「アタマの引き出し」は「雑学」ときわめて近い・・日本マクドナルド創業者・藤田田(ふじた・でん)に学ぶものとは?

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2010年12月29日水曜日

"try to know something about everything, everything about something" に学ぶべきこと





 19世紀英国の思想家 J.S.ミル(John Stuart Mill)の名言に、"try to know something about everything, everything about something" というのがある。

 文法的には中学生レベルの英語でも十分に理解できるが、いちおう何を言っているのかを考えてみよう。
 
 前段の something about everything の文字通りの意味は「すべてについての何か」。つまり、「すべて」について広く浅くでいいから知ること、であろう。
 後段の everything about something とは「何かについてのすべて」。つまり、ある特定の「何か」について狭くても深く知ること、であろう。

 全体では、次のような意味になるだろう。

 「すべての分野」について、たとえ素人レベルでもいいから常識的なことをある程度まで知っておいたうえで、「ある特定の分野」については、専門家として深掘りしてすべてを熟知すべく努力するべきだ、と。

 さらに言えば、森羅万象についての幅広い「教養」のベースが前提にないと、専門家としての発言は 視野狭窄(きょうさく)で独りよがりなものになりがちだ、という戒めのコトバでもある。「教養」というよりも「知識」といったほうがいいかもしれない。

 これは、現代に生きる職業人が、理想型として意識すべきことだと思われる。


具体的な職業分野の仕事に則して考えてみると・・・

 "something about everything"」 の "something"(何か)には、それぞれの人ごとに「特定の職業分野」や「特定の業務」が入って来ると考えてみよう。

 たとえば、どこの会社でもいいのだが、あなたが人事部で採用を担当している、入社二年目のビジネスパーソンだと仮定してみよう。

 仕事として採用実務に精通するようになってきたが、まだ人事管理という仕事の全体像が見えていない状態であある。現状では、日々の業務が精一杯で、自分のやっていることが全体のなかでどのような位置づけになるのか、まだよくわからない。 
 これでは、ただ単に仕事をこなしているだけではないかという疑問が浮かんでくる。

 通常、人事の仕事でいえば、年間のカレンダーをこなしながら、人事管理の3R、すなわち Recruit(採用)から始まって、Retain(雇用)、そして Release(退職)という人事管理の一連の流れ全体を知ったうえで、人のマネジメント全般にかかわる事項について専門性を深めていくことになる。賃金システム、社会保障、社内の教育研修、その他もろもろの社内行事などを、実務をつうじて理解を深めていく。

 このように仕事をこなしていくうちに、人事管理の全体像のなかで、自分が担当している仕事の意味が明確に把握され、幅広い視野のもとに専門的な取り組みができるようになるのである。

 日本の会社では、平社員のときは係長の視点で、係長のときは課長の視点で、課長のときは部長の視点で仕事に取り組めとよく言われる。少なくとも私が平社員の頃はよく言われていた。
 このアドバイスは、ワバランク上の一段高い職位から現在の自分の仕事を見ることで、広い視野のなかに自分の狭い仕事を位置づけること重要性を語っているのである。職位が上になればなるほど、広い視野が求められるから、自分の仕事への取り組み意識がワンランク上になるということだ。

 これはある意味では「全体と部分」の関係でもある。仕事経験を積むにつれて、その仕事全体と自分が取り組んでいる部分との関係は、同じ仕事に従事していれば同心円構造に拡大していくという性質をもっていることを意味している。

 経営トップである社長の立場とは、自社にかんする「すべて」について、広く浅くでも全方位で全体を知っていることである。
 ある意味では自社のことについては細かい数字まで含めてすべてがアタマのなかに入っていることが重要で、これが社長にとっての "everything about something""something" に該当する。そのなかには、業界全体のことも入ってくる。

 とはいえ、自社以外の幅広い世界、つまり日本経済やひいては世界情勢について、浅くても広い知識をもっていないと、経営判断を誤ることにもつながりかねない。
 社長業が専門職である以上、自社と業界以外の事しか知らないのでは、視野狭窄(きょうさく)の誤りにもつながりかねない。

 入社二年目の平社員から社長まで話が及んだが、ここまでは「自社内での自分の専門」に特化した仕事の取り組みについての話である。


自分の専門以外との接点が、いやおうなく求められている時代である

 実際問題、自分の専門については熟知しているが、専門以外のことはほとんど知らない、もしその必要が生じても、アタマが回らないといった事態に遭遇することは多いだろう。

 自分で一から勉強するのは時間がないし手間もかかるので面倒だ、では他人に聞けばいいということになる。ノウハウではなくいわゆるノウフーというやつだが、この際に適切な質問ができないと、他者からうまく話を引き出すことができない。
 また、自分のなかに相手の話を理解する基盤がないと、せっかく適切な話を聞き出せたとしても意味を持たないことになりかねない。

 こういったときにものをいうのが、いわゆる「引き出し」の多さだろう。

 専門外の人とかかわる際に、相手の専門分野について、ある程度の知識や情報をもっていれば、相手の言わんとすることが理解できるし、すべてが理解できなくても自分が知っている知識に引きつけて、ある程度まで類推することができる。類推した内容が正しいかどうかは、対話のなかで相手に確認してみれば即座にわかることだ。

 営業マンは、浅く広く雑学を知っていることが大事だとよくいわれる。自分が扱う商品は深く、顧客についても深く。しかし、浅く広くいろんなことを知っていないと、顧客と雑談ができない。お客様のココロを開かないと、財布のクチも開かないというわけだ。

 世の中が流動化するにつれて、自分の専門外や自社以外の専門家たちと仕事をする機会が増えてきている。いわゆるコラボレーション型の仕事である。
 細分化された狭い専門に閉じこもっているということ、あるいは自社内に閉じこもっているということは、自分の専門内でしか、また自社特有のコトバでしか語れないということである。これではコラボレーション型の仕事は成り立たない。

 他者や他社とのコミュニケーションでカギとなるのが、 something about everything というマインドセットである。

 あらゆる分野について、たとえ断片的な知識や情報でももっていれば、それが他者との共通項となってコミュニケーションを行うことが可能になる。
 共通項が増えれば増えるほど、コミュニケーションの中身が充実し、実りある対話が可能となっていく。

 もちろん、一人の人間がすべてに通じることなどあり得ない。だからこそ、everything about everything ではなく、あくまでも something about everything なのである。

 要は、自分の専門以外のことも知ろうとするマインドセットが重要なのだ。


ワンランク上を目指すには必要なマイドセットとは

 "something about everything" は一見するところ、英国的なアマチュアリズム精神のあらわれのようにも見えるが、いわゆる生半可なディレッタントの奨めを意味しているのではない。何か特定の分野については、その道の専門家であることを要しているからだ。

 もちろん米国でも英国でも、自分の狭い専門分野に閉じこもって、よそで何が起ころうがいっさい関知しないという態度は仕事の場でよく観察されることである。人事考課と賃金体系がが職務(ジョブ)ベースで設計されている以上、それは合理的な態度であるといえる。

 しかしそれでは、何か新しい取り組みを始めたりする際、あるいはワンランク上のレベルにいくことはなかなかなかできない。ワンランク上に行きたいと思っている人は、自らを高めるべく努力をしている。

 「専門を極める」、「一芸に秀でる」という職業観も大事だが、同時に、浅くても広い視野を身につける努力をしながら仕事に取り組むことが、これからの日本人にはとくに重要になってくるのではないだろうか。

 20歳台前半から後半にかけて、いちばん最初に仕事そのものを覚える期間中は、あまり脇目をしている心の余裕もないだろうが、仕事だけでなく、生活と趣味にもできる限り時間を割くべく意識的に努力したいものである。

 家事を含めた生活は、いやがおうでもしなくてはならないものである。
 社会人になって仕事を始める前までやっていた趣味は、可能なら続けるべきであるし、また仕事を始めてからあらたな趣味に取り組むのもいいことだ。
 なぜなら、生活や趣味をつうじて、仕事からでは得られない「学び」を得ることができるからである。とくに趣味であれば、「好きこそものの上手なれ」であるから、いやな思いをすることなく、さまざまなことを無意識のうちに学ぶことができる。意識的になれば学びの要素はさらに大きい。

 近年、ワークライフバランスというコトバで、仕事と生活をいかに両立させるかというテーマが企業社会でも市民権を得てきたが、これは女性だけでなく男性も十分に意識すべきことだ。20歳台の若者だけでなく、30歳台以上のビジネスパーソンもすべてこの意識をもつことが必要だ。

 幅広い知識や情報は、仕事をつうじてだけでなく、意外なことに生活や趣味から難なく得られることも多い。今後は意識的に生活や趣味のもつ意味を深掘りしてみることも必要だろう。生活や趣味は「引き出し」を増やすための無限の宝庫である。すでに誰もがもっている宝である。宝の持ち腐れではもったいない。

 勉強だけが視野を広げる手段ではない。仕事と生活と趣味をつうじて、"something about everything" を一つづつでも増やしていけばよいのである。

 "try to know something about everything, everything about something" というコトバに学ぶべきものとは、そのようなものだと私は考えている。



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