 『若冲になったアメリカ人-ジョー・D・プライス物語-』(ジョー・D・プライス、 山下裕二=インタビュアー、小学館、2007) 
・・テーマ性で収集したジョブズやドラッカーとは異なり、埋もれていた一人の絵師の作品に惚れ込んだアメリカ人コレクターによるコレクション

『ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画- 「マネジメントの父」が愛した日本の美-』(千葉市美術館)に行ってきた(2015年5月28日)-水墨画を中心としたコレクションにドラッカーの知的創造の源泉を読む 
・・青年期まで過ごしたウィーンやフランクフルトなどで接していた、第一次世界大戦と同時代の「ドイツ表現主義」が実現できず終わったことを、すでに江戸時代の日本人が禅画で実現していたとドラッカーは言う。「写実」ではなく「写意」として

・・「新版画」の橋口五葉や川瀬巴水


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