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2012年7月25日水曜日

書評 『忘却に抵抗するドイツ-歴史教育から「記憶の文化」へ-』(岡 裕人、大月書店、2012)-在独22年の日本人歴史教師によるドイツ現代社会論


ふつうのビジネスパーソンであれば、このようなタイトルの本を読むことはないかもしれない。しかも出版社は大月書店だ。これだけで、敬遠してしまいがちだ。

わたしも、ふつうのビジネスパーソンとは、やや色合いの異なる人間だが、それでもこのタイトルと表紙カバーの写真を見ると、すこし引いてしまう。

写真はベルリンの中心、ブランデンブルク門の近くにある、ホロコーストにおけるユダヤ人犠牲者のメモリアルパークである。墓地に似せてつくられた「記憶」のための建造物である。わたしが最後にベルリンにいったのは2008年だが、そのときはまだ建設中であった。

この本を読むことにしたのは、じつは著者を直接知っているからである。すでに四半世紀以上会っていないとはいえ、学生時代に同じ歴史学のゼミナールに所属していた。だが、1990年以来、22年間ずっとドイツに在住しているとは知らなかった。

著者は、ドイツの大学で博士号を取得したあと、現地の日本人学校で歴史を教える教師の道を選んだようだ。したがって、ベルリンの壁崩壊からドイツ再統一という歴史的事件から20年後の現在までのドイツ社会の変化を身をつうじて熟知しているわけである。

ビジネスパーソンでもジャーナリストではない、オルタナティブな立場としての歴史教師は、子どもの教育をつうじて、現地日本人社会とドイツ社会との接点に立つ存在である。こういう人生のキャリアを歩んできた日本人が、ドイツ社会の変化をどう見ているのか、たいへん興味深いことである。

「1968年世代」がドイツ社会を大きく変えたという指摘は多くの本でもなされているが、歴史教育という場における変化が具体的に語られている。

ドイツでは、日本と違って、直近の過去である現代史のウェイトのきわめて大きな教育が行われてるようだ。しかも、自分のアタマで考えさせる教育である。

本書のキーワードは、タイトルにもなっている「記憶」。1990年代以降の欧州では「記憶の文化」ということがメインストリームとなっているようだ。「記憶」が歴史をつくる、記憶はつねに更新され、活性化されねばならないという姿勢。

ナチスドイツの時代からすでに4世代目に入っているいま、現代ドイツの若者たちは、著者によれば、個人としては直接に責任を負うものではないが、過去には責任をもつという姿勢が根付いてきているようだ。きわめて健全なことである。ドイツ再統一後に生まれた世代が、いま社会人となってきているのである。

そんな若者たちを取り囲む現実とは、EU統合と経済危機、移民問題、徴兵制廃止、脱原発といった諸問題である。5人に1人が移民で構成されるドイツ。この現実をどう捉え、そのなかで生きていくかが問われているのである。

「記憶」は文字として固定化されることによって「記録」となる。そしてまた建造物や博物館の展示もまた、「記憶」を想起するための「記録」となる。こうした取り組みが必要不可欠なのは、記憶はきわめて曖昧であり、容易に変容されやすく、また捏造されやすいからだ。

本書のカバー写真にある、ホロコーストにおけるユダヤ人犠牲者のメモリアル施設もまたその一つの表現形態だ。いわば「記憶」を個人のアタマのなかだけではなく、「見える化」し「可視化」することによって、見る者たちにつね「記憶」を想起させることを目的とした建造物なのである。

個人の人生そのものである「記憶」が、国家や民族など集団の「記憶」となり、「歴史」となるためには、一人一人の個人が「記憶」を想起し、声に出し、個人と個人のあいだで「対話」をかわしてゆくことで「共通認識」をつくりあげていく以外に方法はありえない。これは、わたしなりの解釈である。

個人をベースにした欧州社会ならではの智恵なのかもしれない。「記憶の文化」とはそういうことであろうか。

軸足をドイツに置いてきた著者だが、けっして一方的なドイツ礼賛とならないのは、故郷はあくまも日本でありながらドイツ社会の現実に生きているという自覚があるからだろう。この自覚は、現代ドイツ人の5人に1人を占める移民の自覚にきわめて近い。ドイツの移民は、日本でも比較的よく知られているようなトルコ系のガストアルバイター(外国人労働者)とその二世・三世だけでなく、中東欧やバルカン半島、ドイツ系移民の帰還者、そしてベトナムなど多種多様である。

本書は、ビジネスや経済、あるいはジャーナリズムをつうじたものではない、オルタナティブな立場からのドイツ社会論であり、ドイツの歴史教育の現場における思索の記録である。

ドイツを含めた欧州の大陸諸国は、日本にとっては地政学的な意味も異なり、もはや単純に模倣すべき先進国ではないが、先進国・日本の未来を考えるうえでの評価軸として、先進国である現代ドイツは意識しておくべきなのである。似て非なる存在として。






目 次

第1章 記憶を伝える
-1. 歴史の授業-第三帝国(ナチス政権時代)を学ぶ
-2. ホロコーストの課外授業『ゲルダの沈黙』
-3. 市民に伝える記憶
コラム 変わりゆくドイツの学校制度
第2章 記憶は変わる
-1.戦後二つのドイツの記憶と歴史認識の変化
-2. 統一ドイツと冷戦後のヨーロッパの記憶
第3章 記憶と対話
-1. ゲオルク・エッカート国際教科書研究所を訪ねて
-2. ドイツ・ポーランド教科書対話をたどる
-3. 移りゆく時代とともに
第4章 記憶と未来-課題と挑戦
-1. 記憶と平和
-2. 記憶と統合
-3. 記憶を未来に伝える
おわりに-忘却に抵抗する国 ドイツの選択
関連年表
主な参考文献


著者プロフィール

岡 裕人(おか・ひろと)
1962年兵庫県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。1989年渡独、コンスタンツ大学大学院歴史学科にて「ドイツ農民戦争」の研究で博士号取得。ドイツ桐蔭学園理事・校長代理を経て、2012年4月よりフランクフルト日本人国際学校事務局長。ドイツ滞在はベルリンの壁崩壊の年から22年におよび、その間歴史教育・研究に携わってきた。著書に『シュテューリンゲン方伯領の農民戦争と15世紀半ば以降のその前史』、共著に『世界史カリキュラム 国際化に向かう歴史教育』(共にドイツ語)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<関連サイト>

第1次大戦開戦から100年:ドイツ人が抱く複雑な感情 (JBPress、2014年8月5日)
・・「ドイツの20世紀の歴史には第2次大戦が非常に大きな影を投げかけているために、1914~18年の第1次大戦のことは記憶からほとんど取り除かれてしまっている。・・(中略)・・第2次大戦の後、多くのドイツ人はその歴史を忘れようとした。ナチズムに対する自分の責任、そしてそれとともにあの戦争に関係するものすべてを、自分が失ったものも含めて忘れようとした。供や孫が成長するにつれて、戦争を経験した世代は、かつての苦労に対する同情ではなく、つらい質問――特にホロコースト(ユダヤ人大虐殺)に関する質問――にさらされるようになった。 その結果、多くのドイツ人は、つらかった経験の記憶を家族レベルでも国レベルでも共有することなく、戦時の罪を巡る議論に巻き込まれていった。」  The Economist の翻訳記事から。第一次世界大戦の経験を共有していない点は日本とおなじだが、第二次大戦については日本とは状況が異なることがわかる。歴史を否定した「戦後」という点においては共通しているが。

(2014年8月5日 項目新設)


Brexit でドイツの徴兵制度が復活? 英離脱で窮地に立たされているのはむしろ EU だ(シュヴァルツァー節子、日経ビジネスオンライン、2016年9月5日)
・・「現在ドイツ基本法は、「徴兵制度撤廃」ではなく、「徴兵制停止」状態であるため、煩雑な法的手続きなく復活可能である」

(2016年9月5日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

ドイツ社会

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?

書評 『あっぱれ技術大国ドイツ』(熊谷徹=絵と文、新潮文庫、2011) -「技術大国」ドイツの秘密を解き明かす好著

ベルリンの壁崩壊から20年-ドイツにとってこの20年は何であったのか?

ドイツ再統一から20年 映画 『グッバイ、レーニン!』(2002) はノスタルジーについての映画?

映画 『バーダー・マインホフ-理想の果てに-』を見て考えたこと
・・ドイツにおける「1968年」世代

映画 『善き人のためのソナタ』(ドイツ、2006)-いまから30年前の1984年、東ドイツではすでに「監視社会」の原型が完成していた

書評 『向う岸からの世界史-一つの四八年革命史論-』(良知力、ちくま学芸文庫、1993 単行本初版 1978)・・挫折した「1848年革命」におけるハプスブルク帝国の首都ウィーンとスラブ系移民


「記憶」について・・著者が考察対象にしていない脳科学の立場からみた「記憶」そのものの性質
  
書評 『脳の可塑性と記憶』(塚原仲晃、岩波現代文庫、2010 単行本初版 1985)

書評 『ネット・バカ-インターネットがわたしたちの脳にしていること-』(ニコラス・カー、篠儀直子訳、青土社、2010)

書評 『受験脳の作り方-脳科学で考える効率的学習法-』(池谷裕二、新潮文庫、2011)記憶のメカニズムを知れば社会人にも十分に応用可能だ!

(2014年8月5日 情報追加)



(2012年7月3日発売の拙著です)





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