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2021年3月29日月曜日

書評『イスラームからヨーロッパをみる ー 社会の深層で何が起きているのか』(内藤正典、岩波新書、2020)ー イスラームとの「共生」が破綻した西欧社会の現実を見よ


2015年のフランスの「シャルリ・エブド事件」をきっかけに、ヨーロッパ社会における「イスラム問題」が、もはや解決不能の域まで達していることが誰の目にも明らかになった。それから、すでに5年以上たっている。 

積ん読のままだった『イスラム化するヨーロッパ』(三井美奈、新潮新書、2015)を読んでみた。2015年の「シャルリ・エブド事件」の衝撃を受けて出版されたものだ。  

事件が起こった時点で読売新聞のパリ支局長だった著者による現地レポートである。ナマの声を拾い上げることで、できるだけ問題を公平に見ようとする姿勢が好ましい。 


■ヨーロッパ社会におけるムスリム移民をフィールドワークしてきた研究者の結論

前座につづけて『イスラームからヨーロッパをみる-社会の深層で何が起きているのか』(内藤正典、岩波新書、2020)を読んだ。昨年7月に出版されたものだ。こちらが今回のメインである。  

内藤正典氏は、過去40年にわたって、ヨーロッパにおけるムスリム移民を、ドイツを中心とした西欧各国のトルコ人社会を中心にフィールドワークによって研究してきた研究者である。

内藤氏の視点が興味深いのは、イスラム教徒の生活世界から、現代ヨーロッパ社会を逆照射するものだからだ。ヨーロッパ社会をみる独自な「視点」の1つとして、じつに得がたいものである。 

本書は、2020年という現時点における総括ともいうべき内容だ。「共生」は破綻したというのがその結論である。

「おわりに 共生破綻への半世紀」という最終章のタイトルから、著者のため息が聞こえてくるような気もするが、これが「現実」なのだ。その意味では、研究者としての態度は公平だし、良心的である。
 

「イスラム問題」にかんしては、米国社会よりも西欧社会のほうがはるかに深刻 

「移民問題」への異議申し立てもその理由の1つとなって、2016年には英国は国民の意思で「ブレクジット」(EU離脱)を決定、おなじ年に選出されたトランプ元大統領が、物議を醸すヘイトスピーチを連発したことでヘイトクライムが誘発され、BLM(Black Lives Matter) などの運動が米国内で激化したことは記憶に新しい。

最近ではアジア人に対するヘイトクライムも急増しており、ALM(Asian Lives Matter)も叫ばれるようになっている。不景気が続くと不満のはけ口は少数派に集中するようになる。多文化の「共生」は、そう簡単なことではない。
 
だが、「イスラム問題」にかんしては、米国社会よりも西欧社会のほうがはるかに深刻なのだ。 米国の黒人差別もアジア人差別も、宗教に由来するものではないのに対して、西欧社会のイスラム教徒問題は宗教に由来するものだからだ。 

聖俗分離が原則の近代以降のキリスト教と、聖俗一致が原則のイスラム教との根本的違いに起因する問題だ。世俗化されている西欧では、この違いが先鋭化するが、宗教国家としての性格の強い米国では、かならずしもそうではないという違いでもある。 

2020年以降は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため、ヨーロッパ社会における「イスラム問題」が見えにくくなっているが、けっして問題が解決したわけではない。 

そもそもイスラーム世界の混乱をつくりだしたのは19世紀以降の西欧であり、第2次世界大戦後の労働不足から積極的に導入したのがイスラム世界からの移民であったが、そのツケを払ったというにしては、あまりにも大きすぎる代償というべきではないだろうか。 

「共生」というのは美しい響きのことばだが、現実世界ではキレイ事ではすまされない。今後の日本社会のあり方を考えるにあたって、先行事例となっている西欧社会の状況は、「他山の石」としてつぶさに見つめるべきである。 

そのためにも、『イスラームからヨーロッパをみる』は、好著というべきであろう。 






目 次
はじめに 
序章 ヨーロッパのムスリム世界 
1章 女性の被り物論争 
 1 ムスリム女性の被り物をめぐって
 2 政教分離と被り物
 3 ヨーロッパ各国での状況
2章 シリア戦争と難民
 1 難民危機
 2 難民問題の原点
 3 国際社会と難民
3章 トルコという存在
 1 難民を受け入れた国、トルコ
 2 トルコのEU加盟交渉は、なぜ途絶したのか
 3 トルコの政治状況から読み解く 
4章 イスラーム世界の混迷
 1 「イスラーム国」とは何だったのか?
 2 アメリカによる戦争
 3 ヨーロッパと「イスラーム国」
5章 なぜ共生できないのか
 1 ヨーロッパ諸国の政治的な変動
 2 ドイツ さまざまな立場からのイスラームへの対応
 3 イスラームとヨーロッパ
おわりに 共生破綻への半世紀
あとがき


著者プロフィール
内藤正典(ないとう・まさのり)
1956年生まれ。79年東京大学教養学部教養学科(科学史・科学哲学分科)卒業。1982年同大学院理学系研究科地理学専門課程中退、博士(社会学・一橋大学)。一橋大学大学院社会学研究科教授を経て、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授、一橋大学名誉教授。専門分野は現代イスラーム地域研究。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


■内藤正典氏の著作で「共生」破綻への道のりを知る

参考のために、このテーマにかんする内藤正典氏の前著の目次を示しておこう。状況の変化と、研究者としての認識の変化をしることができるだろう。

いずれも、その時点でのフィールドワークにもとづいた研究成果であり、私も大いに学ばせていただいてきた。
 
「逆回し」であたらしいものから、順番にさかのぼっていくことにする。



第2章 ヨーロッパ・共存と差別のダブルスタンダード
 1. イスラームとヨーロッパ
  宗教から民族へ
  ヨーロッパにいかに対抗するか
  イスラームと西欧システムの相克
  植民地支配の反省がないヨーロッパ
  ヨーロッパに渡ったムスリム
  国によって移民政策が異なるヨーロッパ
 2. イギリス-多文化主義のもとでの差別
  民族文化に「寛容」な連合王国
  失業と階級差別
  ムスリム移民への「分割統治」
  「寛容な精神」の影
 3. オランダ-相互不干渉が生んだ「耐えられない隣人」
  コミュニティごとの権利を認める「柱状化」
  社会に定着しているリベラリズム
  定着外国人権利
  相互理解が進まない「柱状化」
  敵意をもつようになった市民
  映画監督の死
  EU加盟反対にまで発展
 4. フランス-コミュニティ形成を認めない社会
  「博愛」の意味
  ごろつき
  バンリュウ「嫌なところ」
  原則と実態の乖離
  フランス化できなかった移民
  公的領域における非宗教性
  スカーフの着用禁止
  世俗化は近代化か
  スカーフが「これみよがし」なのか
  アファーマティブ・アクションができない
  国家原則とイスラーム法の対立
  ごろつきから信仰の道へ

「目次」をみればわかるように、同じヨーロッパといってもドイツ型、オランダ型、フランス型の対応はそれぞれ異なる。「同化」を求めるドイツ(・・政教分離を徹底するフランスもまた個人レベルでの「同化」を求める)、多文化主義の立場に立つオランダと英国。

 
序章 ヨーロッパ移民社会と文明の相克
1章 内と外を隔てる壁とはなにか-ドイツ
 1. リトル・イスタンブルの人びと
 2. 移民たちにとってのヨーロッパ
 3. 隣人としてのムスリムへのまなざし
2章 多文化主義の光と影―オランダ
 1. 世界都市に生きるムスリム
 2. 寛容とはなにか
 3. ムスリムはヨーロッパに何を見たか
3章 隣人から見た「自由・平等・博愛」―フランス
 1. なぜ「郊外」は嫌われるのか
 2. 啓蒙と同化のあいだ-踏絵としての世俗主義
 3. 「ヨーロッパ」とはいったい何であったか
4章 ヨーロッパとイスラームの共生―文明の「力」を自覚することはできるか
 1. イスラーム世界の現状認識とジハード
 2. ヨーロッパは何を誤認したのか
あとがき
  
    
『アッラーのヨーロッパ-移民とイスラーム復興』(内藤正典、東京大学出版会、1996)から、ヨーロッパとのかかわりの部分を抽出しておく。

Ⅱ 何がイスラムの覚醒をもたらしたのか
 第3章 「民族」が共存を阻むドイツ
  1. 統合か、帰国か-外国人政策の基底
  2. 血統主義が阻む「統合」
  3. 閉塞的なエスニシティの状況
  4. 差別に対抗する力としてのイスラム
 第4章 フランスのムスリムか、フランス的ムスリムか
  1. 郊外からイスラムへ
  2. 何が排斥されるのか
  3. ライシテとの衝突
  4. もはや「個人の統合」は成り立たない
 第5章 多文化共生とみえざる差別・オランダ
  1. 文化の列柱
  2. 外国人労働者からエスニック・マイノリティへ
  3. エスニック・マイノリティから移民へ
  4. オランダは移民のユートピアか
  5. 病理への批判としてのイスラム復興  


<関連サイト>

西欧に対する「イスラムの怒り」とは?内藤正典・同志社大学教授に聞く(前編) (東洋経済オンライン、2015年1月26日)
・・「日本には「ライシテ」に合う訳語がないので、とりあえず「世俗主義」と訳しているが、単なる「政教分離」ではない。「政教分離」は「政治と宗教を切り離しなさい」程度の意味だ。しかし、「ライシテ」は個人が公の場で宗教を持ち出すことも禁じている。」

仏紙襲撃事件は、強烈な普遍主義同士の衝突 鹿島茂氏が読み解く仏紙襲撃事件(前編) (東洋経済オンライン、2015年01月21日)

「反イスラム」が高まれば法規制の議論も鹿島茂氏が読み解く仏紙襲撃事件(後編) (東洋経済オンライン、2015年01月23日)


<ブログ内関連記事>



書評 『ドイツリスク-「夢見る政治」が引き起こす混乱-』(三好範英、光文社新書、2015)-ドイツの国民性であるロマン派的傾向がもたらす問題を日本人の視点で深堀りする

書評 『大英帝国の異端児たち(日経プレミアシリーズ)』(越智道雄、日本経済新聞出版社、2009)-文化多元主義の多民族国家・英国のダイナミズムのカギは何か?

書評 『オランダ-寛容の国の改革と模索-』(太田和敬・見原礼子、寺子屋新書、2006)-「オランダモデル」の光と影



 
 (2020年12月18日発売の拙著です)


(2020年5月28日発売の拙著です)


 
(2019年4月27日発売の拙著です)



(2017年5月18日発売の拙著です)


   
(2012年7月3日発売の拙著です)

 





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