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2010年12月23日木曜日

書評 『日米同盟 v.s. 中国・北朝鮮-アーミテージ・ナイ緊急提言-』(リチャード・アーミテージ / ジョゼフ・ナイ / 春原 剛、文春新書、2010)




「アーミテージ・ナイ報告書」番外編-「知日派」両巨頭が語る知的刺激に満ちた一冊

 まさに時宜を得た企画であり出版である。「日米安保体制50年」の節目の年に、米国の安全保障分野の「知日派」両巨頭が、日本人ジャーナリストの挑発的とも思える質問に思う存分に語った、知的刺激に満ちた一冊である。

 今年2010年は日米安保条約が締結されてから50年、この間かなりの紆余曲折を経ながらも、日米安保体制が東アジアにおける安全保障体制の要石となってきたことは疑いのない事実だ。

 政権交代によって政権党となった民主党による沖縄の基地問題をめぐる迷走は、日米安保体制を漂流させている感も抱かせていたが、2010年9月に発生した「尖閣紛争」によって、多くの日本国民があらためて軍事同盟としての日米同盟の重要性について再発見するに至っている。

 「いまそこにある危機」が、日本人の目を現実に開かせたのである。目を開いた日本人の前には日米同盟があった。

 小泉政権時代、”Show the Flag” や “Boots on the Ground” などの数々のキャッチフレーズで、軍事面における日本の国際貢献を促しつづけたリチャード・アーミテージは共和党を代表する「知日派」。現在でも毎日100kg以上あるベンチプレスを上げるという、海軍士官としてベトナム戦争従軍体験もある、国防問題と安全保障問題の専門家である。
 一方、ハーバード・ケネディ・スクール(公共政策大学院)教授のジョゼフ・ナイは、オバマ政権のもとでの初代駐日大使就任のウワサが出ていたことにもわかるように、民主党(米国)の外交と安全保障政策への影響力もきわめて大きい、「知日派」の米国の知的エリートである。

 民主党(米国)のナイと共和党(米国)のアーミテージは日米同盟にかんしては超党派で盟友の立場にあるが、この二人が地球全体を視野に入れた、米国の世界戦略の観点から一貫して日米同盟の重要性を認識し、米国の外交政策と安全保障政策に反映させるべく努力を続けてきたことが、日本人ジャーナリストの鋭いツッコミにより明らかにされている。

 米ソ冷戦終結を実現した共和党のレーガン政権時代に、キッシンジャー派の「親中政策」から「日米同盟重視」に舵を切らせたアーミテージたちの働き、湾岸戦争後の民主党のクリントン政権時代に日米同盟の重要性を認識し、政権の考えを最終的に改めさせたナイたちの働きは、ともに本人たちが語ることを聞くことで、あらためて確認できる重要な事実である。

 アーミテージ、ナイともに、日本開国以後の日米関係の歴史的推移を踏まえたうえで、「日米同盟」が東アジアにおける「拡大抑止力」として機能してきたことを重視している。これはナイ教授が最近提唱している「スマートパワー」の議論に基づくものだ。軍事力などの行使するチカラである「ハードパワー」と文化などの説得のチカラである「ソフトパワー」が合体したものが「スマートパワー」であり、本書を読むと二人の共通認識になっていることがわかる。

 いずれにせよ日米同盟が機能していくためには、軍事力だけでなく相互信頼が不可欠であり、自由主義経済体制と民主主義という共通の価値観をもつ日米両国が率直な意見交換をつうじて信頼醸成を行うことの重要性を再認識させられる。その意味では、日本の核武装論争をめぐる微妙な問題も含めて、米国サイドのかなり率直なホンネを引き出すことができた本書の価値はきわめて大きい。

 日本の安全保障における日米同盟の意味について考えるために、ぜひ目を通しておきたい一冊である。


<初出情報>

■bk1書評「「アーミテージ・ナイ報告書」番外編-「知日派」両巨頭が語る知的刺激に満ちた一冊」投稿掲載(2010年12月23日)




目 次

第1章 岐路に立つ日米同盟
第2章 中国の膨張を封じ込めよ!
第3章 北朝鮮「金王朝」崩壊のシナリオ
第4章 天皇・原爆・沖縄返還
第5章 日本が核武装する日
第6章 日米同盟の現在・過去・未来



著者プロフィール

リチャード・アーミテージ(Richard L. Armitage)

元国務副長官。1945年マサチューセッツ州ボストン出身。米海軍兵学校卒業。海軍士官としてベトナム戦争に従軍。ブッシュ政権で国務副長官を務めた共和党知日派のご意見番。国防戦略の専門家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに増補)。

ジョゼフ・ナイ(Joseph S. Nye Jr.)

ハーバード大教授。1937年ニュージャージー州出身。プリンストン大学を優等で卒業、ローズ奨学生としてオックスフォード大学に留学、ハーバード大学大学院で政治学博士を取得。アメリカを代表するリベラル派の国際政治学者。民主党知日派の重鎮で、カーター政権で国務次官補、クリントン政権で国防次官補を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに増補)。

春原 剛(すのはら・つよし)

1961年東京生まれ。上智大学経済学部卒業後、日本経済新聞社入社。米州編集総局ワシントン支局などを経て、編集局国際部編集委員。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<書評への付記>

 日本の独立と米国との軍事同盟はけっして矛楯しないと私は考えている。

 問題は、日本が真の独立国たらんという気概に欠けることだ。主体的に自分の国を防衛しようとする気概のない国を、だれが血を流してまで防衛するというのか。もしその気概がないとわかったとき、米国を見捨てるような行動を日本が取ったとき、間違いなく同盟は破綻するであろう。

 問題は、日米同盟ではなく、日本そのものにある。まずは、自衛隊をきちんと軍隊であると認めることだ。
 独立自主防衛構想は心情的には理解できなくはないが、独立が孤立に陥ってしまえば、日英同盟が破棄された後の状況になりかねない。さらに国際連盟を脱退した後の日本がいったいどこへ向かって暴走したのかを思い出すべきだろう。現状の日米同盟にクサビを入れようとしている勢力にこそ、注意の目を向けなくてはならないのではないか?

 究極の理想型は、スイスやスウェーデンのような武装中立であろう。しかし、現実的に考えれば、日米同盟の有効性は日米双方にとってきわめて大きい。日本が安保ただ乗りというのは間違いであることが本書を読むとわかることだ。日本にとってのみならず、米国にとっても地政学的に見た日米同盟の意味は大きいのである。

 また日本の防衛とは、日本列島の防衛だけに限定されるのではない。エネルギーの大部分を海外からの輸入に頼り、また国際貿易体制を国是として生きている日本が防衛しなければならないのはシーレーン全体である。その意味においては、日米同盟を中核として、東アジアと南アジア、そして中近東にかけて、価値観を同じくする諸国と同盟関係を広げていくべきである。これが日本にとっての集団安全保障体制というものだ。

 何よりも実利を重視するビジネスマンとして、私はプラクティカルな観点から、日米同盟を支持するのである。(2010年12月25日)
 


<ブログ内関連記事>

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12 を読む-特集テーマは「The World Ahead」 と 「インド、パキスタン、アフガンを考える」
・・ナイ教授の「スマートパワー」論については、あわせてご覧いただきたい

「フォーリン・アフェアーズ・アンソロジー vol.32 フォーリン・アフェアーズで日本を考える-制度改革か、それとも日本システムからの退出か 1986-2010」(2010年9月)を読んで、この25年間の日米関係について考えてみる

日米関係がいまでは考えられないほど熱い愛憎関係にあった頃・・・(続編)・・レーガン政権時代の「日米経済戦争」

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)・・「海洋国家」日本にとっての日米安保体制の意味

書評 『仮面の日米同盟-米外交機密文書が明らかにする真実-』(春名幹男、文春新書、2015)-地政学にもとづいた米国の外交軍事戦略はペリー提督の黒船以来一貫している

書評 『黒船の世紀 上下-あの頃、アメリカは仮想敵国だった-』 (猪瀬直樹、中公文庫、2011 単行本初版 1993)-日露戦争を制した日本を待っていたのはバラ色の未来ではなかった・・・

書評 『暗闘 尖閣国有化』(春原剛、新潮文庫、2015 単行本初版 2013)-「準戦時下」状態への分岐点となった「事件」の真相を分厚い取材で描き切ったノンフィクション作品

ノラネコに学ぶ「テリトリー感覚」-自分のシマは自分で守れ!

(2016年9月14日 情報追加)
  



(2012年7月3日発売の拙著です)








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