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2021年3月24日水曜日

書評『エマニュエル・トッドの思考地図』(大野舞訳、筑摩書房、2020)-「常識を逆なで」する「未来予測」を生み出すトッド氏の思考の秘密について本人が開示

 
フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏の本をまとめ読みした。いずれも日本側の企画編集による日本語オリジナル版で、つまりフランス語版は存在しない。 

この手の企画本はすでに何冊も刊行されているのだが、そのうち2冊をあげておこう。フランス在住の大野舞氏のインタビューにもとづいたもので、ともに2020年に出版されている。


ともに面白い内容だった。前者は、日本人読者が知りたいであろう、的確な「未来予測」を生み出すトッド氏の思考の秘密について本人が開示したもの、後者は現在の先進国が抱える問題を「反グローバリゼーション」の立場から述べた論争的な時事論集。
    
人口統計をもとに、自然科学者なアプローチで現状分析と未来予測を行うトッド氏の「常識を逆なでする主張」に対しては賛否両論があるだろうが、言いにくいことをずばり言ってのける勇気は賞賛すべきであろう。

どうやらトッド氏自身も、フランス語で出すより日本の読者向けに日本語で出す方が気が楽なようだ。 

本人がこれらの本のなかで吐露しているように、フランス人のエリート階層が聞きたくない話をするからだろう。「シャルリ・エブド事件」に際して書いた『シャルリとは誰か?』(文春新書、2016)は、フランス語の原本が出版された際にフランス国内でバッシングの嵐にさらされたらしい。  

1991年のソ連崩壊や、2016年の英国のEU離脱や米国大統領選でのトランプ氏の当選など、ことごとく「予見」し、的中させてきたため、日本では「予言者」扱いされているトッド氏だが、本国では好かれていない。


■トッド氏が日本で広く注目されるようになったのはここ5年の現象

日本では「予言者トッド」の話を聞きたがる人が少なくないようで、もっぱらその著作を出版してきた藤原書店だけでなく、文藝春秋や筑摩書房、朝日新聞社やPHPなどメジャーどころが「知の巨人」と持ち上げて食いつくようになってきた。

それが、ここ5年ほどの状況である。 


私はといえば、トッド氏の著作でいちばん最初に触れたのは、30年くらい前のことになる。『新ヨーロッパ大全』(石崎晴巳訳、藤原書店、1992)という単行本2冊本の専門書だ(上掲の画像)。東京駅八重洲口にある八重洲ブックセンターで、2冊同時に購入した記憶がある。

大学時代にはヨーロッパ中世史を専攻したが、いかんせん「近世」以降の西洋史につうじていなかったので、著者名ではなくタイトル名に吸引力を感じたためだ。

この本には大いに世話になってきた。世界史についての拙著2冊では、ともに「参考文献」としてあげている。

とくに最新刊の拙著『世界史から読み解く「コロナ後」の現代』(ディスカヴァー携書、2020)は、16世紀から18世紀までの「近世」(=初期近代)を扱っており、トッド氏の著書は大いに参考となった。関心のある人は参照していただきたい。 

トッド氏の著作によく親しむようになったのは、文春新書から出た『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(2015年)以降のことである。この本は、前著『ビジネスパーソンのために近現代史の読み方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017)の執筆の際に大いにインスパイアされた。 


■トッド氏の「思考方法」は「ファクト重視の経験主義」

トッド氏の日本語版の帯には、「現代最高の知性」や「欧州最大の知性」などの美辞麗句の宣伝コピーが並んでいる。

現在の日本ではそう呼ばれている人が何人もいるだけでなく、フランス本国では好かれていないことを考えれば、割り引いて考えたほうがいいと思うが、その一人であることは間違いないだろう。 

『エマニュエル・トッドの思考地図』を読むと、「予見」を導くトッド氏の方法論がわかるだけでなく、なんら奇をてらったものではないことがわかる。とはいえ、そっくりそのまま真似するのは容易ではないだろうが、その一部でも取り入れることは可能だ。なぜなら「予言」ではなく、「予見」のための方法論だからだ。


面白いのは、トッド氏が現代フランスの知識人であるのにかかわらず、英国のケンブリッジ大学で博士号を取得していること、読む本の95%は英語のもの(!)であること、デカルトに代表される「理念」を強調するフランスの哲学教育を嫌っていたこと、などなどの点だ。 

ファクト重視の経験主義という、アングロサクソン系の思考方法になじんでいるからこそ、統計データの分析をベースに、アナール派仕込みの歴史学の知見を踏まえた的確な未来予測を可能としているということがわかる。この点は、日本人は大いに学ぶべきことであろう。経済指標にくらべて、人口統計はウソをつきにくいからだ。 

トッド氏の未来予測がすべて正しいかどうかはさておき(…時間がたてば検証可能だ)、その方法論に注目してみる価値はある。その意味では『思考地図』のほうだけでなく、『大分断』にも「絶対値による会話分析法」というヒントが紹介されているので参照しているといいだろう。

内容がポジティブであろうがネガティブであろうが関係なく、そのフレーズが言及されることの数量(の多さ)で判断ができるという思考法のことだ。「人びとが口にすることとまったく反対の内容が、しばしば真実である」と言う考え方にもとづいたものだ。

現在すでに70歳となり、本人も「老人」と自称するトッド氏であるが、「不確実性」が支配する社会を分析し、未来を「予見」する、その鋭い知見には期待したいものである。


『エマニュエル・トッドの思考地図』(大野舞訳、筑摩書房、2020)

目 次
日本の皆さんへ
序章 思考の出発点
1 入力-脳をデータバンク化せよ
2 対象-社会とは人間である
3 創造-着想は事実から生まれる
4 視点-ルーティンの外に出る
5 分析-現実をどう切り取るか
6 出力-書くことと話すこと
7 倫理-批判にどう対峙するか
8 未来-予測とは芸術的な行為である
ブックガイド

目 次 
はじめに
第1章 教育が格差をもたらした
第2章 「能力主義」という矛盾
第3章 教育の階層化と民主主義の崩壊
第4章 日本の課題と教育格差
第5章 グローバリゼーションの未来
第6章 ポスト民主主義に突入したヨーロッパ
第7章 アメリカ社会の変質と冷戦後の世界
訳者あとがき・解説
 
 




著者プロフィール
エマニュエル・トッド(Emmanuelle Todd)
1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析、ソ連崩壊やリーマン・ショック、イギリスのEU離脱などを予見したことで広く知られる。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

日本語訳者プロフィール
大野舞(おおの・まい)
フランスのバカロレア(高校卒業国家資格)を取得後、慶應義塾大学総合政策学部入学。パリ政治学院への留学を経て同学部を卒業。一橋大学大学院社会学研究科を修了。日本の大手IT企業に勤めたのち、渡仏。パリの出版社でライセンスコーディネーターや通訳の仕事に携わる。その後、日仏のスタートアップ関連の仕事を経て、独立。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<関連サイト>

エマニュエル・トッド (著)「エマニュエル・トッドの思考地図 (筑摩書房) 」- 著者にインタビュー / シード・プランニング【Seed Planning, Inc.】(YouTube 音声フランス語 日本語字幕つき 48分強)



・・「トッド: 私にとって科学的な手順とは、多くの事実を前に仮説を立てて、その仮説がすべての事実についても正しいかどうかを一つひとつ確認することです。ここで最も重要な作業は、ファクトの収集で仕事のほとんどを占めています。それが終わったら、理解しやすいシンプルなモデルに組み込むための整理をします。これが私の研究の方法です。
また、私はフランス人ですが、家系は一部英国系の伝統を受け継いでいますし、英ケンブリッジ大で研究もしました。こうして、英国の経験主義とフランスの合理主義の対立を、身をもって体験しました。
(・・中略・・)
ブレークは直感めいたアイデアのことです。15秒あればできるのですが、そこに到達するまでには、何年もの知識の蓄積が必要です。本を読み続け、執拗なまでにデータや情報を収集して自分の頭の中に図書館やデータバンクをつくる。でも、膨大な情報をインプットするだけではだめで、情報を完全に咀嚼して、意識から無意識まで時間をかけて落とし込んでいく。するとある日、別々の情報同士が手を携えて、新たなアイデアとして飛び出してきます。
ブレークのためには、もしかしたらちょっと道から外れてみるべきなのかもしれません。日常のルーティンから出る。映画を観に行ったり、子供と田舎に行ったり、あるいは恋をしたり・・・。要するに自分のテーマばかりに注力していてはいけないということです。
(・・中略・・)
一度、誤解から解放されれば、データを見るだけで物事が明快になり、作業が簡単に進められるようになります。研究というのは90%が掃除で、残りの10%が構築だと思います。私は自分に騙された自分を発見するのが大好きです。
(・・中略・・)
アイデアを得てそれをアウトプットするためには、自分に自信を持つこと、ポジティブなイメージを持って自分に何ができるか把握することが大事です。そして同時に、どこかにかならず自分を評価してくれる人がいると信じることです。」

エマニュエル・トッド氏、エリートが分断を解消せよ(日経ビジネスオンライン 2021年1月22日)
・・「中国はソ連と似たようなところがあり、全体主義的な傾向を持ち、西洋や先進諸国の経済の後追いをしています。後追いが終わって1番になったときに、刷新とか改革をするような文化がない。そうすると結局そこで崩壊してしまうと言える。例えば米国は内部がどんどん衰退しても常に刷新し革新をしていく。イノベーティブな精神があることでインターネットも生まれましたよね」(トッド)

(2021年3月31日 情報追加)


PS ところが、「知の巨人」トッド氏には大いに失望させられることになった、というオチ

・・「それにしても、トッド氏の「反米主義」の復活ぶりには、鼻しらむ思いで興ざめだな。すでに70歳を過ぎた「知の巨人」は、ふたたび強烈な「反米主義」に戻ってしまったようだ。 フランス知識人の悪弊が丸出しだな。 アングロサクソン好きを公言していたトッド氏だが、今回の動きで英国にも失望したと吐露している。知識人は、どうしてそうもナイーブなのかねえ。だから、学者や知識人は一般大衆からバカにされるのだよ(笑) 本書をつうじて強烈な「反米主義」が展開されているので、おそらく旧サヨク系の思考傾向をもつ日本人読者からは大歓迎されるだろう。米国の左翼知識人ノーアム・チョムスキーと同様に(笑)」

(2023年11月1日 追記)


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