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2022年2月17日木曜日

書評『ヘレン・ケラー 私の宗教 ― ヘレン・ケラー、スウェーデンボルグを語る <決定版>』(高橋和夫/鳥田恵訳、未来社、2013)― 三重苦だからこそ「超感覚世界」を理解できたヘレン・ケラーをつうじてその血肉となったスウェーデンボルグ思想を知る

 

ここのところ、約10年ぶりに18世紀スウェーデンが生んだ知の巨人スウェーデンボルグについての本をちまちま読んでいる。 

日本でも禅仏教の世界的権威の鈴木大拙、無教会派キリスト者の内村鑑三、初代文部大臣を務めた森有礼など、そうそうたる人物たちがスウェーデンボルグの影響圏のなかにある。 

霊性(=スピリチュアリティ)に考える際には避けて通ることができないのがスウェーデンボルグの思想だ。とくに英語圏を中心に、大きな影響を与え続けてきたからだ。さきにあげた3人は、いずれも留学ないし仕事で米国に長期滞在した人たちである。 

「自己啓発」や「ポジティブシンキング」などをつうじて、現在にいたるまでスウェーデンボルグの思想は、深層潮流として流れ続けているにもかかわらず、日本では敬して遠ざけられているきらいがあるのは残念なことだ。 

ところで、盲目の国学者で「群書類従」(全666巻)という日本の古典を収拾し活字化する一大プロジェクトを立ち上げ、41年かけてコンプリートさせた塙保己一(はなわ・ほきいち)についてコラムを書いた際に、ヘレン・ケラーについてもあらためて振り返ったことがある。  

その際に入手していながら、いままで読んでいなかった『ヘレン・ケラー 私の宗教ーヘレン・ケラー、スウェーデンボルグを語る<決定版>』(高橋和夫/鳥田恵訳、未来社、2013)を本日ようやく読んでみた。  

ヘレン・ケラーもまた、スウェーデンボルグ思想の強い影響圏のなかにかにいた人なのだ。 

2歳のときの発熱が原因で視覚と聴覚を失い、聴覚を失ったためにコトバも知らず、発話もできなかったヘレン・ケラーが、サリヴァン先生の献身的な努力のおかげで W-A-T-E-R というコトバを知り、実体としての水と結びついて認識できたときの感激はよく知られている。 

だが、その後ヘレン・ケラーが、いかにして抽象概念を理解し、自分の考えをアウトプットできるようになったか、そして生きる力を生み出し、彼女を内面から支えた思想はいかなるものだったかについては、あまり知られていない。 

『ヘレン・ケラー 私の宗教』を読むことで、それが手に取るように理解できるのだ。

感覚世界のうち視覚と聴覚を閉ざされていたヘレン・ケラーだからこそスウェーデンボルガが霊界という「超感覚世界」について語ることが理解できるということに大きな説得力があるのだ

原本は1927年の初版で、ヘレン・ケラーが47歳のときのものである。 スウェーデンボルグの著作を点字訳で読み、その内容に共鳴して、大いに感化され、その思想を自分を支えるものとして血肉化していったことがわかるだけでなく、ヘレン・ケラーをつうじてスウェーデンボルグの思想も理解できるのである。 

スウェーデンボルグは、18世紀前半当時では一頭地を抜く科学者で工学者であり、その冷静な観察眼をもって霊界について記述した人である。

ヘレン・ケラーは、フランシス・ベーコンの帰納法でもって霊界を観察し記述したと書いている。 ああ、そういう系譜でものを考えることもできるのだな、と。たしかに、ベーコンもまた中世と近世の狭間を生きた人で、大いに評価されたのは18世紀になってからであった。

スウェーデンボルグの思想についてはここでは省略するが、カルヴィニズムの予定説を否定し、現世においては、人のために役にたつことをし、「いま、ここ」で高みを目指して努力することの意義を説いている。 

これが「自己啓発」や「ポジティブシンキング」につながっていくわけだが、スウェーデンボルグ思想を完全に自分のものとし、障害を試練とみなす心構えを身につけたヘレンに、心の底から「生きていてよかった!」と言わしめているのである。読んでいて感動すら覚えるのだ。 

スウェーデンボルグは基本的にキリスト教だが、キリスト教の枠組みを超えて、仏教やその他のスピリチュアルな活動に影響を与えたのは、ある意味では当然だなとあらためて思わされた。 

『ヘレン・ケラー 私の宗教』は、ヘレン・ケラー自身について深く知るためにも、ヘレン・ケラーをつうじてスウェーデンボルグ思想を知るためにもぜひ読んでおきたい好著である。 


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・・表面的な物質文化だけを見ていてはわからない米国人の精神性。どんな人でもかならず神や魂について考えており、語ることができるのが米国人である

・・「自己啓発」の思想もこの潮流のなかにある




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・・スピリチュアル世界の牽引者の一人が美輪明宏

・・幽冥界について探求した平田篤胤。平田国学は当時の日本人に安心立命と生きる力を与えた



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2013年4月16日火曜日

なぜいま2013年4月というこの時期に 『オズの魔法使い』 が話題になるのか?



なぜかいま 『オズの魔法使い』(The Wizard of Oz) が言及されることが多い。

先日お亡くなりになったサッチャー元首相は、在職中に発揮したリーダーシップによって「英国病」を完治し、衰退する英国に活を入れた日本ではもっぱら称賛する人が多いが、当事者である英国人のあいだには、その強引なやり方のために中流階級が弱体化したと批判している人も存在します。

サッチャーの批判勢力が「祭り」(?)を引き起こしているとTVで報道されていました。批判勢力の呼びかけで、『オズの魔法使い』の「鐘を鳴らせ 魔女が死んだ」という歌が、猛烈な勢いでダウンロードされ、英国のヒットチャートでナンバーワンになっているいうのです。

オリジナルのタイトルは、 "Ding Dong The Witch is Dead" YouTubeで映像をみるといいでしょう。主人公のドロシーが魔法の国で、アクシデントで「悪い魔女」が死んでしまったから住民が喜んでいるシーン。まさに「祭り」状態。

(DVD映像から筆者がキャプチャしたもの)

このニュースが入ってくる前には、TVの情報番組でコメンテーターをつとめる毎日新聞論説委員の福本容子氏が、『オズの魔法使い』のほんとうのテーマはデフレ経済からの脱却を願う人たちを登場人物にしたものだ、と語っていました。

「子ども向けおとぎ話と信じていた「オズの魔法使い」は何と! デフレ脱却が隠れテーマだった(説がある)というのだ。深い論争が何十年も続いていた。恥ずかしいけど、知らなかった」、と自らが執筆したコラム記事に書いておられます。

元ネタは、金融アナリスト・久保田博幸氏のブログ記事だそうです。検索してみると、「黒田日銀総裁はオズの魔法使いか」という記事がありました。詳しくはその記事を読んでみるといいでしょう。

『オズ はじまりの戦い』というディズニー映画がことしの春に公開されているようだがわたしは見ていません。オルタナティブな物語という形をとったリメイクものであって、上記のブログ記事の内容とは関係ないようです。

「デフレ脱却が隠れテーマ」というのは、やや牽強付会(けんきょうふかい)なこじつけのような気もしますが、1900年に発表された原作がテクニカラーで映画化されたのが1939年ですし、当時のアメリカは1929年の大恐慌からの経済回復期にあったことは確かです。

とはいっても、ニューディール政策による計画経済もさることながら、欧州とアジア太平洋における戦争に参戦したことによる大増産体制を実現するための財政出動によって景気回復がもたらされたのではありますが。

黒田総裁がオズの魔法使いかどうかは、わたしにはまったくわかりません(笑)。すくなくとも、「あなたの魔法だけがこの国を救える」、なんてことをクチにしたり、心のなかで思うのは危険ではないかと思うのですが・・・




『オズの魔法使い』(1939年)をDVDでみる-そのテーマは自己啓発書と同じ?

というわけで、『オズの魔法使い』(The Wizard of Oz)を DVD で見てみることにしました。まずはオリジナルを見てからでないと話がはじまらないですからね。

じつは見たのは今回がはじめてです。もちろん主演のドロシー役を演じたジュディー・ガーランドが歌っていた「虹の向こうに」(Over the Rainbow)は好きな歌なのでくちずさむことも多いですし、中学時代の英語の教科書に『オズの魔法使い』の一部が使用されていたような記憶があります。


映画のあらすじは、こんな感じです。

中西部のカンザス州の農民一家で暮らす少女ドロシー(・・どうやら両親はすでにおらず叔父叔母夫妻に育てられているようだ)は、ある日、竜巻に巻き込まれて魔法の国にいってしまう。「オズの魔法使い」に願いをたのめば家に帰れると聞いたドロシーはエメラルド宮殿を目指して、道中で出合った「知性という脳がないかかし」、「感情というハートがほしいブリキ男」、「勇気がない気弱なライオン」とともに旅をする。数々の試練を乗り越えて、ドロシーは帰宅できたことで「つよく願えばかならず夢が叶う」ことを実感し、連れの三人もみな自分が欲しいと思っていた特性(=知性・感情・勇気)はじつはすでにもっていたのだると気づく。そして「自信」(self-confidence)を取り戻すのであった。こんな内容の話をもとにしたミュージカル映画。そうそうドロシーの飼い犬トトも忘れてはいけませんね。

1939年は昭和14年、この時点ですでにテクニカラー、昔風の表現なら「総天然色」の映画が製作されていたというのはおどろきですね。日本がアメリカに戦争で負けたのは当然でしょう。

「願えばかなう」なんて、なんだか自己啓発書のテーマみたいでありますね(笑) 日本なら、サルとイヌとキジを連れて鬼退治にいってくる桃太郎となるですが、おなじロードムービーとしての成長物語であっても日米ではだいぶ趣味嗜好が違います。

アメリカ人は子どもの頃から『オズの魔王使い』で刷り込まれて育つから、ポジティブシンキング(=積極思考)志向がつよいのかな? 現在の日本人もある意味ではアメリカ色に染め上がっているようですね。



「願えばかなう」というのは一面の真理はありますが、とはいって自分がなにも努力しなければ、棚から牡丹餅というわけにはいかないでしょう。当たり前ですよね。英語で wish とは願いを意味するコトバですが、wishful thinking と熟語になるとネガティブなニュアンスを帯びてきます。日本でいえば「希望的観測」。そうあってほしいが、そうなるかどうかは自分ではコントロールできないこと。

『オズの魔法使い』の「鐘を鳴らせ 魔女が死んだ」という歌は、魔女が死んで魔法が解けるまで、反対の声をあげることもできずにいたフリークスのような小人の国の住民たちが歓喜の表現として歌い踊るものですが、おなじく魔女が死んで「解放」された魔女の館の住人たちがなにを象徴しているか考えてみるのも面白いですね。

従順だったのか、それとも怖くて異議申し立てをしないでいただけなのでしょうか。処世術として、なんらかの「空気」が存在していたようですが、なにやら洗脳とマインドコントロール状態であったような印象も受けます。

「お家がいちばんだわ」(There's no place like home.)というドロシーのセリフは、ほんとうに有名なものですね(下の写真)。「幸せは身近なところにある」というメーテルリンクの『青い鳥』を思い起こさせますが、原作が発表された1900年の時点では、まだチルチルとミチルの『青い鳥』(1908年)は出版されてません。



(1939年の映画公開からまもなく75年!-公式サイトより)

   

もしかすると、アメリカには根強い「内向き志向」礼讃かもしれません。アメリカが日本との戦争を決意した1941年12月以降なら映画は製作されなかったかもしれませんね。

『オズの魔法使い』は、子どものときに見ていたらもっと素直な感想をもったでしょうが、大人になってから見ると、なんだか不思議な内容の話に思えてしまうのでありました。

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なぜいま 『オズの魔法使い』 が話題になるのか、という問いから1939年のオリジナルを見たわけですが、経済の話とは離れて、違う話になってしまいました。

デフレ脱却をテーマにした経済思想であるかはさておき、ある種のアメリカ思想を表現した作品であることは間違いないようですね。



<関連サイト>

英音楽チャート1位に「悪い魔女は死んだ」、サッチャー氏死去で(2013年04月11日 AFP)

『The Wizard of Oz』ワーナーブラザーズ公式サイト(映画はMGMが製作)

『The Wizard of Oz』フェイスブックページ(英語)

Ding Dong The Witch Is Dead (「魔女は死んだ」 『オズの魔法使い』挿入歌)

Judy Garland - Over The Rainbow (Subtitiles)(「虹の彼方に」 by ジュディー・ガーランド  『オズの魔法使い』挿入歌)





PS 「ここはカンザスじゃないみたいよ」(ドロシーのセリフ)

『続 日本人の英語』(マーク・ピーターセン、岩波新書、1990)の「Ⅱ ここはカンザスじゃないみたいよ」というドロシーのセリフについての解説がある。

英語では、Toto, I have a feeling we're not in Kansas anymore. だが、ここでいう we には飼い犬のトトも入っている。


竜巻で巻きかあげられてマンチキン国に飛ばされてから、モノクロから突然テクニカラーに変わるのだが、LSDにふけっていた1960年代のアメリカ人青年たちは、このシーンに「意識の変容」を見出していたのだという。そういう見方もあるのか、なるほどと思わされる。

アメリカでは年末になると必ず放送されるほど、誰もが知っている映画なのである。

(2013年10月9日 追記)



<ブログ内関連記事>

映画 『マーガレット・サッチャー-鉄の女の涙-』(The Iron Lady Never Compromise)を見てきた

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)
・・金融ビッグバンを英国で体験した著者による予測本

書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい

書評 『終わりなき危機-君はグローバリゼーションの真実を見たか-』(水野和夫、日本経済新聞出版社、2011)-西欧主導の近代資本主義500年の歴史は終わり、「長い21世紀」を生き抜かねばならない

書評 『新・国富論-グローバル経済の教科書-』(浜 矩子、文春新書、2012)-「第二次グローバリゼーション時代」の論客アダム・スミスで「第三次グローバル時代」の経済を解読

書評 『マネー資本主義-暴走から崩壊への真相-』(NHKスペシャル取材班、新潮文庫、2012 単行本初版 2009)-金融危機後に存在した「内省的な雰囲気」を伝える貴重なドキュメントの活字版



 
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