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2010年2月14日日曜日

バレンタイン・デーに本の贈り物 『大正十五年のバレンタイン-日本でチョコレートをつくった V.F.モロゾフ物語-』(川又一英、PHP、1984)




 ロシア革命による亡命者モロゾフ(MOROZOFF)一家の、日本での苦闘と定着の物語。

 この一家は、副題にいい尽くされているように、1926年(大正15年)神戸ではじめてチョコレートを作って販売した。事業創業(起業)と商標権喪失にともなう再創業、そして再建の物語でもある。
 
 このファミリーの歴史がいかに波瀾万丈で、苦闘の連続であったかといえば、ハルビンに脱出した後、日本を経由して親戚を頼って米国のシアトルに渡ったが生活を再建できず、再び日本に戻って東京でやり直そうとしたが関東大震災の発生で横浜に上陸は不可能、仕方なく神戸に上陸し、ここで腹を括って人生の再建に取り組んだことにあらわれている。

 所持金は全部で3,000円、当時は月給100円でそれなりの裕福な暮らしができたようなので、現在に換算すればかなりの額ではあるが、そのままでは一家の生計で食いつぶしてしまう。その前になんとか所持金を元手に、確実にカネになる事業に踏み込まなくてはならない。

 一家の家長である「無国籍の亡命者」フョードルにとっては、雇用してくれる先などあるわけがないのだから、起業はまさに死活問題であったわけだ。

 横浜と並んで、日本ではもっとも早く洋風化が始まった神戸であるが、ここで目をつけたのが洋菓子、なかでも高級チョコレートの製造と販売であった。当時の日本では、チョコレートといえば駄菓子程度のものしかなく、ここに商機ありと見てとったのだが、これが正解だったわけだ。

 そして1926年(大正15年)に開業、ハルビンからロシア人の洋菓子職人を呼び寄せ、息子のワレンティンには15歳で菓子職人の道を選ばせた。後ろ盾も国籍もない異国の地で始めた洋菓子の製造販売は軌道にのり、神戸だけでなく東京にも販路を拡大し、日本での定着は成功したかにみえた。

 しかし、異国の地での苦労はそれでは終わらない。なんと、事業拡大のための設備投資の資金調達のため増資し、共同経営者となった人から裏切られ、商標権をめぐる訴訟に敗れた結果、ブランドであったファミリーネームの「モロゾフ」が使えなくなり、1941年「コスモポリタン」(Cosmopolitan)という名前で再出発することとなった。商標の重要性について身をもって知ることとなったわけである。したがって、現在のモロゾフ製菓と創業者であるモロゾフ一家の関係はない。

 この経緯については、本書で詳しく語られているが、日本語が不自由で無国籍者のモロゾフとの契約をうまく利用し、契約を楯にとって創業家を事業から追い出したといっても、いい過ぎではないだろう。

 法治国家である以上、契約書記載事項をめぐる訴訟の結果であるから仕方がないといえば仕方がないのだが、しかし信頼していたパートナーから裏切られたことは、どれだけ創業者一家には精神的にもダメージになったことだろうか。

 とはいえ、他方では全面的に支援してくれた人たちもいたわけである。戦後の再建ももちろん顧客を含めた支持者たちのおかげであったことはいうまでもない。

 セ・ラ・ヴィ、人生というものはこういうものか。チョコレートの味は甘く、人生の味は苦い。そんな気持ちにもさせられるモロゾフ一家の物語である。

 1984年に出版されたこの物語は、戦後のモロゾフ商標をめぐる別の訴訟(・・酒類における商標権)での勝訴で終わっているのだが、権利を守っただけでなく、ファミリーネームとそれにまつわる名誉を守ることができたのであった。

 
 本書の内容に付け加えると、「コスモポリタン」は、このブログで紹介したメリー・チョコレート・カムパニーと並んで、日本でバレンタイン・デーにチョコレートを贈る習慣をはじめたといわれている。「恵方巻き」なんて、関西出身なのにウチではやったことがない!-「創られた伝統」についての考察-参照。

 1983年の出版当時60歳台であった店主のワレンティン(Valentine)は、英語で言えばバレンタインである。日本に定住してからも終生「無国籍」のままだったという。彼は祖国の帝政ロシアに強い愛着をもち、ソ連の国籍も取得せず、また日本国籍も取らなかった。国籍変更によって名前を日本風に変えるのは祖国とのつながりを断ってしまう行為に思えたからだという。

 「無国籍」状態がいかに大変なことかは、台湾人家庭に生まれだが1972年の日中国交回復により親の方針で国籍放棄した結果無籍であった陳天璽が無国籍』(新潮社、2005)で詳述しているが、不便きわまりないものであるだけでなく、アイデンティティに直結する問題であることがわかる。

 神戸は本書の出版後、阪神大震災によって壊滅的打撃を受けたが、洋菓子産業は復興後の神戸で元気な産業の一つとなっていることは、洋菓子の経営学-「神戸スウィーツ」に学ぶ地場産業育成の戦略-』(森元伸枝、加護野忠男=解説、プレジデント社、2009)で扱われている。「経営学」と名乗るような内容の本ではないが、職人養成と独立の仕組みについては面白い記述のある本である。

 しかし、「コスモポリタン」は2006年に業績不振を理由に自主廃業したという。近代的な経営を志向して成功した「モロゾフ製菓」と大きく分かれた運命。これは経営上のものであるから、「コスモポリタン」の経営方針と経営能力の問題といっていいだろう。時代の変化について行けなかったのだろうか。

 神戸では同じく白系ロシア人亡命者の創業になる「ゴンチャロフ製菓」があるが、こちらは現在でも健在である。

 白系ロシア人といえばこのほか、野球選手として巨人でピッチャーであった V.スタルヒンについては、娘のナターシャ・スタルヒンが白球に栄光と夢をのせて-わが父V.スタルヒン物語-』(ベースボールマガジン社、1979)で描いているがこの本は絶版。また、バレエ教師として数々の日本人バレリーナを育成したエリアナ・パブロワという人もいる。瀕死の白鳥-亡命者エリアナ・パブロバの生涯-』(大野芳、新潮社、1999)にまとめられている。

 異国で人生を再建せざるを得なくなった人たちの物語は、絶望的な状況のなかでも道を切り開いていった人たちの物語であり、読めば勇気がわいてくる。


 なお、大正十五年のバレンタイン-日本でチョコレートをつくった V.F.モロゾフ物語-は、文庫化されることもなく、絶版のままである。ぜひ何らかの形で復刊を期待したい。できれば文庫版として。後日談を含めて再刊ということは期待できないのだろうか・・・

 しかし、早稲田文学部露文科出身の作家、ロシアものや正教ものの作品を多数執筆した著者の川又一英はすでに亡くなっている。ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝の生涯を描いたヒゲのウヰスキー誕生す』(新潮社、1982)は文庫化されたが、こちらも品切れ状態なのは実に残念。

 悪書は良書を駆逐する。良書の命は短し、か。






◆復刊ドットコムにて投票を!
復刊リクエスト投票 No.49299 大正十五年の聖バレンタイン-日本でチョコレートをつくったV・F・モロゾフ物語


◆ついでにこの本も紹介。
 ウチの社長は外国人-成功起業家10人のサムライ精神-』(大宮知信、祥伝社新書、2005)
 カンボジア難民含めて総勢10人の起業家が取り上げられている。いつの時代でも異国でがんばる外国人たちがいるのだ。さまざまな人生があり、さまざまなスタイルの起業がある。
 さらに日本と日本人の心理的バリアが小さくなれば、もっと外国人が来日して起業して雇用を作りだしてくれるだろう。外国にでていって起業する日本人もいれば、外国からやってきて日本で起業する外国人もいる。
 出入りの多い、風通しのよい日本であることもまた、日本の将来を明るくすることであろう。







(2012年7月3日発売の拙著です)






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